原告勝訴の大飯原発訴訟 背景に最高裁研究会
行政手続き上の適否にとどまってきたこれまでの原発訴訟判決と比べると、実質的な安全性審査に踏み込んだ判決。今回の判決には、審理改革の必要性を指摘する意見が相次いだ最高裁の原発訴訟特別研究会(2012年1月)の影響もうかがえる。共同の記事。
2012年8月に同じく共同通信が研究会について取り上げ、「改革論が浮上した背景には、東京電力福島第一原発事故を踏まえ、このままでは司法の信頼が揺らぎかねないとの危機感があるとみられる。原発訴訟の審理の在り方に変化が起きる可能性がある。」と指摘していたが、そのとおりになった。
つまり1地裁の判決であるが、大きな流れの変化の中での判決である。
情報公開クリアリングハウスのウェブサイトに研究会の資料がアップされている。
自主避難者への仮払い命令の判決も下った。
【原告勝訴の大飯原発訴訟】 福島事故に向き合う裁判官 背景に最高裁研究会 共同5/23】
【原発安全性「本格審査を」 最高裁研究会 裁判官に改革論 東京2012/8/31】
【最高裁での原発訴訟などの研究会の資料 情報公開クリアリングハウス】
【福島原発の自主避難者に月40万円仮払い命令 京都地裁 朝日5/26】
【原告勝訴の大飯原発訴訟 福島事故に向き合う裁判官 背景に最高裁研究会】大飯原発3、4号機(福井県おおい町)の再稼働を認めなかった21日の福井地裁判決は地震対策に「構造的欠陥がある」とした。行政手続き上の適否にとどまってきたこれまでの原発訴訟判決と比べると、実質的な安全性審査に踏み込んだことが鮮明だ。東京電力福島第1原発事故に正面から向き合おうとし始めた裁判官の姿勢が読み取れる。
今回の判決には、審理改革の必要性を指摘する意見が相次いだ最高裁の原発訴訟特別研究会の影響もうかがえる。個々の裁判官は独立して判断するが、原告敗訴が続いてきた原発訴訟の流れが変わる可能性もある。
大飯判決で樋口英明裁判長は、基準地震動(耐震設計の目安となる地震の揺れ)を超える地震が来ない根拠はなく、それに満たない地震でも重大事故が生じうるとした上で、原子炉を冷やす機能と構造に欠陥があると述べた。さらに、関西電力が示した安全技術や設備については、楽観的な見通しに基づき「 脆弱 (ぜいじゃく) 」とまで言い切った。
「原告敗訴」のレールが敷かれていたとの見方もある原発訴訟で、裁判官を後ろ向きにさせてきたのは、国策と逆行する判断をすることへのためらいと、高度で専門的な科学技術だ。
最高裁が2012年1月に開いた研究会には全国の裁判官が参加し、訴訟の問題点と対応策を記した報告書をたたき台に議論。「福島事故を踏まえ、放射能汚染の広がりや安全審査の想定事項など従来の判断枠組みを再検討する必要がある」とした意見が出た。専門的な知見への対応策としては、学識経験を持つ第三者に深く掘り下げた解釈・分析を求める「鑑定」の活用も話題に上った。
06年に金沢地裁で、北陸電力志賀原発2号機の運転差し止めを認める判決を下した元裁判官の井戸謙一さんは、研究会の開催が明らかになった12年夏、共同通信の取材に応じた。「福島事故で裁判官の認識は大きく変わった。安全審査の合理性を厳密に検討しないまま電力会社勝訴の判決は書けない」。今回の判決を予想したような意見だった。
(共同通信)
【原発安全性「本格審査を」 最高裁研究会 裁判官に改革論 東京2012/8/31】最高裁が開いた原発訴訟をめぐる裁判官の研究会で、国の手続きの適否を中心としてきた従来の審理にとどまらず、安全性をより本格的に審査しようという改革論が相次いでいたことが三十日、共同通信が情報公開請求で入手した最高裁の内部資料などで分かった。
裁判所はこれまで原発訴訟のほとんどで「手続き上適法」などとして訴えを退けてきた。改革論が浮上した背景には、東京電力福島第一原発事故を踏まえ、このままでは司法の信頼が揺らぎかねないとの危機感があるとみられる。原発訴訟の審理の在り方に変化が起きる可能性がある。
最高裁は今年一月二十六、二十七の両日、全国各地の裁判官三十五人を集めて特別研究会を開催。裁判官は自分で問題を設定して対応策を記した報告書を提出、議論のたたき台にした。
原発訴訟について報告書を出した七人のうち五人が、これまでの訴訟の在り方について問題を提起したり、安全審査を進める具体的手法について意見を述べた。研究会の関係者は、裁判所が安全性の審査により踏み込む必要性については、ほかの参加者にも異論はなかったとしている。
内部資料によると、ある裁判官は「放射能汚染の広がりや安全審査の想定事項など、福島事故を踏まえ、従来の判断枠組みを再検討する必要がある」と提案。安全性の審査・判断を大きく改めるべきだとの考えを示した。国、電力側の提出した証拠の妥当性をこれまで以上に厳しく検討する狙いとみられる。
別の裁判官は「原子炉の安全性を審理判断するに当たり、専門的・科学的知見をどのような方法で取り入れていくべきか」と問題設定した上で、証人調べは「一方に有利になることは避けられない」と指摘し、「複数の鑑定人による共同鑑定が望ましい」と述べた。専門家が裁判官を補佐する専門委員制度の活用の提案もあった。
裁判官の独立は憲法で保障されている。最高裁は「研究会は裁判官の研さんが目的で、個々の判断を縛るわけではない」としている。
【福島原発の自主避難者に月40万円仮払い命令 京都地裁 朝日5/26】東京電力福島第一原発事故の影響で京都市内に自主避難し、京都地裁に東電への損害賠償請求訴訟を起こしている40代の男性が申し立てた賠償金仮払いの仮処分について、同地裁は東電に月40万円の支払いを命じる決定をした。20日付。東電によると、原発事故による損害賠償で、裁判所が避難者への仮払いを命じたのは全国初という。
訴状などによると、男性は妻子と福島県内の自主避難の対象区域に住み、会社を経営していた。原発事故後の2011年3月中旬、金沢市へ避難し、同5月から京都市に移った。事故の影響で心的外傷後ストレス障害(PTSD)になったと診断されたという。
男性は昨年5月、就労不能に伴う計約1億3千万円の損害賠償を求めて東電を提訴し、係争中。さらに昨年12月、仮払いがないと生活を維持できないとして、月60万円の仮払いを求める仮処分を申し立てていた。
決定は、文部科学省の原子力損害賠償紛争審査会の指針には「個別具体的な事情に応じて因果関係を認め得る」との基本姿勢があることを指摘。「事故と自主避難の損害の因果関係は事案ごとに判断するべきだ」と認定。事故が原因でPTSDになったとする男性の主張を認め、男性が避難前に得ていた所得などを考慮して今年5月から1年間、月40万円を支払う必要性を認めた。
東電側は自主避難者に対しては同指針の損害項目に就労不能損害が挙げられていないと反論していた。決定に東電は「個別の案件の詳細は回答を差し控える。決定内容を精査し、真摯(しんし)に対応する」としている。
男性の代理人の井戸謙一弁護士は「生活に困窮している避難者にとって、生活資金を確保しながら東電との訴訟を闘う道筋を開いた」と決定を評価した。
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