集団的自衛権~限定行使、15事例のウソとゴマカシ(メモ)
阪田雅裕・元内閣法制局長官、柳沢協二・元内閣官房副長官補など著作を軸に、解釈改憲が許されない理由としてのこれまでの政府の論理、冷戦終結と「テロとの戦争」の失敗を踏まえた国際的な安全保障のあり方の到達点など、これまでのメモ、備忘録をもとに、15の事例を示しての安倍政権の「集団的自衛権の限定行使」論のウソとゴマカシについて自分のために整理したもの(6/19加筆)
今回の問題の大きな特徴として
・二次大戦後のアメリカの行った多数の戦争に一度も反対したことがない自民党政府、「侵略の定義はさだまっていない」という安倍政権によって進められていること。
・集団的自衛権行使(武力行使)が日本の国益に照らして妥当なのか、九条を持つ日本の真の役割はなにか、の本質的な議論がない。
・個別的自衛権と警察権、集団安全保障など別カテゴリーの問題を一緒に議論し、国民をミスリードし、「集団的自衛権行使」=海外での武力行使に道を拓こうとしている。
なお「立憲主義の否定」という論点は当メモでは扱っていない〔以前に、浦田一郎氏の「九条解釈の変更の持つ矛盾と問題」の備忘録などあり〕。が、立憲主義の否定は、国の信用を低下させ、「紛争を戦争にしない」という危機管理、安全保障にとってきわめて深刻な影響を与える。
また、「必要最小限」「限定的」への批判は、若手弁護士の会の「赤ペン」参照〔巻末〕
Ⅰ 積み上げられてきた政府の論理
A 「自衛隊」の根拠と、「集団的自衛権の行使はできない」は一体の論理
B 「武力行使の一体化」論と「集団的自衛権」とは別問題
C 個別的自衛権の発動の要件。武力攻撃の事態とは
A 憲法9条は、戦力を放棄しているが、国民があっての憲法で、憲法で何よりも守られるべきは国民の基本的人権。外国から武力攻撃があった場合、国民の生命、財産をまもるのは主権国家の責務であり、権利である。砂川事件の最高裁の判決も認めている。そのための「必要最小限度の実力組織」を9条は禁止していないというのが政府の立場。だから、その必要最小限を超えたものは「戦力」にあたるし、他国に脅威を与える存在であってはならない。
だから、わが国が武力攻撃を受けていない場合に発動される集団的自衛権は行使できない。(そのような実力は「戦力」にあたり、憲法が禁止している)
B「武力行使の一体化」論は、9条の制約のもとで、国際貢献としてどこまで可能か、と整理してきたもの。
日本の行為が、武力行使でないことを大前提に、それが他国の武力行使と一体化してはならない、という議論であり歯止め。
集団的自衛権は、日本自身が武力行使をするという話。線引きはなくなってしまう。
PKOの武器使用基準は「自己保存のための自然的権利」と整理。
C個別的自衛権の発動として要件
・自衛権の発動の3要件とは、「わが国にたいする急迫不正の侵害があること(現に武力攻撃が加えられていること)」「これを排除するのに他に適当な手段がないこと(外交手段などでは解決できない事態)」「必要最小限の実力行使にとどまること(相手国に攻め込むとかはできない)」
~これは、自衛隊が憲法9条との関係で合憲と言うことと密接不可分のもの
・武力攻撃とは「国または、国に準じる組織」によるもので、国家の意思として「組織的・計画的な」行為であること。海賊や偶発的なものは、武力攻撃ではない。
*国会で否定されていた安倍氏の「限定的」論
安倍首相 2004年1月26日、衆院予算委での質問
「(必要最小限度の)『範囲にとどまる』というのは数量的な概念ではないか。とすれば論理的にはこの範囲に含まれる集団的自衛権というものがあるのではないか」
秋山収内閣法制局長官(当時)の答弁
「範囲を超える」という説明は「自衛権行使の第一の要件、すなわち、我が国に対する武力攻撃が発生したこと(急迫不正の侵害)を満たしていない」ことを示すものであり、「数量的概念ではない」
Ⅱ 安保法制懇などの例示の虚構性
・3つの異なる範疇が「武器使用」を接着剤に混在(意識的に)させている。
・第二次世界大戦後、アメリカはイラク戦争、ベトナム戦争など何十回となく戦争を実施したが、日本政府は一度も反対したことがない。その政府が「海外への武力行使」に道を開こうとしているところにことの本質、危険性がある。
3つの範疇について
①グレーゾーン 個別的自衛権、警察権にかかわる問題。
②PKOは集団安全保障の課題 まず日本がどんな役割を果たすのかが出発点
③集団的自衛権 歴史的に侵略と介入の口実につかわたもの。
○「情勢の変化」論について 柳沢
事実の確認 /事の賛否は別にしても、冷戦時も冷戦後も、日本政府は「情勢の変化」を踏まえ「集団的自衛権に踏み込むことなく」重要な安全保障上のニーズに応えてきた。/ 米国が対テロ戦争から完全に手を引き、アジアにおける力の均衡維持に重点を移している今日、対テロ戦争で世界規模での対米協力の拡大を目的とした6年前と同じ問題意識で、憲法解釈の見直しをすることに、どんな意味があるのか
(メモ者
・情勢の変化を言うのだったら原発存続などとんでもない。使用済み燃料プールが攻撃、破壊されれば極めて広い範囲で人が住めなくなり、経済も大打撃をうける。さっさと廃炉に進むべきである
・老朽化したF4の後継として、いつ完成するかわからず高価で調達数も限られるF35の購入を決定。防空に穴があいても問題にならないほど「情勢は変化」している)
■ 政府が与党協議に示す15事例 5/23
①離島における不法行為の対処
②公海上で訓練や警戒監査中の自衛隊が遭遇した不法行為への対処
③弾道ミサイル発射警戒時の米艦防護(平時)
④戦闘地域での後方支援
⑤駆けつけ警護
⑥任務遂行のための武器使用
⑦領域国の同意にもとづく法人救出
⑧邦人輸送中の米輸送艦の防護
⑨武力攻撃を受けている米艦防護
⑩強制的な停船検査
⑪米国に向け我が国上空を横切る弾道ミサイル迎撃
⑫弾道ミサイル発射警戒時の米艦防護(周辺有事)
⑬米本土が武力攻撃を受け我が国近隣で作戦を行う時の米艦防護
⑭国際的な機雷掃海活動への参加
⑮民間船舶の国際共同護衛活動への参加
(1-3 グレーンゾーン、4-7 国際協力 8-15 集団的自衛権〔メモ者 国連決議の有無で内容が違ってくる〕)
*第一次安倍内閣の4類型
ミサイルの迎撃、公海上の米艦の防護、PKOでの武器使用、PKOでの他部隊への支援
*今回の5事例(6事例に追加)
(1)日本近隣有事の際の船舶検査や米国などへの攻撃の排除
(2)機雷が敷設されたシーレーン(海上交通路)の掃海活動
(3)米国が武力攻撃を受けた場合の船舶検査などの対米支援
(4)イラクのクウェート侵攻のような武力攻撃が発生した場合の武力行使を伴う集団安全保障措置への参加
(5)外国潜水艦の領海侵入など武力攻撃に至らない事態での実力行使
(6)海上保安庁が対応できない海域や離島での武力集団の不法行為への対応
【「グレーンゾーン」】
〔1〕離島における不法行為の対処
・海上保安庁による警察権の行使の問題。仮に居座り続ける場合も、外からの補給なしに長期間滞在できない。海上保安庁が島を包囲すれば長期滞在できない。
・自衛隊を使うことは最も悪い判断。相手の側も「領有権を主張している」もとで、先に日本の側が自衛隊を送れば、相手の側に「日本が先に送ったから、やむを得ない措置」として軍隊を派兵する口実を与えることになる。先に自衛隊を出せば、国際社会の支持が得られなくなる。
・紛争になれば個別的自衛権の問題だが、戦争に発展しかねない紛争問題がある場合、最も重要なのは事態をエスカレートさせない平和的に解決する努力、国際社会から支持を得られる外交戦略。
・メモの最後にある「安保政策の最大の弱点は安倍氏自身 柳沢」参照 ~ 尖閣問題にかかわり、安全保障政策の本質的な視点を提供している。
・2013年2月に安倍晋三総理が訪米する直前、アメリカ軍の関係紙『星条旗新聞』~「安倍は『無人の岩をめぐる争いに、巻き込まないでくれ』と言われるだろう」との記事。 先日の訪日したオバマ大統領も「事態をエスカレートさせる行為は深刻な誤り」と釘をさしている。安倍首相の言動は、アメリカの国益ともズレがある。
(メモ者 離島奪還に、水陸両装甲車、オスプレイと騒がしいが、どちらも制空権、制海権がないと運用できない。その状態では補給を断てばよいだけであり、奪還作戦など軍事的にも虚構。また、オスプレイは、着陸時の機動性におとり格好の標的になるため米陸軍で採用されず。ジープも運べない。AAV7は、主は兵員輸送であり「鉄製はしけ」。南西諸島のリーフは越えられないとの指摘あり。)
〔2〕公海上で訓練や警戒監査中の自衛隊が遭遇した不法行為への対処
・個別自衛権の前提は「我が国に対する組織的・計画的な武力行使が生じている場合」。不法行為だけでは、武力行使とは評価できない。あくまで警察権にもとづく対応となる。
・相手が「国または国に準ずる組織」の場合、警察権以上の対応をとると、かえって大変なことになる。偶発的な事態であれば、自衛権の話ですらない。今の法体系で効果的なことを考えればよいだけの話。
〔3〕弾道ミサイル発射警戒時の米艦防護(平時)
・公海における米艦の防護として、前回の法制懇の4事例として出されていたものが、今回、細かくケースわけ・・・が本質的な視点がかわるわけではない。
・明かに軍事行動をしている場合、それに加わることは軍事行動をとるということ。反撃する必要があるというなら9条を変えてやるしかない。
・日本の艦艇がすぐ近くにいる場合は、日本の攻撃とみなし個別的自衛権を発動できる可能性がある。が、自衛隊艦船1隻だけが攻撃をされた場合、それがすぐに、わが国に対する武力攻撃とはならない。特に、日本近海でない場合。
・米艦に対する攻撃自体も、アメリカという国家に対する攻撃とみなせるか、と言う問題もある。
〔偶発的な「摩擦的衝突」なら、武力での反撃はかえって事態を深刻にする。その場合は、外交的には解決するのは、米国も基本としている。柳沢〕
・集団的自衛権の発動にしても、それなりに手続き、意思決定がいる。その場で、近くにいたから撃つとうことにはならない。内閣としてのなら意思決定がいる。急場にはまにあわない。
・「近くで友達が殴られているのに守れないのか」という情緒的で単純化した議論になりすぎている。まず、アメリカ自身が、これはわが国に対する武力攻撃だと認めて反撃することをしっかり決めてもらわないと、集団的自衛権にしても発動できない。
・どの国であれ、米艦艇を襲うなんてそもそも考えられない。それを日本の艦艇が助けてどうにかなる世界は、少し漫画的。(メモ者 米本土攻撃はなおさら)
(軍事行動をしている米艦は、当然、反撃を予想した行動をとっている。不意打ちをうたれるような指揮官は軍法会議もの。明確な攻撃の意思をもってのものなら、当然、本国をふくんだ全面戦争になり、相手国は崩壊することになる。それゆえ、攻撃ができないというのが「抑止力」論である 柳沢)
〔国際協力〕
〔4〕戦闘地域での後方支援。侵略行為に対抗するための国際協力としての支援
・国連決議にもとづくもものであれば、集団的自衛権の行使ではなく、集団安全保障への参加。/武力行使は9条で禁止されている。それ以外の非軍事領域でやれることをやればよい。
・そのもとで、武力行使との一体化とはどんな規定で、どこで歯止めをおくのか、という問題。
戦闘地域での他部隊への支援となれば、武力行使と一体化するというのが政府の見解。
・戦闘地域での後方支援は、国際的には「兵站活動」であり、戦闘当事者にみなされることで、日本の持つ平和国家としての外交力、信頼を失うことになる。
〔5〕駆けつけ警護
・「PKOにおける武器使用」として例示されているもの
・相手が誰かということがかなり問われる。PKOは、停戦協定もできていて治安も回復していることが前提。
その中で襲われる場合は、一般的にその主体は「国に準ずる組織」ではない。
・もし停戦協定が破れて、紛争状態になるといった場合、我が国は引上げる仕組になっている。
・政府見解 自然的権利と言えない武器使用〜 攻撃を受けてもいないのに相手を攻撃すること/また、 自衛隊の活動を妨害する勢力を排除することは「その相手方が国または国に準ずる組織であった場合、憲法九条の禁ずる『武力の行使』にあたるおそれがある」
・武力行使をすることで、アメリカ、中東などにおける、「平和国家・日本」の信頼(伊勢崎賢治氏の言う「美しい誤解」) を失うことになりかねない~ それが日本と世界にとって有益なのか /次項 〔6〕参照
・NGOなどへの襲撃〔国または国に準ずる組織以外による〕への対処という議論については、NGO側からよく意見を聞く必要がある /住民からNGOが軍隊と一体とみなされれば、より危険になる可能性や、NGOの活動そのものができなくなる可能性もあるのでは…。アフガンでは治安部隊による食料配布がNGOから批判されていた。
〔6〕任務遂行のための武器使用
・日本のPKOは 9条をもつ国として「武力行使との一体化」にならないよう停戦合意、非戦闘地域での活動が前提で、「任務遂行のための武器使用」を禁じている。
・政府見解 自然的権利と言えない武器使用〜 攻撃を受けてもいないのに相手を攻撃すること/また、 自衛隊の活動を妨害する勢力を排除することは「その相手方が国または国に準ずる組織であった場合、憲法九条の禁ずる『武力の行使』にあたるおそれがある」
・アベコベの発想 「他国並みに武器使用ができないから、他国並みの任務を果たせない」
→ 武器が任務を決めるのではなく、任務が武器を決める。/日本がいかなる任務を果たす必要があるか、を具体的に議論すべき 柳沢
・民生支援に特化した日本のPKOに高い評価 半田
“自衛隊の後方支援の道路・橋の補修は、日本から重機を持ち込み、撤収までに現地の人に操作方法を教え、重機をプレゼントして終わる/カンボジア1157点、東ティモール150点を寄贈
撤収後に、派遣先の国が自立できるように考えてPKOに参加している国は日本だけ。高く評価されている(英陸軍・軍民協力の専門家集団「軍事安定支援グループ」のトップ、センブル准将)
専門家さえうならせた日本モデルのPKOを無視して、途上国の列に割り込んで(メモ者 外貨獲得の手段として途上国が率先して担っている)でもPKFに参加しろ、という政治家はどうかしている。”
・武装解除〔DDR〕 シエラレオネの成功、アフガンでの実践 ~憲法九条による国際貢献/伊勢崎賢治
〔7〕領域国の同意にもとづく邦人救出
・相手国の主権に関する行為であり、同意がなければ「侵略行為」である。
・人質事件であるなら、武力行使が想定される場面で、自衛隊が乗り込めば、現地の邦人がより危険にさらされたり、日本が紛争当事者にまきこまれる危険、さらに「外国勢力の介入を許した」として、領域国の政府の不安定化、問題の複雑化に発展する可能性がある。
→ 要はもっとも適切な解決方法を検討する。「自衛隊派遣ありき」は最悪 /「解放」後の輸送をどの組織が行うのが適切かは、別次元の問題。
*政府は「有事にアメリカは自国民救出で精一杯だから、日本人は日本が救出しなくてはならない」として
94年に自衛隊法を改定。自衛機での輸送が可能に、99年からは護衛艦や輸送艦でも可能になっている。
こんどはその逆の話を持ち出している。ためにするもの。
〔集団的自衛権〕
〔8〕紛争国から脱出する日本人を輸送する米艦艇が攻撃された場合
・本格的な戦闘が始まる状況まで、退去勧告も出さずに事態を傍観する無能な政府を前提として非現実な話
・仮に「北朝鮮」を想定したものなら、その自体は「日本有事」であり、個別的自衛権の問題
・ 紛争の原因がアメリカにあるなら、米艦艇で脱出するのはより危険をともなうのでは・・
・米国務省と国防総省の合意メモ 外国人救出の協定を「控えている」。97年の日米ガイドラインで、日本側が「邦人救出」を要求したが、米側が拒否(中谷元防衛長官の国会答弁)。
また、一般論としても輸送には国籍で順位づけがされており、日本人は、最下位のランクづけ。
〔9〕武力攻撃を受けている米艦防護 ・・・ 〔3〕参照
・ベトナム戦争、イラク戦争のようなアメリカが侵略行為への反撃として武力攻撃なら
→ 日本が戦争当事国となることであり、紛争も拡大し、日本の安全、世界の安定も損なうことになる。無法な侵略を止めることにこそ日本の役割がある。
〔10〕強制的な停船検査
・現在の船舶検査法 9条のもとでできる範囲を考えて武器使用規定を設けている。それ以上のことをやるのは軍事行動になる。
→ 戦争当事国になることである。そうした軍事行動が、国益上有益なのかの議論がない。
・北朝鮮を想定しているなら、資材の搬入は海上でなく、第三国を経由した陸路の公算が大きい。中露との協力関係の構築が大事、との指摘がある。
〔11〕米国に向け我が国上空を横切る弾道ミサイル迎撃
・何かの間違いでたまたま発射されて、外国に飛んでいくミサイルを、わが国上空で打ち落とすことは憲法上問題はない。わが国のミサイル防衛は、全部が自衛権の発動ではなく、事故的なものへの対応は、一種の警察権の行使として撃墜できる。
・が、外国が他国への攻撃の意思をもって発射したものを撃ち落せば、武力行使となる。が、ミサイルの場合は、技術的にも撃ち落すことが不可能なので意味が無い。
(そもそも弾道ミサイルに比べ、迎撃ミサイルは速度も遅く、高度も低い、追いかけて撃ち落すことは不可能。ミサイル迎撃とは、推進ロケットが燃焼しつくし、物理の法則にそって運動しているだけなってはじめて弾道が計算できる。その落ちてくる位置にむけて発射するもので、むしろ「待ち伏せ」に近い。 柳沢)
・北朝鮮から米本土に向うミサイルは、北極圏をとおり、日本上空はとばない
〔12〕弾道ミサイル発射警戒時の米艦防護(周辺有事) 〔3〕参照
〔13〕米本土が武力攻撃を受け我が国近隣で作戦を行う時の米艦防護 〔3〕〔9〕参照
〔14〕国際的な機雷掃海活動への参加
・まだ停戦後でない、戦闘行為が続いている中での機雷除去は、武力行使となり禁止。戦闘終了後の遺棄機雷となってからの除去しか、9条のもとでは許されない。
・現に戦闘行為が起こっていて、機雷が敷設されているところを民間船はそもそも通らない。民間船が通るという議論自体がおかしい。そうした自体になれば、「我が国の経済や国民生活」はそれ以前に影響を受けているので、機雷を除去して回復できるものではない。
・そもそも国連決議にもとづく行動なら、集団安全保障の活動でどんな役割を果たすかの問題
・第一次オイルショックを契機に備蓄を推進。現在193日分がある。ホルムズ海峡を想定しているなら、すでに同海峡を避けたオマーン湾岸までのパイプラインがある。
〔15〕民間船舶の国際共同護衛活動への参加
・相手が「国または国に準ずる組織」でないなら、警察権の問題である。
・国連決議にもとづく行動なら、集団安全保障の活動でどんな役割を果たすかの問題。「武力行使と一体」とならない範囲での活動を選択すればよい。
★阪田元内閣法制局長官
・(4類型、6類型)こうした細かい非現実的な類型を出しているのは、集団的自衛権を行使できるようにすべきだという主張のため。こんな仮想的な事例を出さず「外国と戦争できるようにしたい」と言えばよい。憲法改正をすればよい。
・「9条がおかしい」というなら、改憲手続きを踏んで変えればよいだけのこと。事態がかわったから解釈をかえるというのは、立憲主義の否定。
Ⅲ 国連による集団安全保障
① 国連によりオーソライズされているか、どうか
・冷戦以前は、国連にオーソライズされない侵略行為の「合理化」として集団的自衛権が使用された(ベトナム戦争、アフガン侵略など)。
・冷戦後は、国連がオーソライズする機能が働きだした。湾岸戦争(イラク軍のクウェートからの排除で終結)も国連決議があった。イラク戦争はない。そして、今回のシリア問題での武力行使を回避しての国連のもとでの化学兵器の破棄合意となっている。
・国連決議のもとでの活動は、集団的安全保障である。そのもとでどう活動することが国際貢献になるか、国のあり方の問題であり、教育、医療、インフラ整備など先進国ならではの民生支援の効果は大きい。
~ 特に、中東、アフリカでは、イスラム教の影響が強く、欧米諸国は侵略の歴史をもっており、日本が欧米と同じ行動、論理を展開することが、地域や世界、日本の安全保障に資するのか、冷静かつ慎重に判断しなくてはならない。
むしろ欧米ではできない役割を果たせる国・日本が存在することが重要。
② 侵略の定義は定まっている 松竹伸幸氏の論考より
○「侵略の定義」の国連決議は明白
☆1974年 国連総会決議3314
第一条(侵略の定義)
侵略とは、国家による他の国家の主権、領土保全若(も)しくは政治的独立に対する、又は国際連合の憲章と両立しないその他の方法による武力の行使。
第2条 (武力の最初の使用)
国家による国際連合憲章に違反する武力の最初の使用は、侵略行為の一応の証拠を構成する。ただし、安全保障理事会は、国際連合憲章に従い、侵略行為が行われたとの決定が他の関連状況(当該行為又はその結果が十分な重大性を有するものではないという事実を含む。)に照らして正当に評価されないとの結論を下すことができる。
第3条 (侵略行為)
次に掲げる行為は、いずれも宣戦布告の有無に関わりなく、二条の規定に従うことを条件として、侵略行為とされる。
(a) 一国の軍隊による他国の領域に対する侵入若しくは、攻撃、一時的なものであってもかかる侵入若しくは攻撃の結果もたらせられる軍事占領、又は武力の行使による他国の全部若しくは一部の併合
(b) 一国の軍隊による他国の領域に対する砲爆撃、又は国に一国による他国の領域に対する兵器の使用
(c) 一国の軍隊による他国の港又は沿岸の封鎖
(d) 一国の軍隊による他国の陸軍、海軍若しくは空軍又は船隊若しくは航空隊に関する攻撃
(e) 受入国との合意にもとづきその国の領域内にある軍隊の当該合意において定められている条件に反する使用、又は、当該合意の終了後のかかる領域内における当該軍隊の駐留の継続
(f) 他国の使用に供した領域を、当該他国が第三国に対する侵略行為を行うために使用することを許容する国家の行為
(g) 上記の諸行為に相当する重大性を有する武力行為を他国に対して実行する武装した集団、団体、不正規兵又は傭兵の国家による若しくは国家のための派遣、又はかかる行為に対する国家の実質的関与
第4条 (前条以外の行為)
前条に列挙された行為は網羅的なものではなく、安全保障理事会は、その他の行為が憲章の規定の下で侵略を構成すると決定することができる。
→ 安保理の権限を認めた決議。3条にあてはまらないような行為を考え出して、「我が国は侵略していない」と言いだす国が出てくるから(「事変であって戦争ではない」等)、それに釘を刺している。
○国際刑事裁判所
☆1998年に採択された国際刑事裁判所規程
同裁判所は、ジェノサイド、人道犯罪、戦争犯罪、侵略犯罪の4つの罪を裁くことになっているが、侵略犯罪については、98年の規程では最終的な合意ができなかった。
・が、2010年。98年規程を再検討する会議が開かれ、侵略犯罪についても最終合意に達した。
(規定)
“1. この規程の適用上、「侵略犯罪」とは、国の政治的または軍事的行動を、実質的に管理を行うかまたは指示する地位にある者による、その性質、重大性および規模により、国際連合憲章の明白な違反を構成する侵略の行為の計画、準備、着手または実行をいう。 2. 第1項の適用上、「侵略の行為」とは、他国の主権、領土保全または政治的独立に対する一国による武力の行使、または国際連合憲章と両立しない他のいかなる方法によるものをいう。以下のいかなる行為も、宣戦布告に関わりなく、1974年12月14日の国際連合総会決議3314(XXIX)に一致して、侵略の行為とみなすものとする。 a. 一国の軍隊による他国領域への侵入または攻撃、若しくは一時的なものであってもかかる侵入または攻撃の結果として生じる軍事占領、または武力の行使による他国領域の全部若しくは一部の併合 b. 一国の軍隊による他国領域への砲爆撃または国による他国領域への武器の使用 c. 一国の軍隊による他国の港または沿岸の封鎖 d. 一国の軍隊による他国の陸軍、海軍または空軍若しくは海兵隊または航空隊への攻撃 e. 受け入れ国との合意で他国の領域内にある一国の軍隊の、当該合意に規定されている条件に反した使用、または当該合意の終了後のかかる領域における当該軍隊の駐留の延長 f. 他国の裁量の下におかれた領域を、その他国が第三国への侵略行為の準備のために使用することを許す国の行為 g. 他国に対する上記載行為に相当する重大な武力行為を実行する武装した集団、団体、不正規兵または傭兵の国による若しくは国のための派遣、またはその点に関する国の実質的関与 ”
・この再検討会議で、定義とともに、拒否権のある国は侵略で提訴されることにならないのではないか、という懸念を解決
→ 拒否権が発動され安保理が動かない場合があることを想定し、裁判所の予審部門が許可すれば裁判に付せることになった。
・この合意について、外務省は、日本が積極的役割を果たしたことをのべ、「第二次大戦以降長らく議論されてきた侵略犯罪の法典化が達成されたことは歴史的意義を有する。」と評価している。
○86年、国際司法裁判所は、アメリカのニカラグアに対する爆撃問題を裁いた裁判で、「侵略の定義」を基準にすえて、アメリカの攻撃が「侵略」にあたると判断。
「1986年2月、国際司法裁判所はアメリカがコントラに武器・資金を支援して、サンディニスタ政権に対する武力攻撃を行わせていること及び、アメリカ軍がニカラグアを空襲したことに対して、他国の国家主権に対する侵害、他国の内政に対する強制的な干渉、他国に対する侵略的武力行使は国際連合憲章違反であると認定し、前記の侵略・介入・干渉行為の即時停止と120億ドルの賠償金の支払いを命じたが、米国政府は判決の受け入れを拒否した。
1986年11月、国連総会は米国に対して国際司法裁判所の判決を受け入れるように求める拘束力が無い決議を賛成94 - 反対3 - 棄権47で採択した。」(・ウィキペディアより
→ すでに法理として力を発揮している。
おわりに ~ 「安保政策の最大の弱点は安倍氏自身 柳沢」(再掲)
①アジアの緊張の中核にいる日本
・アジアの緊張要因~海洋権益とその前提となる島の領有権をめぐる対立の存在
〜 南シナ海を除けば、いずれも日本が当事者として関係。日本の対応がアジア諸国から注目されている/平和的な解決の道筋を確立すれば、アジア全体の「お手本」として歓迎される/逆なら全体な悪影響に
〜 加えて、日本には過去の侵略戦争にかかわる歴史認識をめぐる軋轢があり、問題を複雑化している
→ 領土問題の解決の糸口をつかめないまま、「タカ派路線」に転換しつつあると受け止められている日本は、まさに地域の不安定要因になっている。
・領土問題はゼロサムで妥協の余地がない。いずれも歴史問題とリンクしており国の威信をかけた象徴的な問題になりやすい 〜 漁業や資源の問題なら、合意によって分配する方が合理的
・軍事的な視点/ 中国の狙いが南シナ海、西太平洋への進出にあるなら、戦略拠点として尖閣の軍事的価値は乏しい/ 他の多くのルートがあり、戦術的にも攻めやすく守りにくい島を死守する作戦は犠牲が大きい
→ それでも対立が先鋭化/ 軍事戦略的動機よりも民族的対立の象徴だから。/米国が介入しないのは、その認識があるから。関与すれば歴史的スパンでの関与が余儀なくされる
・日中韓の国家関係の中心〜 経済的文化的相互依存関係/その中で、最後の敵対的要因として、歴史を含む自己認知の食い違いがある。
→ 拒否的抑止力は必要だか、根本的解決には、軍事的解決よりも相互の危機管理が急務/ より長期的には、相互の認知の相違を認め合う思想の枠組みづくり。
・中国にとって尖閣は危機管理の対象から、野田政権の尖閣国有化をめぐる稚拙な外交の結果、中国の国家レベルの問題になり、中国の目標は「棚上げ」から「日本の実効支配の否定」あるいは「領土問題の存在を認めさせること」に変化
→ 一方、国家間の本質的特徴が対立でなく相互依存である以上、対立が飽和点に達すると修正のニーズが手で来る/ その意味で、悪化しようがないところまで悪化している。
→ 当面は、対立がエスカレートしないよう管理しながら、時間はかかっても互いの信頼関係を1から作り直す努力が必要。
・歴史問題では、相手の「被害認識」に寄り添う姿勢が必要 〜 侵略行為の自己批判を「自虐史観」として排泄する姿勢は、「被害認識」を突き放すものであり、中韓との和解を妨げる最大の要因
→ 米国の懸念もそこにある/ 安倍首相が集団的自衛権を手土産にして訪米し、同盟強化を演出しようとしても、米国がのらなかった理由 /
→ 周辺国と生産性のない相互認知の齟齬を引きずる日本は、米国の利益にとっても有害
②安倍政権が最大の不安定要因
・憲法は、日本がいかなる世界が望ましいと考え、その世界においていかなる国でありたいか示す
国民の考える国家像、世界像の反映/日本の場合、そこに二次大戦の引き金となり敗北した国としての過去の清算が含まれている。それゆえ問題は 〜日本が現代史において戦争を主導した事実を踏まえ、その自己否定の上になりたつ憲法と、そうした歴史観を再度否定して戦争を主導した日本を自己肯定する改憲思想との、いずれが今日の世界において通用するのか/ その世界観と自己認知について、日本人は何を恥ずべきなのか誇るべきなのか、ということ。
→ こうした深い自覚と知的葛藤なしに国家像を語るべきではない。/安倍首相をはじめ政治家の言葉はあまりにも軽いのは、そうした知的葛藤の裏づけのない空疎なスローガン製造機になっているから。
・安倍首相「侵略の定義は定まっていない」(2013.4.23 参院予算委員会)
→一国の政治指導者が、自国におこなった戦争に関して侵略かどうかわからないとの趣旨の発言をすること/歴史観のないことの現われ
→ 何が侵略かわからなければ国の安全保障は語れない。/そういう政治指導者をもったことを恥なければならない。
★追記 /安倍首相の個人的情念 柳沢
自民党幹事長時の04年1月、外交評論家の岡崎久彦氏と共著で『この国を守る決意』を出版。
その中で「祖父の岸信介総理が行なった安保改定は、アメリカの防衛義務を定めたことで、時代的制約の中で最大限の努力を果たした。自分の世代には、自分の世代の歴史的使命がある。それは、日米同盟を完全な双務性にしていくことだ。アメリカが血を流すなら、日本もアメリカのために血を流して初めて、日米は対等になる」という論理
→ 北朝鮮や中国の脅威は後付けの理屈で、本音は、「十年前からこれをやりたい。だからやる」という情念なのだと理解するほかない
◇危険「口だけ抑止」 毎日2013/10/4での柳沢氏の発言から 一部分を要約
・集団的自衛権行使へかじを切ることが国益に照らして妥当なのかどうかという議論も不足している。
・安全保障は相手との相互関係で決まる。強硬姿勢を取れば相手も強硬姿勢を取る。
・集団的自衛権行使を可能にすることで抑止力が強まるという意見もあるが、これは「口だけ抑止」で、最も避けるべきこと。実際にできるほどの財源もなく、意志も乏しいのに政治的メッセージで代用させようとするのは安全という観点からは逆効果でしかない。
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