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見直される「家族農業」の価値~世界の潮流に逆行する安倍政権  

 TPP参加を前提に規模拡大など「攻めの農政」をかがける安倍政権。「家族農業」の価値を見直し、今年を「国際家族農業年」とした世界の流れに対し、亡国にむけた逆走である。

 世界食料保障委員会(CFS)専門家(イレベルパネル(HLPE)の報告書作成に参加した立教大学助教(4月から愛知学院大学経済学部専任講師)の関根佳恵さんに聞く(農民2014/4/7)と農林中金総合研究所のレポート(2014/1)より。
【2014国際家族農業年 ―今問われる「家族農業」の価値―】

【小規模家族農業を見直し発展させる農政への転換を 「農民」2014/4/7】

 ~世界食料保障委員会(CFS)専門家(イレベルパネル(HLPE)の報告書作成に参加した立教大学助教(4月から愛知学院大学経済学部専任講師)の関根佳恵さんに聞く~ 

■転換点は08年の世界的食料危機

 今年が国際家族農業年に定められていることにも表れているように、世界ではいま、家族農業を再評価する大きな動きが強まっています。2010年ごろから国連食糧農業機関(FAO)や国際農業開発基金(ⅠFAD)などの国際機関が次々に家族農業・小規模農業の社会的役割を見直し、政策を転換してきているのです。
 EU(ヨーロッパ連合)からも昨年、家族農業がEU農業の基礎であるとの声明が出されています。
 実は国連でも長い間、規模拡大や多国籍企業との取引の促進などの開発主義が支持されてきました。しかしこうした開発主義のもとで、資源枯渇や環境問題が顕在化する一方、小規模農家が土地から追い出され、貧困が深刻化しました。また貧困と飢餓の撲滅を目指す国連ミレニアム開発目標も達成できないことも明らかになっていまし た。
 転換点になったのが、2008年の世界的な経済危機・食料危機です。行き過ぎた新自由主義政策や経済効率優先の社会システムに警鐘が鳴らされるようになりました。またWTOや最近ではTPPなど貿易を自由化す る動きが強まるなかで、各国が食料・農業政策を自分たちだけで決められない、食料主権が奪われる事態も広がっています。こうしたことへの反省が、小規模家族農業の見直しというパラダイムシフト(社会の規範や価値観が、劇的に変化すること)ともいえる大きな方向転換に結び付いているのです。

■先進国や新興国 重視する動きも

 日本ではよく「国際競争力に備えるために、農業経営の規模拡大が必要だ」というような議論があります。しかし世界的に見れば、世界の農業経営体数の73%を1㌶未満、85%を2㌶未満の小規模家族農業が占めています。さらに世界の貧困層の70%が農村に住み、そのほとんどが家族経営の小規模農業に従事しているわけですから、「小規模家族農業が世界を養っている」と言えるのではないでしょうか。
 またこうした家族農業による食料生産を、先進国や新興国でも重視する動きが強まっていることも大切なところで、食料自給率が低く、潜在的な“飢餓リスク”を抱える日本にとっても、大きな課題が突きつけられています。
 CFSの報告書では、小規模家族農業が食料生産だけでなく、国土保全、生物多様性の維持、文化伝承などでも大きな役割を担っていることも、明らかにしています。とくに経済危機で失業率が高まるなかで、小規模農業の雇用調整力は重要な役割で、工業化された大規模経営に比べてもはるかに雇用創出力もあり、人口扶養力も高いものがあります。小規模農業は石油などの資源依存度も低く、環境への負荷も小さいと言われています。こうした背景から、08年の経済危機・食料危機以降、こうした小規模家族農業の役割を改めて見直すことで、この世界的危機を乗り越えようとする機運が広がっています。

■世界の潮流に逆行の安倍政権

 こうした世界の大きな潮流から見ると、安倍政権のTPP参加や大規模化一辺倒の「攻めの農政」といった方向は、まったく逆行しています。世界から取り残されているのです。
 先進国では経済発展とともに農家数が激減し、労働節約型の農業技術を高めることで農家数を減らし、大規模化することこそが「農業の発展」だというのが、これまでの経済発展モデルでした。
 しかしCFSの報告書では、現在、経済成長著しいブラジルやインドでは、農家数が増える一方、経営規模は小さくなるか、変わっていないことに注目して、これまでとは違う「発展経路」があることも示唆しています。つまりこうした「規模拡大が経済発展」という考え方こそ、転換が求められているのです。
 とくに日本は中山間地域が多く、大規模な企業的農業でも国際競争に勝てるのは平場のごく一部だけです。CFSの報告書を日本の現状に引きつけて考え、小規模家族農業を発展させる農政にこそ転換していく必要があるのだと思います。
 
■小規模農家が 世界的連帯して

 小規模家族農業が世界的に見直されているのは、農民連やビアーカンペシーナのような農民運動や、良心的な研究者が粘り強く訴え続けてきた成果でもあります。だからこそこうした動きを、国際家族農業年に定められた今年で終わらせてしまわずに、小規模農家が世界的規模で連帯し、新自由主義的政策に「異議あり」の声をあげていきましょう。

【2014国際家族農業年 ―今問われる「家族農業」の価値―】 常務取締役 原 弘平 農林金融2014・1(農林中金総合研究所)

◇ はじめに

 国際連合は,2012年第66会期国連総会決議において,本年(14年)を「国際家族農業年(注1)」とすることを決定した。なぜ今「家族農業」なのであろうか。また,そのことはわが国の農業を考えるうえでどのような意味を持つものであろうか。
 以下,本稿においてはまず,国連が家族農業年の決議を行った背景とその意味を概観し,さらに,そのことがわが国の今後の農業のあり方,特に現在急速な展開を見せている農業政策のあり方に対してどのような意味を持つものであるかを考えてみることとしたい。

(注1 ) 2014 International Year of FamilyFarming:日本語版国連ホームページにおいては,仮訳として「国際農家年」との表記も見られるが,FAOホームページにおいては「国際家族農業年」とされている。訳としては「家族農業」がより適切と思われることから以下では「家族農業」を用いる。

◇2  「国際家族農業年」の背景とその意味
 
(1) 増加する世界の飢餓人口

 今回国連が家族農業年を決定した背景として最も重要であるのは,国際的な飢餓問題にいかに対処すべきか,という問題意識であろう。
 2000年に開催された国連ミレニアムサミットによる「ミレニアム開発目標」(以下「開発目標」という)においては,飢餓に苦しむ人口の比率を2015年までに1990年対比で半減することが決定されている。しかし,現状はこの目標の達成は極めて難しい情勢にあり,特に07年以降に生じた世界的な穀物価格の急騰とその後の景気後退は,その達成を著しく困難なものとした。
 08年9月のFAO(国際連合食糧農業機関)推計によれば,03~05年において,慢性的な飢餓状態にある人の数は全世界で8億4,800万人とされ,これは開発目標の基準年次である90~92年の8億4,200万人と対比して600万人の増加であった。
 その後,08年12月,FAOが発表した推計によれば,食糧価格の高騰により新たに約4,000万人が飢餓に陥ったとされている。
 さらに,08年以降の世界的な景気後退局面において,飢餓人口は一層増加し,09年には10億人を突破したとみられている。10年以降はやや減少を示しているものの,目標の飢餓人口削減はまず不可能な情勢といえよう。
こうした飢餓人口の削減と密接な関連を持つのが貧困の削減という課題である。そもそも飢餓の削減と貧困の削減は開発目標の中でも同一の目標グループ内に掲げられており,貧困(1日1ドル以下での生活者)の削減も,飢餓と同様に90年対比半減とされている。
 飢餓の原因として,貧困が大きな要素であることは疑うべくもないが,一方で飢餓による栄養失調が活力の低下,学習意欲の低下等を通じて教育機会を奪い,貧困を再生産するという悪循環をもたらしている。
こうした負の連鎖が最も顕著にみられるのが,アフリカ,アジア等の小規模農業者であり,「国際家族農業年」の決定においては,これらの農業者の自立を支援することにより,貧困と飢餓の悪循環を断ち切ることが大きな目標とされているのである。

(2) 大規模農業プロジェクトの波及効果への疑問

 しかし,家族農業を支援すべき,という今回の国連の考え方の背景には,単に貧困と飢餓に対する直接的な対策としての問題意識以上のものが存在している。そもそも,極めて多数の小規模な家族農業を支援し,投資を促し,その自立を図っていくためには,教育,技術普及,金融等,様々な社会的インフラも必要となり,多大な努力と長期にわたる持続的な援助が必要となる。単に,短期的な食料の増産,貧困の改善のみを目指すのであれば,海外から大規模な投資を誘致し,大型農業プロジェクトを展開するといった手法がはるかに容易であろう。
事実,07年以降の穀物価格急騰を契機として,アフリカ,アジア等の地域に対する国際的な農業投資は急速に拡大していた。国連がそうした大規模農業プロジェクトの推進ではなく,あえて「家族農業」への支援を打ち出した背景には,それら国々の基本的なあり方としてどういった農業構造が望ましいかという,より長期的な視点が強く働いていたものといえよう。
 国連のそうした姿勢は,近年FAO等から公表された幾つかのレポートに反映されている。その一例をあげると,まず12年11月,FAOが発表した「開発途上国の農業への海外投資の動向と影響(注2)」がある。同報告は,近年その動向に大きな注目が集まり,一部の市民団体等からは「土地収奪」(Landgrab)との批判がなされてきた国際的な大規模農業投資について,投資受け入れ国にどのような波及効果が生じたかを分析したものである。
 同報告によれば,「数々の研究が開発途上国での大規模土地買収の悪影響を実証している」とし,「土地買収を伴う投資は,地域コミュニティに対するメリットよりも,デメリットの方がはるかに大きい」と断じている。また,多くのプロジェクトは輸出市場向け,またはバイオ燃料向けであり,むしろ投資受け入れ国の食料安全保障に脅威をもたらす可能性があると指摘されている。しばしば多くの自由化論者によって指摘されるトリクルダウン効果(注3)に関しても「創出される雇用の持続性に疑問」があるとし,単純労働でさえ,域外からの労働に独占される,といった事例があげられている。

(注2 ) 以下,引用はFAO日本語版ホームページのニュースリリースによる。
(注3 ) 新自由主義論者の主要な主張の一つであり,富める者が富むことにより,次第にその恩恵が貧しい者にも均霑していく,という考え方。

(3) 自然資源劣化への懸念

 こうした地域への波及効果への疑問に加え,大規模集約化農業自体への懸念も強い。上記報告書の中にも触れられているが,集約化農業がもたらす土地,水,生物多様性などの自然資源の劣化に対する懸念である。そうした懸念は,FAOから11年11月に発表された「食料と農業のための世界土地・水資源白書」においても詳細に述べられている。
 同白書は土地の劣化(注4)に関し,全世界の土地資源のほぼ4分の1が非常に劣化,中程度のものを含めると,約3分の1が劣化しているとしている。水資源については,地下水の塩類化と汚染,水系やエコシステムの劣化が進んでおり,世界の主要産地における集約的な地下水の利用が帯水層の貯水量低下をもたらし,利用可能な地下水の緩衝機能が失われつつある,としている。
 こうした自然資源の劣化に加え,世界的な気象条件の不安定化が,今後予想される食料需要の増大に対応する安定的な供給への懸念を著しく増大させている。同白書においては,世界的な農業の生産性の伸び率が多くの地域で鈍化している点に警鐘をならしている。

 今回の家族農業年の背景には,貧困・飢餓問題に加えて,こうした全世界的な農業システムの不安定化への懸念があり,農民自身がその恩恵を受ける農業として,また持続可能な農業のあり方として,家族農業の価値を見直すべきとの考え方が強くあるものといえる。したがって,その問題提起は開発途上国における問題に限られるものではなく,先進国を含めた全世界的な課題であり,わが国においても考慮されるべき問題であるものといえよう。
(注4 ) FAOによる「劣化」の定義には生物多様性の喪失といったエコシステムへの影響も含む。

◇2  家族農業の価値とわが国農業政策への示唆   

(1) 見直される家族農業の価値

 今回の家族農業年の決定に際し,その理論的基礎,政策の方向性を得るため,CFS(世界食料安全保障委員会(注5))は専門家ハイレベルパネル(注6)に対し,小規模経営の農業投資に関する報告書をまとめるよう求め,パネルは13年「食料安全保障のための小規模経営への投資」と題する報告書を提出した。
 以下では,同報告書の内容を中心とし,そこで家族農業の価値がどのように認識されているかをみていくこととしたい(なお,本報告書は,現在翻訳作業を終え14年2月には農山漁村文化協会から『家族農業の今日的価値』(仮題)として出版の予定である)。

 同報告書では,まず,小規模経営(注7)とはどのように定義されるものであるかを述べている。各国の農業構造自体が大きく異なるものであることから,小規模経営を一律の規模基準といったもので定義することは困難である。報告書において,小規模経営は,①家族(単一または複数)によって営まれ,主として家族労働により経営が行われていること,②保有している資源(特に土地)に限界があり,持続可能な生活を営むためには高水準の総要素生産性が必要となること,③農外の活動からの収入に依存する割合が高く,それが経営の安定化に寄与していること,④生産・消費両面の経済単位であり,合わせて農業労働力の供給源となっていること,等の特性を有するとされている。
 こうした特性は兼業農家を含め,わが国の多くの農家が有するものである。また,世界的にみても,先進国を含めた多くの国において農業の基幹的部分を担っているものといえよう。報告書においては,そうした小規模経営の持つ価値について以下のような点を指摘している。

 第一に,食料の供給に果たす小規模経営の役割の大きさという点である。報告書においては,世界的にみた小規模経営の土地生産性の高さを指摘しており,そこで紹介されている調査(注8)によると,全世界における小規模経営は少なくとも2億5千万戸存在し,耕作可能な農地の10%を利用しているにすぎないが,世界の食料の20%を生産している。この生産性の高さは,自営農業の場合の労働インセンティブの高さ,雇用労働力に依存する場合の取引・管理コストの高さによるものとされている。特に,今後長期的にみた場合,農地の限界性,食料需要の増大が世界的な課題となり,その際には短期的な経済合理性ではなく,小規模経営の持つ土地生産性の高さ,土地利用の持続可能性といったことの意味が,さらに重要性を増すものといえよう。

 第二に,小規模経営の社会的な面での波及効果である。一般に労働集約的な小規模経営は雇用の吸収力が高い。特に,女性・高齢者といった,他の就業機会を得ることが難しい人々にとって,重要な就業の場を提供している。今回,国連が家族農業年を決定した背景の一つにはジェンダー問題があり,家族農業を支援することにより,女性の労働の場を改善しようとする意図も強く働いている。さらに,小規模経営が加工と結びつき地域の食料市場を形成するとき,そこで生み出される雇用は,農村地域においては無視できない存在となる。

 第三に,小規模経営の持つ様々な意味での安定性の高さである。自給的傾向の強い小規模経営は,血縁・地縁の互酬関係により生産物を共有し,食料危機等不安定な市場へのリスク対応を行う。また,経済的な変動においても,農家から都市に出た者が都市において失職した際のセーフティネットとしての機能を果たす。さらに,小規模経営の収入の多様性,特に農外所得による経営の安定性が高く評価されている点が注目されよう。
 本報告書であげられている事例としては,極めて近代化が進んだオランダ農業においても農業経営の80%以上が男女の別を問わず農外賃労働に従事していたこと(計算上,所得の30~40%が農外所得),フランスにお
いてもフルタイムの農業経営の半数以上が「その他の有給活動」に従事していたこと,イタリアでは全農業経営の90%以上が多就業活動を行っていたこと,などが示されている。一方,フルタイムで農業生産に従事している専門特化した農業経営の多くが,近年の経済・金融危機において極めて脆弱であり,その多くが閉鎖に追い込まれたとの報告があげられている(注9)。

 第四に,環境面における重要性である。報告書では,集約的で専門特化した農業生産システムにおいては化学肥料,農薬の集約的使用や家畜の集約的飼養がしばしば深刻な生態系不均衡を引き起こしており,これに対し,小規模経営は生物多様性の保存,在来種の保護といった面での貢献が大きい点が指摘されている。そうした在来種の保護は,厳しい自然条件,干ばつ,熱帯性疫病といった事態によく適応しており,交配計画において貴重な遺伝資源となるものである。

 第五に,小規模経営の果たす,社会的・文化的重要性である。世界の多くの地域において小規模経営は,少数民族等,社会的な排除を受けてきた人々に避難場所を提供してきており,また,多くの地域において芸術,音楽,ダンス,口承文学,建築など,バラエティに富んだ文化遺産を継承してきている。

 こうした小規模経営(家族農業)の有する様々な価値は,特に開発途上国において重要であるといったものもあるが,基本的には全世界的視野で問題にすべきものである。事実,EUでは13年9月,農相非公式特別会合が開催され,「不幸にも,高度に競争的でグローバルなビジネス環境のもとで,家族農業は…多くの困難に直面して
(注10)」おり,「家族農業の重要性とそれが直面する困難を顧み,とくに家族農業を統合する協同組合や生産者組織の発展を支援する環境をつくりだす」こと,また「EU,国,地域の各レベルの政策がどのように,またどの程度家族農業の持続可能性を強化できるか」について議論を行っている。

(注5 ) FAOに置かれた委員会であり,国際農業開発基金等,多くの関連する機関が構成員となっている,世界の食料安全保障および栄養に関するプラットフォームとして重要な役割を果たしている。
(注6 ) CFSにおいて,政策と科学をつなぐ役割を担うものとして2010年に設置され,科学的知見に基づいてCFSに助言し,政策立案を支援する組織。
(注7 ) 原文ではsmallholdersであり,通常,英和辞典等では小自作農とされているが,上記翻訳書においてはより一般的な意味を含め,小規模経営と訳した。このsmallholdersは同報告書の中でも,ほとんど家族農業と同義に使われている。
(注8 ) Dan, 2006 Agriculture, rural areas andfarmers in China.
(注9 ) Mayaud, 1999 La petite exploitationrurale triomphante.
(注10) 以下,引用は「農業情報研究所」インターネットニュースによる。

(2) わが国農業政策への示唆

 こうした国連,EU等の姿勢に対比すると,わが国で現在行われている議論の方向はかなり異なったものであるように思われる。
 13年12月15日現在,農林水産省のHPにおいて「国際家族農業年」(または「国際農家年」他)の単語で検索しても,該当する事項は全く検出されない。現在の農政において強調される,大規模化,企業化,企業参入といった効率化一辺倒の方向性において,家族農業の価値が顧みられることは極めて少ないように感じられる。
 前記の国連の問題意識,またハイレベルパネルの報告書にみられる家族農業の価値は,やや抽象的にいえば,家族農業を中心とする農業構造が持つ柔軟性・持続可能性であり,それが社会的・自然的な危機,変動に対して有する耐性であるといえよう。特に注目されるのは,いわゆる兼業農家に対する評価であり,報告書においてはそれがリスク耐性を有するものとして高く評価されていることである。一方,わが国においては,政策的にも,またマスコミ等の論評においても兼業農家に対してはそのマイナス面を強調することが多いように感じられる。
 現在急速に進行しつつある農村の高齢化,後継者不足をみるとき,集落営農化,法人化といった施策は一つのやむを得ない方向性であろう。しかし,その際においても,兼業農家を急速に農外に追いやるということではなく,むしろできるだけ多くの住民が農村地域に暮らしていけるように配慮することが重要であると思われる。小規模農家を含め,農村地域に多様な農業経営体が存在し,農村地域自体が持続可能性を有することは,大規模化した農業法人にとっても極めて重要である。大規模法人と地域の関係を考える際,以下のような点を考慮する必要があろう。

 第一に,農業の基盤となる農地,農道,水路といったインフラが,長期にわたる地域の共同作業によって造り上げられ,維持されてきた,いわば共有財産としての側面を有していることである。特に,用・排水施設は,極めて長期にわたる多くの人々の努力により支えられてきたものであり,地形の急峻なわが国において淡水を有効利用していくための重要な社会的基盤であるといえよう。農地中間管理機構案の検討過程にみられたように,農外の大企業が集積した優良農地を使用できるようにし,多くの小規模農家が退出していくという発想で,農村地域における農業インフラが果たして維持していけるのか(少なくともそうした懸念に配慮がなされたのか)強い疑問が残る。

 第二に,農業インフラのみならず,学校,病院,商店,ガソリンスタンド等,様々な社会的基盤を維持していくうえで,地域に多様な人々が暮らしていることが極めて重要であるということである。一部論者の中には,大規模農業法人と兼業農家の対立構造を強調する傾向もみられるが,当総研でヒアリングした多くの大規模農業法人の経営者は(兼業農家に対する意識のいかんにかかわらず),地域から人がいなくなり,社会的基盤が維持できなくなってしまうことには強い懸念を持っており,兼業農家を含めた地域農業が維持されることを望む声も強い。

 第三に,大規模農業法人自体の経営にとって,地域社会とのかかわりが重要だという点である。まず,農業法人が大規模化した際,常に問題となるのが雇用労働力の問題であろう。農業における労働の季節性から,その需要には不可避的に繁閑が生ずる。
 仮に加工等の事業を組み合わせた場合においても,その作業にも繁閑が生ずる。そうした不安定な労働力需要に対応し得るのが,地域内のパート労働力であり,その多くは小規模農家の主婦,高齢者等であろう。そうした地域内の弾力的な労働力供給が無くなった場合,大規模農業法人の経営自体が不安定化せざるを得ない。
また,多くの農業法人は,その経営の安定化,収益機会の拡大,雇用労働力の有効活用等のため,加工,直売所,農家レストラン等の事業を営むケースが多い。地域維持の観点も含め,買い物配送サービス,福祉事業等,農業とは直接関連のない事業を営むケースもある。こうした様々な事業を営むうえでの顧客を確保するという観点からも,地域社会の維持は不可欠であり,多様な人々が地域に存在することが重要といえよう。
 農業法人にとって,地域社会の存在は,弾力的な労働力の確保,農外事業における収益機会という二重の意味において重要な役割を果たすものといえよう。

◇ おわりに

 以上のとおり,国連の家族農業年の背景には,家族農業の有する自然的・文化的・社会的な様々な価値への再評価があり,そのことはわが国にとっても決して無縁のことではない。現在,TPPに象徴される世界的な貿易自由化の動きがあり,そうした自由化の行きつく先には,巨大な集約化農業により,多くの家族農業は存在が許されない状況が予想される。価格のみを評価の基準とし,市場システムでは評価されない多くの価値を有する家族農業が消えていってしまうことには強い危惧を覚える。

 国際家族農業年を契機として,わが国においてもそうした価値の見直しに関する議論が高まることを期待したい。
(はら こうへい)

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