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「強制連行はなかった」答弁書~卑劣なトリック

 山下唯志/破綻した日本軍「慰安婦」の「強制連行はなかった」答弁書(前衛2014/1)のメモ。
 トリックというのは、「政府が発見した資料の中には、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述も見当たらなかった」と安倍内閣がいっている資料とは、河野談話を準備するために調査研究した「全資料」ではなく、そのうち「そのうち「その当時」「日本政府がつくった」「公式文書」という極めて狭いもの。

 「さらってでも慰安婦にしろ」とか言う命令書の類はなかったという、ネオナチがホロコーストを否定する「論理」と同質のもの。卑劣なトリックである。

 以下、その内容を暴露した赤嶺議員の質問趣意書と答弁についての論稿の備忘録。
 また、「日韓請求権協定で解決ずみ」論についても少し資料を追加した。

【破綻した日本軍「慰安婦」の「強制連行はなかった」答弁書】

・第一次安倍内閣が、日本軍「慰安婦」問題に関して、「政府が発見した資料の中には、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述も見当たらなかった」とした答弁書を閣議決定(07/3/16)
→ 否定派に最大限に利用された(橋下徹発言など)

◆2013/2/27 安倍首相の「答弁書」をもとにした国会答弁(民主・前原議員の質問に対し) 

 「さきの第一次安倍内閣のときにおいて、質問主意書に対して答弁書を出しています。これは安倍内閣として閣議決定したものですね。つまりそれは、強制連行を示す証拠はなかったということです。つまり、人さらいのように、人の家に入っていってさらってきて、いわば慰安婦にしてしまったということは、それを示すものはなかったということを明らかにしたわけであります。・・・・ しかし、それまでは、そうだったと言われていたわけですよ。そうだったと言われていたものを、それを示す証拠はなかったということを、安倍内閣においてこれは明らかにしたんです。しかし、それはなかなか、多くの人たちはその認識を共有していませんね。」
「でも、残念ながら、この閣議決定をしたこと自体を多くの方々は御存じないんだろう、このように思います。」
→ そして、07年閣議決定を前提に、河野談話の見直しに言及

・現在では、強制連行を示す証拠はいくつも発見され、裁判でも認定されている(メモ者 国際的には「強制連行」は論点ではない。政府・軍の管理下で自由を奪われ性奴隷にされたこと自体が重大な人権侵害)

Ⅰ 答弁不能の破綻においこんだ赤嶺衆院議員の質問趣意書

◆最初から歴史的事実を無視した答弁書

・日本軍の強制連行が裁かれたスマラン事件~ 1944年、日本軍占領化のインドネシア・ジャワ島において軍人らが収容所に抑留したオランダ人女性をスマランにあった慰安所に強制連行して「慰安婦」とした事件
→ 戦後のオランダ臨時軍事法廷(バタビア臨時軍法会議)で、BC級戦犯として裁かれ、軍人・業者らに有罪判決が下がっている。/その事態を当然認識したうえで、93/8/4に河野談話を発表(メモ者 1998/7/15 交流400年を前に、橋本龍太郎首相は、オランダ首相に「心からのおわびと反省の気持ち」を伝える手紙を送っている。)

◆07年答弁書に対する質問趣意書(赤嶺議員2013/6/10) と答弁(6/18)

Q1  07年答弁書のいう「同日の調査結果の発表までに政府が発見した資料とはなにか」

A「内閣官房内閣外政審議室が平成4年7月6日及び平成5年8月4日にそれぞれ発表した『いわゆる従軍慰安婦問題の調査結果について』において、その記述の概要が記載されている資料」

Q2  その資料の中に「ジャワ島セマラン所在の慰安所関係事件」及び「ジャワ島バタビア所在の慰安所関係の事件」についての「被告人」「判決事実の概要」などを記した法務省関係、バタビア臨時軍法会議の記録はあるか

A「ご指摘のような記述がされている。」

Q3  その(法務省関係の)資料に「セマランほかの抑留所に収容中であったオランダ人女性らを慰安婦として使う計画の立案と実現に協力したものがあるか」。慰安所開設後、「部下の軍人や民間人が上記女性らに対し、売春をさせる目的で上記慰安所に連行し、宿泊させ、脅すなどして売春を強要するなどしたような戦争犯罪行為を知り又は知り得たにもかかわらずこれを黙認した」などの記述があるか

A 「御指摘のような記述がされている」

Q4  これらの記述は強制連行を直接示す記述であり、07年答弁書は誤りであり、訂正すべき

A  政府の認識は、答弁書一の1から3までについてお答えしたものと同じ(つまり、 「強制連行を直接示すような記述はみあたらなかったところである」ということ)

→ 法務省関係資料に、記述を認めながら、「記述はなかった」と認めない態度。答弁の破綻

◆07年答弁書に対する質問趣意書(赤嶺議員2013/10/17) 

Q  前回の答弁書は「国民の常識では理解できないもの」と批判。/ そして「安倍内閣は、『同日の調査結果の発表までに発見した資料』で明かにされた、収容所に収容された女性を軍人などが売春をさせる目的で慰安所に連行する行為は、『軍や官憲によるいわゆる強制連行』にはあたらないという認識か

A 「先の答弁書でお答えしたとおり」

→ 収容所からの連行も強制連行にあたらない、というトンデモないもの。07答弁書のデタラメさ。
 (メモ者 「人の家に入っていってさらってきて」ということを示す命令書の類がない限り、「強制連行を直接示すような記述」はない、ということになる。/ネオナチが、ガス室での大量殺戮を命令した文書がない、とホロコーストを否定するのと同質の論理)


Ⅱ 07答弁書のルーツ~ 97年平林外政審議室長答弁

・97年、安倍首相など「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」が、歴史教科書に対する総攻撃をしかけていた( メモ者 河野談話、村山談話にたいする「危機感」から)
・片山虎之助参院議員、小山孝雄参院議員が、河野談話に至る調査を担当した平林室長を予算委員会で追及

①1/30 片山「強制連行や強制募集、そういうことの事実が確認できたかどうか」
平林「政府が調査した限りの文書の中には軍や官憲による慰安婦の強制募集を直接しめすような記述を見出せませんでした」

②3/12 小山が、この答弁の確認を求めた
 平林「政府の発見した資料の中に軍や官憲による慰安婦の強制連行を直接示すような記述を見出せなかった」

→ これらは、07年の答弁書の瓜二つの答弁

◆平林答弁の「官僚的」なトリック
・若手議員の会編「歴史教科書への疑問」に、3/19に会が行った平林室長からのヒヤリングの内容が示されている

①ヒヤリングの中で、強制連行のケースとしてバタビア裁判があげられている。
河野談話が、慰安婦について「甘言、強圧による等、本人たちの意思に反して集められた事例が数多くあり」と述べ、「官憲等が直接これに加担したこともあった」としていることについて、同席していた東良信外政審議官の説明
 「今の事実があったかどうかを強制的に持ってきまして、いわゆる慰安所をつくって慰安婦にいれたという事例がございまして、これは極刑を受けて、・・・裁判を受けている事実がございます。
 我々が分かっている中で、間違いなくそういう裁判も受け、・・・それが極東裁判がおかしいという論議があればまた別でございますけれども、そこがあったということでございます。バタビアの事件が1つあった。」
→ 当時の政府は、赤嶺議員が指摘した「法務省関係」資料にあるバタビア事件を強制連行と認識していた。

②この議論に、西岡力「現代コリア」編集長が反論
 「平林さんは国会で・・・つまり、文書の中には何もなかったとおっしゃっていますよね。バタビアのことが根拠だとすれば、なぜそのことを言わないのですか」「バタビアのことも、あなたたちがつくった文書集の中に入っているじゃないですか。ここに入っていますよ。この中に入っていますよ。この中にないと言っているのですよ」

③東外政審議官の説明
 「いえいえ、そういう意味ではないのです、そこは。その当時、日本政府がつくった・・・、その当時ですね。つくられた公式文書の中になかったと言っているわけです」。

★ 平林答弁の「政府が調査した限りの文書」とは、

①ヒアリングで西岡氏が示し、赤嶺議員が質問趣意書が確認した、内閣官房内閣外政審議室が発表した「いわゆる従軍慰安婦問題の調査結果について」において、その記述の概要が記載された資料全体ではなく
②そのうち「その当時」「日本政府がつくった」「公式文書」という極めて狭い意味
~ こうすることで、バタビア裁判の事例を強制連行のケースと認定することと、強制連行を認定する記述が「政府が調査した限りの文書」にないことが、「両立」する。平林答弁は、「若手議員の会」の追及を紛らわす官僚答弁

★赤嶺質問は、「政府が調査した限りの文書」が、全資料であることを認めさせた。

→ これで平林答弁、07答弁書のトリックが破綻した。最初から虚構の上に成り立っていたもの/ 07答弁書を撤回し、日本政府の責任を認め、明確な謝罪と補償を行うべき

・暴力的な強制連行の事実は、河野談話以後も、研究者の調査活動、裁判の判決で次々明かになった
・慰安婦を強制されるのは、強制連行だけでない。河野談話「甘言、弾圧による等、本人たちの意思に反して集められた」 騙して「慰安婦」にしたケースは当時も犯罪(未成年を慰安婦にしたケース、日本国外へ慰安婦を送ったケースも〈韓国、台湾から、中国や南方戦線へ移送した場合も〉)
・「慰安婦」問題のもっとも本質的に強制性~ 慰安所において軍人らの性の相手を強制したこと
~ それらは「軍当局の要請により設営され」、その「設置、管理」に「旧日本軍が直接あるいは間接にこれに関与した」と、「慰安婦」制度の創設、運用の主体が軍部であったことは河野談話でも明白。/性奴隷制であり、軍と政府の責任は明白。


【橋本内閣総理大臣がオランダ国コック首相に送った手紙】

1998(平成10)年7月15日 
内閣総理大臣 橋本 龍太郎

 我が国政府は、いわゆる従軍慰安婦問題に関して、道義的な責任を痛感しており、国民的な償いの気持ちを表すための事業を行っている「女性のためのアジア平和国民基金」と協力しつつ、この問題に対し誠実に対応してきております。
 私は、いわゆる従軍慰安婦問題は、当時の軍の関与の下に多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題と認識しており、数多の苦痛を経験され、心身にわたり癒しがたい傷を負われたすべての元慰安婦の方々に対し心からのおわびと反省の気持ちを抱いていることを貴首相にお伝えしたいと思います。
 そのような気持ちを具体化するため、貴国の関係者と話し合った結果、貴国においては、貴国に設立された事業実施委員会が、いわゆる従軍慰安婦問題に関し、先の大戦において困難を経験された方々に医療・福祉分野の財・サービスを提供する事業に対し、「女性のためのアジア平和国民基金」が支援を行っていくこととなりました。
 日本国民の真摯な気持ちの表れである「女性のためのアジア平和国民基金」のこのような事業に対し、貴政府の御理解と御協力を頂ければ幸甚です。
 我が国政府は、1995年の内閣総理大臣談話によって、我が国が過去の一時期に、貴国を含む多くの国々の人々に対して多大の損害と苦痛を与えたことに対し、あらためて痛切な反省の意を表し、心からお詫びの気持ちを表明いたしました。現内閣においてもこの立場に変更はなく、私自身、昨年6月に貴国を訪問した際に、このような気持ちを込めて旧蘭領東インド記念碑に献花を行いました。
 そして貴国との相互理解を一層増進することにより、ともに未来に向けた関係を構築していくことを目的とした「平和友好交流計画」の下で、歴史研究支援事業と交流事業を二本柱とした取り組みを進めてきております。
 我々は、過去の重みからも未来への責任からも逃げるわけにはまいりません。我が国としては、過去の歴史を直視し、正しくこれを後世に伝えながら、2000年には交流400周年を迎える貴国との友好関係を更に増進することに全力を傾けてまいりたいと思います。


【「慰安婦」問題は、日韓請求権協定で解決ずみか 】

●日本政府の態度変更 ・日韓請求権協定(1965)/「日韓の国と国民の間の請求権に関する問題が・・・完全かつ最終的に解決されたことを確認する」/しかし、従来、日本政府は、「慰安婦」問題については解決済みだが、被害者個人の損害賠償請求権までは消滅してないとの態度をとってきた。 → 個人補償が消滅しないのは当然。慰安婦被害者が名乗りをあげれたのは1991年。65年当時は、「慰安婦」問題は遡上にすら上っていない。/93年「河野談話」で政府の関与をようやく認める ・05年、日本政府の態度変更/個人請求権そのものを否定。07年、最高裁も政府の主張を追認。 ・一方、韓国政府は、03年時「損害賠償を要求しない立場」と言っていたが、05年慰安婦問題で「日本政府の法的責任が日韓請求権協定第2条1項により消滅せずに残っていると認定」した。 → 背景に、国際世論の後押しと被害者女性の訴え、行動


●転換点 韓国憲法裁判所の決定(2011年8月30日)

「日本軍慰安婦として日本政府に有する損害賠償請求権が消滅したか否かについて、韓日両政府間の解釈上の紛争を解決せずにいる韓国政府の不作為は違憲である」と決定。
 韓国政府はこの決定をうけ、外交交渉を行い、解決できない場合は、日韓請求権協定第三条にもとづく仲裁手続きで紛争を解決する方針
 仲裁人は、日韓双方1人と第三国から1人。この仲裁委員会の決定に両国は拘束される。
また、10月11日の国連総会の人権担当委員会で、個人補償問題をとりあげた。


●対立見解は外交で解決” 日韓請求権協定締結時に外務省 
「慰安婦」賠償問題 笠井氏調査で判明  赤旗 2013.8.7

http://www.jcp.or.jp/akahata/aik13/2013-08-07/2013080701_04_1.html

 日本軍「慰安婦」被害者への賠償問題をめぐり、日韓請求権協定(1965年)締結当時、日韓間で“対立する見解”が生じた場合には外交上の努力で解決されるべきだとする「条約解説」を日本の外務省がまとめていたことが、6日までに日本共産党の笠井亮衆院議員の調べで分かりました。
 日本政府は、日韓請求権協定によって財産・請求権問題は解決ずみで「紛争は存在しない」という立場です。そのため「慰安婦」被害者の賠償要求に応じていません。これに対し、外務省がまとめた文書「解説・日韓条約」(『法律時報』65年9月号)は、日本政府の立場と明らかに違う内容で注目されます。日韓諸協定で定める紛争処理の規定について、当時、外務省の事務官だった小和田恒・元事務次官が執筆を担当しています。
 同「解説」は、「何が『紛争』に当たるか」について、一方の当事国が「ある問題について明らかに対立する見解を持するという事態が生じたとき」と明記。また、紛争の発生時期については「何らの制限も付されていない」とし、「今後、生じることのあるすべての紛争が対象になるべき」だと説明しています。
 そのうえで、日韓間で紛争が生じた場合は、「まず外交上の経路を通じて解決するため、可能なすべての努力を試みなければならないことはいうまでもない」と指摘しています。

◇紛争に該当は明白 笠井亮衆院議員
 外務省の当時の「解説」からも、90年代に入り問題化した「慰安婦」問題での日韓間の解釈の違いは、協定上の紛争に当たることは明白です。日本政府の「請求権問題は解決済み。紛争は存在しない」という主張は成り立ちません。政府は、韓国側との協議に早急かつ誠実に応じ、外交的解決に努めるべきです。

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