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歴史修正主義に立つ「国定教科書」への危険

 教科書検定について、政府見解を反映させる事実上の国定教科書の動きが急テンポですすんでいる。秘密保護法強行、集団的自衛権の行使・改憲の動き一体となった戦争する国づくりの一環である。
 その内容は、自民党教育再生実行本部の「中間報告」そのもの・・・つまり「教科書が自虐史観で偏向している」として、歴史修正主義の内容で、子どもを洗脳しようというもの。手続きも乱暴。
 それは、子どもにとって不幸であるし、日本社会が国際的に孤立化する道でしかない。 

【「義務教育諸学校及び高等学校教科用図書検定基準の一部を改正する告示案」に関する意見 自由法曹団1/14】
【近隣諸国条項を骨抜き・無効化し、政府による教科書統制を
極限まで強める文部科学省の検定基準改悪案に反対する 教科書ネット 12/25】

 【近隣諸国条項を骨抜き・無効化し、政府による教科書統制を 極限まで強める文部科学省の検定基準改悪案に反対する 教科書ネット 12/25】

 2013年12月25日            子どもと教科書全国ネット21

 文部科学省の教科用図書検定調査審議会(検定審議会)は、2013年12月20日、教科書検定基準の改定案などを了承した。改定案は、11月15日に下村博文文部科学大臣が発表した「教科書改革実行プラン」に基づくものであるが、「教科書改革実行プラン」は自民党・教育再生実行本部の「中間取りまとめ」(2012年11月)及び教育再生実行本部・教科書検定の在り方特別部会の「中間まとめ」(2013年6月)の内容そのままである。政権政党とはいえ、一政党の意見をそのまま取り入れて検定基準を改定するのは文科省が自民党の下請け機関化したことを示すものであり、自民党による教育への「不当な支配・介入」である。しかも、戦後の検定制度を大きく転換する重大な改定を、諮問からわずか1か月、たった2回の審議で決めたことも許しがたい暴挙である。
 検定基準改定案は、社会科(高校は地理歴史科と公民科)について、①近現代史で通説がない事項はそれを明示し、児童生徒が誤解の恐れがある表現はしない、②政府見解や確定判例がある事項はそれに基づく記述をする、③未確定の時事的事項は特定の事柄を強調しすぎない、の3点を加えるとしている。さらに、新検定基準とは別に「審査要項」の「改定」で、全教科について、「教育基本法や学習指導要領の目標などに照らして重大な欠陥があれば検定不合格とする」を追加した。そして、「審査手続き」で、検定申請時に、教育基本法の趣旨を反映させた工夫点をより詳しく説明する書類を教科書発行者に提出させる、としている。
検定基準改定案は、教科書の内容を政府が隅々まで統制し、事実上の「国定教科書」づくりをめざすものである。さらに、歴史の事実を教科書から消し去り、歴史をわい曲する内容を教科書に書かせ、政府に批判的な内容は教科書から排除することをめざす重大な改悪案である。
文科省は、2014年1月中旬までパブリックコメントを実施し、1月中に新検定基準として告示し、例年より1か月だけ遅らせて5月から申請を受け付ける中学校教科書の検定から実施するとしている。

以下、この検定基準改定案の主な問題点を指摘する。

1.検定基準の改定案は歴史の事実を教科書から削除し、歴史のわい曲を正当化するものである
 自民党・教育再生実行本部「中間取りまとめ」と教科書検定の在り方特別部会の「中間まとめ」、自民党の衆議院選挙・参議院選挙の公約では、「多くの教科書が自虐史観で偏向している」と主張してきた。社会科の検定基準改定案がターゲットにしているのは、「自虐史観や偏向」した記述であり、対象にされているのは、南京大虐殺(南京事件)や日本軍「慰安婦」、強制連行、植民地支配など日中15年戦争、アジア太平洋戦争時の日本の侵略・加害の記述である。そのことは、次の事実を見ただけでも明らかである。
2013年9月に文部科学副大臣になった西川京子議員は、13年4月10日の衆議院予算委員会で、南京事件はなかったということは自分たち「日本の前途と歴史教育を考える議員の会」(「教科書議連」)の調査で明らかになった、また、「慰安婦」は当時は合法だった売春の話であり政治的にも歴史学的にも決着していない問題である、それらを教科書に載せるのは「自虐史観」「偏向」だと主張した。また、安倍晋三首相は、野党議員時代の2012年4月10日、自民党文教部会と「教科書議連」の合同会議に出席し、「自分が総理のときに『いわゆる従軍慰安婦の強制連行はなかった』と国会で答弁した、何故それを無視して『慰安婦』を教科書に載せているのか」と文科省担当者を叱責した。
こうした点から見れば、この検定基準は、「南京事件はなかった」や「『慰安婦』は売春婦」などというのも少数説として存在するから両論併記でそれも書け、ということである。さらに、新しい歴史教科書をつくる会(「つくる会」)の自由社版教科書や日本教育再生機構・「教科書改善の会」の育鵬社版教科書、日本会議の明成社版『最新日本史』などは、検定申請時に「南京事件なかった」という趣旨のことを書いて、検定で修正させられてきたが、今後はその記述を認めるようにするということである。
歴史の事実を教科書から削除し、歴史をわい曲する内容を教科書に書かせるものであり、明らかに近隣諸国条項に違反する。

2.検定基準改定案は「近隣諸国条項」を骨抜き・無効化するものである
 検定基準の「近隣諸国条項」(「近隣のアジア諸国との間の近現代の歴史的事象の扱いに国際理解と国際協調の見地から必要な配慮がされていること。」)は、近現代史について、日本と近隣アジア諸国との関係について国際理解と国際協調を深める立場で書くことを求める条項である。さらに、日本の侵略・加害について歴史的事実であれば検定で削除・修正を求めないという検定基準である。
 安倍首相や下村文科相をはじめ、自民党は「近隣諸国条項を見直す」と主張し、選挙公約にも掲げてきた。しかし、この条項は、1982年に文部省が教科書検定で日本の侵略戦争・加害の事実をわい曲していることがアジア諸国に知られ、中国・韓国をはじめアジア諸国から抗議され、外交問題になった。この時、宮沢喜一官房長官(当時)は、「アジアの近隣諸国との友好、親善を進める上でこれらの批判に十分耳を傾け、政府の責任において是正する」という談話(「宮沢談話」)をだし、外交問題に決着をつけた。そして、この談話に基づいて追加された検定基準が近隣諸国条項である。近隣諸国条項は日本政府のアジア諸国への国際公約であり、日本国民への公約でもある。
下村文科相は、今回の検定基準改定では、「近隣諸国条項」の見直しはしていないと述べている。しかし、検定基準改定案は、この近隣諸国条項を骨抜き・無効化し、実質的に廃止するものである。
 安倍政権・自民党がこの近隣諸国条項の見直しを行おうとしていることに対して、アジア諸国、とりわけ韓国・中国からの批判があり、見直しを行えば外交問題に発展することは明らかである。そこで安倍政権は、見直しを先送りして、近隣諸国条項を骨抜き・無効化する検定基準を別に定めて、実質的な見直し(廃止)を行うものである。これは、明文改憲がすぐにはできないので、解釈改憲や国家安全保障基本法の制定などで、事実上9条改憲を行おうとしていることと同じ手法である。きわめて姑息で悪質なやり方であり、断じて許すわけにはいかない。


3.政府見解を書かせ、教科書を政府の広報誌に変え、事実上の「国定教科書化」をめざすものである
 検定基準改定案は、教科書に政府見解や最高裁判所の判例に基づいて書くよう求め、教科書を政府の広報誌に変えようとしている。これは、領土問題について「固有の領土論」や「尖閣諸島は領土問題ではない」などの政府見解を書かせることをねらうものである。さらに、例えば、日本軍「慰安婦」について、第1次安倍政権は「慰安婦の強制連行はなかった」と閣議決定したので、これを教科書に書け、さらに、1965年の日韓基本条約で解決済みというのが政府見解であるから、これを教科書に書けということである。TTPや消費税、社会保障や労働法制などでも政府見解を書かされることになる。歴史・社会科だけではなく、原発やジェンダー平等教育、家庭科や国語の教材などで、政府の見解と異なるものは排除されることになりかねない。政権が変わるたびに教科書の内容が変わることになり、政府の見解がすべて正しいとは限らないのに、特定の見解を教科書に書かせて子どもたちに押しつけるのはもはや教育ではない。これは「教化」であり、子どもたちをマインドコントロールするものである。これは、事実上の「国定教科書」を狙うものである。
 旭川学力テスト事件の最高裁大法廷判決(1976年5月)は、「政党政治の下で多数決原理によってされる国政上の意思決定は、さまざまな政治的要因によって左右されるものであるから」、教育は「本来人間の内面的価値に関する文化的営みとして、党派的な政治的観念や利害によって支配されるべきでない」として、「子どもが自由かつ独立の人格として成長することを妨げるような国家的介入、例えば、誤った知識や一方的な観念を子どもに植えつけるような内容の教育を施すことを強制することは、憲法26条、13条の規定上からも許されない」と述べている。この検定基準案は、この最高裁判決にも違反するものであり、断じて許されないものである。

4.教育基本法の愛国心条項で教科書を統制することは許されない
 全ての教科書について、「教育基本法や学習指導要領の目標などに照らして重大な欠陥があれば検定不合格とする」という「審査要項」追加は、教科書発行者を威嚇する究極の検定強化の制度である。下村文科相は、「重大な欠陥があれば、個々の内容を審査しないで不合格にする」と説明している。安倍政権が強行成立させた特定秘密保護法は「何が秘密かは秘密」という悪法であるが、この要項もそれと同じ構造である。何が「重大な欠陥か、それは秘密」として理由を明示されないまま不合格にされる。文科相や文科省、政府・自民党が「自虐史観」「偏向」と見なせば、個々の内容の審査抜きで「重大な欠陥」として容易に不合格にできる「一発不合格制度」であり、教科書発行者に与える委縮効果は絶大であり、発行者はどこまでも「自己規制」して、政府の意図通りの教科書をつくることになる。
 検定申請時に、「教育基本法の趣旨を反映させた工夫点をより詳しく説明する」書類を教科書発行者に提出させる、というのは、教科書発行者に「愛国心教科書」「道徳教科書」作成を強制するためである。2009年3月に文科省が教科書発行者に出した「教科書の改善について(通知)」によって、教科書は教育基本法との「一致」が求められ、社会科だけでなく全ての教科書について、教育基本法第2条の「愛国心」「道徳心」「伝統文化」など5つの条項が教科書のどの記述、内容、教材と「一致」しているかを検定申請時に提出する編修趣意書に書くことが求められている。その結果、教科書の画一化が進み、教科書発行者は「愛国心教科書」「道徳心教科書」づくりを求められている。
 こうした事実があるにもかかわらず、あえてこのようなことを要求する意図は明白である。自民党と安倍政権は、日本の侵略・加害について、歴史の事実を書いた教科書を自虐史観、偏向だと攻撃し、そうした歴史の事実の記述をなくして教科書を「正常化」しなければ、愛国心が育たない、子どもが自国の歴史に誇りが持てない、などと主張している。教育基本法や学習指導要領を根拠に、不合格で脅して、教科書から歴史の事実を消し去ろうとするものであり、教育をゆがめるこのような動向は絶対に容認できないものである。


5.改定に向けた手続き上の問題点
 検定基準改定案は、パブリックコメントの募集を経て新検定基準として告示されるのは早くても1月下旬になる。まず対象となる中学校教科書は、2014年の検定申請(通常は4月、今年は5月)に向けて編集中であり、それも最終段階にある。この時期に検定基準を改定するというのは、試合が開始されてすでに終盤にさしかかったところでルールを変更することに等しい。新検定基準の告示後からでは間に合わないとして、すでに原稿の修正(自己規制)をはじめた発行者もあるという情報もある。教科書検定は、小学校、中学校、高等学校と年度を追って順次行われるので、通常、新検定制度の適用は小学校教科書検定前に、編集作業に十分間に合う時に行われてきた。今回、中学校教科書の検定からルールを変更するというのも異例のことである。このような拙速な改定を強行してまで教科書・教育への国家統制強化を急ぐことは許すことができない。

 以上のように、検定基準改定案は、近隣諸国条項を骨抜き・無効化し、教科書発行者を委縮させて自己規制を強制し、教科書の国家統制強化によって、政府の思い通りの教科書―事実上の「国定教科書」をめざすものである。それは、政権党と政府の見解と異なる見方・考え方を子どもの耳目から遮断し、国家の支配者の見解だけを子どもたちの頭脳に注入しようとするものであり、憲法が保障する思想・表現・学問の自由を侵害し、子どもの学習し成長発達する権利を侵害する重大な憲法違反である。これは、安倍政権が進める「教育再生」の名による教育破壊であり、憲法改悪と一体の「戦争する国」の人材づくりをめざすものであり、怒りをもって抗議すると共に、直ちに撤回することを要求するものである。
以上


【「義務教育諸学校及び高等学校教科用図書検定基準の一部を改正する告示案」に関する意見 自由法曹団1/14】

◆意見の趣旨
断じて改定すべきでない。

◆意見の理由
  記
1 はじめに

私たち自由法曹団は、基本的人権をまもり民主主義を強め、平和で独立した民主日本の実現に寄与することを目的として、1921年に設立された、現在全国で約2000名を超える弁護士を擁する任意団体である。
私たちは、これまでも法律家による団体としての立場から教育問題に取り組んできた。
法律に携わる立場からこの度の義務教育諸学校及び高等学校教科用図書検定基準の一部を改正する告示案(以下「本件改定案」といいます。)に関し、以下の理由から強く反対する。

2 本件改定案の概要

本件改定案の内容の概要は、教科書検定基準のうち、社会科(地図除く)固有の条件(高等学校検定基準にあっては地理歴史科(地図を除く)及び公民科)について、①未確定な時事的事象について記述する場合に、特定の事柄を強調し過ぎているところはないことを明記すること、②近現代の歴史的事象のうち、通説的な見解がない数字などの事項について記述する場合には、通説的な見解がないことが明示されること、③閣議決定その他の方法により示された政府の統一的な見解や最高裁判所の判例がある場合には、それらに基づいた記述がされていることの三点を「改正の概要」として説明する。

3 本件改定案は、政府による教育内容への不当な支配介入である。

安倍晋三首相は、2013年4月10日の衆院予算委員会で、教科書検定基準につき、「改正教育基本法の精神が生かされていない。(教科書をチェックする)検定官に認識がなかったのではないか」と批判し検定制度見直しの必要性を強調し、これを受けて、下村博文文科大臣も教科書検定基準について、「現状と課題を整理し、見直しを検討する」と述べていた。
これを受けて、政権与党である自民党(自民党教育再生実行本部教科書検定の在り方特別部会)は、2013年6月25日、「議論の中間まとめ」を発表した。
自民党の「議論の中間まとめ」は、教科書を巡る「現状の認識」として、以下のように述べる。即ち、「教育基本法が『改正』され、新しい学習指導要領が定められ・・・・多くの教科書に、いまだに自虐史観に立つなど、問題となる記述が存在する。特に、高等学校の歴史教科書については、いまだ自虐史観に強くとらわれるなど教育基本法や学習指導要領の趣旨に沿っているのか疑問を感じるものがある。また領土問題については、地理では全ての教科書で記述されているものの、我が国が主張している立場が十分に記述されていない。尖閣諸島については、記述のない教科書が存在する。・・・・以上の認識の上に立ち、教育基本法や学習指導要領の趣旨をしっかりと踏まえた教科書で子どもたちが学べるようにする」必要があるというのがそれである。

そして、その「議論の中間まとめ」において提言されている改定案は、本件改定案とまさしく同一のものとなっている。また、自民党「中間まとめ」の後、下村博文文部科学大臣が同年11月15日に発表した「教科書改革実行プラン」(以下「プラン」という)もまた、本件改定案と同一のものとなっている。
上記にあるように「議論の中間まとめ」等が、本件改定案が必要と考えている理由は、「議論の中間まとめ」の「現状の認識」にあるように、現在の教科書は「自虐史観」に強くとらわれている記述が依然あり、それは現行教育基本法等の趣旨に合致しないのだという考え方がベースとなっている。これは、いわゆる歴史修正主義の立場からの発想であって、その歴史修正主義自体が学術的には異端であって、到底普遍的な考え方とはいえない。

むしろ、このような理由による検定基準の改訂を要求することは、政権与党が自らにとって都合の良い歴史認識を教科書を利用して子どもたちに押しつけようとするものともいえるのであり、まさしく政治による教育内容への不当な介入というほかない。

4 検定審議会での審議は異常な拙速審議であり、審議不十分である。

さらに、このような自民党の一部会の、しかも中間のまとめに過ぎない案からなされた提言内容は、「プラン」が発表された後、文科省教科用図書検定審議会は、諮問後わずか1か月、審理回数もわずか2回という異常ともいえるスピード審議によって、2013年12月20日、発端となる自民党の特別部会ですら未だ中間案しかなされていない状況下でありながら、来年度の検定基準改定案として本件改定案を発表した。また、本件パブリックコメントについては、わずか20日間の期間しか与えられていないが、これは、教科書検定制度に対する一般市民の意見を広く募集する期間としてはあまりにも短い期間であるというほかない。
この異常ともいえるスピード審議には、各種報道機関や有識者などからも明らかな拙速審議であるとの疑問・批判が多く寄せられる事態となった。

教科書検定は小中高と年度をおって順次行われるものであるため、そのそれぞれの段階の教育で統一的な学習を行えるよう、検定制度の改定は、小学校教科書検定前に行うのが通常であるが、小学校教科書検定は2013年に既に終了しており、現時点での検定基準の改定が適用されるのは、必然、2014年に実施される中学校教科書の検定からとなる状況にある。また、2014年5月に予定されている中学校用教科書検定申請のため、各教科書発行者は既に相当程度の編集作業は終了しているものであり、小学校教科書との統一的整合性ももはや不可能な状況下にある中で、このような教科書作成者にあまりにも大きな不利益を与えることが明白な、申請時期が切迫した時期に無理矢理に教科書検定基準の改定を行わねばならない理由は全くない。
そもそも、教科書検定基準の改定、特に、歴史認識を巡る問題についてのそれは、我が国の教育制度の根幹に関わる問題であり、国民的な一大関心事であるとともに近隣諸国との関係での国際的な関心事でもあるのであって、そのような重大な問題をこのような拙速な審議によって進めることには重大な問題があるというほかない。このような審議の進め方は、やはり現政権下で大きな社会問題ともなった特定秘密保護法における異常な拙速審議を彷彿とさせるものである。
文科省は直ちにこのような拙速な対応を中止すべきである。

5 政府見解を至上のものとした、国定教科書化を生み出す危険性がある。

本件改定案は大きく分ければ、①「未確定な時事的事象について記述する場合に、特定の事柄を強調し過ぎているところはないことを明記する」、「近現代の歴史的事象のうち、通説的な見解がない数字などの事項について記述する場合には、通説的な見解がないことが明示されること」と②閣議決定その他の方法により示された政府の統一的な見解や最高裁判所の判例がある場合には、それらに基づいた記述がされていることの2つに分類することがきできる。
前者①にいう、「通説的な見解」等をどのように理解するかについては、文科省の説明によれば「どのような学説をもって通説と考えるかの判断には難しい面がある・・・申請図書の調査審議の時点における客観的な学説状況等に照らして、いまだ『通説的な見解』として広く受け入れられている学説がない状況において、申請図書の記述では児童生徒にとって誤解するおそれがあるものとなっていないかといった観点から、判断される」とされるが極めて曖昧かつ不明確であり、恣意的な運用の余地があまりに大きすぎる。
本件、改定案のもととなる自民党教育再生実行本部の「自虐史観に強くとらわれている記述が多数存在する」との現状認識を前提とするならば、いわば、政府の統一見解や最高裁判例、もしくはこれと同程度の公的な見解が示されない限り、「通説的な見解」等ではないといった判断がなされる危険性は極めて高い。未だ「通説的見解」等に該当しないと判断されると、特別部会の「議論の中間まとめ」によれば、「未だ確定的な見解、学説がない旨を教科書に記述したり、具体的な根拠を示したり、本文で取り上げないなどの改善を図る」こととされており、例えば、南京事件について、死傷者数の違いに関する見解の相違のみならず、南京事件自体「存在しなかった」という極めて極端かつ少数説ですら、「反対説が存在する」として、両論併記や確定した学説がないなどといった記載を要求されることにもなりかねない。

一方で、後者②閣議決定その他の方法により示された政府の統一的な見解や最高裁判所の判例がある場合には、文理上、仮にその見解は上記基準によれば「通説的な見解」でなくとも教科書への記述が要求されることとなる。
しかし、政府見解は、必ずしも学術的な意味での通説と整合するものではなく、例えば、第一次安倍政権が2007年3月16日に日本軍「慰安婦」に関して行った「河野談話をこれからも継承していく」としながらも、「官憲が家に押し入って人さらいのごとく連れて行くという強制性、狭義の強制性を裏付ける証言はなかった」、「政府が発見した資料の中には、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述は見当たらなかった」とする政府答弁書の閣議決定がある。このように歴史認識に深刻な相違があるものや、また、「竹島」「尖閣諸島」における領土・領有権問題についての、政府の見解も教科書に記載することが要求されることとなる。
しかし、政府の統一的な見解がある場合に、必ずそれに基づいた記載が必要なものとされるという基準は、何らの正当化根拠を持ち得ない。これでは子どもたちに対して政府の見解を一方的に押しつけるものとなる。
このように、本件改定案は、政府の見解について異論を許さない見解として、教科書を通じ子どもたちの頭にすり込ませ、それ以外の見解については、政府の恣意的な判断によって未だ確定的でないとして、教科書作成者に両論併記などを強制することを意味している。これでは、教科書は、政府の単なる広報誌に成り下がり、事実上の国定教科書の復活を意味することに繋がるものである。

6 近隣諸国条項を空文化し、深刻な外交問題を引き起こす

現在の検定基準では、小中学校用、高等学校用いずれにも「近隣のアジア諸国との間の近現代の歴史的事象の扱いに国際理解と国際協調の見地から必要な配慮がされていること。」との基準が用いられており、本件改定案でも同基準についての明文での改定はなされてはいない。
しかし、「議論の中間まとめ」には盛り込まれなかったものの、教育再生実行本部特別部会では、「近隣諸国条項はその役割を終えた」として、その廃止が議論されていたこと、前記のように、「多くの教科書の記述が、未だ自虐史観に強くとらわれている」との認識を有していること、そしてこの認識のもと、閣議決定を利用して「自虐史観」ではない見解を政府が子供たちにすり込ませることが可能な基準が成立するのであれば、もはや近隣諸国条項などというものは何らの歯止めにならない空文と化してしまうことを意味する。
近隣諸国条項にいう、「国際理解と国際協調の見地からの配慮」は、本件改定の目的である「自虐史観」的記述の排斥そのものであって、その内容は歴史認識、領土領有権問題等に関して近隣諸国に配慮しない記述となることは明白である。近隣諸国条項を存続することとしたのは、形式的に近隣諸国条項を存続させることによって、アジア諸国との外交問題化を回避しようという意図であると考えられるが、形だけ近隣諸国条項を残すことに何らの意味はない。
なぜなら、基準改定後の教科書の記述を確認すれば、当然、その記述内容はアジア諸国の知りうるところとなるのであり、近隣諸国との間に深刻な外交的問題を生じさせる危険が高いことは、近隣諸国条項が形式的に残されているかどうかで変わるものではないからである。

7 最後に

以上のように本件検定基準の改定案は、子どもの学習権に資するものでないことはもちろん、現在の教科書を国定教科書同然のものに貶めるとともに、特定の偏向した政治権力・政治的思想によって教育内容が不当な介入を受けてしまう危険性を著しく高め、さらには、世界平和実現を目指す憲法の理念を実現すべく、長い時間をかけて行われてきた、近隣アジア諸国との信頼と友好関係を築く努力を全て無に帰す危険性を生み出すものである。

以上から、我々自由法曹団は、本件改定案に強く反対する。

2014年1月14日

自由法曹団
団長篠原義仁__


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