賃上げでデフレ脱却・生産性向上を 内閣府・専門チーム
内閣府の「経済の好循環実現検討専門チーム」の議論の中間まとめがなかなかおもしろい。
「なぜ、日本だけがデフレという悪循環に陥ったのか」にはじまり、カギは「名目賃金の低下」「非正規の拡大」。それは、国際的に見ても「極めて特異な現象」と指摘。
「各企業から見ればコスト削減という極めて合理的な行動が、消費や投資の減少や人的資本蓄積の停滞といった『合成の誤謬』を引き起こし、デフレという悪循環を引き起こしてきた」。「企業の利益剰余金は300 兆円を超える水準となる一方、賃金は低下した」姿は、資本主義経済にとって「正常とは言えない」。
個別対策では、「ワークライフバランスの実現。所定外労働に対する割増賃金の引上げの検討」が興味深い。
【経済の好循環実現検討専門チーム 中間報告 2013.11.22】
報告は、「時間外労働に対する割増賃金率の引上げは、人件費の負担を増やす一方で、ア)従業員の賃金の引上げ、イ)ワークライフバランスの改善、ウ)ワークシェアリングの進展、といった効果が得られる。さらに、それは長期的にも企業の生産性の向上につながるとみられる。」
と高く評価する。
この部分は、日本共産党の「ブラック企業規正法案」とも重なる。
こうした提案の実現には、財界中心の政治との対決抜きには出来ない。
なお、報告は、雇用の流動化などについても触れているが、分厚い社会保障、職業訓練制度があるかどうかで、その意味するところは、まったく別ものになる。
【報告から】
「なぜ、日本だけがデフレという悪循環に陥ったのか。鍵は名目の賃金水準の動向にある。・・・この間、正規雇用から非正規雇用への転換が大きく進んだことも、名目賃金の低下を更に加速化した要因となった。」
「国際比較をみても、他の先進国では名目賃金は物価よりも高い率で上昇している。日本だけ、物価の下落率以上に賃金が下がっている姿は異常である。戦後、一国だけが長期にデフレになったことは極めて特異な現象であった。」
「企業の利益剰余金は300 兆円を超える水準となる一方、賃金は低下した。
今日、日本経済で最大の貯蓄超過部門は企業部門である。家計部門の貯蓄超過に対して、企業部門は投資超過になるという姿こそが資本主義経済にとって「健全な」姿である。現状は決して正常とは言えない。
各企業から見ればコスト削減という極めて合理的な行動が、消費や投資の減少や人的資本蓄積の停滞といった「合成の誤謬」を引き起こし、マクロ経済全体からみるとデフレという悪循環を引き起こしてきた。」
本報告では、今後求められる対応策として、以下を提起する。① デフレ脱却のためには、これまでに例をみない「逆所得政策」も活用しつつ、「賃金の上昇」を実現することが重要である。賃金上昇が需要を増やし、更なる企業収益改善につながるという好循環を実現するために必要との共通認識を醸成し、早期にデフレマインドと悪循環から脱出すべきである。
② 好循環を持続的な成長につなげていくためには、生産性を向上させることが不可欠である。その際、生産性の上昇を価格引下げで吸収するのではなく、新分野の開拓や、プロダクト・イノベーションを通じて付加価値を高め、単価を引き上げながら需要を創出することが重要である。一方、政府は成長戦略の実現を通じて、イノベーションを活性化する環境を整備し、企業による人的投資や知的資本の拡大を促す必要がある。
③ 非正規雇用労働者の拡大は、人的資本蓄積の停滞を通じて、長期的にみて生産性とイノベーションの低下、ひいては中長期的な成長力の低迷につながるおそれがある。
正規雇用の受け皿を拡大するため、多様な正社員の形態を職場のニーズに応じて普及するとともに、非正規雇用労働者の能力開発の推進や能力に応じた適切な処遇など、処遇改善に向けた取組が必要である。さらに、生産性の高い分野に人材を失業なく労働移動させることが重要である。
第3章 持続的な経済成長に向けて2.付加価値生産性の向上
(3)ワークライフバランスの実現、所定外労働に対する割増賃金の引上げの検討
ワークライフバランスを回復することにより、労働者の仕事と生活のフレキシビリティが高まる。それにより、人間らしい生活が実現できることはもとより、労働者のモチベーションが向上し、労働者一人ひとりの作業効率や創造性が高まる。ひいては、賃金以外の労働条件を重視する優秀な人材の確保などを通じて、企業全体の生産性の上昇が期待されている50。
ワークライフバランスを実現させるための経済的なインセンティブとして、「割増賃金の引上げ」について検討する必要がある(図表43)。
現在の割増賃金率では、既存労働者に対して所定外労働を課し割増賃金を支払う方が、新規に労働者を雇うよりもコストが抑えられるため、企業は生産量を増やす際に残業時間の延長で対応しようとする傾向がある。また、残業を前提に雇用が決められるため、残業が恒常化しているとの指摘もある。さらに、割増賃金率を計算する際のベースとなる賃金にボーナスが入っていないことから、ボーナスを含めた賃金で計算すると、我が国の割増賃金率は他の先進国と比べてさらに低くなっている。このため、現行の制度は残業時間を延ばして雇用を抑制するだけでなく、所定内給与を抑制する傾向も強まるとみられる。
時間外労働に対する割増賃金率の引上げは、人件費の負担を増やす一方で、ア)従業員の賃金の引上げ、イ)ワークライフバランスの改善、ウ)ワークシェアリングの進展、といった効果が得られる。さらに、それは長期的にも企業の生産性の向上につながるとみられる。
我が国の割増率は2010 年に引上げられたとはいえ、なお他の先進国に比べると低い水準にある。割増率の引上げについては企業の実情を踏まえて社会全体で検討すべき課題である。
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