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「いじめ防止基本方針」~課題のメモ 

 10月11日、文部科学省のいじめ防止基本方針策定協議会が、「いじめ防止等のための基本的な方針」を決定した。策定された「基本的な方針」は、先の通常国会において成立したいじめ防止対策推進法にもとづき国が定めるものとされたもので、今後、地方自治体、学校で同方針を参酌し、地方、学校の実情を反映した基本方針の策定がもとめられることになる。
 以下、問題意識を整理したい。

 いじめ防止対策推進法そのものは、安倍首相肝いりで設置された教育再生実行会議の提案にもとづき、国民的な議論はもちろん、中教審の審議さえなく制定されたもので、多くの教育関係者から、①「児童等は、いじめを行ってはならない」として「いじめ禁止」を法律で定めようとしていること、②内心の問題である情操教育や道徳心に法律が踏み込んでいること、③家庭教育に踏み込んでいること、④「懲戒」や「出席停止」など厳罰化で取り締まろうとしていることなどの問題点が指摘されている。
 日本共産党も、同法案には、厳罰化や規範意識の押しつけでは何ら解決にならずさらに悪化すると反対した。

 「基本的な方針」には、いじめを「撲滅」としていることや随所に警察との連携を第一にあげていること、「道徳教育」や「体験活動」の強調など、その危険性はなくなっていないが、方針に策定した協議会には、教育の素人の有識者会議と違い、教育と心理学の研究者、学校現場、首長、いじめ・自殺問題に詳しい弁護士などが入って議論がされた結果、今後のとりくみにいかすことのできる重要な内容を持っている。
 そのどちらの部分に重点をもって具体化するかで、まったく別物の方針ができることになる。

◆パワハラ、セクハラが横行する大人社会の責任

 「基本的な方針」は、冒頭に「法制定の意義について」について述べている。

 「大人社会のパワーハラスメントやセクシュアルハラスメントなどといった社会問題も、いじめと同じ地平で起こる。」「、他人の弱みを笑いものにしたり、暴力を肯定していると受け取られるような行為を許容したり、異質な他者を差別したりといった大人の振る舞いが、子供に影響を与えるという指摘もある」。「いじめの問題は、心豊かで安全・安心な社会をいかにしてつくるかという、学校を含めた社会全体に関する国民的な課題である。」

 日本共産党は、昨年発表した提言は、いじめは、死にもつながる深刻な暴力と人権侵害であり決して許されず、目の前のいじめから子どものかけがえのない命、心身を守り抜くとりくみとともに、根本的な対策として、いじめの深刻化を教育や社会のあり方の問題ととらえ、その改革に着手するという複眼でのとりくみを提唱しましたが、その後段部分にシンクロする指摘である。

 90年代半ばからの新自由主義の政策により、社会全体がいじめ的傾向を強めてきた。
企業のリストラでは、「弱い」「使えない」とレッテルを貼られた人々が追い出され、非正規雇用、派遣労働者はモノ扱いされ、「自己責任」による生き残りを迫られ、他人を助けるより蹴落とすことが奨励されるような状況が生まれてきた。ブラック企業の横行、生活保護など弱者をバッシングし餓死・孤独死が後をたたない現実がある。
また、一流銀行が暴力団と関係をもつ、大手鉄道会社が安全点検を手抜きする。一流ホテルが食偽装を行っている現実もある。
 この社会の状況を放置して「人を大切にしよう」「ウソをついてはいけません」など、大人が上から「規範意識なるもの」を押し付けても、反発を招くだけでなく、「規範とは、建前。うわべのこと」と教えていることになる。
道徳教育のモデル校が、実施後に「荒れる」ことが指摘されている。大津のいじめ自殺も前年まで「モデル校」であった。「うわべ」のために抑圧されつづけ、ストレスをためた結果の反動・・・と考えると説明がつく。
  
◆今日のいじめの特徴を正しく認識することが極めて大事

 基本的な方針の根底なす考え方が「いじめ理解」。

 「いじめは、どの子供にも、どの学校でも、起こりうるものである」とのべ、国立教育政策研究所の追跡調査を紹介している。調査結果は、小学校4年から6年生で、いじめの被害体験、加害体験がない児童は1割程度しかないことも明かにしていおり、「多くの児童生徒が入れ替わり被害や加害を経験している」と指摘している。
特別の子どもの問題ではなく、人間関係のあり方そのものの病理現象だと言える。

 今日の「いじめ」は逃れられない構造をもっている。

 阪神大震災で被災者のケアにあたった精神科医の中井久夫先生が、その後、いじめ問題での被害者ケアの臨床、丹念なケースワークからの知見にもとづき97年に「「いじめの政治学」という本を出している。

 今日のいじめの特徴について「孤立化、無力化、透明化」という段階を経ると解明している。大事な指摘だと思う。

 まず、「孤立化」の段階。標的を探し出し孤立化させる。標的の理由はなんでもよい。「かわいい」「かっこつけている」でもいい。ある例では、食物アレルギーの子が、「人間が食べられるものが食べられない。だから人間ではない」といじめの対象になっている。誰もがいつ何の理由で標的になるかもしれないという状況なので、まわりの人間は標的にならないことにホッとし、まきこまれないよう標的ななった子どもとは距離を置く。こうして「孤立化」が進む。

 無力化の第二段階では、反撃には過酷な暴力で罰し、反撃は無力だと観念させる。特に「大人に話すことは卑怯だ」と特に激しく罰し、その価値観を内面化させていく。
この過程では、加害者のリーダーの「今日はあの日」の一言で、まったくいじめをせず、やさしく接する日がもうけられる。被害者は、そのことに感謝の気持ちさえ持ち、いじめられない日が多くなるよう、いっそう加害者の気に入られようとするとのこと。これはDVで問題となる依存構造と同様なものだ。

 そして加害者の感情に従属して、加害者との関係の中でだけが生きるようにさせられ、一見「仲のよい」ように見えることで、いじめは「透明化」する。
 この段階になると、いじめを察知して尋ねても被害者が否定するという。透明化段階で特につらいのは「自宅でもこう振舞え」と、兄弟をいじめるとか、親の金を盗ませるとか無理難題を強要され、完全に支配され、最後の自尊感情までもが踏みにじられることだと指摘されている。

だから、自殺は自己の尊厳を守る唯一の方法となっている。

◆いじめの早期発見と重大問題への対応の要は

 基本的な方針は、いじめを生まない学校をどうつくるかという環境整備も含めた問題、いじめの早期発見の対策、いじめが起こった場合の対応、特に重大事件対応が柱でつくられている。

 「基本的な方針」は、「学校におけるいじめの防止等の対策のための組織」の置くことを求めている。心理、福祉等に関する専門的な知識を生かすことは重要なことだが、子どもと直接接している教職員全体の役割が決定的と思う。

①職員会議が機能しているか

 大津市のいじめ自殺事件でも、何人かはいじめに気がついており、また、少なくとも2回、こどもが「いじめ」を訴えていた。自殺6日前に校長、担任など5.6名による15分の協議で、「喧嘩」であり「見守る」との決定していた。自殺を防止する機会を生かすことは出来なかった。
 高知県でも、南国市の虐待死問題では、それぞれの教職員が気になる情報をもっていたのに共有できなかったという痛苦の反省すべき事例もあるいじめや気になる子の情報について、教職員集団・・・養護教員、用務員さん、給食調理の職員が大事な情報をもっている例は少なくない。そういう意見が自由に出せ、全体で情報を共有し解決方法をさぐる場が必要である。それは職員会議である。職員会議がそのようなものとして重視され、機能しているかが重要。

②いじめ対応が優先課題となっているか

 今日のいじめは、大人が気がつく段階、本人が「いじめられている」と訴える段階では、いじめが深刻な段階に達していると捉え、行動に移せるかが重要である。
ある例では、金曜日の昼休みに子どもがいじめについて相談してきたが、担任の先生は、午後から半年間準備してきた教育委員会からも視察にくる公開授業があり「月曜日に話を聞くから」と帰した直後に自殺している。
子どもの命に優る課題はない。公開授業を中止・延期が躊躇なくできる文化が学校にも教育機関にもなくてはならない。学力対策や報告をまとめて提出することも大事だが、何をおいても、子どもの命最優先の決断が出来る職場にならなくてはらない。教育長、学校長のリーダーシップなくしては、そうした文化は築けない
 
◆いじめ防止  持つべきは「体制の充実の目標」

 いじめ対策は、時間もかかり、すぐに成果があがるわけでもなく、成果が目に見えるわけでもなく、軽視や後回しにされることがある、と指摘されている。それは、学力調査など数値目標と「上」への報告文書づくりに、追われている現場の反映である。コインの裏表の関係にある。
現場でのいじめの指導は極めて困難をともなう、という。深刻ないじめほど、教師は指導の展望を簡単には持ないことが多いと報告されている。1人で担うには重過ぎる課題であり、なかなか解決できないことへの教師自身の無力感、敗北感、自己を責める気持ち、深い苦悩が教師を襲っていることにも留意する必要がある。
いじめ問題の解決の要は、加害者を変えることだが、一般的に、いじめる側の子ども自身が、虐待や親の過度の期待による抑圧などで、相当に傷ついている場合が多く、そのつらさに共感し、背景の解決に着手してこそ、加害者は被害者の痛みに共感し、いじめをやめる方向に向かうことが多くの献身的な取組で示されているが、その平坦でない過程に、想像力をめぐらしたい。

①国、地方団体の役割

 この点で「基本的な方針」が「地方公共団体として実施すべき施策」として、「いじめの防止等のための対策を推進するために必要な財政上の措置その他の人的体制の整備等の必要な措置を講ずるよう努める」「生徒指導に係る体制等の充実のための教諭、養護教諭その他の教職員の配置、心理、福祉等に関する専門的知識を有する者であっていじめの防止を含む教育相談に応じる者の確保、いじめへの対処に関し助言を行うために学 校の求めに応じて派遣される者の確保等必要な措置」を求めていることは重要。

 また、「基本的な方針」には、学校評価や教員評価にあたって「いじめの有無やその多寡のみを評価するのではなく」と指摘している。
 「誰にでもおこりうる」という今日のいじめの特徴にそったものであり、「いじめゼロ」などの数値目標を現場に押しつけるだけの「いじめ対策」が、隠蔽体質をうみだしことを反省する内容となっている。

 数値目標をもつなら具体的な体制整備の目標を持つべきである。

☆財務省審議会〜 いじめ防止基本方針に逆行

 また、「基本的な方針」は、国の責務として「教職員が子供と向き合うことのできる体制の整備」として「教職員定数の改善措置」をあげている。 ところが10月28日の財政制度等審議会・財政制度分科会では「義務教育の国庫負担金の大幅削減することで一致した」。財務省が、教員の高い給与水準を地方公務員並みに引き下げれば国庫負担金を370億円削減できる試算を提示、「委員からは異論が出ず。大筋で了承された」、委員からは、「教員を増やせばよいという考えは古い」と地方が独自に努力している実態も無視した少人数学級を否定する意見も出ている。
 国に対し、教員定数の改善、教育予算の確保についてしっかり主張する必要がある。


②ケアする立場の人(教員)の支援を 〜 発達援助の知見から

 いじめの問題に解決については、「多忙化」で先生自体が疲れきっている状態の解決がなんとしても必要である。
 今年3月にまとめられた文部科学省の「教職員のメンタルヘルス対策について」でも、「学校教育は、教職員と児童生徒との人格的な触れ合いを通じて行われるものであることから、教職員が心身ともに健康を維持して教育に携わることができるようにすることがきわめて重要である」と指摘している。
が、教員の勤務時間の異常な増加が、国の調査でも教職員組合の調査でも明らかになっている。肝心の授業準備ができない。子どもとふれあう時間がとれず、書類づくりに追われている、学年会で時間をとり話し合うことも、職員室で子どもの情報を交換したりする時間もとれない状況がある。
そうした中、精神的に追い詰められ、通院や長期の病休の増加も問題となっている。
 「慌しいと心が荒れる。忙しいと心が亡びる」・・・・ 漢字の成り立ちが教えてくれる。荒れた心、亡びた心では、いじめ防止に立ち向かえない。

 前述の中井久夫先生は、阪神大震災の教訓に「ケアする者に、温かい食事を」とケアする立場の人への支援の大事さを指摘している。「温かい食事をとれないでいると、新しい発想で物事に対処したり、臨機応変に対応することが、次第に困難になってくる」と、最初は精神力で頑張れても、長くはつづかないことを指摘している。ケアする立場の人がつかれきっていてはダメなのである。
 
 中井久夫先生は、人間発達援助にたいする現代の古典といわれるジュディス・ハーマンの「心的外傷と回復」を翻訳者としても知られている。
 ハーマンは心的外傷の中核は「耐え難い事態に直面し、どうすることもできなかった「無力感」、誰にも助けてもらえなかった「孤立無援感」であると解明し、その傷ついた自己を回復させる過程と援助の中身を示している。
「耐え難い事態」「無力感」「孤立」など・・・いじめ問題に共通する中身である。
 そのハーマンは、ケアする側がケアすることから受けるストレスや疲弊感、無力感に取り込まれないようにしていくためにはケア者同士の相補的なかかわり、何ごとも隠さずに報告し合うことなどで、二次的被害にあわない対策の重要性を明かにしている。

 (「耐え難い事態」「無力感」「孤立」・・・いじめ事件に直面した教師が追い込まれる状態でもある、と思う。メンタル疾患の多さは、その表れと言える。また、 「基本的な方針は「特に体罰については、暴力を容認するものであり、児童生徒の健全な成長と人格の形成を阻害し、いじめの遠因となりうるものであることから、教職員研修等により体罰禁止の徹底を図る 。」とのべているが、「徹底」だけでは不十分でる。環境の改善が不可欠である。)

 医療・福祉の現場でカンファレンスがその役割を担うことになっている。教師にとっては本来、職員会議がそういう場でなくてはならない。

◆子どもを主体者に・・・「児童生徒の意見を取り入れる」意義

 学校基本方針の策定にあたって「児童生徒の意見を取り入れる」ことなど、子どもたちの声をいかし、その自主性・自発性にもとづくとりくみの重要性を指摘している。
いじめ問題の解決の一番の力は子ども自身にある。子ども同士、子どもがいじめられている子を支える。いじめている子を別の活動の場所に引き出すなど、子ども集団が、場をつくり、何でも言えるように変化していくことが重要とある。教師はそれを援助し、子どもの持つ力を引き出す役割がある。そのためには、教師と子どもの信頼関係がなくてはならない。
信頼は、一方的に上から押し付けたルールでは生まれない。基本方針づくりに、子ども自らが参加することが重要なのである。

◆いじめの背景 ストレスに着目したことの重要性

 いじめの防止について「基本的な方針」は、「いじめを生まない土壌をつくるため」に、「互いの人格を尊重」することとともに、いじめの背景に「ストレス等」があることに「着目」し、「その改善を図(る)」ことをあげている。いじめそのものを防止するために、その背景に言及したことは重要。

 全日本教職員組合が取り組んだ「教育のつどい2013」でも、子どもたちの「問題行動」の背景に、子どもたちの抱えるさまざまな問題があること、そうした生きづらさへの共感や相互理解が子どもたちのストレスを和らげ、いじめを許さない集団づくりにつながることなどがレポートされ、交流・討論されている。
こうしたレポートを含め、子どもと向き合って努力している団体、個人の実践から学び、また交流・討議を通じてその知恵と力を結集して、方針づくりを進めることが極めて大事であり、その過程自体が、いじめ問題の理解を深め、防止の力を育む過程と言える。

☆子どもの権利委員会の勧告

 日本の子どもがさらされている強いストレスの背景には、国連子どもの権利委員会が繰り返し勧告している「過度に競争主義的な教育制度」の問題があります。日本共産党は、全国一斉学力テストの中止や「学校選択制」、「複線型の学校制度」などによる学校間競争をあおる政策の撤回など、その改善を求めてきた。これらも含め、政府・文科省には子どもたちのストレスを改善するための施策を講じる責務があらためて課せられたといえる。

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