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日本の子どもの貧困、先進国の中でも深刻 ユニセフ研究所

 国立社会保障・人口問題研究所の阿部彩氏、竹沢純子氏がイノチェンティ研究所と協力により、日本についてのデータ不足を補って、国際的な比較を可能としたレポート。

・日本は、総合6位ながら、各分野のバラつきが大きい。
・一番低かったのが「物質的豊かさ」 31カ国中21位(下から11番目。前後にはホーランド、ギリシャ)。/「相対的貧困率」は、14.9%で、下から10番目。 貧困の深刻度を示す「貧困ギャップ」は31.1%で下から6番目(相対的貧困ラインより3割以上少ない所得のもとで生活)。
・教育、日常的なリスクでは1位となっているが、「子どもの貧困」の著者である阿部氏は、結果について「5つの分野の成績には全般的に相関関係が認められるので、今回日本の成績がよかった分野も、将来的には悪化する可能性もあり得ます。そのような注意喚起として今回の調査結果をとらえてほしい。」と述べている。

 ~ 貧困を放置していては、教育、日常リスク、健康などの分野も低下していくという警告である。

 なお、下段に、レポート本文の「おわりに」部分を引用している。「子どもの貧困対策の推進に関する法律」に実効性をもたせるため、より深めた調査を提言している。
【先進国における子どもの幸福度 日本との比較 特別編集版】
【ユニセフ・イノチェンティ研究所 最新報告書発表
『先進国における子どもの幸福度-日本との比較 特別編集版』 12/25】

【ユニセフ・イノチェンティ研究所 最新報告書発表 『先進国における子どもの幸福度-日本との比較 特別編集版』 12/25】

 ユニセフは25日、国立社会保障・人口問題研究所との共著による『イノチェンティ レポートカード11 先進国における子どもの幸福度―日本との比較 特別編集版』を公表しました。

 ユニセフのイノチェンティ研究所は、先進国における子どもの状況をモニターし比較することを目的として、2000年から、『レポートカード』シリーズを公表しています(テーマは毎回異なります)。本年4月、先進国の子どもの幸福度を、5つの分野において順位づけしながら考察した『レポートカード11 先進国における子どもの幸福度』を公表しましたが、日本についてはデータが不足しており、総合評価の対象とされませんでした。その後、国立社会保障・人口問題研究所の阿部彩氏、竹沢純子氏がイノチェンティ研究所と協力して、原文の『レポートカード11』に、比較できる日本のデータを追加して日本の順位を割り出し、日本の状況についての考察を加え、今回の『特別編集版』の公表が可能となりました。
 今回の報告書では、初めて、子どもの幸福度に関する5つの分野すべてにおいて日本のデータが含められました*。

 阿部氏は「本調査は、子どもの幸福度/貧困を、所得という側面だけでなく、生活必需品の有無、健康、教育、日常生活上のリスクといった分野でより直接的、多角的に測っている点でとても貴重なデータを提供しています。今回初めて、日本が国際比較の卓上にのったことは、日本の子どもの状況を客観的に捉える上で非常に重要であり、意義深いことです」と述べています。

*今回と同様のレポートは『レポートカード7』として2007年にも公表されていますが、この時も日本は一部指標のみ取り上げられ、総合評価の対象外でした。

◆総合順位ではオランダ、北欧諸国に次ぐ6位/分野ごとのばらつきが顕著

 日本の子どもの幸福度は、31カ国を対象とした総合順位では、オランダと北欧4カ国(フィンランド、アイスランド、ノルウェー、スウェーデン)に次ぐ6位と、トップクラスでした。ただし、詳しくみてみると、それらの国々の状況とは少し異なることがわかります。上位5カ国は、全ての分野でいずれも成績がよいのに対し、日本は、2つの分野で1位になった一方で「物質的豊かさ」では21位となるなど、分野ごとに順位のばらつきが大きかったのです。阿部氏は、「5つの分野の成績には全般的に相関関係が認められるので、今回日本の成績がよかった分野も、将来的には悪化する可能性もあり得ます。そのような注意喚起として今回の調査結果をとらえてほしい。」と述べています。

■分野別のハイライト■

<物質的豊かさ> 日本の子どもの貧困、先進国の中でも深刻
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 今回の調査で日本の順位がいちばん低かったのが、物質的豊かさの分野です。日本は31カ国中21位(下から11番目)で、子どもの貧困の問題が、先進諸国の中でも深刻な方であることが、あらためて明らかになりました。それぞれの国において貧困状態にある子どもの割合を示す「相対的貧困率」は、14.9%で、下から数えて10番目。また、貧困の深刻度を示す「貧困ギャップ」では、さらに順位を下げ、下から6番目となっています。さらに、子どもの実際の生活水準を比較するために用いられた「子どもの剥奪率」(8品目(本文参照)のうち2つ以上が欠如している子どもの割合)においても、下から11番目と、相対的な所得、物質的剥奪のいずれにおいても、日本は下位に位置づけられる結果となっています。

<健康と安全> 低出生体重児出生率では最下位

 健康と安全の分野については、日本の順位は31カ国中16位でした。子どもの死亡率や予防接種率では上位だったものの、低出生体重児出生率(2,500グラム未満で生まれる乳児の割合)で最下位だったことで、分野別の順位が引き下げられる結果となりました。日本は、低出生体重児出生率が70年代後半から2000年代後半にかけ倍増した特異なケースであることも、報告書は指摘しています。その理由としては、低体重の女性の増加、若い女性の喫煙の増加、妊娠中に厳格な食事管理を行う傾向、所得格差の拡大などが挙げられています。

<教育> ニート率、4.1%で10位

 教育分野に関しては、日本は、学習到達度(PISAテスト)の順位がフィンランドに次ぐ2位であったことなどから、分野別では、31カ国中で1位となりました。ただし、高等教育を受けている15~19歳の割合と、就学・就労・職業訓練のいずれも行っていない15~19歳の若者の割合(いわゆる「ニート率」)においては、どちらも10位と、中位の順位となりました。

<日常生活上のリスク> いじめを受けたことのある子どもは27.4%で12位

 日常生活上のリスクにおいても、日本は分野別で1位となりました。この分野を構成する要素のうち、「健康行動」(肥満児の割合、毎日朝食をとる子どもの割合)においても、また、10代の出生率と飲酒という、将来に悪影響を及ぼす「リスク行動」においても、日本はトップクラスの順位でした(10代の出生率(4位)以外は1位)。この分野で唯一、日本の順位が上位ではなかったのが、いじめに関する指標です。日本では、いじめを受けたことがあると答えた13~15歳の子どもは27.4%で、30カ国中12位。日本の子どもたちの経験しているいじめの問題は、他の先進諸国と比較しても小さくないことが明らかになりました。

<住居と環境> 住環境については中庸

 住居と環境分野では、日本は10位でした。住居については、1人あたりの部屋数、住居に複数の問題(項目は本文参照)があると答えた子どもがいる世帯の割合のいずれの指標でも、中位に位置づけられました(それぞれ15、17位)。一方、子どもがおかれた社会環境における暴力の水準の指標として用いられた、年間の殺人発生数(10万人あたり)では、日本は31カ国中2番目に低いという結果になりました。

◆子どもを支援する政策の推進へ

 今回の報告書の基になった本年4月発行の『レポートカード11 先進国における子どもの幸福度』は、各国の状況を詳細に比較した上で、先進国の子どもの貧困は避けられないものではなく、むしろ各国による政策の影響を受けやすい、ということを指摘しました。「日本では本年6月、『子どもの貧困対策の推進に関する法律』が成立しました。本報告書が、日本の子どもの貧困と幸福に関する政策や、子どもの貧困をモニタリングする仕組みについて、何らかの示唆を与えることになり、包括的に子どもを支援する政策の推進につながれば幸いです。」と阿部氏は述べています。


【レポート本文より 「おわりに」部分引用】

 2013 年6月、日本では「子どもの貧困対策の推進に関する法律」が成立した。これによって、政府には子どもの貧困対策に関する大綱を策定し、子どもの貧困について各種指標を用いてモニタリングする仕組みをつくることが義務付けられた。こうした中、本報告書が、日本の子どもの貧困と幸福に関する政策およびモニタリングの方法について、何らかの示唆を与えることとなれば幸いである。ただ、子どもの貧困と幸福のモニタリングのための適切な指標を選ぶことは概して難しく、議論を呼ぶプロセスでもある。
 本報告書で考察した子どもの幸福度を表す5つの分野、すなわち「物質的豊かさ」、「健康」、「教育」、「日常生活上のリスク」、「住居と環境」は、子どもの幸福度に関する総合順位表(2 ページ)に等しく寄与している。  
しかし、使用した各指標に関する記述からも明らかなように、異なる国々の子どもの幸福度を測定し比較することは、大きな課題と限界のある不完全な作業である。理想を言えば、こうした測定・比較には、次のような指標を取り入れていくことも必要だろう。

▶ 育児の質
▶ 幼児教育の量ではなく質
▶ 子どもの精神・情緒の健康
▶ 家庭内暴力の経験(被害者あるいは目撃者として)
▶ 子どもへの虐待とネグレクトの広がり
▶ 子ども特有の環境(安全で監督されずに遊べる機会など)の質と安全性
▶ 養護施設で暮らしている子どもの幸福度
▶ 障がいのある子どもの幸福度
▶ 子どもの商品化/子どもの性の商品化
▶ 子どもが生活の中で触れるあらゆる種類のメディアとその影響

◆幼児期
 上記の課題のほかに、子どもの幸福度をモニタリングするために現在行われているほぼ全ての国際的試みおよび各国の試みには、もう1つ弱点がある。それは、子どもの生後数カ月から数年間にわたる発達面の幸福度に関するデータが欠落していることである。
 幼児期の重要性について論じることはもはや不要だろう。この時期に、遺伝的潜在能力と早期の経験とが限りなく複雑に影響し合い、後の発達の土台や足場になる神経経路が構築されることは、神経科学と社会科学の進歩に伴って幾度となく確認されてきた。したがって、子どもの幸福、 健康、発達に対する社会の関心と保護が最も必要なのは、この時期である。ところが実際のところ、子どもの生活に関して入手可能なデータのほとんどは、もう少し年長の子どもや10 代前半の子どもに関係するものばかりである。例えば、本報告書で参考にした2つの主要な国際的調査も、11 ~ 15 歳の子どもを対象とする「学齢児童の健康動態調査(HBSC)」と15 歳の生徒を対象に学力をテストする「生徒の学習到達度調査(PISA)」である。

 幼児の発達に関する全国的なデータがほとんどないのはなぜか。それは、幼児期の発達の重要性に一般の関心や政治的な注目が集まるようになったのが比較的最近であることの表れかもしれない。また、ひとつには、幼児の生活に関するデータ収集は実現性に乏しく、個人の生活に立ち入ることになりかねず、公共政策との関連性に乏しい、という従来の考え方の反映とみることもできる。しかし、やはり、幼児の発達を測定・モニタリングする上で、広く適用可能な手段がないことも問題なのである。そうした評価基準がなければ、政策は無計画になり、支出を正当化することは困難である。また、目標の設定や前進のモニタリングが不可能となる。

 こうした状況が今、変わり始めている可能性がある。というのも、世界で初めてカナダとオーストラリアが、すべての子どもの幼児期の発達について定期的なモニタリングを開始したからである。
基本的に、この2カ国で使われている方法では、教師が5歳児全員についてチェックリストに記入する(正式な学校教育が開始してから2、3カ月以内)。このチェックリストには、幼児の発達の5つの領域に関する約100 のチェック項目がある。5つの領域とは、身体的な健康と幸福、社会的能力、情緒面の成熟度、言語・認知能力、コミュニケーション能力である。「オーストラリアには今や、全国をカバーする、幼児期の発達に関するコミュニティーレベルの情報がある」とオーストラリア幼児発達指数(AEDI)第1版の序文に記されている。「GDP が経済状況の評価基準であるのと同じように、AEDI はオーストラリアが子どもたちの発達をどれほどよく支援しているかについての全国的な評価基準である。」

 幼児期の発達に関し、すべての子どもたちの情報が十分にあると全ての国が言えるようになるのはまだ先のことである。それでもオーストラリアとカナダは、自国の子どもたちのどれくらいの割合が、「順調」、「危険」、または「脆弱」な発達状態にあるのか、公表するための取り組みを開始している。特定の地域について、選挙区や行政区、州や県単位で、または国全体の集計や分析ができるデータがあることによって、親たちや地域社会、子どものための組織、学界、中央や地方政府が、全ての子どもに最良の人生の始まりを約束できるよう、より多くのことを知り、行動できるようになってきている。
 幼児期の発達を支援することは単純な課題であるとか、また、リソースが見つかりさえすればあらゆる解決策が手に入るといった主張はすべきでない。しかし、幼児期に対し適切な投資を行うことは、子どもたちが現在、また将来にわたって豊かな暮らしを送り、長期的な社会福祉を実現する上で、極めて大きくかつ持続的な効果を上げることも明白である。したがって将来は、ユニセフの子どもの幸福度に関する調査でも、生後数カ月から数年間の重要な時期の子どもの発達に関するデータの考察ができるようになることを期待したい。

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