防空識別圏と領土問題~力による変更は何も生み出さない
領土問題で意見に相違があったとしても、力によるルールの変更は、なにも生み出さない。中国は危険な行為を撤回すべきである。軍事的緊張を高めるとともに、結果として安部政権の「暴走」に手をかす愚行となっている。
日本は、竹島、「北方領土」は防空識別圏に入れず、領土紛争とは一線を画した対応となっている。が、領土問題と防空識別圏がリンクし、偏狭なナショナリズムが高まれば、さらに困難、緊張をもたらすことになる。
【防空識別圏 市田氏、中国に厳しく抗議 赤旗11/26】
そのうえで、あまり知らなかった防空識別圏についてのにわか勉強。
CNNは“「軍事情報誌IHSジェーンズ・ディフェンス・ウィークリーのジェームズ・ハーディー氏によると、ADIZ(防空識別圏)は一方的に設定されるため実際には法的根拠がなく、近隣諸国との交渉にも基づいていない。非友好的な航空機の接近を阻止するための早期警戒が目的とされる。”と紹介している。
【中国の防空識別圏設定は「米国への挑戦」野嶋剛 Foresight11/25】
【中国防空識別圏 自制と冷静さを求める 東京11/26】
【韓国、防空識別圏拡張に着手へ 日本絡みで政府批判も 東京11/26】
【米爆撃機、中国設定の識別圏飛行 尖閣周辺、事前通告なし 東京11/26】
【社説 米国が中国に示したB52爆撃機という返答 WSJ11/27】
・日本国の防空識別圏は1945年にGHQが「反共ライン」に沿って制定した空域をほぼそのまま使用しているといわれ、敗戦後、韓国が独立したのは48年、中国も国共内戦を経て49年に現在の中国が建国されている。そうした時期に、アメリカ軍が圧倒的な空軍力を背景に線引きしたものが基本となっている。
・日本の防空識別圏は、日中の中間線(日本の主張する)から中国側の排他的経済水域の区域に深く入っている(中国が同じ立場で識別圏を設定すれば、当然、重なり合う部分がでてくる。)
また韓国領土の離於島(中韓が管轄権を争う東シナ海の暗礁)が日本の識別件に入っている。これが今回のことで韓国民の知るところとなり、韓国で問題になっている。
一方、日本の防空識別圏には、竹島も、「北方4島」は入っていない。今回の中国の行動が、領土問題とかわり、各国の偏狭なナショナリズムに飛び火しないとよいか・・・
→ これまで異論はでず、暗黙の「了解」があったと見なされる根拠はある。一方、設定過程は問題なしと言えないし、そもそも国際ルールではないという面がある。
領土・領海が接近している地域、領有権で紛争のある地域での「防空識別圏」をどう調整するのか、ということ自体は必要だと思う。
日本は、中国との関係で道理をもって明確な主張をするためにも、韓国との問題を率先して解決する(かつて台湾に対しては、台湾の防衛識別権が与那国島上空に入っている問題で日本が変更を要求し、台湾はあらためている)。防空識別圏を設定するうえでのルールづくりを提唱する(国境が接している場合など、中間線でとどめることや、情報共有やホットライン設置で不測の事態をさける手立てなど…)。
・米国は、領土問題は「二国間で解決」を原則とし、尖閣諸島の領有権については中立の立場をとっている。が、施政権は日本にあり、安保の適応範囲と明言している。もともとアメリカが引いた「反共ライン」であり、、今回の中国の対応は、米戦略に対する挑戦であり、ただちに米軍機を飛行させた、とも思える。
【防空識別圏 市田氏、中国に厳しく抗議 赤旗11/26】日本共産党の市田忠義書記局長は25日の記者会見で、中国が日本の領土・領海を含む空域を「防空識別圏」として一方的に設定した問題について、「絶対に許されない行為だ。厳しく抗議する」と表明しました。
市田氏は、「日中間で対立と緊張が続いている一つの焦点に尖閣諸島問題があるが、『防空識別圏』は尖閣諸島の上空も含まれる。こういう軍事的緊張を高めるやり方は問題の解決に逆行する」と批判しました。
また、日本共産党が第6回中央委員会総会決定で、中国政府の監視船や航空機が尖閣周辺の領海、領空内で継続的な侵犯を行ってきた問題について、「どんな言い分があったとしても、ある国が実効支配をしている地域に対して、力によってその変更を迫るというのは、今日の世界で紛争解決の手段として決して許されるものではありません」と批判したことに言及。「そういう文脈から考えても、今度の行為は絶対に許されるものではない」と述べました。
【中国の防空識別圏設定は「米国への挑戦」野嶋剛 Foresight11/25】尖閣諸島上空を含む東シナ海の空域に中国が新たに設定した防空識別圏(ADIZ)によって、尖閣諸島上空まで中国の防空識別圏に入ってしまうことになり、日本では「尖閣諸島領有を狙う中国の新たな1歩」という分析が多く見られた。それは必ずしも間違いではないが、より俯瞰的に見れば、現在の防空識別圏が歴史的に米国主導の「反共ライン」に沿って決められていたことに対し、今回、中国が明確に異議を唱えたものであり、本質的には東アジアにおける米国の軍事覇権に対する中国の挑戦の一環と見るべきだろう。
現在の防空識別圏を決めたのは日本ではない。米国である。1945年に日本を占領した米国が設定し、その後、沖縄返還に先立って1960年代末までに日本に引き継がれた。その際、中国と交渉したことはなく、米国が圧倒的に優勢な空軍力のもと、いわば勝手に引いた線であるのが事実だ。
そのため、防空識別圏の中国との境界は日中の中間線を大きく超え、中国の排他的経済水域の空域に深く入り込んで、中国側の領海にもかなり近づいているところまで広がっており、中国が不公平感を持つのも分からないではなく、この従来の防空識別圏に中国が不満だったことは周知の事実であった
防空識別圏の問題で思い出すのは与那国島問題だ。日本と台湾との間の防空識別圏で、台湾の防空識別圏が与那国島の現実の島の上空まで及んでいた。2005年ごろから日本側はその変更を台湾に求め、最初は台湾側も抵抗したが、確かに日本の領土上に台湾の防空識別圏が入っていることは論理的にはおかしい話ではあるので、最後は台湾も与那国島の領土から少し台湾側に線を引き直すことを認めた。これも米国が防空識別圏を設定した戦後期にその線引きが大雑把だったために起きた問題だった。
中国の新しい防空識別圏に「食われた」のは、日本だけではなく、韓国、台湾も含まれており、これらはいずれも米軍の影響下で冷戦時代に「反共ライン」を形成した東アジアの同盟パートナーであることも偶然ではない。
現在、中国と友好的な関係を保っている台湾に対しても、今回は中国が事前に相談した形跡はない。中国は今回の行動を2国間の問題としてではなく、東アジアの軍事勢力がどう変わるべきかという大きな戦略のもとに決めていると見られる。日本がどのように抗議しようと中国は交渉に応じることはないだろう。この問題に何らかの解決を見いだす能力と資格を持っているのは日本などアジアの国々ではなく、米国しかいないのである。
防空識別圏は基本的に空の縄張りのようなもので、国際法上の権利として守られる領空や領海とは違うため、各国がどう行動するかなど、秩序は暗黙の了解によって維持されている。中国と日本など他国の防空識別圏がこれだけ広範囲にわたって重複していると、どうしても不測の事態に陥りやすくなるのは間違いない。その意味では、東アジアの空は軍事大国・中国の登場によって新しい勢力図に書き換えられるかどうかのターニングポイントに入ったと考えるべきだろう。
(野嶋剛)
【中国防空識別圏 自制と冷静さを求める 東京11/26】中国が尖閣諸島を含む東シナ海上空に防空識別圏を設定したことは、不測の事態を招きかねない危険な行為だ。緊張をこれ以上高めないよう、中国には自制を、日本政府には冷静さを求めたい。
防空識別圏は、不審機の領空侵犯を防ぐ目的で領空の外側に設定されるものだ。戦闘機による緊急発進、スクランブルに踏み切るかどうかの基準となる。
尖閣諸島は「固有の領土」とする日本が有効に支配している。日本がすでに設定した防空識別圏と重なるように、中国側が新たに設定すれば、軍事的緊張がさらに高まるのは必然だ。
中国共産党の習近平総書記は中長期的な今後の方針を示した「三中全会」の前、党幹部を集めた座談会で「わが国の発展のためには周辺国との良い環境が必要だ」と強調した。防空識別圏の設定強行は「周辺国との良い環境」を目指す考えと矛盾しはしまいか。
習氏がもし人民解放軍内の強硬派に配慮するような形で防空識別圏の設定に踏み出したのなら、危険な判断と言わざるを得ない。
中国の英字紙と日本のNPOが今年夏に公表した世論調査結果は衝撃的だった。日中間で「軍事衝突が起きると思うか」との質問に、「起きる」と回答した日本人は23・7%だったのに対し、中国人は52・7%に達した。
中国の対外強硬姿勢が、自国民の間に「戦争も辞さず」との意識を高めたのなら、大きな不安を感じざるを得ない。
安倍晋三首相はきのうの国会で「わが国の領土、領海、領空は断固として守り抜くとの確固たる決意のうえ、毅然(きぜん)として、そして冷静に対応していく」と答弁した。
首相が冷静な対応に努める限り支持したい。米国をはじめとする国際社会と連携し、外交的手段を通じて中国に自制を促し、この問題の解決に努めてほしい。
防空識別圏の設定が尖閣の領有権を主張する中国による現状変更の試みだとしても、日本側が冷静さを失って強硬姿勢で応じれば、軍事的な緊張を高める「安全保障のジレンマ」に陥りかねない。そのような愚は、日中双方が犯すべきではない。
今求められているのは、尖閣問題を、日本の領有を前提に外交上の「係争地」とするなど、対話のテーブルに着く知恵だ。
日中とも東アジアの経済大国であり、この地域の平和と安定に等しく責任を負っていることを、忘れてはならない。
【韓国、防空識別圏拡張に着手へ 日本絡みで政府批判も 東京11/26】【ソウル共同】韓国の金寛鎮国防相は26日、国会の答弁で、中国が設定した防空識別圏に中韓が管轄権を争う東シナ海の暗礁、離於島(中国名・蘇岩礁)が含まれていることに絡み、離於島を含んでいない韓国の防空識別圏を離於島まで拡張することを「関係部署と協議する」と述べた。
事実上、識別圏を拡張する方針を決めたとみられる。離於島は日本の防空識別圏の範囲内。韓国では、中国の設定が騒ぎになる中、離於島が日本の防空識別圏に含まれてきたことが世間に初めて認識され、韓国政府が容認してきたとの批判が急速に高まっている。
(また、2013年11月27日、環球網によると、「韓国・聯合ニュースは日本が1969年に設定した防空識別圏は韓国の馬羅島の領空を侵犯している」と報じた)
【米爆撃機、中国設定の識別圏飛行 尖閣周辺、事前通告なし 東京11/26】【ワシントン共同】米軍の軍用機2機が米東部時間25日夜(日本時間26日)、中国が東シナ海上空に設定した防空識別圏内を、中国が求める飛行計画の提出など事前通告なしで飛行した。米国防総省が26日、明らかにした。飛行空域は沖縄県・尖閣諸島周辺で、米メディアによると、2機は核搭載能力を持つB52戦略爆撃機。
中国が23日に識別圏を設定後、米軍機の飛行が確認されたのは初。米国は従来も中国の主張を認めず、識別圏内での訓練や作戦行動を変えない姿勢を示していたが、米軍機飛行を公表することで、立場を鮮明にした。【社説 米国が中国に示したB52爆撃機という返答 WSJ11/27】
オバマ政権は、米国の決意をはっきり示すことで知られてはいないが、米国は26日に中国が設けた東シナ海上空の防空識別圏(ADIZ)にB52爆撃機2機を送り込むことで、アジアの同盟国と国際安全保障という大義のために貢献した。
グアムの米軍基地を離陸した2機は中国政府に事前通告せずに、意図的に防空識別圏に進入した。中国は23日、沖縄県・尖閣諸島を含む東シナ海上空に防空識別圏を設定したと発表した。この発表は世界にメッセージを送る一方で日本を威嚇する目的だったことは明白だ。軍事衝突の危険をはらみつつ、中国が東シナ海や南シナ海で繰り広げている、ますます挑発的な軍事行動のパターンと一致している。日米をはじめとする他の諸国も、航空機がそれぞれの領空に進入する際に自らを明らかにすることを義務付ける防空識別圏を設けているが、これとは重要な違いがある。航空機が中国の防空識別圏に意図的に侵入するのか、あるいは単に通過しているのかにかかわらず、中国はこうした航空機に武力で対応する意図を示し、防空識別圏内では中国側の指示に従うことを要求している。
これは世界的航法の通常のルールに干渉するとともに、西太平洋の広大な地域に対する中国の事実上の支配を主張する試みだ。ジョン・ケリー米国務長官とチャック・ヘーゲル米国防長官は中国のこの動きについて、直ちに尖閣諸島をめぐる現状を力ずくで変えようとするものだとして非難した。ケリー長官はさらに、航法の自由を脅かすものだとの見方を示した。これに対し、中国は米国に口出しをしないよう伝えたことから、米国は中国の宣言を容認しないことを明確に示すために、B52を防空識別圏に飛ばすことが必要だった。
中国政府の瀬戸際政策は、国際水域での米海軍艦艇への頻繁な嫌がらせや、2001年に衝突事故を起こした米海軍のEP3偵察機に対する中国の戦闘機による妨害などを思い起こさせるものだ。中国政府は排他的経済水域を外国の軍艦や軍用機が侵入できない領域にしようと試みている。これは国際法に対する深刻な違反で、米国の安全保障やオバマ大統領のアジアへの「軸足」が信ぴょう性を持つためには、抵抗する必要がある。
中国は現在、こうした状況をエスカレートさせる可能性もあるが、米国が同盟国や世界の規範を守る意志を示す場合には、中国がそうする公算は低い。中国政府は1996年にミサイル演習を実施して台湾に対して同じような威嚇を行った。当時のクリントン政権が当初気をもんでいた。しかし、クリントン元大統領が同地域に空母戦闘群を派遣した後、危機的状況が緩和した。
中国政府は、敵に投降か衝突かのいずれかの選択を迫る立場に追い込むような、脅しと虚勢戦略の達人だ。しかし、今回、中国は行き過ぎた感もある。今回の防空識別圏設定は、米国と日本が反応せざるを得なかったためだ。米国は条約で、日本が攻撃される場合には防衛の義務があり、その必要性を回避する最善の方法は中国政府に対し、米国がこの条約を真剣に受け止めていることを明確に示すことだ。
尖閣諸島の支配権を力ずくで獲得しようとすることによって、中国政府は露骨な侵略行為に近づいている。そのような脅しは成功しないことを示す必要がある
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