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大人のひきこもり対策~県政の課題へ 

 地方議員会議でも、たびたび大人の引きこもりの話題が出る。「あちこちにいる」と。都会に出て、精神的に傷ついたり、身体を壊して戻ってきている例も少なくない。
社会の中で生き生きと生活できる状況をつくれるのか、社会的包摂が実現できるかどうかは、人権保障の点でも、今後の地域や行政のあり方にとっても重要なテーマである。
 少子高齢化を全国より10年先行く高知県としても本格的に取組にしたい。地域企画支援員、あったかふれあいセンターなどの仕組もある。以下は、今後の検討のための資料。 
 「中間的就労」で場を提供している藤里町のとのくみ。発達障害はひきこもりの要因の1つであり、早期から系統的にとりくむ滋賀県・湖南市のとりくみなどが参考になる。以前も「静岡方式で行こう」など取り上げたが、若者に限らず、ライフサイクル全体の中で、考えていくことの必要性を感じる。 社会全体がゆがみの是正とともに・・・

【普通の大人”が引きこもる日本の救世主? 秋田県藤里町のすごい支援策とは 池上正樹2012/1】
【引きこもりが“町おこし”を担う!? 高齢過疎の町が実践する先進的取り組み  池上正樹2012/5】
【ひきこもりを地域の力に ~秋田・藤里町の挑戦~ NHK2013/10/28】

【滋賀県湖南市「発達支援システムに基づく特別支援教育の推進」 中教審分科会2011/8】【滋賀県湖南市 「発達支援システムに基づく特別支援教育の推進」2011/8】
【乳幼児期から就労までの一貫した支援 ―湖南市発達支援システム― 「障害者の福祉」2009年12月号】
【滋賀県 障害者医療福祉相談モール】
 以前のブログ記事
【ひきこもり 「中高年」「5年以上」ともに半数 山形県調査 2013/10】【若者就労支援 「静岡方式」を読む 2011/11】

【普通の大人”が引きこもる日本の救世主? 秋田県藤里町のすごい支援策とは】

 2012年1月12日  池上正樹 [ジャーナリスト]

 山あいにある秋田県藤里町は、世界遺産の認定を受けた手つかずの大自然「白神山地」のふもとに位置し、その観光ルートの入り口にあたる緑豊かな町だ。
 豪雪地帯としても知られ、冬になると、青森県側へと通り抜けが可能な道も閉ざされる。
 過疎化が進み、基幹産業だった農林業は衰退。国道がなく、JRも私鉄も通っていない袋小路の町である。
 その一方で、隣接する能代市への通勤圏内として、町には町営住宅なども建設され、元々あった集落と新たな住民とが共住する。しかし、町内に常駐する医師がいない「過疎地域」特有の医療問題を抱え、年々、人口減少が続いている。
 そんな町の社会福祉協議会が実施した調査によって、18歳から55歳までの町民1293人の8.74%にあたる113人が、長年、仕事に就けない状態で自宅などに引きこもっていることが明らかになったのは、前回の連載でも伝えた通りだ。
 しかも、そのうち40歳以上は、52人と半数近い。年齢別の内訳をみると、40歳以上49歳以下が40人。50歳以上55歳以下が12人に上るなど、地域から「消えた高年齢者たち」の存在も浮かび上がる。
 もちろん、これは藤里町だけの話ではない。日本の地域全体にみられる普遍的な問題だ。

◇全国各地で放置されてきた40歳以上の「引きこもり」

 今回の調査は、同町社会福祉協議会が、就労支援や機能訓練、地域の人たちとの交流の場で福祉の拠点となる施設『こみっと』の事業化のため、地域で孤立する人たちのニーズを把握しようと、2010年2月から2011年8月にかけて訪問調査した。いわゆる「藤里方式」(藤里町社協方式)である。
 その際の定義は「不就労期間がおおむね2年以上」「家族以外の人との交流や外出の機会がほとんどない」というものだ。

 国が「引きこもり」の定義の基準にしている「6ヵ月以上」と比べてみても、同町の定義そのものは、決して広くはない。
 つまり、「引きこもり」を定義するとするならば、実際には、内閣府が定義した「39歳以下」に当てはまらない、支援の対象からこぼれ落ちた人たちが、こうした全国の地域に数多く「放置されている」状況が浮き彫りになったのだ。
 これまで国の行ってきた「就労支援事業」が、ことごとく“すれ違い”状態に終わっているのも、国民の税金をつかって実態調査をしながら、地域で就労できずに引きこもる人たちの「現状の一角」しか把握できずにいる、国の怠慢からきている。

◇『秋田さきがけ』記者が見た藤里町「こみっと」の挑戦

 さて、地元紙の『秋田さきがけ』は、昨年12月20日から7回にわたって、同町社会福祉協議会の取り組みを「扉の向こうへ」というタイトルで連載した。
 その第1回で、同紙はこう報じる。
≪「相談援助までは福祉にでもできる。でも引きこもりの人に“一度外に出てみようよ”と水を向けても“どこへ?”と返されると、その先に答えがなかったんです」。
 町の社福協の菊池まゆみ事務局長が振り返る。こみっとは「どこへ?」に対して、菊池さんたちがたどり着いた一つの「答え」である≫

 この連載記事を書いた『秋田魁新報』能代支局の吉田新一記者は、こう指摘する。
「町の人たちはどん詰まりになっていて、外部の人との接触に慣れていません。こうしてきめ細かく調査してニーズを掘り起こす手法は、今までの常識を覆すものだと思います。事務局長の菊池さんというリーダーシップのとれる人がいたことが幸運でした。社協の取り組みとしては、前例がないのではないでしょうか」
 元々「こみっと」は、県の発電施設を町が購入し、社協に無償で貸与したもので、2010年4月にオープン。日本財団の助成金によって、各種の共同事務所、サークル室(日中活動支援室)、お食事処(就労支援)、調理室(就労支援)、会議室(機能訓練室)、相談室、サークル室などを整備した。

 開館日は、平日の午前8時30分から17時までで、会議室やサークル室の利用は無料。事務局は、社協ではなく、共同事務所にあり、老人クラブや親の会、ボランティア団体協議会、身体障害者協議会などの13~15団体が運営協議会をつくっているという。
「彼らを彼らだけにしないために、いろんな人が出入りするような所にしています。あそこに引きこもらせても、しょうがないですから」
 そう菊池事務局長は説明する。

 同じ敷地には、宿泊室を備えた自立訓練(生活訓練)事業所『くまげら館』も併設。障害者手帳を持たない多くの利用者たちが、長年の空白を埋めるための作業ができる場をつくった。

◇親の高齢化と支援の減少 “制度の谷間”に抜け落ちた人々の今

 同紙の連載の第4回には、「こみっと」に通い続ける、こんな40歳代男性のエピソードが紹介されている。
 男性は大学を卒業後、都内の情報処理関連の会社に就職したが、家族の介護のために会社を辞め、帰郷する。6年間、介護に明け暮れたあげく、家族が亡くなると、再び就職活動を始めた。ところが――。

≪最初は前職のキャリアを生かせればと願ったが、程なくそれが途方もない夢物語だということを思い知らされた。仕事の口がそもそも少なかったことに加え、自分のスキルが「5年もすれば時代遅れ」だったことを痛感した≫
 男性は記者に実感を込めて、こう言う。

 「ドロップアウトは許されない。どんな理由があってもです」
 そして、連載記事はこう問いかける。

≪「まずは自立。いつまでも親の世話になっているわけにはいかないから」。定職を失って15年。生きづらさを感じながらも、明日を信じて懸命に前を向く。この男性を責める資格が、誰にあるというのだろう≫

 東京都も09年3月、『ひきこもる若者たちと家族の悩み』の中で、こう報告している。
「特に、35歳以上のお子さんを抱えている場合、青年としての支援がしだいに減っていき、保護者も高齢化して収入や体力等の低下に陥り、今後の展望がなかなか描けないのが現状である」
 そこで、年齢等の進行に応じて、
「“奇妙な安定”によるひきこもり本人を軸とした家庭生活の固定化と、それに伴う将来への不安や焦りによる家庭内でのひきこもりのさらなる悪化を回避するような導入段階でのひきこもり事例の情報提供や学習活動の推進、家庭訪問・フリースペースへの勧誘による介入支援」
 などが具体的に考えられる必要があると提言している。

「こみっとは、“この指止まれ”ではない。個性、熱さ、やる気、本気度がないと、できない事業だったと思います」
 と、前出の吉田記者は語る。
「引きこもりは、制度の谷間に抜け落ちた人たち。社協は、他の日常の仕事で手いっぱいですし、そもそも自分たちの仕事ではない。私も記事化するにあたって、本人たちに確認を求めたら、名前も顔も出してOKの人がいる。これは、どういうことだろうと考えました。それだけ当事者も家族も、現状を知ってもらいたかったのではないでしょうか」

◇“普通の人”が引きこもる現代社会 彼らを救うカギは「藤里方式」に

 昨年10月に能代支局に赴任した吉田記者は、引きこもりについて、それまであまり知らなかったという。だからなのか、こんな驚きを連載で吐露している。
≪作業を何日か見学させてもらった。驚いたのは、本当に引きこもり歴があるのか、人によっては全く見分けがつかないということ。「だからこそ」と菊池さんも言う。「本当は支援が必要なのに見過ごされてきたんです≫
 予備調査を行ったうえで、「こみっと」を作るというイメージ図を描いて、実態調査を行った「藤里方式」。そのノウハウについて、菊池事務局長は、こう明かす。

「まず、こみっと開設に合わせ、“事業を始めますよ”と、各地区、各団体を全部回って、説明会を開きました。その開催のお知らせを地元紙の記事に載せてもらって、“これからみなさんのお宅に伺いますよ”って予告したんです。そうしたら、説明会のたびに、引っ張られるんです。“実は、うちも~”“実は、親戚の~が”って感じでね」
 これまで仕事に就けずに孤立する人たちや、その家族に話を聞いてきたが、何を言っているかというと、「行政が縦割り」「たらい回しにされる」「自分に合った支援がない」ということだ。

 行きつくところは、生活保護や障害者手当を受給するしかない。選択肢が限られているのである。
 支援策の谷間に自分たちはいる。しかし、そんな彼らは、特殊な人たちではなくて、ごく普通の身近な人たちだ。
 昨今の調査でも、半数以上は社会人経験者。私が会ってきた人たちも、疾患や障害を持っているわけではない。確かに、精神科へ行けば、何らかの診断名に当てはめられるのかもしれないが、会社に入れず、仕事に就けないまま、だんだん社会から離脱せざるを得なかった、誰にでも起こり得るような状況に置かれた人たちだ。こうしたことが、時代の流れの中で、社会の構図としてある。

 抱えている問題はそれぞれ違うが、社会とのつながりをなくして引きこもる行為は、皆同じだ。決して「6ヵ月以上」とか、「39歳以下」とかの「定義」でくくれるような話ではない。
 彼らはどうしたらいいのか。将来の道筋が示されていない。支援団体も頭打ちになっている。国の法律や行政の支援策が限界になっているからだろう。そんな中で、当事者や家族は行き場をなくしているのが現状だ。
 この「藤里方式」は、国や全国の自治体にとっても、大いに参考になるに違いない


【引きこもりが“町おこし”を担う!? 高齢過疎の町が実践する先進的取り組み  池上正樹2012/5】

 調査のための調査で終わらせない。その調査結果は、目に見える形で事業に生かす努力をする。
 世界遺産の認定も受けた「白神山地」のふもとにある、人口約3900人の秋田県藤里町。そんな山あいにある小さな町の社会福祉協議会が「引きこもり者のパワーを引き出すことで、町はまだまだ変わる」として、町おこしに生かすために行ってきた「引きこもり」実態調査と福祉拠点での取り組みが今、話題になっている。
 何しろ、18歳から55歳までの町民1293人の8.74%にあたる113人が、長年、仕事に就けない状態で引きこもっているという数字は衝撃的であり、他の地域でも同じような人たちの存在が埋もれているだろうと推測させるものとなった。
 また、こうした引きこもり者の支援のため、同町社協は2010年4月、地域との交流の場で福祉の拠点となる「こみっと」を開設。翌年4月には、宿泊施設「くまげら館」を併設し、引きこもり支援を本格化させた。
 こうした「藤里方式」(藤里町社協方式)の経過報告を1冊にまとめた『ひきこもり 町おこしに発つ』(秋田魁新報社)が、このほど出版された。すでに同社には、問い合わせが数多く寄せられているという。

◇ 高齢化する過疎の町に埋もれ、そのまま亡くなった当事者と家族

 同書のプロローグには、こんな象徴的なエピソードが紹介されている。
 同社協の新入相談員として働き始めた20年前、町の名士であるHさん宅を訪ねた。
 高齢のHさんは、息子のNさんと2人暮らしだが、ここ10年ほどはNの姿を見かけたことはなかった。
 都会で暮らしていたNさんは、交通事故を起こし、Hさんが家に連れ帰り、人目に悪いからと外出も禁じられていたらしい。
 突然、部屋に通された訪問者に、Nさんはおびえて震え、身を縮めた。
「私を覚えている?」
 中学時代のNさんを知っていた相談員が、おびえないように話かけたつもりだった。しかし、Nさんは
「ごめんなさい。ぼくはわからないんです。ごめんなさい」
 と、頭を畳に打ち付けるように謝り続けた。
Hさんは、息子を病院の精神科に連れて行ったこと。薬物治療を続けても効果は期待できないが、希望すれば入院を受け入れると言われたこと。通院治療のできる病院を探したものの、結局、治療をあきらめたことなどをぽつぽつと語った。
「とっとと入院させれば良かったのか? そうだな。こんなになる前に、施設か病院に入れるべきだったな」
 相談員は、ただ「部屋に閉じこもりきりの生活は良くないと思う」というような話をすると、Hさんは苦笑した。
「どこへ出かける? やつが行けるところはあるのか? 買い物に連れて出ても、不審者だと見られるだけだ」
 まもなくHさんは亡くなり、Nさんは精神病院に入院。その数ヵ月後に、病死した。
 相談員は、ただただ無力だった。
 このプロローグを綴った相談員が、同社協事務局長の菊池まゆみさんだ。
 ここには、高齢化の進む過疎の町で埋もれていく「引きこもり」当事者や長期不就労者への支援事業に、5年にわたって取り組むことになった同社協の活動の原点がある。

◇ 福祉の縦割り行政を乗り越え引きこもり実態把握調査へ

 なぜ、町内の「引きこもり」者や長期不就労者の把握調査を行ったのか。
 高齢者対象の在宅福祉事業を行う側からすると、精神疾患に関わる問題は、医療分野の対象という思い込みが強く、敷居が高い。しかし、
 <人口4000人足らずの町で、国の都合で決められた高齢者福祉・障害者福祉の分け方を忠実に守ろうとすれば、不便この上ない>。
 一体的に運営することによって、ヒトもカネもモノも効率化が図れるし、町民にとって使い勝手が良いという。
 とはいえ、小さな町だから、できるわけではない。
 <藤里町社会福祉協議会がソーシャルワーク実践の力量を高める努力を積み重ね、行動してきたからこそのものです>
 1人暮らしの老いた母親の家に息子が帰ってきても、仕事が見つからない。
 親戚にも近隣にも見捨てられたような老人の家に娘が帰ってくる。そのうち、娘は親の介護に追われ、気がつくと、就職からも結婚からも遠い年齢になっている。
 <引きこもり者とは、気の毒な、問題を抱えた、福祉の支援を待っている人たちではなかった。多少の問題を抱えてはいるが、社会復帰に一歩を踏み出すために、何らかの社会支援を必要としている人たちだった>
「こみっと」と「くまげら館」の事業は、「もしも格安で土地・建物が入手できたら…」という夢物語の案だった。ところが、プレゼンに臨むと、
「町長が苦虫をかみつぶしたような顔で、こみっと構想を了承してしまった」
 という。そして、町長はこう、のたまう。
「どうせ、俺が反対したって、やる気で来たんだろうが?」
 懸案だった改修工事費と設備備品費も、日本財団の助成金制度で賄うことができた。
 こうして同町社協は、福祉制度の縦割り構造を乗り越え、実態調査に着手していく。

◇ 厚労省ガイドラインに捉われない 藤里町社協の「引きこもりの定義」

 とりわけ面白いのは、同町社協が事業の企画書を携えて、行政や住民らに説明して回るほど大きくなる「引きこもり者って、一体、どんな人?」という疑問だ。
 <厚生労働省の作成したガイドラインは、その疑問に答えてくれない。だから、藤里町社協の引きこもりの定義は、広くて大雑把。そして主観的。本人や家族が違うと言えばそれまでだし、本人や家族がそうだと言えば、そうなのだ>
 困っているほど、嘘やごまかしが上手になるという。
 どこの地域でも普遍的に、家族は当事者の存在を近隣に隠したがるからだ。
 実際、住民説明会を終えると、母親に腕をつかまれる。
「誰かウチのことを言っている? ウチの息子はそりゃ、しばらく仕事はしてないけど、でもね、先週も焼肉食べに行きたいって自分から言って、だからみんなで…」
 そこで、その母親をこう説得する。
「でもね、お母さん。社協は訪問したいのです。ご本人の声を、ぜひ聞かせてください」
 やがて、母親たちは諦めたような顔で、こうつぶやく。
「せっかく来てくれても、多分、ダメだと思う。誰が言っても無理だと思う。それに…」
 それでも、つぶやきは無視して、社協の姿勢を説明する。
 同書は、こう紹介する。
 <伝言も取り次ぎも無用。ただ、第三者である社協から「あなたのことを気にしています」というメッセージを発信させ続けてほしい。
 そんな説得の繰り返し。だが、わが子が、世間の定義では「引きこもり」に該当すると認めた途端、涙があふれて、言葉が止まらなくなる>

◇ 普通の若者が引きこもる今、「引きこもり」を死語にするには?

 そして、大事なのは、これまで筆者も発信してきたように、ほんのちょっとしたつまづきで、誰もが「引きこもり」になってしまう、いまの日本の社会の現実だ。
 <悲惨さや暗さを伴い、普通ではない、というのが世間での引きこもりの定義。その定義そのものが、本人や家族に、そこまでの我慢を強いている>
 
<藤里町社協が出会った引きこもり者のほとんどは、普通の若者です>
 同書には、菊池事務局長による「独断と偏見に満ちた」という紹介文によって、「こみっと」登録生たちも登場する。詳細は、ぜひ同書を購入して読んでほしいが、こんなところからも、この事業を実現させた事務局長の人柄や行動力、突破力などが伝わってくる。
 同町社協の「引きこもり調査の手法」は、あくまでも社協の事業把握のためのニーズ把握調査だとして、こう強調する。

 <藤里町社協はこれまでも、ネットワーク活動とニーズ把握と事業実施を、こだわりを持って一元的に行ってきた。そのこだわりの積み重ねがあるから、専門性も技量もなくても、詳細な実態把握ができたと思っている>
 とはいえ、ポイントについて、こうも説明している。

 <ここで偉そうにソーシャルワーカーとしての技量とか経験とか言っているが、難しいことを言っているつもりはない。利用者を相手に、きちんと訪問の目的や趣旨を伝えられるかどうか、その1点に尽きる。ただ、自分の偏りを自覚できていない場合は、そんな簡単なことさえ困難になる>
 ふと、何人かの支援者の顔が頭をよぎる。
 多くの人は、何の気なしに引きこもり状態になる。しかし、同書は、こう最後に綴る。

 <「こみっと」の実践を試行錯誤で行うほどに、希望が湧いてくる。彼らと一緒に、藤里町の特産品の舞茸をふんだんに使った「白神まいたけキッシュ」を売って、町おこしができるかもしれない>
 そして、こう夢は膨らむ。

<この「こみっと」の実践は、20年後、いや、5年後には当たり前になっているかもしれない。
 各市町村、どこでも「こみっと」はある。「引きこもり」という言葉は死語になる。(略)力を蓄え、技術を磨いて、再び社会に出ていく時まで、通う居場所がある>
 この先進的な取り組みが、全国の市町村にも普及していけば、「引きこもり」という言葉が死語になる日は、必ず来るに違いない。


【ひきこもりを地域の力に ~秋田・藤里町の挑戦~ NHK2013/10/28】

内閣府の調査から全国に70万人(出現率1.79%)と推計されるひきこもり。しかし最近、自治体の調査で、これまでの予測を大きく上回る実態が明らかになってきた。なかでも全国に先駆け全戸調査を行った秋田県藤里町では、働く世代のおよそ10人に1人(出現率8.74%)がひきこもり状態という衝撃的な事実が判明。多くは都会で職を失い、地元に帰っても仕事に就けず、周囲の目を気にする中で社会から孤立した人々だった。  
藤里町では、地域と繋がりを回復させようと、様々な試み・挫折を繰り返した結果、簡単なボランティアやアルバイトのできる「中間的就労」の場を作ったり、後継者不足の商店街復活に埋もれていた若い力を活用したりで、すでに30人が職を得るまでになっている。番組では藤里町の取り組みを通し、ひきこもりの実態と新たな支援の可能性について考える。

【滋賀県 障害者医療福祉相談モール】

・設置趣旨
滋賀県障害者医療福祉相談モールは、「滋賀県知的障害者更生相談所」、「滋賀県ひきこもり支援センター」、「滋賀県発達障害者支援センター」、「滋賀県高次脳機能障害支援センター」、「滋賀県地域生活定着支援センター」を滋賀県r立精神保健福祉センターに集約し、各機関が連携して相談支援・地域支援を行うことで、複雑・複合化した相談に、障害が特定されていない段階から、高い専門性で一貫した対応を行うことを目的に設置したものです。
障害者医療福祉相談モールのパンフレットはこちら詳細(PDF:401KB)

・滋賀県障害者医療福祉相談モールの業務
滋賀県障害者医療福祉相談モール内に設置される各機関は連携して下記の業務を実施します。

(1)相談支援
ワンストップ相談窓口
市町や地域の相談支援機関、障害福祉サービス事業所等で対応にお困りの相談や、相談先が分からない障害者やそのご家族からの相談を受け付けます。

・個別支援業務
支援にあたり高い専門性が必要な方に対して、モール内の各機関により必要に応じて支援チーム(医師、臨床心理技術者、精神保健福祉士、社会福祉士、保健師等)を編成し、市町や地域の相談支援機関と連携して支援を行います。

(2)普及啓発
県民や関係機関に対し、様々な障害についての理解が深まるよう普及啓発を行います。

(3)人材育成
モール内の各機関がそれぞれの専門性を活かし、協働して市町や地域の相談支援機関、障害福祉サービス事業所等の職員に対する研修等を行い、地域で相談支援に従事する方の技術的水準の向上を図ります。
2013年滋賀県高次脳機能障害リハビリテーション講習会「それぞれの自立をめざして~心と身体のリハビリテーション~」が10月26日(土曜日)に北ビワコホテルグラツィエで開催されます。詳細(PDF:345KB)

・滋賀県障害者医療福祉相談モールにおける相談の流れ
(1)相談したい障害が明らかな場合
各課相談窓口に直接ご相談ください。(略)

(2)相談先がわからない場合、または、障害が重複しており専門的な支援が必要な場合
滋賀県障害者医療福祉相談モールのワンストップ相談受付窓口にご相談ください。
モール内の支援機関が連携した支援を行います。
電話番号 077-569-5955


【滋賀県湖南市「発達支援システムに基づく特別支援教育の推進」 中教審分科会2011/8】

平成23年度中央教育審議会初等中等教育分科会
特別支援教育の在り方に関する特別委員会(第11回)
於:文部科学省 平成23年8月19日

滋賀県湖南市健康福祉部 社会福祉課発達支援室

1.はじめに
 湖南市は人口55,000人東海道五十三次の宿場町もある一方で、大阪の中心部までおよそ1時間半で通えるベッドタウンとして発展してきた。毎年の出生数はおよそ550人。平成14年4月から湖南市発達支援システムを機能させる中で、早期発見・早期発達支援に取り組んできており、2歳児の時点で出生数のおよそ10%の子どもの新規相談を受けている。
 湖南市では、公立・私立を問わず、市内すべての校園が発達支援システムに組み込まれており、教育・福祉・保健・就労・医療といった、各関係機関の横の連携による支援と、個別の指導計画による縦の連携とを機能的に関連させながら、特別支援教育を進めている。
 報告の中で、就学前の相談から就学までを、どのようにつないできたのかについても話をする。
 こうした機会を与えていただいたことで、今後の取り組みを考える契機にできればと考えている。

2.湖南市発達支援システム
 発達支援システムの横の連携について、「教育」を例にとって説明する。湖南市の場合、保育園を管轄するのは、子育て支援課で、幼稚園・小学校・中学校を管轄するのは学校教育課。また、義務教育を終了した人や、特別支援学校に在籍する児童生徒については、市の教育委員会が、直接かかわりを持つ必要はないが、成長していく一人の児童生徒の支援を考えると、支援の継続という点で関係機関の連携は欠かすことができない。
 それを、地域として支えていこうとするのが、発達支援室である。

 次に、縦の連携の要であり、校園における支援のよりどころとなる、個別の指導計画について。湖南市において、個別の指導計画は、早期発見・早期対応の重要性を確かめ合い、保育園・幼稚園・小学校・中学校が、校園間で引き継ぎ、幼児児童生徒への適切な支援を、継続して行うために、なくてはならないものになっている。また、一昨年度からは、中学校から次の進路先への引き継ぎが充実したものになるよう、個別支援移行計画の作成に取り組んでいる。(個別支援移行計画については、ハンドブック48・49ページ)
 発達支援室は、こうした縦のつながりにおいても、個々の情報や支援のあり方を統括するようになっている。

3.湖南市発達支援システムの活用について
 次は、どのような場面で、どのように発達支援システムを活用しているかについて。
 発達支援システムの活用によって考えられることは、乳幼児健診とその後のフォローを確実に実施するということである。また、療育教室やことばの教室幼児部において早期発達支援を行うこと。
 保育園・幼稚園・小中学校での個別で子どもの見立てをするとともに、集団の中での支援の方向を明らかにし、取り組んでいる。
 また、校園間での引き継ぎに留まらず、学年間での引き継ぎにも丁寧に取り組んでいる。これらの取り組みを高等学校等、その後の進路先にもつないでいくことに努力しいている。
 高等学校等の進路先との連携や、個別の相談は発達支援室が担っている。これらの支援の継続が、その後の就労支援にまでつながるようになってきた。

 このように発達支援システムを有効に活用していくためには、乳幼児健診や保護者、保育園、幼稚園、小学校、中学校での気づきと相談機関へどうつなぐかがポイントになる。

 保育園・幼稚園や小・中学校が活用できる相談の窓口は、すべて特別支援教育コーディネーターが担っている。園では副園長先生にコーディネーターになっていただき、小中学校には複数のコーディネーターを置いている。(保育園・幼稚園が活用できる発達相談・巡回相談についてはハンドブック10ページを、小中学校が活用できる巡回相談についてはハンドブック13ページを参照)どの相談についても言えることだが、校園ごとに回数や時期をあらかじめ振り分けていては、ニーズにあった相談、実効性のある相談にはなりにくい。

本市では、要請に応じてタイムリーに実施する方法を採るようにし、支援や指導のあり方の相談、心理検査の実施、事例検討、職員や保護者の研修会など、校園の実情に合わせて実施している。

 市内にある滋賀県立三雲養護学校は、検査や相談以外にも、見学や体験、専門的な情報の提供など、さまざまな教育相談にご協力くださっており、システムの厚みを増すなくてはならない存在として、特別支援学校のセンター的機能を担っていただいている。

 相談が終わると、調整会議での決定を経て、各機関につなぐが、その対応は一様に決まっているわけではない。各機関でそれぞれの特質を生かした対応を心がけ、運用の具体はケースによって異なる。
 これらの経路はすべて保護者の了解が必要である。保護者の了解のもと、必要な情報を関係機関でやり取りしている。

4.発達支援システムを活用した小中学校における特別支援教育の進め方について
(1)巡回相談の活用。授業参観で得た情報やアドバイスをもとに授業を組み立てたり、個別のケースについても見立てを改めるなど、集団の中での支援を意識して取り組んでいる。
(2)教育委員会が編集・発行する「特別支援教育ハンドブック」をもとに、コーディネーターの役割を確認したり学習環境についてのチェックリストを作成するなど、特別支援教育の推進について共通理解を図っている。
(3)不登校や学校への行き渋りについても巡回相談を活用し、早期対応を進めている。こうした子どもたちの困り感を明確にすることは、特別支援教育の趣旨にかなうことであり、本人のペースにあわせた教室復帰に取り組んでいる。この取り組みが特別支援教育を普遍的なものにし、不登校児童生徒の減少につながる成果をあげている。
(4)「読み書きチェック湖南市版」の活用。湖南市ことばの教室で作成し、これを小学1・2年生全員に実施、ことばの教室で結果考察をした上で、読み書きの困難な児童に早期に対応するきっかけにしている。
(5)湖南市内にある保育園・幼稚園・小中学校が、湖南市発達支援ITネットワーク(KIDS)というイントラネットでつながっていること。これにより、個別ケースの情報集積と情報交換を可能にしている。
(6)学齢期終了後を見据えた就学指導。

5.湖南市発達支援システムを推進するための関係課の連携
 特別支援教育を推進していくためには、あれもこれもをやればいいというわけではない。これは何のための会議なのかといった、開催する会議の目標を明確にする必要がある。
 例えば、特別支援教育コーディネーター連絡会議では、推進状況の確認や研修を進め、校園間の連絡体制の充実を図ることをねらいとしている。開催にあたっては、保育園・幼稚園の連絡会議、保育園・幼稚園・小中学校の連絡会議、小学校・中学校の連絡会議といったように、ねらいによって会議に集まる校園種を設定している。
 専門家チーム会議は、各校園の特別支援教育コーディネーター等から示された事例について、障害の判断、医療対応、教育・支援内容等についての検討を行う。
 不登校ネット会議は、学校への行き渋りや不登校についての取り組みを検討する会議である。この会議と巡回相談員連絡会議がリンクしている。子どもが行き渋りを見せた時点から巡回相談につないでいくという方針を持ち、巡回相談員でもある通級指導教室担当者と、適応指導教室の担当者、発達支援室、学校教育課が情報を共有することによって、時間を置かない対応や、個々のケースに見合う方向での支援を考えやすくしている。

6.就学指導委員会の取り組み
 また、支援の方向を考えるには就学指導委員会での検討も重要である。どのような支援を経て今があるのか、またこれから先、どのような支援が必要であるのかといった視点を持って、園では4歳児の後半から就学を見据えた取り組みを進めている。4歳児の後半と位置づけるのは、就学についての意見を5歳児担任のみで判断しているという保護者の印象を払拭するには、4歳児から園内委員会で検討し、5歳児段階の始まりから就学について考える時間を十分とる必要がある。
 特に、就学の際に、対人関係の困難さや、見通しの持ちにくさから派生する不安の高さに寄り添うには、少人数での指導から始め、交流学級での学習の割合を高め、行く行くは在籍変更をすることが有効である。こうした早期かつ手厚い対応、例えば、○1 発達相談体制の整備、○2 保育園・幼稚園での保護者との丁寧な相談、○3 ことばの教室や療育教室と保育園・幼稚園との情報交換、○4 ことばの教室や療育教室での保護者との丁寧な相談、○5 保育園・幼稚園と小学校の情報交換、○6 小学校での参観や相談、○7 発達支援室での就学何でも相談、○8 三雲養護学校での教育相談、といったことによって、保護者の納得を得られる就学指導が実現している。
 以前は夏休みに就学相談会を開催していたが、就学について考える保護者の負担は大きなものがあり、疑問や不安を感じられたときにタイムリーに相談できる体制こそが保護者の納得につながりやすい。

7.甲賀地域障害児・者サービス調整会議(自立支援協議会)
 湖南市の発達支援システムは、隣の市である甲賀市と、厚生労働省が言うところの自立支援協議会に位置づけられる、甲賀地域障害児・者サービス調整会議においても連動している。特に、教育の部分では、特別支援教育部会を通じて、圏域全体で情報交換に努め、課題を明らかにすることに取り組んでいる。
 その特別支援教育部会が作成したのが、発達支援ファイル「ここあいパスポート」である。
 この「ここあいパスポート」を、本当に有効な資料にするために、校園からは、保護者の求めに応じて個別指導計画を提供することになっている。保護者は、個別の指導計画や、発達検査の所見といった、支援の方向を検討するために必要な情報を綴じていかれる。
 「ここあいパスポート」は、療育手帳等、手帳をお持ちでないけれども支援を必要とする方に有効である。手帳を持たない方には、どうしても支援をつないでいくことがおろそかになりがちだからである。この「ここあいパスポート」がその解決の一助となるよう各校園での周知徹底を図っている。

8.発達支援システムの効果と課題
 湖南市では発達支援システムが機能することによって、早期対応・早期支援が充実してきている。そのことによって、二次障害の防止につながっているものと確信している。
 また、校園では、保健や福祉サービス、相談支援事業所・専門機関とのつながりを柔軟に持つことができるようになってきた。これらは、就労や社会自立をゴールに考えた取り組みだが、このような視点を持つようになってきたこと自体が成果であると考えている。
 これから、このシステムを改善しながらいかに継続させていくか、また、地域課題を圏域で克服しながら、個々のケースによりよい手立てをどう提示していくか、まだ道は半ばと考えている。しかし、理解者と実践者を増やし、さらに進めてまいりたい。

【乳幼児期から就労までの一貫した支援 ―湖南市発達支援システム― 「障害者の福祉」2009年12月号】 藤井茂樹

1 はじめに
 平成11年、甲西町(平成16年石部町と合併し現・湖南市、人口約5万6千人)において、町内のすべての障害児・者団体(知的障害・身体障害・精神障害・発達障害等)が障害のある人への一貫した支援体制を求めて、「甲西町障害児・者団体連絡協議会」を結成した。この協議会の最初の活動が、障害のある人への支援体制の実現署名であった。1万3千人の署名を集め当時の町長に要請し、障害児教育の専門家の採用と支援システムの構築を約束されたのである。この専門家が筆者であり、平成12年から2年間かけて発達支援システムを構築した。

2 発達支援システム
 このシステムは、教育・福祉・保健・就労・医療の関係機関の横の連携によるサービスと、個別指導計画・個別移行計画による縦の連携によるサービスを提供するものである。横の連携は、支援対象児者に対し関係する諸機関が役割分担しながら、個別のサービス調整会議を基に支援することであり、縦の連携は、個別指導計画を療育段階から保育園、幼稚園、小中学校、就労に至るまで継続して作成、活用する共通支援ツールとしていることである(図1)。

図1 湖南市のライフステージにおける発達支援
(拡大図・テキスト)
システム全体を統括する発達支援室が、市長部局に設置されている。この発達支援室が、市役所内の保健・福祉・教育・就労担当者と連動しながら、障害のある人への支援を行っていく。

(1)乳幼児期における支援
 乳幼児健診により障害の発見と支援が始まる。3歳半までに5回健診が実施され、保健師・小児科医・発達相談員・保育士等を配置し、子育て機能を充実させている。健診で気づかれた事例は、保健師・療育担当者・発達相談員・ことばの教室担当者・教育委員会指導主事・発達支援室担当者などによる母子サービス調整会議を開催し、処遇検討会を行っている。この場では、不安に感じている母親等にだれが中心に関わり、今後、それぞれの事例をどの場で支援していくかを複数の専門家が話し合うことに意味がある。まず母親を支えることである。共感的理解と寄り添う支援から子どもの支援が始まる。
 支援機関は、親子教室、療育教室、ことばの教室が設置され、個別指導計画に基づいた支援を行う。この計画書が次のステージの保育園、幼稚園に引き継がれていく。保育園、幼稚園では、個々の子どもの状況に応じて加配の担当者が配置され、個別指導計画が作成され支援がなされていく。園には、療育教室発達相談員や発達支援室保健師等が巡回相談にまわり、個々の子どもの行動観察や具体的な子どもへの関わりなどのコンサルテーションを行う。
 巡回相談では、園の担当者とともに個別指導計画の作成と評価を実施している。

(2)学齢期における支援
 小中学校は、国が推進している特別支援教育を充実させながら、市の発達支援システムと連動させた取り組みを行っている。
 就学前に作成された個別指導計画は、小学校に引き継がれ、個のニーズに応じた指導・支援が開始される。学校は特別支援教育コーディネーターを中心に、学校全体で取り組む支援体制を構築してきている。障害のある児童生徒だけでなく、不登校や虐待、生徒指導をも含めた指導・支援体制である。
個の支援では、関係機関との連携による支援であり、市役所内の虐待担当者、精神保健担当者、生活保護担当者、障害福祉担当者、児童相談所ケースワーカー、保健所保健師、民生児童委員、教育委員会指導主事と連携している。諸機関と連動した支援の調整は発達支援室が担い、学校を支える体制をとっている(図2)。
図2 相談支援のシステム
(拡大図・テキスト)

(3)就労支援
 障害者就労支援検討会を立ち上げ、障害者の就労についてを商工業会、福祉関係機関、行政・教育関係機関が検討を積み重ねた結果、市内の企業が特例子会社を設立するまでに至った。
また、平成21年度障害者就労情報センターを市単独で設置し、2名の就労支援コーディネーターが中心となり、市内や周辺の市町村にある企業をまわり就労情報を提供している。就労支援は引き継がれた個別指導計画を基本に、当事者の希望を踏まえ関係諸機関の連携により進められている。

(4)発達支援ITネットワーク
 発達支援に必要な情報交換のために、ITネットワークを運用している。市内公立・市立保育園、幼稚園、公立小学校、中学校、発達支援室、学校教育課、保健センター、ことばの教室、個別療育、子育て支援課、社会福祉課、商工観光課を結んでいる。また、市専門家チームメンバーの小児神経科医や巡回相談員、さらに養護学校とも情報交換ができる仕組みである(図3)。

図3 発達支援ITネットワーク
(拡大図・テキスト)

 ITネットワークの特徴は、関係者間の連絡調整や会議録の共有が簡単にできること、保護者の了承のもとに子どもの状況や指導記録が蓄積できることにある。機能は大きく二つあり、一つは参加者にオープンな会議室での各機関へのメッセージ送信と返信、個別指導計画様式等のダウンロード、国の動向等へのリンクや研修に関する情報提供である。もう一つはクロードな会議室での子どもに関する指導情報の蓄積と共有である。また、特別支援学級の子どもたち同士のメッセージ交換や学習発表の場としても活用している。
この発達支援システムは、平成17年6月議会において、「障がいのある人が地域でいきいきと生活できるための自立支援に関する湖南市条例」が制定され、市・市民の責務として位置づけられ取り組まれている。発達支援システムの円滑な運営と保健・福祉・医療・教育・就労の関係機関との連携による障害のある人への効果的な支援を求めたのである。
 また、湖南市の隣の甲賀市(人口約10万人)とともに、支援を必要とする一人ひとりのニーズに応じた支援を行うための「ここあいパスポート」を作成し、生涯にわたる継続した支援のためのサポートブックの活用にも取り組んでいる。ここあいパスポートと各ステージごとの個別指導計画をどのようにリンクさせていくかが課題である。

3 システムからの効果
 湖南市発達支援システムの運用から、障害のある人や支援が必要な人にとって継続した支援が受けられることになり、将来の見通しが持てるようになった。また、乳幼児期、学齢期、青年期とそれぞれのステージでの個々の支援の充実が図られてきている。障害児保育、特別支援教育が充実し、よりきめ細やかな支援がなされている。保育園・幼稚園・小中学校・療育機関等の各機関は、互いに連携しながら組織全体で取り組んでいる。
連携の一つとして、「繋ぎ」の充実があげられる。個別指導計画を繋ぎのツールとして、発達支援室担当者や教育委員会指導主事がステージごとの担当者とともに繋げていることである。
 また、園や学校だけでは取り組むことが困難な事例に対し、市が園や学校を支援する仕組みができあがっているため、それぞれの機関が主体的に取り組んでいる。子ども自身の課題だけではなく、家族の状況に応じた支援を考えると、行政等を巻き込まないと難しい。湖南市の発達支援システムは家族全体を考慮に入れながら、子どもへの対応ができるシステムといえる。

4 課題と今後の展望
 これまでの取り組みを振り返ってみると、発達支援システムの活用状況の把握が、不十分である。今後は、それぞれのステージにおける支援状況を、どのような形で評価し支援に反映させていくかである。
市内の保育園、幼稚園、小中学校間においてシステム活用に差がみられ、個々の事例への支援の質的な面での課題があがってきている。就労支援は充実してきているが、経済状況の厳しさから障害のある人の就労は依然として難しく、働く場の開拓とネットワークづくりが課題である。
障害のある人等が自立していくには、生活面と労働面がバランスよく機能しており、当事者の主体性と支援がうまくマッチングしていくことが重要である。今後とも、この発達支援システムを充実させながら、一人ひとりの支援のコーディネートがよりきめ細やかに実施されていくことが求められる。
(ふじいしげき 独立行政法人国立特別支援教育総合研究所)

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