陸自情報部隊~憲法否定、秘密は暴走する 沖縄2紙社説
陸上自衛隊の秘密情報部隊「陸上幕僚監部運用支援・情報部別班」(別班)が、首相や防衛相に知らせず、冷戦時代から独断で海外に拠点を設け、身分を偽装した自衛官に情報活動をさせていた。もし外国政府に発覚・逮捕でもされれば、重大な外交問題になる暴挙である。
別班のメンバーは数十人いて、全員が陸自小平学校の「心理戦防護課程」の修了者だ。同課程は、旧陸軍のスパイ養成機関「中野学校」の後継とされる。
文民統制は、「戦前に軍部の暴走を許した反省に立つもの」だが、秘密部隊は、憲法否定の暴走であり、秘密は暴走することを改めて示した。秘密保護法案では、別班のような存在は永久に闇に葬られかねない。
【陸自秘密情報部隊 憲法否定の暴走許されぬ 琉球新報11/29】
【社説[陸自が独断情報活動]秘密は やはり暴走する 沖縄タイムス11/29】
【陸自秘密情報部隊 憲法否定の暴走許されぬ 琉球新報11/29】 軍事に対し、政治が優越するという民主主義国家の大原則である文民統制(シビリアンコントロール)を、根幹から覆しかねない衝撃的な事実が発覚した。 陸上自衛隊の秘密情報部隊「陸上幕僚監部運用支援・情報部別班」(別班)が、首相や防衛相に知らせず、冷戦時代から独断で海外に拠点を設け、身分を偽装した自衛官に情報活動をさせていたことが分かった。5年半にわたる共同通信の取材に対し、陸自トップの陸上幕僚長経験者ら複数の関係者が証言した。 国民から選ばれた政治家が自衛隊を統制する文民統制は、先の大戦で軍部が暴走した反省に立つものだ。憲法は首相と国務大臣は文民と規定する。自衛隊最高指揮官の首相の指示もなく、国会のチェックもない別班の海外活動は、民主国家と憲法を真っ向から否定することにほかならない。自衛隊の暴走は罪深く断じて許されない。 防衛省と陸自は別班の存在を認めていないが、国民を二重に欺く背信行為だ。安倍政権と国会は別班の実態について徹底的に調査し国民に明らかにする義務がある。 関係者の証言を総合すると、別班のメンバーは数十人いて、全員が陸自小平学校の「心理戦防護課程」の修了者だ。同課程は、旧陸軍のスパイ養成機関「中野学校」の後継とされる。中野学校出身者は沖縄戦でも、氏名や身分を偽って住民監視やゲリラ戦準備などの役割を担った。 別班の海外展開は冷戦時代に始まり、主に旧ソ連、中国、北朝鮮に関する情報収集を目的に、国や都市を変えながら常時3カ所程度の拠点を維持。最近はロシアや韓国などで活動しているという。 陸幕長経験者は「万が一の事態が発生した時、責任を問われないよう(詳しく)聞かなかった」としたが、別班が非合法なスパイ活動にも手を染めている実態をうかがわせる。別班を放置すれば、国民のあずかり知らぬところで情報を独占し暗躍する“闇の権力”を認めることになる。容認できるはずがない。 安倍政権が成立に血まなこになる特定秘密保護法案では、別班のような存在は永久に闇に葬られかねず、共同通信の記者や証言した防衛省関係者は罪に問われかねない。別班の存在は、秘密保護法の危険性や欠陥も浮き彫りにした。独裁的な強権政治への扉を開きつつあるとの警鐘と受け止めたい
【社説[陸自が独断情報活動]秘密は やはり暴走する 沖縄タイムス11/29】民主主義国家の基本原則である文民統制(シビリアンコントロール)を逸脱する自衛隊活動が、明らかになった。
陸上自衛隊の秘密情報部隊「陸上幕僚監部運用支援・情報部別班」(別班)が、冷戦時代から、首相や防衛相(防衛庁長官)に知らせず、独断で海外に拠点を設け、身分を偽装した自衛官に情報活動をさせてきたというのだ。陸上幕僚長経験者ら複数の関係者が、共同通信の取材に証言した。
証言によると、拠点はロシアや中国、韓国、東欧などに設けられてきた。海外要員は自衛官の籍を外し、他省庁の職員に身分を変えて派遣されることもある。収集した軍事や政治、治安情報は、出所を明示せずに陸幕長と情報本部長に上げる仕組みという。
発覚を防ぐため、組織内でもごく限られた関係者間で引き継がれてきた。資金の予算上の処理も不明だ。
武力組織である自衛隊が、最高指揮官の首相や防衛相の指揮・監督を受けず、国会のチェックもなく海外で活動する-。民主主義国家の根幹を脅かす行為であり、決して許されない。
元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏は、深刻な外交問題を引き起こす危険があると指摘し、「日本のインテリジェンス(情報活動)の恥」と批判した。
報道を受け、小野寺五典防衛相は28日の参院国家安全保障特別委員会で「しっかり確認していきたい」と述べた。当然である。長年にわたり法令上の根拠のない活動が秘密裏に行われてきたことで、政府の危機管理能力も問われる。
■ ■
安倍政権下で、自衛隊の存在感がこれまでになく増している。
政府は12月、外交・安全保障政策の司令塔となる国会安全保障会議(日本版NSC)を発足させる。その事務局となる国家安全保障局には自衛官も登用する方針だ。政権の意思決定に直結する組織の前線に制服組が立つ。文民統制の原則に照らして問題はないか、あらためて議論すべきだ。
防衛省は8月にまとめた機構改革案で、自衛官の「制服組」と内局の「背広組」で分担してきた警戒監視などの部隊運用を、制服組主体に改め、一元的な運用を推進することとした。緊急時に迅速な意思決定を図るのが目的だが、やはり文民統制の形骸化が指摘されている。
文民統制は、戦前に軍部の暴走を許した反省に立つものだ。その原点にいま一度立ち返る必要がある。
■ ■
政府は、NSCの運用には特定秘密保護法案が不可欠として、成立を急いでいる。
「別班」活動は今回、関係者の証言で明らかになった。だが、国民の「知る権利」や報道の自由を侵害する恐れのある同法ができれば、関係者が萎縮して取材に応じず、あるいは恣意(しい)的な秘密指定によって、表に出ると都合の悪い「事実」が闇に葬られる可能性がある。
指揮命令系統から外れた部隊の独走は、国の外交や安全保障にとって極めて危うい。防衛省と陸自は「別班」の存在を認め、全容を国民に明らかにすべきだ。
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