柏崎刈羽・安全審査 避難不可能なら無効 新潟県知事
安全管理に関する技術委員会における「福島事故検証課題別ディスカッション」の実施、フィルタベントの調査チームの設置についての泉田新潟県知事の記者会見。
一部の報道はミスリード。知事がかなり厳しいハードルを突きつけたことがわかる。
・適合審査について「避難が不可能であれば無効の条件付」であり、「例えばギロチン破断で冷却材が失われれば最短2時間でメルトダウンが起きますので、雪が降っている夜中でも本当に(避難が)可能なのかということを考えていく必要があります。」と述べている。
・フィルタベントの調査チームの設置では、「最悪の場合は260ミリシーベルトの甲状腺等価線量の被ばくをし得る」とし、影響調査が必要としているが、原発立地そのものを判断していない防災計画の欠陥をついたもの。(削除された「原発立地審査指針」の敷地境界の基準は100ミリシーベルト)。
・ディスカッションについても再稼働とは無関係で「原子力発電所というのは停止して、発電していなくても生きている発電所ですので、やはり安全性を高めていく必要がある」との位置づけである。
【泉田知事 定例記者会見1017】
【福島原発1号機の全交流電源喪失は津波によるものではない(田中三彦委員配布資料) 安全管理技術委員会9/14】
【新潟県原子力発電所の安全管理に関する技術委員会について 記者会見】原子力発電所に関して、安全管理に関する技術委員会における福島事故検証課題別ディスカッションを実施したいと思います。また、フィルタベントの調査チームも併せて設置したいと思います。ディスカッションについては、技術委員会の先生方のご希望として、もう少し深掘りしたいというご要望をいただいています。少人数のチーム制にしてディスカッションした上で委員会にかけるという形で同時並行でいくつかのチームを走らせたいと思います。今月末からスタートしたいと思っており、現在、具体的な割り振りの調整中です。
議論される課題ですが、まず地震動による重要機器の影響がなかったのかどうかということです。かなり議論を呼んでいるところでありますので、ディスカッションを行いたいと思います。
それから、海水注入が遅れたのではないかということです。東京電力のビデオから判明している内容で言うと、3月15日になっても、海水を入れるのか、もったいないのではないかという議論がなされていたわけです。地震当日の3月11日午後5時の段階で福島第一原発の吉田前所長から消防注水の検討指示が既に出ています。実際に注水されるのはその後になるわけですが、海水注入の判断に誰が関わってどういう判断がなされたのかという点についてもディスカッションしていただきたいと思ってます。
事故対応マネジメントですが、東京電力の意思決定が的確になされていたのか、外部とのコミュニケーションはどうだったのか、本店とのやり取りはどうだったのか、政府機関とは(どうだったのか)、自治体とは(どうだったのか)ということです。様々な点があると思っています。原発事故の際には、当時の原子力安全・保安院の保安検査官が真っ先に待避しているという事実もありますので、関係機関とのコミュニケーションはどうだったのかということについてもディスカッションしていただきたいと思っています。
次にメルトダウン等の情報発信の在り方ですが、3月11日午後5時頃の段階で、1時間でタフ(燃料頂部)に達して、その後に燃料損失が始まるという進展予測が既に東京電力によってなされています。さらに3月12日の未明には燃料棒の中のペレットの中にしかない放射性物質が原子炉建屋の外で検知されているということですので、これもメルトダウンが確実なわけです。ただ、実際に東京電力がメルトダウンを認めたのは5月15日です。メルトダウン等の情報発信の在り方がどうだったのか、避難情報に役立てたのかどうかという点もディスカッションしていただくということです。
次に高線量下の作業です。結局、じじいの決死隊で行くぞということをその場で対応して果たしてうまくいくのだろうかと。4号機が爆発していなければ外からの注水は不可能だったわけですが、当時、線量が高くて人が入れない状況にありました。そういう状況で原発事故に対応できるのかと。特に250ミリシーベルト毎時を超えるような高線量下の作業についてはどう対応すべきなのか、そもそも対応できたのかというところを議論いただくということです。
次にシビアアクシデント対策です。ヨーロッパの原発はメルトダウンが起きるという前提で設計されているわけですが、今の原子力規制委員会のディスカッションを見ていると「バッテリーの二重化が隣の部屋で大丈夫か」などといった議論がなされていて、第二の安全神話を作ろうとしているようにも見えます。そうではなくて、(メルトダウンが)起きたときにどうするのかということは世界の原発では既に設計基準の中に入っているわけで、シビアアクシデントが起きたときにどうするのかという議論をしていただくということです。設備面で言うとコアキャッチャーの有無ということもあるわけですが、こういったことについてもディスカッションしていただくということです。
それに加えて、フィルタベントについては調査チームを設け、そもそも(フィルタベントを)運用したときに健康に被害が及ばないように安全に避難できるのかどうかというところを検証していただく予定です。ディスカッションが収束するかどうかは別にして、年度末には今年度のディスカッションの成果を取りまとめたいと思っています。フィルタベントについても調査チームを作って議論を進めていきたいということです。
【質疑】Q 調査チームについては、東京電力柏崎刈羽原発の第一フィルタベントと第二フィルタベントのどちらについて議論していくということでしょうか。
A 知 事
正直に言うと、本来であれば第二フィルタベント(の設計)が出てきてから(調査チームで)議論するのが筋ではないかという議論もありました。ただ第二フィルタベントの設計が固まるまで時間がかかるらしいのです。その間に何もしないでよいのかと言うと、性能的には(第一フィルタベントと)同じものと聞いており、最悪の場合は260ミリシーベルトの甲状腺等価線量の被ばくをし得るという試算がとりあえず出ていますので、そういう状況で何もしないというのもいかがなものかということです。いずれにしてもベントしたときに健康に影響を及ぼす被ばくが起こり得る状況です。例えば風が吹いているときと吹いていないときや、雪や雨が降っているときにどのように広がるのかというシミュレーションは可能ですので、まず影響評価ぐらいからスタートする必要があると思っています。Q 第二フィルタベントも含めて議論していくと・・・。
A 知 事
第一、第二にかかわらず、どのような影響があるのかは調査しないといけません。いきなりメカニズムのところに入るわけではありません。ベントした場合に、どのような気象条件のときにどのエリアで最大被ばくが発生し得るのかをまず先にシミュレーションするということでご理解いただくとわかりやすいと思います。Q 避難計画自体も策定していかなければならないと思いますが、どういう避難計画を作るのかということについても調査チームの中で確認していくということですか。
A 知 事
まずシミュレーションした上で次を考えるのだと思います。例えば2007年に発生した中越沖地震のときには自由に移動できるような状況ではありませんでした。緊急自動車ですら消防署から柏崎のサイトに到着するのに時間がかかりました。端に少し段差があるだけで大渋滞が起きて車が動けなくなり、サイレンを鳴らしても動けないという状況ですから、まず影響がどのように広がるのかを見た上で考えるということです。そもそも避難という方式がよいのかどうかというところもあります。例えばギロチン破断で冷却材が失われれば最短2時間でメルトダウンが起きますので、雪が降っている夜中でも本当に(避難が)可能なのかということを考えていく必要があります。国にも要請していますが、徒歩圏内に核シェルターを設け、そこに1週間から10日間避難できるような体制がないと無理なのではないかという印象論もあります。実際にどのようなことになりそうなのかということで、最悪の状況をシミュレーションするのがまず先だと思っています。Q 今の話を聞くと、最悪の想定のようになった場合を踏まえて核シェルターのような新たな設備を設置することも考えられるということですか。
A 知 事
それよりも前の話で、まずシミュレーションして、何が起こり得るのか予測することが先だと思います。1基だけで考えるのか7基同時に(事故が)起きたときについても想定するのかや、7倍ということで想定するのか、それとも時間が連続して長くなると想定するのかなど、いろいろと考えなければいけないと思います。実際にベントしたときに最悪の場合でどのようになるのかということについては、まずシミュレーションが先なのではないかと思っています。Q 現在、県が防災計画を策定し、市町村と連携したワーキンググループを設けて避難計画策定の準備に入っているかと思います。それと歩調を合わせていくという感じなのか、できる部分は先に進めていくという感じなのか・・・。
A 知 事
最初から完全なものができるというのは難しいところもありますし、途中段階では心配だというところもあると思いますので、やはり相談しながら進めていくしかないと思っています。Q 調査チームに関してお聞きします。柏崎刈羽原発の安全審査の前にはベントの事前了解に関して東京電力の回答を待つという姿勢だったと思いますが、東京電力や周辺自治体も構成に含まれるチームを作るということで、これは一緒に考えていこうという取組と理解してよいのでしょうか。
A 知 事
今、(柏崎刈羽原発について)規制基準適合審査の申請が規制委員会に出されているのですが、東京電力に対しては条件付きとなっています。避難が不可能であれば無効になるという条件も付いているわけですから、まず実態を把握するところから考えていこうということです。東京電力からも(チームに)入ってもらい、一緒に検討を進めていくということです。(構成については、新潟県、柏崎市、刈羽村、東京電力)等となっていますので、必要があれば関係者の追加もあり得ると思っています。Q 福島第一原発事故の検証について伺いたいのですが、今の時期からスピードアップして進めていく狙いを教えてください。また、(ディスカッションを行うものとして挙げられている)課題についてはいずれも政府や国会事故調査委員会ではなかなか検証されていない内容だと思いますが、その点についてスピードアップして進めていくということで、内容についての狙いを教えてください。
A 知 事
狙いはありません。いろいろな業務があって今までできなかったのですが、ようやく取り組めるようになったとご理解いただければと思います。Q 国や政府がなかなか進めていない部分について先取りして進めていくわけですが、その点についてはどのような・・・。
A 知 事
挙がっている課題については、県民、若しくは国民が原子力行政に対して信頼を置けない理由になっている部分が並んでいると理解しています。本来、先に行わないといけないのです。利害関係がある人はやりにくいのかもしれませんが、やはり関心事項に対しては議論するということで進めていきたいと思っています。Q 知事は常々、福島第一原発事故の検証・総括が先と言っています。(福島事故検証課題別ディスカッションにより)ある程度不完全なものであっても年度内で一定の取りまとめをすると、その一部がある程度できるということになると思いますが、そういう受け止め方でよろしいですか。
A 知 事 違います。ディスカッションした結果について取りまとめるということだけです。その時点で結論が出ているかどうかということは事前に予見を持っては言えません。ただ、年度は終わったが議論は続けているという形ではなくて、議論した中でこういうことであるという整理はしたいということです。
Q 知事は常々、福島第一原発事故の検証が終わるまでは再稼働の議論はしないと言っていました。この技術委員会で福島第一原発事故について調査し、一応年度末で取りまとめるということで、福島第一原発事故の検証を急ぐということは再稼働の議論に早く入りたいということなのではと取られる可能性もありますが、その辺りはいかがでしょうか。
A 知 事 私は(質問の中で)言っているような発言をしていないと思います。福島第一原発事故の検証と総括が先と言っています。原子力発電所というのは停止して、発電していなくても生きている発電所ですので、やはり安全性を高めていく必要があるということです。先日、長岡市で避難訓練を行っています。配信されたエリアメールを見た人の感想の中で象徴的なものがありました。朝起きてメールを見たらいきなり異常事態だったというものです。冒頭に訓練だと書いてあるのですが、最後に「なお、これは訓練です」と出てくるところまで本文だけを読んでいくと大変なことが起きていると感じたということです。大変びっくりしたという感想の方もいました。邪推しても仕方がなくて、停止していても生きている原発の安全性を高めるということは行政として取り組んでいく課題だと思いますので、そこはしっかりとやっていきたいと思います。
Q 今回、各課題の検証をスピードアップするというのは、再稼働の議論を急ぐためではないということで・・・。
A 知 事
スピードアップではなくて、今までできなかったことを行うということです。Q 再稼働の議論とは関係ないと・・・。
A 知 事 もちろんです。
Q これまで国会事故調や民間事故調で結論を出すことが難しかった検討・課題項目については、もちろん利害関係の難しさもあったとは思いますが、テクニカルな意味で結論が出せない部分も多少はあったと思います。この辺りについてはどう乗り越えていく考えですか。また、もしそこで結論が出なかった場合、検証・総括が途中ということで再稼働の議論には移れないという理解・・・。
A 知 事
再稼働の議論はしません。まずそれが前提です。見ていただくとわかると思いますが、マネジメントがどうだったのかや意思決定がどうだったのか、情報発信がどうだったのかなどは設備とは関係ないので、進むところもあります。ディスカッションするということは、あくまでもディスカッションなのです。ディスカッションの結果としてこうだったということは最後に整理するにしても、それ以外のところを止めておく理由はないということです。できないから全部やらないということではないということです。Q 福島第一原発事故の検証と総括が先なので柏崎刈羽原発の再稼働については議論しないということですが、もう少し範囲を広げた話として、日本にとって原発は必要なのかどうかということについての知事の考えを聞かせてください。
A 知 事
国全体で議論すべき課題だと思っています。やはり県民の皆さんの生命・安全・財産を守るということが知事の役割、ミッションとなりますので、まずここについてしっかりとやっていきたいと思っています。Q 今回の福島第一原発事故を検証する課題別ディスカッションの成果・総括の結果について、県民あるいは国民の関心は、(原発の)再稼働の是非を含めた立地自治体の原子力行政の道筋への影響だと思うのですが、このディスカッションの結果の行政に対する影響は・・・。
A 知 事
(ディスカッションを)行う前で、どういうものが出てくるのかわからないので、事前に予測するのは難しいと思います。Q 規制委員会の関係で聞かせてください。4月の段階で知事が質問状を持って行きましたが、それに対しての回答は、一部は来ていますが、まだ十分には来ていない状況だと思います。この回答が来たとしたらの話になるのですが、それはディスカッションの中身に影響を与えると思います。例えば高線量下での作業について国としてどう考えるのかということなどが該当すると思いますが、その辺りについて回答を催促するということは考えていますか。
A 知 事
催促は当然していくことになると思います。2007年のときも、原子力安全・保安院の議論と県の技術委員会の議論が並行して行われ、相互作用しながら進んでいったと理解していますので、おそらくそういうことになるだろうと思っています。Q 昨日、東京電力が、福島第一原発の汚染水対策について人的に無理があるということで、柏崎刈羽原発からも人員を送って対応すると規制委員会に報告していますが、これについてどのように受け止めていますか。
A 知 事
今、詳細を聞いているところです。30分の1の人員が剥がれてしまうということらしいので、それでも大丈夫と評価するのか、それともやはりその分安全確保ができなくなると評価するのかということで、実態を聞いてみて判断することだと思っています。Q いつ頃までに実態を聞いて・・・。
A 知 事
相手からの返答次第というところもありますので、私が日程を決めることはできません。Q 先ほど避難計画の話がありましたが、10月11日、12日に鹿児島県の川内原発で国主導の原子力防災訓練が行われました。県からも現地に職員が行っていたと思います。この訓練に関して、新たに出た課題や、あるいは知事が以前から指摘していたことであらためて課題として浮かび上がったこともあったのではないかと思うのですが、あらためて防災訓練についての知事の見方を教えてください。
A 知 事
承知していないのでコメントできません。Q 長岡市で行われた訓練について聞かせてください。今回は長岡市単独で行われたということです。先ほどエリアメールの話もありましたし、今回は屋内退避も重視して実施したということですが、長岡市の訓練の中で見えてきた課題と、市町村と県のワーキングループで(避難計画を)策定している中に活かしていくべき点はどういったところだと・・・。
A 知 事
それはまず長岡市に聞いていただかないとわからないと思います。事務レベルで調整している点については、事務当局に取材していただきたいと思います。
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