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現代資本主義とファンド問題(メモ)

 高田太久吉・中央大名誉教授 経済2013.9 論稿の備忘録。
 ファンド問題を、現代資本主義の歴史的・構造的問題として取り上げ、その変革の必要性を示す論稿。

 金融危機で注目を浴びた「シャドーバンキング」は「名称が暗示するような金融の「隙間」ではなく、ウォール街の大手金融機関の新しいビジネスモデルと収益を支える階層的金融ネットワークの不可欠の構成部分」であり、それは「70年代のスタグフレーションとして表面化した資本主義の行き詰まり現象。とりわけ80年代以降、経済の金融化として表れた資本蓄積の停滞と、その裏返しとしての貨幣資本の過剰蓄積」の結果。「現代資本主義を特徴づける歴史的・構造的問題の表れ」である。 
 その意味するところは、「80年代以降、資本主義の救世主の役割を果たした新自由主義」だが、利潤確保のために「企業活動のあらゆる障害を取り除く」ことで「資本蓄積の停滞、金融危機の頻発、階級的矛盾の激化、貧困化と失業増大、環境破壊を促進し、資本主義の持続的発展を困難にし」「資本主義の出口をふさぐ自己矛盾に陥っている」。
 今必要なことは「民主主義と労働者・市民の生存権を持続的に保障できる新しい経済とシステムを目指す」こと。

【現代資本主義とファンド問題】
 高田太久吉・中央大名誉教授 経済2013.9

◆はじめに

・今回の金融危機発生までそれほど注目を浴びてこなかった銀行制度の枠外で活動する金融機関、とりわけ年金やヘッジファンドなど機関投資家の成長と活動の活発化

・機関投資家の中心~年金基金、保険会社、投資信託、財団など資金運用型機関投資家。ヘッジファンド、プライベート・エクイティ・ファンドなど高レバレッジ型機関投資家。さらに政府系ファンドなど

・近年特に活動が世界的に活発化しているファンド型投資組織は、もっとも投機的・規制回避的で、利益のためには市場を攪乱する投機行動や企業破壊さえ辞さない組織
→ これらの組織は、金融市場の中枢を占める大手金融機関、主要な機関と敵対するわけでない。/70年代以降の金融市場の歴史的変化に深くかかわり、現代資本主義の資本蓄積様式を支える階層的な金融ネットワークの不可欠の構成部分。

Ⅰ.金融市場の変化とシャドーバンキング

<シャドーバンキングの発展>

・70年代以降の歴史的変化を契機に、重要な変化は、銀行制度の枠外で銀行類似の活動に従事する金融機関(シャドーバンキング)の発展。/金融危機移行、SBの呼び名が頻繁にてでくるが・・・

・実際は、70年代以降の金融規制緩和、構造変化の中で、銀行制度の枠組み自体があいまいになり、特に99年のグラム=リーチ=プライリー法により銀行と投資銀行の分離が解消され、大手金融機関による非銀行金融機関の設立、取得、系列化が急速に進行した結果、銀行制度との対比でシャドーバンキングを定義することはほとんど不可能となっている。

<大手銀行のビジネスモデルの転換>

・シャドーバンキングの成長の主因は、80年代初頭以来顕著となった大手銀行のビジネスモデルの転換
~預金を元手に貸し出しを行い、満期まで薄い利ざやの資産を保有し続ける金利ベースから /様々な貸し出し債権を簿外の資産管理ビーグルを利用して証券化し、投資家に転売することで手数料ベースの高い利潤率をめざすビジネスモデル(いわゆる組成販売モデル)への転換
→ この転換は/ 銀行組織を、預貸取引の利ざやに依存する信用リスク集約型の組織から /市場性資金と手数料収入に依存する市場型金融機関に変化させた  

・この転換により/ 大手銀行はノンバンクとの競争に備え、証券関連事業の強化を図り、手数料や自己勘定取引での利益を確保するために、簿外投資ビーグルを含む様々な「シャドーバンキング」を積極的に設立・買収へ。

<階層的金融ネットワークの構築>

・シャドーバンキングは、名称が暗示するような金融の「隙間」ではなく、ウォール街の大手金融機関の新しいビジネスモデルと収益を支える階層的金融ネットワークの不可欠の構成部分

・今回の金融危機の重要な要因である仕組み証券市場や、CDO(債務担保証券)CLO(ローン担保証券)SIV(仕組み投資媒体)など大手金融機関が簿外で運営する投資ビーグルの急拡大を支えたレポ市場やCP市場に資金と証券の両面から「流動性」を提供したのは、資産運用型機関投資家とファンド型投資組織


Ⅱ.代替的投資・ファンド型投資組織の増加

<ファンド型投資組織>

・シャドーバンキングが意味するもの /銀行制度の枠外で金融当局の直接的な規制・監督を受けずに、主として市場での金融指標(金利、為替レートなど)の変動、株式をはじめとする証券や不動産など「架空資本」の価格変動を利用して差益を上げる金融組織の増大と、それらに管理・運用される貨幣資本・金融資産の増大。
→ その典型は、HF、PEF、REIT(不動産投資信託)など代替的投資と呼ばれるファンド型投資組織(パートナーシップもしくは有限会社の形態で運営される組織で、事業形態としては私募型投資信託の一種)

・HF/ 通貨、証券、デリバティブ、商品先物など市場取引されるあらゆる資産を対象に投機取引、裁定取引を大規模かつ頻繁に繰り返して利益を追求

・PEF/ 10年程度の期限付きで集めた資金で、個人企業など非上場会社を買収し、財務・組織・業務をリストラした後売却し差益を上げるもの /中小から大企業まで公開株式会社も対象とする場合もある。
~ M&Aと異なるのは、事業の買収が当該事業の永続的保有を目的とせず、遅くとも数年後に売却して差益を上げる点。

<HF>

・法律上の定義も公式の信頼できる統計も存在しない
・調査機関(CityUK)/ 活動するHFの数は、06年に1万の大台に。資産総額は02年の6千億ドルから12年には2兆ドル。/出資された資本〜最大部分25%はHFへの出資を専門に行う特殊なHF、25%が金融機関含む企業、20%個人投資家、8%大学を含む財団
→ 2兆ドルに対し、レバレッジ運用で10倍のギアリングかきくと見ても控えめであるが、つまり2000兆円のお金が、有利な投資先を求めて徘徊している(三菱UFJモルガン・スタンレー証券・藤戸レポート12/5/27)

<PEF>

・1940年代からすでに存在。が、ウォール街と結びつき大規模買収に利用されるのは80年代以降
~ LOBの広まり。小規模な投資集団による巨大企業買収事例が発生

・LOBブームの背景は、70年代のスタグフレーションを契機とする企業投資の停滞と企業の銀行離れ/ それにより銀行が、リスクは高いが高い利ざやと手数料を期待できるLOB関連融資を新たな収益源としたこと。
・ジァンク・ボンドの発行市場の創出され、大手銀行から借り入れが困難だったPEFが巨額の市場性資金を低利で調達できるように変化~有力な融資先の乏しい地方銀行、貯蓄金融機関(S&L)にとり、魅力的な資金運用手段を提供。~ さらに80年代末以降、大手投資銀行が進出

・企業統治をめぐる「エージェンシー理論」が、主流は経済学に大きく影響
→ 現代株式会社の最大の問題は「所有と支配の分離」によって、株主から相対的に自立し、裁量権を強めた企業経営者が自己利益を優先し、株主価値を損なっていることがある。/よって、PEFによって作り出された「企業支配の市場(敵対的M&A市場)は、経営者に外部投資集団による企業買収の脅威という規律を与え、企業経営の効率化、株価引き上げの努力を促す効果で期待できる。とPEFの活動を積極的評価(Mジョンセン)/さらに経営者に株主利益の尊重を促す手段として、経営者の報酬を株価に連動させるストップオプションを推奨

<M&AブームとPEF>

・90年代初頭には、80年代ブームの2倍以上の件数に。/90年代後半には、情報産業・メディア・金融などの分野でM&Aが活発化し、第二次LOBブームに。/05年以降に第三次ブーム
・近年のブームの特徴~市場が欧州、日本、アジアを含む途上国まで拡大。公開会社が買収の対象になるケースの増加。PEF同士が買収した企業を売買する「企業の流通市場」が拡大。

⇒こうした代替的投資をささえている主力は、慢性的な資金運用難(過剰な貨幣資本)を抱える銀行、貯蓄金融機関、年金、保険など機関投資家が提供する資金/ 利益確保の不可欠の運用分野

・信用リスクの連鎖 /近年、HF、PEFは、金融機関から資金を調達するだけでなく、それら同士の間で活発な証券貸借と資金貸借を実施し、大手銀行、機関投資家、ファンド型投資組織の間に複雑で錯綜し、連鎖し、重複した不透明な信用リスクの連鎖が形成されている。


Ⅲ.現代資本主義とファンド型投資組織

<大手銀行、機関投資家、ファンド型投資組織の間の信用リスクの連鎖>

・今回の金融危機は、複雑で錯綜した信用リスクの連鎖が、グローバルな金融危機の最大の温床、システミックリスク(金融市場の機能マヒを招く危険性)の培養器であることを明かにした。
→ この巨大な金融システムの中枢を形成しているのは、膨大な資金と証券の移転、貸借が行われている大手金融機関のディーリングルームと、それらと結びつける高度に発達した情報通信システム/ また、このシステムが機能するのに必要な「市場流動性」を提供しているのも金融機関と機関投資家

・この「流動性」とは、/単に市場に投じられる資金だけではない /市場取引が成立するには、資金と並び、投資対象と資金貸借の担保となる膨大かつ多様な証券プールが必要
→ このシステム内部で最大の資本取引が行われているのは、金融機関同士の間で証券担保の短期貸借が行われているレポ市場/ この市場は、金融機関同士の間での膨大な証券の預託と貸借がなければ機能しない

・金融機関と投資家の金融的利益は、企業の生産活動から遊離した、金融資産の価格変動を利用した差益
→ その成否を決定するのは、投資から得られる期待利益と、その利益を得る前提として引き受ける投資リスクとの相関関係 / ディーラー、ファンドマネジャーは、両者を比較し、利回りが大きければ購入、リスクが多ければ売却する共通の原理で行動
→ その判断は、個人の判断でなく、評価プログラムによるコンピューターにより取引を執行。/それらのプログラムは似通っているので、予想外の新しい情報に反応して、世界中で一斉に同様の取引が行われ、市場が突然大きな変動に見舞われる現状が頻繁に発生

<金融「商品」価格と「資本化の論理」>

・「資本化」と呼ばれるファイナンス理論での評価 ~ 金融機関、投資家が市場で取引する「商品」としての証券、デリバティブの市場価格は、現実の産業活動、経済成長とは、さしあたり関わり無く評価

注)資本化、資本還元~ 投資資産が投資家にもたらす利得(キャッシュフロー)を投資家のリスクを含めた期待利回りで割り引いて現在価値に還元し、資産評価する方法。/ 将来の所得の資本還元によって資産の現在価値を算定する算術方法は、19世紀前半には銀行家の間で慣行化。「資本論」3巻5篇29章でも説明

・「資本化の論理」は、投資決定の準則であり、資産の市場価格を決定する一般原則
~ 現実資本に比較して貨幣資本の蓄積が優勢になり、「株主価値重視の企業統治」、さらには「企業の流通市場」の形態で「資本化の論理」が、現実資本の運動を規律づけるようになる
→ 本来は、架空資本の評価原理であった「資本化の論理」が、いわば「資本の論理」として総資本の運動を律するようになる。

<貨幣資本の過剰蓄積と「ファンド資本主義」>

・貨幣資本にとっての「商品」である架空資本の価格は、現実資本に転化されない貨幣資本が増加し、それらが架空資本市場に継続的に流入する限りは、/ 平均利潤や経済成長から乖離して上昇し、投資家に裁定取引(売買差益や利潤を稼ぐ取引)や投機取引の機会を提供する
→ 80年代以降、世界中で実物投資が不活発になり、経済成長率が低下。企業間の競争が激化し、金融的利得をもとめて実体経済部門から金融市場に移される貨幣資本が増加
→ この結果、企業の保有資産の中で、機械設備など実物資産に対する金融資産の割合が増加する「財務活動に依存した経営」が強まる

☆一方において株価、地価の継続的な上昇が、他方での不活発な投資と低成長、利潤率の低下、物価下落と並存する/ そのことは、貨幣資本の過剰が慢性化している現代資本主義のもとでは何ら不可解なことではない

・「カジノ資本主義」「ファンド資本主義」の用語が象徴される変化の基礎は・・・
→ 70年代のスタグフレーションとして表面化した資本主義の行き詰まり現象。/とりわけ80年代以降、経済の金融化として表れた資本蓄積の停滞と、その裏返しとしての貨幣資本の過剰蓄積。
→ よって金融市場だけの問題だけでなく、現代資本主義を特徴づける歴史的・構造的問題の表れ /ファンド型貨幣資本は、現代資本主義の正常な運航を攪乱する異端分子ではなく、現代資本主義の本質的特徴。

◆あとがき

・経済学者ハイマン・ミンスキー/ バブルも金融危機も度外視する主流派経済学に抗して、バブルとその崩壊に見られる金融資産の価格変動とこれが引き起こす金融不安定性が、繰り返す経済危機の決定的要因と指摘~ 金融産業と架空資本市場の持続的膨張を伴った80年代以降の資本主義を、それ以前の資本主義の段階と区別するために「マネー・マネジャー資本主義」という新しい概念の提起

・投機性と不安定性を露にする金融市場の様相に、金融専門家だけでなく労働者、市民も関心と不安
→ OECDの労働組合アドバイザリー委員会(TUAC)08/1 経済の金融化を「実態経済や労働者に対する金融産業の優越」と定義し、労働組合の経験として、PEFが短期の高い売買差益を目指して行う企業買収は、生産性上昇や競争力強化をもたらさず、逆に対象企業の長期的利益を損ない、人間にふさわしい雇用条件と雇用安定を掘り崩している、と指摘。~ 透明性の向上、説明責任の強化、短期的利益を優遇する税制度の改善などを提起

・現代資本主義の根本的な病弊 ~70年代以降の資本主義が、新自由主義的な規制緩和、グローバル化、労働者に対策搾取強化を際限なく押し進め、財政危機と環境破壊を深刻化させることなしに、持続的に企業利潤を確保する方途を見出せなくなっている。/他方で、こうした利潤確保のための「企業活動のあらゆる障害を取り除く」新自由主義的政策自体が、資本蓄積の停滞、金融危機の頻発、階級的矛盾の激化、貧困化と失業増大、環境破壊を促進し、資本主義の持続的発展を困難にしているという矛盾
→80年代以降、資本主義の救世主の役割を果たした新自由主義自体が、資本主義の出口をふさぐ自己矛盾に陥っている(メモ者 二宮・新自由主義蓄積がもたらす矛盾)

⇒ 現在問われているのは、単に投機規制など金融市場健全化のための方策だけではなく、/ 最大の問題は、企業利潤を確保するために、すでに歴史の障害に転化した新自由主義をさらに野蛮な形で継続・強化するのか /新自由主義から脱却し、民主主義と労働者・市民の生存権を持続的に保障できる新しい経済とシステムを目指すのか、という問題


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