戦争そのものが残酷・過激
人間が製造し、そして投下した一発の原爆で、年末までに14万人余がなくなった。「大量破壊、大量殺りくが瞬時に、かつ無差別に引き起こされ」「放射線による障害がその後も長期間にわたり人々を苦しめた」(広島市HP)・・・ 「はだしのゲン」は、その残酷な姿を描き出したからこそ、平和への強いメッセージが発せられている。「過激」といえば、これほど「過激」なことはない。松江市教育委員会は、この残酷な描写を「過激」とは判断していない。
なにを「過激」の基準としているのか。非人間的行為の描写を「過激」というなら戦争の実相は一切伝えられなくなる。もし、外国人の起こした行為の描写はOKで、日本人の起こした行為の描写は「過激」でダメというなら、歴史を歪める排外主義者の論立てでしかない。あまりにも愚かな決定である。
【他市町村は「ゲン」閲覧可能 中国新聞8/20】
【社説:はだしのゲン 戦争知る貴重な作品だ 毎日・社説8/20】
【他市町村は「ゲン」閲覧可能 中国新聞8/20】松江市教委が漫画「はだしのゲン」の閲覧制限を小中学校に要請していた問題で、広島、山口、島根の3県では、松江市と担当者が不在だった出雲市、島根県奥出雲町以外の計58市町村教委が閲覧制限の要請や指示をしておらず、今後も予定していないことが19日、分かった。中国地方の5県教委も同様に制限をしていない。
はだしのゲンを学校の図書室や教室に置いたり、貸し出したりすることを制限しているかどうかを同日、中国新聞社が聞いた。
広島県の全23市町教委と山口県の全19市町教委、島根県の16市町村教委は各校に要請も指示もしていない。大竹市教委の大石泰教育長は「長い間、読み継がれてきた名作。問題になったことはない」と話した。
5県教委も制限をしていない。広島県教委は「日本図書館協会の『図書館の自由宣言』は図書館に資料の収集、提供の自由を保障している。国民の知る権利をむやみに制限をしてはならない」と説明する。
学校の図書室の図書選定は、基本的に各校に委ねられている。山口県教委は「各校が購入時にふさわしいか判断している」、島根県教委は「どの図書を選び配架するかは学校図書館の自由」との見解を示した。
はだしのゲンを平和学習の教材で活用している広島市教委。学校に置く児童、生徒向けの本は各校の教職員たちが議論し、校長が最終決定する。市子どもの読書活動推進計画や学校図書館法に照らし合わせているという。
各県、市町村教委への聞き取りで、他に学校の図書室で閲覧が制限されている本はなかった。
【社説:はだしのゲン 戦争知る貴重な作品だ 毎日・社説8/20】原爆や戦争を教育現場で学び、その悲惨さを知る機会を子供たちから奪うことになるのではないか。
自らの被爆体験を基に描いた故中沢啓治さんの漫画「はだしのゲン」が松江市内の小中学校の図書室で自由に閲覧できなくなったことだ。
市教委は昨年12月、過激な描写があるとして、書庫に収める閉架措置を取るよう校長会で求めた。旧日本軍のアジアでの行動などで暴力的な場面があり、子供が自由に読むのは不適切と判断したという。全10巻を保有する39校全てが応じた。
この措置が先週明らかになると、市教委に全国から抗議や苦情が多数寄せられた。現場の教員からも、子供の知る権利の侵害だという批判が相次いでいる。
戦争の恐ろしさを知り、平和の尊さを学ぶことは教育の中でも非常に重要な要素だ。平和教育を推進すべき教育委員会がそれを閉ざす対応をとったことには問題があり、撤回すべきだ。また、今回の措置は教育委員が出席する会議には報告していないというが、学校現場の校長らも含めてしっかり議論すべきだろう。
市教委がこのような判断をしたきっかけは、松江市議会に昨年8月、1人の市民から「誤った歴史認識を子供に植え付ける」と学校の図書室から撤去を求める陳情があったことだ。市議会は、過激な部分がある一方で、平和教育の参考書になっているとの意見があり、陳情を不採択にした。だが、独自に検討した市教委は「旧日本軍がアジアの人々の首を切るなど過激なシーンがある」として小中学生が自由に持ち出して読むのは適切ではないと判断した。
1973年から少年漫画誌で連載された「はだしのゲン」は、戦争が人間性を奪う恐ろしさを描いた貴重な作品として高い評価を得てきた。約20カ国語に翻訳され、原爆被害の実相を広く世界に伝えている。松江市教委も、作品が平和教育の重要な教材であること自体は認め、教員の指導で授業に使うことに問題はないと説明している。
作品に残酷な描写があるのは、戦争や原爆そのものが残酷であり、それを表現しているからだ。行き過ぎた規制は表現の自由を侵す恐れがあるだけでなく、子供たちが考える機会を奪うことにもなる。今回のような規制が前例となってはならない。
中沢さんは生前、「戦争や原爆というテーマは奥が深い。ゲンを入り口にいろいろと読んで成長してくれれば作者冥利に尽きる」と話している。被爆者が高齢化する一方、戦争を知らない世代が増え、戦争や原爆被害の体験を語り継ぐことがますます重要な時代を迎えている。こうした継承を封じてはならない。
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