原発新基準〜なぜ「立地審査指針」は外されたか
新規制基準には、これまで原発の審査に用いられた指針類(安全設計指針、安全評価指針、線量目標値指針)の中で「立地審査指針」だけが外された。
「立地審査指針」とは、重大事故の場合にも周辺住民に放射線障害を与えないため、十分な距離をとることを求めている。
本ブログで何度もとりあげたように、これまでは「格納容器はこわれない」ことを前提としていたため、影響は、原発の敷地ないに収まり、事実上、無視されてきた。が、「格納容器が壊れる」ことが前提に変われば、原発存続には莫大な土地の買収が必要となり、原発の存続は事実上不可能となる。
元原子力安全委員会事務局技術参与・滝谷紘一氏(「原子力規制を監視する市民の会」アドバイザリーグループメンバー)の説明を、赤旗8/27、8/28付けで載せている。
◇福島事故前
・重大事故、仮想事故を想定しても、原発敷地境界での全身被曝量が250ミリSV以下になること/ 近年は、国際放射線防護委員会の勧告などにより、100mSVで運用。
・東電の福島第一原発3号機。仮想事故の場合、敷地境界での被曝線量は、1.2ミリSV
◇今回の福島原発事故
・元原子力安全委員会事務局技術参与・滝谷紘一氏の調査
→ 1年間で1190ミリSV。運用してきた基準100mSVの12倍
◇事故を反映させると既存原発は不適合
・これまで「格納容器がこわれない」ことを前提とし、放出される放射能で考慮されるのは、希ガスとヨウ素だけ。セシウムなどは評価外。
・実際は、格納容器がこわれ、希ガス、ヨウ素、セシウム、ストロンチウムなど大量に放出。
・福島事故を反映した知見で立地審査すれば、既存の原発はすべて不適合になる。「そのため立地審査指針はとりいれなかったのではないか」(滝谷)
◇性能目標~セシウム以外は無視
・新基準で、重大事故時の敷地境界の被曝線量ではなく、フィルター付きベントの設置で、その性能目標をもとめることに変更。
→ 田中規制委員長「最悪の場合も、セシウム137を100テラベクトル以上放出しない。100mSVよりずっと低くなる」
・ベントに成功すれば、セシウムはフィルターで低減できるが、キセノンなど希ガスは素通りし大気中に放出される。「セシウム以外の放射性核種を無視した答弁」(滝谷)
◇実際の全身被曝量はどうなるか
・滝谷氏の試算/原発設置許可申請書をもとに5ヶ所
〜 浜岡5号機 約3万7千ミリSV / 柏崎刈羽6号機 約2300ミリSV
・「希ガスだけ考えてもフィルター付ベントで住民を被曝から守ることはできない」(滝谷)
◇位置の未評価〜 原子炉等規正法に反する
・「新基準は、原子炉の位置の適合性を評価しておらず、『位置、構造及び設備』が原子炉災害の防止上支障がないということを規定している原子炉等規正法にも反する」(滝谷)
【追記】
なぜ、国際基準である深層防護の第五層を「原子力防災」について、規制基準にいれず、防災計画を自治体まかせにしたのか。
これまで「格納容器はこわれない」として「立地審査指針」を事実上無視したため、原発の近くに多くの住民が住んでしまっている。
その住民(病人も含め)を、重大事故時に、風向きに応じて迅速に避難させる措置の確立を基準とすれば、これまた原発が存在できないからである。立地審査指針を外したのと、同じ理由による。
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