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市場「原理」への対抗原理に、農業の「多面的機能」を据えよ

 日本の農産物の関税率はEUよりも低い。「鎖国」というのはまったくのまちがい。アメリカは日本より関税は低いが巨額の輸出補助金を出している。

 そのEU、フランスで、市場「原理」への対抗原理に農業の「多面的機能」を据えた直接支払制度が農政の基本になっており「、構造政策」の補完的要素として付け加えられる「日本型直接支払制度」とは全く似て非なるものである、と問題を指摘。そして、農業を守るための直接支払い額を膨れ上がらせない道は、TPPに参加しないことである。農業情報研究所の主張。
 【グローバル化に構造改革で対応する日本農政 多面的機能支払を基本に据えよ 農業情報研究所822】

 【グローバル化に構造改革で対応する日本農政 多面的機能支払を基本に据えよ 農業情報研究所822】

 農水省が2014度の農林水産関係予算の概算要求で、「生産現場の混乱を避けるため」に、「経営所得安定対策」の名の「戸別所得補償制度」について「前年度と同額を計上する方針を決めた」そうである。他方、「担い手」への農地集積や担い手育成による構造改革の推進、次世代施設園芸の導入加速、農業の多面的機能に着目した日本型直接支払制度の検討なども重点事項として盛り込んだという。
 
 経営安定対策 前年同額へ 担い手対応も重視 農林予算概算要求で農水省 日本農業新聞 13.8.22
 
 これを要するに、従来の日本農政がはらむ矛盾がますますはっきり見えてきたということだろう。
 
 「経営所得安定対策」とは、「市場で顕在化している諸外国との生産条件の格差を是正するための対策となる直接支払を導入する」ことを主眼とするものである(第2回食料・農業・農村基本計画、2005年)。とすれば、それは「諸外国との生産条件の格差」は埋めがたいことを前提に、グローバリゼーションの進展(関税等による国境保護の削減・撤廃)によって生産条件(土地など自然条件)に勝る外国と競争できなくなる国内農家の存続を図るための「直接支払」政策であるはずのものである。

 ところが、当時の基本計画が言う「経営所得安定対策」の対象は、「認定農業者のほか、・・・経営主体としての実態を有し将来効率的かつ安定的な農業経営に発展すると見込まれる」(一定の面積規模要件を満たす)「担い手」とされた。諸外国との生産条件の格差は埋めがたいが、この埋めがたい格差を埋めようとい努力をする者のみを援助する。明らかに論理的矛盾がある。

 どうしてこういうことになるのか。関税の引き下げや撤廃によって消費者(国民)は利益を得るが、直接支払のための「納税者」(国民)の負担は増加する。この負担を減らすためには、あるいはこの負担増加を国民に甘受させるたには、埋めがたい格差を少しでも是正せねばならない、少なくもそういうフリをしなければならない。そのためには、構造改革政策、規模拡大による効率的農業の確立に向けた支援が不可欠だ。そうしなければ、国民は消費者負担型農政から直接支払型農政への転換を納得しないだろう、そんなところだ。

 民主党政権誕生による「戸別所得補償制度」は、こういう矛盾を払拭したわけではないが、いくぶんなりとも和らげた。ところが、自民党政権復活と一層のグローバリゼーション促進=TPP交渉参加で、以前にも増した矛盾が「復活」しようとしているわけだ。「農業の多面的機能に着目した日本型直接支払制度」は、この矛盾をただただ糊塗しようとするものにすぎない。

 日本農政がヒントを得たとされるEUやフランスのグローバリゼーション対応は、これとは全く似て非なるものだ。EUはグローバリゼーション=市場「原理」への対抗原理に農業の「多面的機能」を据えた。フランスも同様だ。西欧一の生産性を誇るパリ盆地の穀作農業でさえ、アメリカやオーストラリア、南米とは全く競争にならない。だからこそ、1999年農業基本法の提案 理由説明で、当時のル・パンセック農相は、「欧州農業は最も競争力が強い世界の競争者と同じ価格で原料農産物を世界市場で売りさばくことを唯一の目標として定めるならば、破滅への道を走ることになる。それは、フランスの少なくとも30万の経営を破壊するような価格でのみ可能なことであり、それは誰も望んでいない」と述べたのである。

 「世界の競争者と同じ価格で原料農産物を世界市場で売りさばくことを唯一の目標」する「構造政策」からはきれいさっぱりお別れしよう。それでも、市民は農業の「多面的機能」を助長する「直接支払」は受け入れるだろう、「農業のための大きな公的支出は、それが雇用の維持・自然資源の保全・食料の品質の改善に貢献するかぎりでのみ、納税者に持続的に受け入れられる」。こうして、農政の究極の理念に「多面的機能」の促進を掲げたのである。1999年農業基本法第一条は、「農業政策は農業の経済的・環境的・社会的機能を考慮に入れ、持続可能な発展を目標として国土整備に参加する」と述べる。フランスの多面的機能支払は農政の「基本」であり、「構造政策」の補完的要素として付け加えられる「日本型直接支払制度」とは全く似て非なるものである。これは、日本では「担い手」になり得ない「兼業農家」にも支払われる(多面的機能促進に寄与するかぎりで)。

 EUの共通農業政策(CAP)もまたそうである。ウルグアイ・ラウンドにおいて、EUは、無統制な貿易自由化=世界市場における市場原理の貫徹を主張する米国に「非貿易関心事項」(事実上、「多面的機能」に重なる)を掲げて対抗した。それは、取り払われる国境措置に代わる「直接支払」を正当化する概念であった。そして、ウルグアイ・ラウンド農業協定前文に、農業の助成と保護の削減の約束が、「食糧安全保障、環境保護の必要性を含む非貿易関心事項に配慮し、・・・すべての加盟国間で衡平になされるべきことに留意して・・・」の文言が盛り込まれることとなったのである(北林寿信 「WTO農業交渉における農業の『多面的機能』 レファレンス 2000年3月号)。EUの直接支払も多面的機能に対する支払である。特別に環境保全的な農業を実践する農家に「環境支払」が支払われるだけなく、一般的直接支払も環境尊重が条件である。一定規模以上のすべての農家が環境保全のために一定の休耕(野生動物保護などのため)さえ義務付けられる。これにより、EU市民も農民への「大きな公的支出」を受け入れるのである。

 グローバリゼーションからわが身を守ろうというなら、日本も、農政の基本を「構造政策」(これは第一、コストがかかりすぎる)から多面的機能の促進に移行させるべきである。 規模拡大は「やる気のある」者の自力に任せればいい(その場合にも、環境や地域社会の尊重を義務付ける規制は必要だが)。それは、直接支払への国民の支持を取り付ける道でもある。そして、この費用を最小限に抑える道、払いきれないほどに増やさない道は、これ以上のグローバリゼーションを許さないこと、TPPを蹴とばすことである。

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