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TPPという不公正貿易  アメリカは巨額農業補助金を温存

 TPPでは関税撤廃が原則だが、アメリカの農業輸出補助金は議論の対象でもない。
 アメリカの穀物農家の所得の5割前後は補助金である(制度については下段に簡単な説明)。
 こうした攻撃的な輸出政策は、他国の穀物生産を破壊し、飢餓をさらに深刻にしている。この攻撃に対し、防御するのが関税であるが、
 関税撤廃だけが議論され、巨額の農業補助金は手付かず・・不公正貿易さのものである。

 農業情報研究所が「米国やEUは輸出補助で武装している。日本は関税撤廃で丸腰になろうとしている。それで世界と勝負しよう、勝負になる。政府や勇ましいマスコミはそういう。世界は関税以外の武器でも武装されていることを知らないのだ。あるいは、そういう事実には目を瞑っているのである。」と批判している。

【TPP、EUとのEPA 抜け落ちた論点 米欧の貿易歪曲的農業補助金をどうする? 7/22】

以下は、昨年はじめ「TPPと郵政改革」というテーマで話した際の資料より

■農業の輸出補助金  攻撃的保護政策
・「農業所得に占める政府からの直接支払いの割合」/フランス8割、スイス山岳部100%、アメリカの穀物農家は5割前後、日本16%前後(稲作は2割強)
・EUの農家一世帯が受ける直接支払額は日本の農家一世帯の3.6倍、アメリカの農業予算は年間10兆円(東京新聞 2011年2月7日付け)

≪アメリカの輸出補助金の仕組み≫
1.農家が満足に暮らし営農を再生産するために必要な目標価格(=A)と、国際市場で競争力を持つための市場価格(=B)の差額(A-B)を、全額政府が所得補填。
2.しかも、WTO上は、このシステムは、輸出補助金としての削減対象に認定されていない。国内支持として分類されたため、緩い削減ですまされてきた。(鈴木宣弘「WTOの枠組み合意とその意義」より)
3.輸出補助金付き穀物で攻撃されたら途上国の穀物生産は破滅
メキシコ、エルサルバドル、ハイチ・・・・などが、自給的穀物生産を衰退させた挙句、国際価格の高騰によって2008年には深刻な飢餓に直面した。
→ 日本が関税を維持しても飢餓リスクを抱える途上国には悪影響は及ぼさない。/日本が自給率を高めることは自国を守る正当防衛のみならず、途上国の飢餓リスクの減少につながる国際貢献。

 

【TPP、EUとのEPA 抜け落ちた論点 米欧の貿易歪曲的農業補助金をどうする? 7/22】

 先日紹介したように、パスカル・ラミーWTO事務局長がEU・米国の環大西洋協定や環太平洋パートナーシップ(TPP)協定交渉など、米国、EU、日本がからむ最近の二国間・地域貿易協定交渉を厳しく批判している。重要な論点の一つが、これらの交渉では、WTOの多角的交渉では最も重要な争点なる貿易歪曲的農業補助金の削減や撤廃がまったく取り上げられていないということだ(ラミーWTO事務局長 環大西洋・環太平洋(TPP)貿易交渉を酷評 新たな貿易障壁を生み出す恐れ,13.7.19)

 実際、TPP交渉においては、農産物関税の撤廃は中心議題の一つになっても、米国の巨額の農業補助金の問題はまったく取り上げられた形跡がない。交渉を主導する米国が自国の農業補助金は不問にし、他国の関税撤廃のみを迫るとすれば、これは全くの「不公正」貿易を迫るものではないか。米国が巨額の貿易歪曲的農業補助金を廃止しないかぎり、日本はそれに対する対抗手段―高率関税その他の農業保護手段―を当然の権利として保持すべきではないか。

 貿易歪曲的農業補助金は、既にWTOの下で規制、削減されつつある?確かにそうかもしれない。しかし、少なくとも米国やEUに関しては、なお巨額な農業補助金が生産・貿易歪曲的に作用し続けているのは事実である (ちなみに、WTOの米国貿易政策レビュー最新版(2012年)の最新データによれば、米国の”Amber Box ”、すなわち貿易歪曲的な黄の助成として通知されたデ・ミニミスを含む助成総量は2007年の85億ドルから2009年の115億ドルまで増えつづけている)。そして、以下に述べるように、米国では今後ますます増える可能性さえある。

 今月11日、米国議会下院が、今年9月末に期限切れとなる現行農業法を更新する新農業法案を採択した。

5年ごとに改訂され、この改訂作業に失敗すれば価格政策は牛乳その他の品目の価格の暴騰につながる。
1949年制定の恒久法に逆戻りする米国農業法には、碌な仕事にありつけず、日々の食料の調達にも苦労する貧しい人々の食料購入を支援する「フードスタンプ」計画を含めるのが永年の慣例である。ところが、多くの保守派議員が財政規律の模範と自賛するこの下院法案は、この慣例を破り、「フードスタンプ」計画を農業法案から切り離してしまった。それがノーベル賞経済学者・クルーグマン教授の激怒を呼んだことは先日紹介したとおりである(「小異捨て、勝てる候補に」 棄権なら「白紙委任」)。

 しかし、この法案には、耳目を引きやすいこういう話題の陰に隠されがちなもう一つの重大な側面がある。

それは、財政危機を克服するために農業予算の大幅削減を目指すと言いながら、かつ穀物等価格の高騰で農業者が記録的利益を享受するなか、大規模農業者に大量の補助金をばらまく従来の政策から一歩も抜け出していないことだ。農業法が定める今後10年の支出の8割ほどを占めることになるだろう「フードスタンプ」計画支出を除く1960億ドル(およそ20兆円)の補助金支出は、現行法の補助金支出を128億ドル(6.5%)減らすにすぎない。しかもこれを1949年法にとって代わる恒久法にするのだという。

 全く生産しない生産者(土地所有者)にも支払われる現在の年50億ドルにのぼる「直接支払」は廃止される。しかし、自然災害に対してのみならず、市場の逆潮からも生産者を守り、大規模生産者が巨利を得ることになる({直接支払」以上に)生産・貿易歪曲的であることが明確な作物保険プログラムの支出がそれ以上に増額される(90億ドル)。 農業所得を保証する作物目標価格の引き上げで、現在の記録的な価格のわずかな低下も巨額な支出増加につながる。

 上院は6月初めに「フードスタンプ」計画を含む新農業法案を採択しており、これが欠落した農業法は大統領も受け入れるはずがない。下院法案が法として成立することはないだろう。それでも、「フードスタンプ」を除く農業者補助に関しては両院が合意する可能性が髙い。上院法案も直接支払の廃止や年90億ドルの作物保健プログラムなどでは下院法案とほとんど変わらないからだ。米国農業者は補助金なしではオーストラリアやブラジルの農業者と到底競争できないというのに、世界のどこの国の農業者が、こんな大量の補助金を受け取る農業者と競争できるだろうか。

 EUの農業補助金の大半は「グリーン化」(デカップリング)されているという。しかし、貿易歪曲的農業補助金の代名詞のような「輸出補助金」は厳然として存在する。WTOが今月発表したEU貿易政策レビュー(http://www.wto.org/english/tratop_e/tpr_e/s284_e.pdf)によれば、EUからの通報がないために農業輸出補助金(輸出払戻金)の額は2011年までしか分からないが、鶏肉8170万ユーロ、牛乳・乳製品4614万ユーロ、豚肉1912万ユーロ、生きた牛964万ユーロ、乳・乳製品542万ユーロなど、計1億7912万ユーロとなっている。

 EUの動物製品管理委員会は7月18日、2012年7月から2013年6月までの1年間に5536万ユーロ支払われ、その9割以上をフランスの業者が受け取った家禽肉輸出補助金の廃止を決めた。市場の情況の好転が理由である。ところが、フランス家禽同盟(CFA)は、世界市場価格はブラジルのダンピングで大きく下落しており、この決定は不当だと強く反発している。輸出補助金なしでは、賃金や養鶏コスト、穀物関税が低いブラジルと競争にならないということだ。農相も検討を約束した。
 Aide à l'exportation de poulets congelés - L'UE prive les volaillers français de subventions, la France en colère,Agrisalon,7.19
 それなのに、日本はEUとの経済連携協定交渉で、輸出補助を不問にしたままで、EU畜産製品の輸入関税を撤廃するのだろうか。

 米国やEUは輸出補助で武装している。日本は関税撤廃で丸腰になろうとしている。それで世界と勝負しよう、勝負になる。政府や勇ましいマスコミはそういう。世界は関税以外の武器でも武装されていることを知らないのだ。あるいは、そういう事実には目を瞑っているのである。


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