「誤解」はどちら?~新規制基準は「安全基準」ではない
新潟県知事が、柏崎刈羽原発の安全審査申請に反発しているのを、経済再生大臣が「(原子力規制委員会に)安全かどうかを判断させないというのは、少し誤解ではないかと思う」と述べたという。
新潟県知事は「福島第1原発事故の検証・総括なしに、ハードの基準を作っても安全は確保できない」と述べている。新規制基準そのものに疑問を呈している。誤解でもなんでもない。
規制基準はあくまで規制基準であって、安全基準ではない。以前よりはリスクは減少したというもの。リスク管理のためのもので、安全の判断ではない。大臣発言は国民をミスリードするゴマカシである(「誤解」でなく確信犯だろう)。
基準は、リスクに備えるためのもので、シビアアクシデント対策、原子力防災がセットでなくてはならないが、そうなっていない。
【新潟知事は「誤解」=全原発で安全確認を-甘利経済再生相 時事7/9】
【東電、見切り発車 柏崎刈羽 再稼働申請へ 東京7/3】
【柏崎刈羽原発:新潟知事、新基準を否定 再稼働は困難に 毎日6/29】
先日も書いたが、深層防護の基準を値切っている。
・第四層~格納容器の設計からの見直しがない。CA対策は追加措置で、加圧水型のベント設置には猶予期間もある。
・第五層~原子力防災を無視または骨抜き。非居住地域・低人口地域を引き続き無視。集中立地問題を無視。避難計画は、自治体まかせで、また実効性もない。
これには、住民がリスクについて情報を共有するということも含まれる。
アメリカ・ニューヨーク州のショーラム原発は、避難計画を州知事が承認しなかったため、1989年に廃炉にった。これは避難計画に疑問を持った女性が、避難の受け入れ先に準備の状況を聞いた結果、不可能だとわかったのがきっかけ。いくら計画を練り直しても計画の矛盾が解決されず廃炉に。40億ドルかけ完成していたが一度も営業運転せず1ドル売却された。
原発のリスクと向き合うとは、この程度の厳しさが要求される。
【新潟知事は「誤解」=全原発で安全確認を-甘利経済再生相 時事7/9】甘利明経済再生担当相は9日の閣議後記者会見で、泉田裕彦新潟県知事が東京電力による柏崎刈羽原発の安全審査申請に反発している問題について、「(原子力規制委員会に)安全かどうかを判断させないというのは、少し誤解ではないかと思う」と、知事の姿勢に疑問を呈した。
甘利再生相は「規制委は再稼働の判断をするところではない」とした上で、「安全であるかどうか、一刻も早く国内全ての原発が(同委の)チェックを受けた方がよい」と強調した。
【東電、見切り発車 柏崎刈羽 再稼働申請へ 東京7/3】東京電力は二日、柏崎刈羽原発6、7号機(新潟県)の再稼働に向けた審査を原子力規制委員会に申請することを決めた。広瀬直己社長が新潟県の泉田裕彦知事ら地元自治体の首長に説明した上で、新しい規制基準が施行される八日以降、できるだけ早く申請する。申請は二日、会議は開かず書面を回覧する「持ち回り」の取締役会で全会一致で決定した。
東電は原発の運転再開で火力発電の燃料費を減らし再建計画で打ち出した二〇一四年三月期の経常黒字化を目指したい考え。だが、再稼働には審査の合格と地元自治体の同意が必要で、泉田知事は福島第一原発の事故原因が究明できていないことなどを理由に慎重な姿勢を示している。
東京都内の本店で二日、記者会見した広瀬社長は「知事が反対しても審査の申請をするのか」との問いに「よく説明し理解してもらいたい」と述べるにとどめ、知事の了承がなくても申請に踏み切る可能性に含みを残した。
東電は再建計画では柏崎刈羽原発を今年四月から再稼働させる方針を示していたが、会見で広瀬社長は審査の申請や再稼働の目標時期は明示しなかった。原発の再稼働が遅れた場合の料金値上げについては「できるだけ踏み込みたくない」と従来の方針を繰り返す一方、あらためて「(原発が)全然動かなければ今の料金体系は無理」とも主張した。
柏崎刈羽原発1~7号機のうち6、7号機の申請を優先した理由に関しては「原子炉の型が同じで準備がしやすい」と説明。その上で準備が整えば、1号機の審査も申請する考えを示した。
「核のごみ」の行き場が決まらないなど、原発を取り巻く環境整備は進んでいないが、電力各社は火力発電の燃料費の負担を軽くするため原発の稼働を急いでいる。新しい規制基準の施行直後には北海道、関西、四国、九州の四電力が計六原発の審査を申請する構えを示している。◆「事故の当事者」「地元説明なし」
東京電力が柏崎刈羽原発の再稼働申請することを決めた。だが、東電は福島第一原発事故を起こした当事者で、事故は収束にはほど遠く、賠償も遅れがち。他の電力会社に遅れまいと、新潟県などの理解も得ないまま一方的に決めた。そんな東電に、果たして原発を動かす資格があるのか。あらためて疑問が湧く。
東電が、柏崎刈羽にいち早く事故時の作業拠点を建設し、巨費を投じ防潮堤やフィルター付きベント(排気)設備の整備を進めてきたのは事実だ。
しかし、ベント設備は未完成で、建屋直下にある地層のずれが活断層ではないか、との疑念は拭い去れていない。今後、原子力規制委員会が活断層と判断する可能性も残る。
これらの問題が解消されてから、再稼働を申請するのが筋だが、東電は中途半端な段階でかじを切った。
事故時に大きな被害に遭う原発周辺の自治体では、事故時の避難計画などがまだ整っていない。東電からまともな説明もない中で、いきなりの申請方針の表明だった。再稼働には否定的な態度を取ってきた新潟県の泉田裕彦知事は「これ以上の地元軽視はない」とさらに態度を硬化させた。東電自らが招いた事態ともいえるが、二日に記者会見した広瀬直己社長は「十分説明したい」を連発するばかりだった。福島事故の避難者は現在も十五万人にのぼる。その反発については、広瀬社長は「そういう気持ちになるのは理解できる」と言いつつ、電力の安定供給を建前に再稼働への期待感をにじませた。 (桐山純平)
【柏崎刈羽原発:新潟知事、新基準を否定 再稼働は困難に 毎日6/29】新潟県の泉田裕彦知事は、29日までに毎日新聞の単独インタビューに応じ、原子力規制委員会の新規制基準は不十分で「(同県内に立地する)東京電力柏崎刈羽原発が新基準を満たしたとしても安全を確保したことにはならない」との認識を示した。立地県の知事が原発の安全性に疑問を投げかけたことで、東電が目指す早期の原発再稼働は困難な見通しとなった。
泉田知事は新規制基準について「福島第1原発事故の検証・総括なしに、(設備面などに特化した)ハードの基準を作っても安全は確保できない。新規制基準は、残念ながら国民の信頼を得られない」と批判。規制委についても「地方自治行政のことを分かっている人間が一人も入っていない」と指摘、緊急時の住民の避難計画などに関し規制委が県の意見を聞かなかったことを問題視し、「こんなデタラメなやり方は初めて」と厳しく批判した。7月8日に施行される新規制基準についても「(原発立地自治体の)県の意見に耳を傾けずに作られた。外部に説明するつもりのない基準など評価に値しない」と切り捨てた。
また、万が一過酷事故が起きた際、現行法では、事態の悪化を防ごうにも放射線量の高い事故現場へ作業員を出せないことを課題として指摘。「現行制度では法律違反で誰も行かせられないが、放置すればメルトダウン(炉心溶融)が起きる。そういう問題への対応も用意しないと、事故を総括したことにならない」と述べ、政府にも法的な整備を求めた。
政府は、規制委の新基準を満たした原発は安全性が確保されたとみなし、順次再稼働させる方針を示している。しかし、実際に再稼働させるには地元自治体の了解も必要。泉田知事は、柏崎刈羽原発の再稼働の是非については「福島の事故の検証・総括が先」などと直接的な言及を避けたが、「規制委の新基準では県民の安全を確保できない」との認識を鮮明にしており、仮に規制委の基準を満たしても再稼働を認めない公算が大きい。
東電が経営再建計画で目指す今年度の黒字化には、柏崎刈羽原発の再稼働が不可欠。再稼働が遅れれば計画は大きく揺らぎ、電気料金の再値上げも一段と現実味を帯びることになりそうだ。【大久保渉、塚本恒】
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