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グローバル化と租税国家の危機(メモ)

「経済」2013.8より、特集「グローバル化と税財政」の2つ論文の備忘録
 グローバル化がもたらす租税国家の危機の内容、タックスヘイブンの問題、新たなガバナンスを築くことの意義と動きなど・・・よくわかる。

【1】 グローバリゼーションと租税国家の課題
  鶴田廣巳・関西大学教授 
【2】現代の租税国家の危機とタックス・ヘイブン
  合田寛(税財政研究者)

(参考)
「税制の隙間を塞ぐ:OECD、税源浸食と利益移転に関する行動計画(Action Plan on Base Erosion and Profit Shifting)を開始     2013/7/19」

【1】 グローバリゼーションと租税国家の課題   鶴田広巳・関西大学教授 「経済」2013.8

Ⅰ.グローバリゼーションと租税国家

(1)多国籍企業の経済的支配力――「国際的ハイ・ファイナンス」体制
・グローバリゼーションの急速な展開が租税国家のあり方に深刻な影響を及ばしている。
 *租税国家~市民革命により成立した近代国家は、現代国家を含め、基本的には租税収入によって支えられている。公債も最終的には税収に依存。封建時代は、領主からの貢物に依拠した家産国家。

・80年代以降、アメリカの覇権体制が揺らぐ中で従来とは質的に異なるグローバルネットワークを形成
とりわけ情報・通信技術の急速な発展と結びついた金融・情報資本主義の進展により様々な問題を誘発〜各国の経済にバブルの膨張と破綻を交互に引き起す/国民経済の不安定性と経済危機の連鎖反応/失業と不安定就業の増大/生活不安の高まり/貧困と格差の拡大など・・

・この事態の背景/世界経済で支配的な力をもつ「国際的ハイ・ファイナンス」体制~多国籍企業、多国籍銀行、投資銀行、ヘッジファンド・投資ファンド・年金ファンドなど各種ファンド、保険会社、裕福な個人投資家層などによる金融投機の横行

(グローバル化の指標)
・実質GDP 86-95年の年平均22.3兆ドル → 12年、71.7兆ドル 3.2倍
・世界輸出額 同時期に、4.2兆ドル → 22.4兆ドル 5.3倍
・対外直接投資 フロー 90年0.2兆ドル → 10年1.3兆ドル  6.5倍 
         残額    2.1兆ドル →   20.4兆ドル 約10倍
・海外子会社 10年 売上げ33兆ドル、付加価値額6.6兆ドル/ 
 本社含めた付加価値額は、世界総生産63.5兆ドルの1/4、16兆ドル
・海外子会社による輸出6.2兆ドル 世界貿易総額18.9兆ドルの1/3
   本社含めると世界の輸出総額の2/3

(金融面での著しい膨張) 
・対外証券投資 残高 97年5.9兆ドル → 10年40.7兆ドル(直接投資をはるかにしのぐ規模)
・銀行の海外資産  90年代初め6兆ドル強 → 07年33.5兆ドル/その後金融危機で30兆ドル。
・「影の均衡」/投資銀行、ヘッジ・ファンド、MMFなど 02年27兆ドル →11年67兆ドル
・1ヘッジファンド取引高 89年0.7兆ドル → 10年4兆ドル

(2)租税競争の強まりと、それへの対策

・グローバリゼーションの進展が租税国家に与えるインパクト~4つの問題領域(ゲンシェル)
①各国産業の対外競争力 ②租税回避と脱税 ③租税競争 ④課税ベース超国家化 
 ~ ①は、税負担が高い場合に競争力が削がれ、経済的・財政的にマイナスというもので③と重なる

◆金融資本グループの組織的な租税回避

・租税回避の広がりの背景
 ①国際的金融グループの成長による組織的系統的取り組み
 ② 資本自由化・為替管理の自由化、金融自由化など規制緩和
  タックス・ヘイブンフショア市場の発展、タックス・ヘイブンの林立

(税負担回避の実態)
・米議会調査局報告(13年1月)~ 08年、米多国籍企業
・海外利潤9380億ドルのうち43%がバミューダ、アイルランド、ルクセンブルク、オランダ、スイスで申告/この地域の雇用労働者の割合は、海外で雇用した労働者全体の4%、投資額も7%
・海外雇用労働者の40%、海外投資額の34%を占める英、独、加、豪州、メキシコで申告した利益14%

・99-08年 多国籍企業の利潤は、英など5カ国のGDPの1-2%/課税優遇国では27%→33% 
/特にバミューダ260%→1000%、ルクセンブルク19%→208%
 
・富裕層/ オフショア金融センターにある個人資産5.8兆~11.5兆ドルと推計/失った税収2550億ドル

◆情報技術の発展と資本移動の自由化

・大規模化する資本の移動を前に、課税ベースを海外から引き込もうとする租税競争、「下向き競争」の激化
~ 有力な産業をもたな小国での企業誘致、オフショア金融活動の優遇による大国の金融覇権維持の手段
→ 「下向き競争」による各国の基幹税制を構成していた個人所得税、法人所得税の基盤の掘り崩し/福祉国家の行方に対する深刻な影響

(各国の2重の対応)
①移動性の早い資本から、移動性の低い労働に税負担をシフト。所得税中心の税制から消費税中心に
②労働への負担転嫁が困難に場合。政府支出、特に社会保障のセーフティネット関連予算の削減
~ 租税と公共サービスの両面での労働側に税負担強化、給付削減

◆課税ベースの特定の困難(超国家化)

・課税ベースを、特定の領土・管轄領域と結びつけ、帰属を特定することがますます困難になりつつある~ 多国籍企業の国際的なネットワーク構造の発展、電子商取引の増大
→ 課税ベースの特定に必要な情報収集の困難性/ 課税権の空洞化に直面

・移転価格制度の適用をめぐる各国の課税当局と多国籍企業の租税紛争の深刻化

例)英・大手製薬会社グラクソ・スミスクライン社をめぐる英米間の争い~ 同社が開発した坑潰瘍薬がアメリカで売上げを伸ばしたが、その利潤のうちどけだけが、英の研究開発の寄与分か、米子会社の広告・マーケッティングに係る独自の無形資産よるものか、という点 /米・内国歳入庁は、同社が無形資産に対する報酬を考慮していないとして移転価格税制を適用し、最終的に31億ドルの追徴税額で和解。
→ 課税ベースの超国籍タックス・ヘイブン題~ 各国の課税権と多国籍企業の財政戦略との衝突と、同時に /各国課税権相互の衝突 /タックス・ヘイブンを介在させた租税回避・脱税行動による課税権の空洞化 

・電子取引でも同様の問題 ~国際課税ルールでは所得の発生は特定国の恒久的施設の存在と結びつけて認識/が、新しい情報技術のもとでは、恒久的施設の存在しない国でも事業活動を行うことが可能だから

・多国籍企業の時代には、国際的な課税協力なしには租税国家の空洞化は避けられない。

Ⅱ.租税構造の変貌と租税国家の危機

(1)租税構造の変化の特徴

◇OECD諸国全体の租税構造の推移

・総税収の対GDP比 65年以降、一貫して上昇。2000年をピークに若干低下

①所得課税は大きな揺らぎが加えられているが、その意義と役割の重要性は維持されている
・所得課税の対GDP比 65年8.9% →2010年11.3%に増加
 (税収構成比は若干低下/社会保障拠出金の比重の顕著な上昇による)
 アメリカ、カナダなど8カ国で税収の40%を越え、OECD諸国の半分の重要な収入源

②再分配機能の低下
・個人所得税 対GDP比 85年6.9% → 10年8.4%
 (が、比率は90年27.8%→18.6%低下) 
・主な要因は、最高税率の引下げ、ブラケット数の削減による再分配機能の低下 /社会保障拠出金の比重の顕著な上昇、一般消費税への依存の増加の反映
 
③法人所得税 対GDP比、構成比とも増加
・65年以降、税率の大幅な引下げにかかわらず、対GDP比、構成比とも増加
→ 課税ベースの拡大、採算性の上昇、非法人部門から法人部門への所得シフト、徴税強化

④一般消費税の比重の大幅な上昇
・消費課税全体 65年の9.6%→10年11.0%。だが構成比は、38.4%→33.1%へ減
・同時期(対GDP比)一般消費税3.3% → 6.9% /個別消費税 5.8% → 3.5%

⑤財産課税 対GDP比で、ほぼ横ばい、構成比で低下
 労働の負担が増加している場合には、財産課税の重要性が高まるが、現実はそうなっていない。

⑥社会保障拠出金 対GDP比、税収構成比でも増加
・従業員と雇用主負担 後者が一貫して高い 
・対GDP比/ 従業員負担 1.5%→3.2%  雇用主2.6% → 5.3% と従業員負担の比重の高まり

★全体の特徴/所得課税、特に個人所得税の比重の低下、一般消費税、社会保障拠出金の比重の増大
 ・消費税は逆進性が強い、/社会保障拠出金も一般にフラット税制、適用上限により逆進性を持つ
 ・個人所得税の最高税率の引下げ、法人所得税の引下げ、資本所得課税の引下げによる再分配機能の低下

(2)日本の特徴  所得課税の後退と消費税依存への傾斜

①89年の消費税導入以来、消費課税型の傾向を強めてきた
・対GDP比での所得課税と消費税の比率 65年1.66倍、90年3.67倍をピーク、10年1.62倍に低下
・所得課税の構成比 65年43.9%、90年50.2%、10年30.2%

②個人所得税の構成比 OECD平均上回る低下
 OECD 90年10.%→ 10年8.4% 1.9ポイント低下
 日 本 7.9% → 5.1% 2.8ポイントの低下
→ 資産所得の分離課税の温存、最高税率の引下げ、ブラケット数の削減による

③法人所得税 対GDP比、OECDは傾向的に上昇/、日本は90年のピークから半減
・OECD 65年2.2%、90年2.6%、10年2.9%
・日本  90年の6.4%をピークに、10年に3.2%と半減/ 課税ベースの見直しなしに税率低下

④消費税 法人税と肩をならべる
・10年・対GDP比 2.6%で、法人税と肩をならべる
・OECD全体の6.9%の4割弱だが、税率5%で、EUなど税率20%前後。「C効果性」の高さ

⑤社会保障拠出金 対GDP比で、OECD平均の1.5倍の負担増
・65年-10年 OECD 2倍弱 、 日本3倍近い伸び
・雇用主負担、従業員負担の比 
  OECD 雇用主負担が1.7倍前後 
  日本  65年の1.3倍→10年の1.0倍と、一貫して低下
・税制構成比 10年 OECD26.4%、日本41.1%と極めて高い

⑥租税総額 対GDP比 日本は34カ国中27位と低位
・社会保障拠出金を除く狭義の租税 16.3%と33位
・65-10年の対GDP比の増加分9.8ポイントのうち、社会保障拠出金7.5ポイント。77%を占める
→ 中低所得者層を中心として労働サイドの負担増

⑦歳出にしめる狭義の租税収入の割合  60-10年の推移
・日本101.2→43.5 米99.0→59.8 英93.7→69.5 独90.8→76.3 仏93.7→66.6 伊80.4→81.5
・原因 分離課税の温存による所得税の再配分機能の弱体化・税収調達力の低下 /課税ベースの見直しを伴わない法人税減税に象徴される所得税基幹税主義の放棄
→ 所得課税の再生をはからないまま「大きな企業国家と小さな福祉国家」の体制を消費税増税でまかなおうとする政府のスタンスが国民の信頼をえることは不可能。
→ 租税負担率が高いといえない日本で、国民の増税への抵抗が根強いのは、租税国家のあり方に対する国民の不信の表れ。/福祉国家の後退とあいまって租税国家の存立基盤を危うくするもの
→ 多国籍企業の利益を優先させ、国民の生活保障をないがしろにする租税国家の体質を変えないかぎり、日本の財政再建と経済の再生を両立させる展望は切り開かれない。

★この危機から脱出するには、国際租税強調のもとで、租税国家が租税構造の公平性と公共性を回復すること以外にない。


Ⅲ 国際租税競争か 国際租税強調か

(1)EU・OECDの「有害な租税競争」への対抗

・グローバリゼーション事態に租税国家が直面する問題群
~租税競争、タックス・ヘイブンと租税回避・脱税、多国籍企業と課税ベースの超国籍化

・対策を先導したアメリカ/外国税額控除制度(1918)、移転価格税制(28年、68年)、サンパートF条項と被支配外国子会社制度(62年)、過少資本税制(69年)など国際課税ルールを先駆けて整備
→ この措置は、アメリカ資本の海外進出より生じる課税ベースの流出に対し、課税権の確保を企図したもの。

・この課税ルールが果たした役割は大きいが、各国の租税制度に多くの差異がある限り、資本による租税裁定行動を防ぐことはできない。
・さらに為替管理の緩和、金融自由化により、各国は金融規制の手段を喪失/オフショア市場、ユーロ市場の発展、タックス・ヘイブンの林立のもとで、租税国家の課税権行使はますます困難に

~ 国際租税協調の強化以外に、租税国家の危機を打開する展望は開けない/様々な試みの実践

・EU欧州委員会「有害な租税競争に対抗するためのパッケージ」提案 97年
~クロスボーダーの利子所得への課税の提起
→98年、域内居住者が外国から受け取る利子所得に対し、源泉徴収税の導入か課税実態についての自動的情報交換の実行のいずれかを選択するようもとめる指令案の提起/「共存モデル」の提案
→03年 貯蓄税指令の採択/①12加盟国は自動的情報交換制度を導入 ②ベルギーなど3カ国は源泉徴収税を導入する などなど・・ /国際的な租税協調の一里塚としてのEUの取り組みの意義は大きい

・OECD 98年報告「有害な租税競争」
~ タックス・ヘイブンと有害な租税優遇措置の両方を一括して「有害な租税制度」として捉え、それが各国、各地域間に有害な租税競争を引き起こすことで、グローバルな規模で更生を低下させ、租税制度の公正さに対する納税者の信頼を掘り崩しているとして、この弊害に対する国際的な協調行動と19項目の勧告を提起
→ 検証のためのフォーラムを設立/ 00年、47項目の措置が潜在的に有害と判定され、廃止・修正された。


(2)タックス・ヘイブンをめぐる国際的協調と対立

・OECDの対抗措置にたいする米・ブッシュ政権の横槍/01年「対策の核心は情報交換におくべき、各国の租税政策や租税構造のあり方に干渉すべきではない」としてOECDのプロジェクトに不支持の宣言
・OECDは、従来の方針を放棄、透明性と情報交換に関する国際基準作成に取り組みを集中
〜 02年「モデル租税情報交換協定」の作成、05年、モデル租税条約26条の改定
→ この改定をうけて、ブラックリストに掲載されたタックス・ヘイブンは現在では存在しなくなった。

・が、解決には遠い ~タックス・ヘイブンの非居住者の銀行債務残高の動向/急成長は続く 
  80年、1981億ドル、14.8% → 00年 3兆4087億円、32.7%、10年7兆7821億円、27.3%


(3)金融取引税の試み

・リーマンショックに始まる世界金融危機は、金融資本主義を野放しにする重大な危険性を顕在化
・08年 G20サミット 議論されるが、アメリカなどの反対で、金融取引税の合意に至らず
・11年 EU欧州委員会 金融取引税の提案 〜 金融取引の一方の当事者がEU域内に立地している場合、金融機関相互の金融取引に対し、株式・債券0.1%、デリバティブは想定元本に0.01%の税率で課税
~提案理由 ①金融機関に対する公的支援で悪化した各国の財政危機に対し、金融機関に公正な貢献をもとめること ②EUレベルの協調した課税の枠組みを構築しリスキーな取引を抑制し単一市場を強化し将来の危機を回避する /予想される税収は、年570億ユーロ
→ 加盟27カ国を対象にした提案は、イギリス等の反対で、賛成国だけの導入をめざす方向に転換
→ 14年、独、仏ふくむ11カ国による金融取引税を実施/ 年300-350億の税収

~ 成功するかどうかは歴史的な社会的実験/が、 国際的な課税協力の取り組みとして大きな意義

【2】現代の租税国家の危機とタックス・ヘイブン          合田寛(税財政研究者)

1.グローバル化と租税国家の新しい危機

(1)財政の機能と新自由主義

・19世紀末以降、資本主義の下で経済に占める税制の規模の拡大/特に、大恐慌を経験し、一段と肥大化、機能の多様化。積極的な財政出動による有効需要の創出、国家が生産活動の各局面に介入し経済を支える仕組が一般化

・財政学マスグレイブ 財政の3つの機能
①資源配分機能~市場の価格調整機能によっては適切に配分されない一定の公共財について、国家がその配分に介入する。
②所得分配機能~市場の競争の中で生じる所得と登美の格差拡大を是正し、公正な分配を実現する
③経済安定機能~景気の変動を調整し、経済の成長と雇用の安定を図る。
 
 ~ 「市場の失敗」を是正し、経済を安定させる重要な役割/この機能の活用で目覚しい経済発展を実現

・70年代、各国を低成長とインフレが襲う。ケインズ政策への疑問 → 新自由主義の台頭へ

・新自由主義~財政機能のうち特に①②を、市場機能を歪めるものとして敬遠/ 歳出面では「自己責任」「自助努力」のスローガンのもと、社会保障の切り捨て/ 歳入面では、累進課税の否定、税のフラット化、消費課税中心の税体系に。企業活動の活性化を名目に法人税が減税。

・70年代以降、経済は低成長期に入る~民間需要にかわり、海外からの需要(貿易黒字)、財政への期待
~社会保障費の増加、軍事費の増大、産業インフラ・公共事業費など経費の膨張として出現
〜 低成長のもと税収は伸び悩み、「経済活性化」のための減税政策による税収低下
→ 先進国は、のきなみ財政需要の拡大、税収の低迷に直面し、財政赤字の拡大、政府債務の累積へ


(3)税・財政の変容と租税国家の新しい危機

・グローバル化のもと、新自由主義と市場原理主義は、国際的規模で展開/主役は多国籍企業、メガバンク
→ ガバナンスの巨大な空白/世界が市場を通じて直接つながり、政府の規制、財政の機能が働かなくなる

・資本は自由に国境を超えるが、国家財政は主権の及ぶ範囲で運営〜 ここから生じる2つの問題

①世界的規模で、最大限の利潤をめざし、その利潤が一握りの大企業・富裕層に蓄積。そのグローバル資本の暴走が、世界経済を攪乱。

②国レベルは、経済の空洞化、雇用悪化、歳入減少の深刻化/福祉削減、格差拡大。政府の諸規制に穴があけられ財政の機能喪失
→ 経済のグローバル化が避けられないのなら、それに対するガバナンスもグローバル化が必要
/一国レベルでは、財政の3機能を利用できる。が、グローバルな「市場の失敗」の弊害を是正する機能はどこにもない。

・多国籍企業、富裕層による税回避により、各国の財政は重大な侵食をうけ、その穴埋めに、勤労者への課税を強めている(メモ者 租税国家への信頼の崩壊)
→ グローバル化のもとでの租税国家の新しい危機。/新しい租税民主主義、新しいガバナンスが必要


Ⅱ.タックス・ヘイブン――グローバル資本主義の核心

(1) タックス・ヘイブンとは何か

・全く課税されないか、極端に税率の低い国、地域をいう ~が、単に税の回避だけでなく、金融規制が緩く顧客の秘密が守られる、会社や信託の設立が容易かつ真の所有者が秘匿される
→主権国家の法の網が届かない。その特徴をとらえ「オフショア金融センター」「守秘法域」とも呼ばれる

・タックス・ヘイブンの多くは島しょ部にあるが、その大半はイギリス、スペインなどの旧植民地国/ほとんどが、米英の主要金融センターや旧宗主国など世界の主要国と有機的つながりをもつ

・例)イギリスのシティを中心としたタックス・ヘイブンのネットワーク/ロンドンの中心部の周囲約2kmの区域。イングランド銀行をはじめ多くの金融機関が集中。/正式名 シティ・オブ・ロンドン・コーポレーション。〜独自の自治権をもち、「国家の中の国家」と呼ばれ、タックス・ヘイブンのセンター
〜第一層 ジャージー島、ガーンジー島、マン島の王室属領 /第二層 ケイマン諸島、バミューダ諸島などイギリス海外領土 /第三層 シンガポール、アイルランドなど密接な関係にある国 

・例)アメリカ/ニューヨークのオフショアセンターを終身に、デラウエア、フロリダ、ネバタなどの各州、米領ヴァージン諸島、マーシャル諸島など

・タックス・ヘイブンのネットワークを動かす世界のトップバンク、多国籍企業/ その業務を代行する弁護士、4大会計事務所など専門家グループ

・タックス・ヘイブンの際立った特徴~ その国のGDPに比して金融取引、金融資産の規模の異常な大きさ
〜 今年、深刻な財政危機にみまわれたキプロスもその1つ/GDP250億ドル、ロシア人の投資、11年2000億ドル/ ケイマン諸島は、GDPの500倍の金融資産を保有
→世界のタックス・ヘイブンの管理する資産 最大32兆ドル/ 世界の対外直接投資の1/3が投資され、世界貿易の1/2以上が帳簿上はタックス・ヘイブンを経由


(2)グローバル資本主義の病巣

 タックス・ヘイブンは部分的、限定的問題でなく、世界経済を攪乱する最大の要因の1つ

①税負担の回避と世界的な富の集中
・巨大企業、超富裕層の税負担回避と脱税の助長、富の集中/各国の税収基盤の空洞化、財政危機の要因に

(税回避の手法)
・移転価格 タックス・ヘイブンの子会社に割安価格で販売、そこから割高価格で購入する帳簿上の操作
   知的財産に伴うロイヤルティの支払いの形で、利益をタックス・ヘイブンに移動
・超富裕層 タックス・ヘイブンに信託や基金の形で資金を移動し、所得を隠す

(利用実態) 13年1月 議会調査局レポート
 海外利益の43%が5つのタックス・ヘイブン国で発生。が、実態経済の比率は雇用4%、海外投資7%。
・タックス・ヘイブンを利用できるのは巨大企業、超富裕層/ 国内中小企業、一般国民との不公平が生じ、税収に穴が空き、財政危機を招く。そして納税者の税に対する信頼を掘り崩す。

②途上国の税収を奪い、国際犯罪の温床に
・米民間研究機関「グローバル・フィナンシャル・インテグリィ」 
 途上国からの資金の不正流出 10年8590億ドル、特に近年はアフリカから。10年で5兆8600億ドル
最大の要因(8割)は、多国籍企業の移転価格操作

・民間団体「オックスファム」
 タックス・ヘイブンで保有されている途上国の個人資産は6兆2千億ドル/ それによって失った途上国の税収は640〜1240億ドル /援助でうけとった1030億ドルを上回る規模

③世界金融・経済危機の原因に
・08年の世界金融危機/金融商品の多くは、規制の緩いタックス・ヘイブンでつくられ、投機をあおったヘッジファンドのほとんどはタックス・ヘイブンに登録されている。


Ⅲ.タックス・ヘイブン改革の機運

(1)「二重課税の排除」から「二重非課税」へ

・タックス・ヘイブンの隆盛/ 多国籍企業の活動の活発化、富の一極集中。(情報技術の驚異的な発展)/ケインズ政策にもとづく積極的な財政政策による財政規模の肥大化と財源としての増税からの回避
・税回避に対する各国が共同しての取り組み
98年 OECD「有害な租税競争」 ブラックリスト公表、モデル租税条約締結など/が、無力

(多国籍企業化~ 海外にある子会社の所得に対し、どの国が課税するか、という問題の発生)
・居住地国(本社の所在地)と源泉地国(子会社の所在地=所得が発生した国)との課税権の調整の問題
・多くの国では、「居住者」の世界所得とともに「非居住者」の国内所得を課税対象とする原則を採用
→その場合、「非居住者」は海外で課税され、本国でも課税される「二重課税」の恐れ/ その対策してOECDが主導して、各国は二国間で二重課税排除のための租税条約を締結。
→ が、何をもって「居住者」とするか/定義が難しく、国によって違う(本社所在地を居住地とする国、その会社を管理・支配する拠点がある国など)
→多国籍企業は、国によるルールの違いを利用し、どの国にも居住しない「無国籍企業」となることが可能に
~「二重課税の排除」を目的とした租税条約の網をかいくぐり「二重非課税」の抜け道を開発

例)アップル社 2013.5 アイルランドでは国内に経営機能がある会社にしか課税されない/アップル社は米国に経営実態を置く形にし、アイルランドの子会社に利益の大半を集中し、「二重非課税」をつくり出した。

(2)岐路にたつタックス・ヘイブン

・近年、タックス・ヘイブンの弊害を告発する市民団体などの運動を背景に改革の動きが急速に高まっている。
  英「タックス・ジャスティス・ネットワーク」、米「シティズンズ・フォア・タックス・ジャスティス」などの活動を背景に、昨年スターバック、グーグル、アマゾンの税回避が暴露される。

・タックス平分の最大の魅力は「秘密性」~ 透明性を強化すれば、タックス・ヘイブンの魅力は消滅に
→自動情報交換の制度確立が不可欠 
・オバマ政権の「フォーリン・アカウント・タックス・コンプライアンス法」の成立(2010年)は、その大きな一歩。
→ 同法/ 金融機関に対し米国民が保有する外国口座を内国歳入庁に報告することを求めている。
・EU 「セービング・タックス・ディレクティブ」(08年)/情報交換か、35%の源泉課税の選択/同制度は、抜け穴も多く問題があるが、米のFATCと連結して、国際基準の確立が求められる。

・新しい改革案の相次ぐ提唱

例)「ユニタリー・タックス」(ランカスター大ソル・ピチョオット教授)
多国籍企業の世界に分散する子会社を独立したバラバラの会社と見なさず、実態の通り1つの会社として課税するというもの/ その税の総額を、資産額、雇用者数、販売高などを基準に、実際に生産活動が行われた国に配分するというもの。
→ タックス・ヘイブンの子会社にロイヤルティを払ったり、移転価格で利益を移すことが無意味に。途上国から税収を奪うこともなくなる。
/この方式は、アメリカの州で採用されている。EUで「共通統合法人課税ベース(CCCTB)」として検討されている。

・タックス・ヘイブンに反対する市民運動が、G20、OECDを動かしつつある

OECD発表「課税ベース侵食・利益移転に関する報告書」
~「税のルールは、グローバリゼーションの現実に追いついていない」と、これまでの二国間のルール化という取り組みの限界をみとめ、グローバルで包括的な思い切った改革の必要性を指摘
→ 多国籍企業の戦略が、グローバルな利潤の最大化にあることを認めるなら、その子会社を別個の独立した会社と見なす現行のルールは根拠を失う。


Ⅳ おわりに~ 租税民主主義の対抗軸の構築へ

・1%のための政治~ タックス・ヘイブンはその象徴
・タックス・ヘイブンを利用した資本の逃避、税収の侵食は、ギリシャ、キプロスのような財政危機と国家破綻の危機を招いている。/また、税回避、租税競争により、先進国は、軒並み税収不足と深刻な財政危機にあえぐ事態に。

☆これらの事態は、租税によって成り立つ近代国家の深刻な危機と言うべきもの。
→ この危機をつくり出したのは、多国籍企業、超富裕層、彼らに便宜を図ってきた先進国政府、グループ
→ よって、この危機を根本的に解決する力は、最も被害を受けてきた各国の勤労者・市民、途上国政府とその世界的なネットワークにある。/租税民主主義の新しい対抗軸の構築が必要
・途上国も参加する国連を舞台にし、世界の99%の勤労者、市民が声を上げるときである。


【参考】 


「税制の隙間を塞ぐ:OECD、税源浸食と利益移転に関する行動計画(Action Plan on Base Erosion and Profit Shifting)を開始 2013/7/19」

 各国の租税法は企業のグローバル化や電子経済に追いついておらず、このため人為的に節税するために多国籍企業が利用できる税制の隙間が放置されています。

 OECDの税源浸食と利益移転に関する行動計画 (Action Plan on Base Erosion and Profit Shifting)は、政府が市民に奉仕するために必要とする税収を集められるようにするグローバルなロードマップを提供するものです。 また企業にも投資を行い成長するために必要な確実性を与えるものです。

 この行動計画は、G20からの要請で作成され、モスクワで開かれたG20財務大臣会議に提供されたもので、企業が税金を少ししか払わない、または全く払わないと言った事態を防止するための国内および国際的な手段を政府に与える15の特定の行動を明らかにしています。

 「この行動計画は今後2年間かけて展開していくもので、国際的な租税協力の歴史の転換点となるものだ。 これによって各国は税源浸食と利益移転を防ぐために必要な、国際的に調和された包括的で透明性のある基準を作成することができる」とアンヘル・グリアOECD事務総長は述べました。 「国際課税のルールは、多くは1920年代に遡るが、企業が2か国で課税-二重課税-されないことを確保するものである。 これは素晴らしいものであるが、残念ながらこのルールが今では濫用され、二重非課税となることを許している。 この行動計画はこの状態を是正して多国籍企業がそれに見合う税を負担することを目的としている。」

 この行動計画について、Anton Siluanovロシア財務相は次のように述べました。「我々はG20議長国として、OECDの作業が、国際課税制度が公平性という基本的な信条を歪めることなく成長と競争を促進し、多国籍企業が国内企業や個人の納税者により高い税負担を強いることなく繁栄できるようにすることを確保するものと称賛する。」

 行動計画は、電子経済に対処する重要性も認めています。電子経済は製品とサービスについて国境がない世界をもたらしていますが、特定の国の税制の中に収まらないケースがあまりに頻繁に起こっており、利益が課税されないという抜け穴を残しています。

 この行動計画は、二重非課税を防ぐための新たな基準を開発することとしています。 国際協力をより緊密にすることで、同じ支出に対する多重控除や「条約漁り(treaty-shopping)」によって節税目的で所得を「消す」ことを書類上許すことで生じる隙間を無くすことができます。特定外国子会社に対してより強力なルールを適用することで、各国はオフショア子会社に隠された利益に課税することができるようになるでしょう。

 国内および国際課税のルールは、所得と、それを生み出す経済活動の双方にかかわるものです。 既存の租税条約と移転価格ルールは、場合によっては、課税となる利益を、その利益を生み出す価値創造活動(value-creating activities)と切り離すことを容易にすることがあります。 行動計画は、税を実態に合わせることによって、これらの基準の意図された効果をもとに戻します。-無形資産(例えば特許や著作権)、リスクまたは資本を、価値が創造された国から他へ移すことによって、課税利益を人為的に移転させることができなくなります。

 透明性を高め、データを改善することは、金融資産が創造され投資が行われる場所と、多国籍企業が税金を支払うために利益を報告する場所との断絶状態を評価し、止めるために必要です。納税者に濫用的租税回避と移転価格の文書のルールを報告させ、その情報を国ごとに分類することによって、政府はリスクのある分野を特定し、その調査戦略に集中することができます。 そして、紛争解決のメカニズムをより効果的にすることで、民間に対し安定性と予測可能性をもたらします。

 行動計画で概略が示された行動は、OECD全加盟国とG20諸国が対等な立場で参加する、OECD/G20共同プロジェクトによって今後18~24か月の間に実現されていきます この行動が迅速に実施されることを確保するため、関係国が既存の二国間協定のネットワークを改良できるように、多国間協定も開発することとしています。

 ・税源浸食・利益移転に関するOECDの研究については、下記のウェブサイトをご覧ください。http://www.oecd.org/tax/beps.htm

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