沖縄の目から見た「自民改憲草案」の危険性
沖縄戦・集団自決、米軍基地被害と県民あげてのたたかい --- 過酷な体験をしている沖縄の目から見た自民改憲草案の危険性。琉球新報が3回にわたって憲法の社説。力が入っている。
“天賦人権説の否定。大日本国憲法と論理構造がウリ2つ”
“自衛の名のもとに戦争に道ひらく。米国が一方的に始めた戦争に日本が引きずり込まれる”
“少数派を圧殺しかねない多数決の怖さ、暴走しがちな人間の弱さに着目し、権力を縛るのが憲法の役割であり、憲法が硬性であるゆえんだ”
【参院選 憲法(下) 人類の到達点放棄するのか 琉球新報7/13】
【参院選・憲法(中) 9条の意味 かみしめたい 7/12】
【参院選・憲法(上) 96条改正は変則的だ 7/11】
【参院選 憲法(下) 人類の到達点放棄するのか 琉球新報7/13】基本的人権の尊重は日本国憲法の三原則の一つだが、自民党の改正憲法草案はこの点に関する重要な変更を含む。参院選はその変更の是非を問うことになろう。
草案は何より天賦人権説を否定しているのが特徴だ。生命、自由、幸福追求といった基本的人権は、人類が生まれながらに持つ侵すことのできない権利という概念を、現行憲法は徹底して貫く。だが草案はその「天賦人権説に基づく規定を全面的に見直す」(自民党憲法改正草案Q&A)と宣言する。
13条の変更が典型だ。これら基本的人権の尊重について現行憲法は「公共の福祉」に反しない限り、という条件を掲げるが、草案はこれを「公益及び公の秩序」に反しない限り、と変更した。
一見、似たものに見えるが、憲法学の解釈では全くの別物だ。「公共の福祉」であれば、個人の人権を制限できるのは別の個人の人権と衝突する場合のみ、だ。「公益・公の秩序」となれば「国や社会の利益・秩序が、個人の人権より大切」ということになる。
21条の、集会・結社など表現の自由も、現行憲法は一切の留保条件なしに保障する。だが草案では「公益・公の秩序」に反しない限り、という条件付きとなる。
何が公益で、どんな行動が「秩序を乱す」と判断されるのか。決めるのは国であろう。すると、例えば基地移設反対の県民集会も取り締まりの対象で、政府を批判する論考を書けば投獄される。そんなことも合憲となりかねない。
戦前の大日本帝国憲法も「日本臣民ハ法律ニ定メタル場合を除」くなどと、言論の自由に留保条件を付けていた。草案はそれと論理構造がうり二つである。
18条「何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない」も、草案は削除した。これにより徴兵制が可能になるとの解釈が一般的だ。拷問禁止の36条も「絶対に禁止する」から「絶対に」を削った。本則はともかく例外的には拷問も可能と解釈できる。
草案は大規模災害や有事の際に内閣が法律と同じ効力の政令を制定できるとする。国会の審議なしに、だ。国民がそれに従う義務も定める。戦前の戒厳令と同じという批判に対し「Q&A」は否定するが、否定の根拠は示していない。
天賦人権説という人類の到達点を放棄してよいのか。その是非を徹底して考えたい。
【参院選・憲法(中) 9条の意味 かみしめたい 7/12】
戦争の放棄、戦力の不保持を掲げる9条は、近隣諸国への侵略を含め国内外の戦闘でおびただしい数の市民が犠牲となった反省から生まれた。安倍晋三首相をはじめ、すべての政治家は、この歴史的事実と真摯(しんし)に向き合わなければならない。
自民党の改憲草案は、現行憲法9条2項の戦力不保持と交戦権否定のくだりを削除し「自衛権の発動を妨げない」と記述し、「国防軍」を保持するとしている。
かつて吉田茂首相は国会で、戦争の多くは「自衛の名において戦われた」と指摘し、現行憲法は「自衛の名においても(戦争を)放棄している」と説明した。
9条があったので日本は、朝鮮戦争、ベトナム戦争、湾岸戦争、アフガニスタン戦争に参加せず、犠牲者を出さず、他国の人の命を奪うこともなかった。
しかし国防軍創設は、自衛という名の下に戦争ができる国になることを意味し、9条の精神を骨抜きにしてしまう。
自民党改憲草案の解説資料として作成した「Q&A」は「自衛権には集団的自衛権が含まれる」と明記している。集団的自衛権を行使すれば、米国が一方的に始めた戦争に日本が引きずり込まれてしまう。集団的自衛権は抑止力にならず、日本人がテロの標的になる可能性が高まる。同盟国を守ることは当然の義務だというが、国家の第一の役割は自国民の命と財産を守ることであることを忘れてはならない。
草案9条の2は「公の秩序」維持のためにも、国防軍が出動すると定める。すると政府が「公の秩序」を害すると判断すれば、市民運動を鎮圧することもあり得る。沖縄戦の教訓から導き出されたように、軍隊は国家を守る組織であり、決して住民を守らないことを指摘しておきたい。
国防軍は規律を維持するために市民法とは別の軍法を持つ。機密保持を目的に、国民の知る権利が狭められる恐れもある。戦争や内乱など有事には緊急事態を宣言して内閣に権限を集中させると定めるから、人権保障の制限も可能だ。権力を縛るという憲法本来の役割を失い、国民主権を否定しかねない内容だ。
参院選は9条がどうあるべきかを問う選挙でもある。日本の平和のために、その規定の意味を深く吟味し、かみしめたい。
【参院選・憲法(上) 96条改正は変則的だ 7/11】安倍晋三首相は1月の衆院本会議で「まずは(憲法)96条改正に取り組む」と明言した。だが今、議論は沈静化した感がある。しかし選挙後再び浮上するであろう。各党は改正の是非を堂々と争点に掲げ、正面から論じるべきだ。
96条は憲法改正の手続きを定める。衆参両院の総議員の3分の2以上の賛成、国民投票で過半数の賛成という2段階の手続きが必要と規定する。
これに対し、自民党の憲法草案は「衆参両院の総議員の過半数、国民投票の有効投票の過半数」へと改めるよう求める。日本維新の会も手続き緩和を求めている。
過半数で改正できる他の法律と異なり、憲法は改正手続きが厳格だから「硬性憲法」と呼ばれる。「軟性」はイスラエルやタイなど4カ国にすぎず、世界の圧倒的大多数が硬性憲法である。
自民党は「世界的に見ても改正しにくい憲法だ」と主張するが、疑問だ。例えば米国は上下両院の3分の2以上の賛成と、4分の3以上の州議会の承認を必要とする。確かに米国は第二次大戦後6回改正したが、いずれもこの厳格な手続きを経た上で実施したものだ。つまり、それほど広範な国民の支持を得て改正しているのだ。
憲法の改正要件を緩和した例は世界中で一つもない。改正したければその中身を堂々と掲げ、広範な支持を得て改正するのが筋であろう。それだけの支持を得るのが難しいから、手続きの方を先に改正しようとするのは、小林節慶応大教授の言葉を借りれば「裏口入学のようなやり方」だ。小林氏は、岸信介元首相が会長だった自民党の自主憲法制定国民会議にも参加していた改憲論者である。
そもそも憲法がなぜ「硬性」か。民主主義国で権力を握るのは国民の多数派だが、多数派も過ちを犯すことがあるからだ。多数意思の暴走の怖さは、ナチスが選挙を経て権力を握った歴史が示している。
今も、例えば米軍普天間飛行場に関し、沖縄県民の意思を圧殺し、沖縄だけに移設先を限定しようというのが国民の多数派である点を見れば、多数決の怖さが分かる。
少数派を圧殺しかねない多数決の怖さ、暴走しがちな人間の弱さに着目し、権力を縛るのが憲法の役割であり、憲法が硬性であるゆえんだ。それが立憲主義であり、近代の英知、到達点である。その重みをかみしめるべきだ。
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