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パスワードを頻繁に変える時代に「マイナンバー」~人権侵害・税金の無駄、今世紀最大の愚作

税経新人会全国協議会6月号より。

・ハッカー対策から、電子取引では、頻繁にパスワードを変えることで安全を確保するのが常識である。…生涯不変の見える共通番号/ マイナンバー(私の背番号)を一生涯にわたり国民に汎用させるのは今世紀最大の愚策。明らかに時代遅れ。
・日本が採用する共通番号制は、成りすまし犯罪を誘発し時代遅れとされるフラット・モデル(型)。
・同じモデルのアメリカでは、「負の遺産」と化し、徐々にセクトラル・モデルに移行してきている。/2006年 2008年ベースで、成りすまし犯罪の被害者が1,170万件。損害額は、約173億ドル。
・個人番号IC カードの携行なしには出歩けない社会となる。個人番号IC カードは「現代版通行手形」と化す。/「逃れられない監視社会」となる。
・政産官学がスクラムを組んで、IT 利権がらみの公共工事をすすめる愚策。今ある目に見える分野別の番号を効率化・整備して紐付けできる仕組みを構築することで十分である。

【パスワードを頻繁に変える時代に生涯不変の「見える共通番号(国民背番号・マイナンバー)」を導入する愚策  時代は、共通番号から分野別番号への流れ 石村 耕治(白鴎大学教授)2013/6/30】

【パスワードを頻繁に変える時代に生涯不変の「見える共通番号(国民背番号・マイナンバー)」を導入する愚策  時代は、共通番号から分野別番号への流れ】

 石村 耕治(白鴎大学教授)

◆はじめに

「社会保障と税の一体改革」を旗印にし、国民総背番号制を導入する共通番号関連法案は、5月9日の衆院本会議で可決、参院へ送られ、5月24日に参院本会議で可決、成立した。

 ICT(情報通信技術)全盛の今日、行政事務やそれに関連する民間の事務は、現実空間(real space)のみならず電脳空間(cyber space)にも広がっている。雇用その他各種サービス給付を受ける際に共通番号を所轄機関や企業などに提示したとする。その機関や企業のコンピュータに蓄積された「共通番号付き個人情報(特定個人情報)」は、ハッカー攻撃で常に盗み出される危険にさらされる。

 今日、企業や機関、個人から情報を盗み出すハッカー技術と、それを探知・防止する技術はイタチごっこが続いている。ハッカー対策から、電子取引では、頻繁にパスワードを変えることで安全を確保するのが常識である。裏返すと、生涯不変のマスターキーのような共通番号は一度盗み出されれば、成りすまし犯罪には極めて脆弱である。共通番号を使うことを強いる政府の構想は、原発以上に「負の遺産」となるはずである。

 この問題では翼賛マスコミに変節した主要新聞なども常に「行政手続が便利、簡単になる」程度の紹介に徹し、問題の本質には触れないで無関心を装っている。財界のPR 紙とやゆされる日経新聞にいたっては、国民監視ツールの導入で「IT 利権」が高笑いの状況を「関連市場は3兆円」(5月10日朝刊)といった大見出しで記事にする始末である。

 パスワードを頻繁に変える時代に生涯不変の見える共通番号/ マイナンバー(私の背番号)を一生涯にわたり国民に汎用させるのは今世紀最大の愚策である。明らかに時代遅れでもある。こうした時代の要請を直視しようとしない政治姿勢は、大きな不幸をうむことにつながる。安全神話が説かれていた原発は、いまや国民のマインドコントロールが解け、想定外ではすまされない実情にある。ましてや共通番号にいたっては、導入する前からその欠陥が明らかなのである。本来リコールすべき構想であるのに、これをすすめるのは愚策である。「社会保障と税の一体改革」はどこかに吹っ飛び、国民総背番号制の導入だけが決まったことも解せない。

◆共通番号の導入行程

 政府は、今後の方針として、当初の予定より1年遅れるが、2015年中に全国民への共通番号である個人番号/ マイナンバー(私の背番号)を割り当て、2016年1月には利用を開始する構えである。2015年中に住民票をもとにした個人番号を記した紙製の「通知カード」が各世帯に送られる。

各人は通知カードと引き換えに、個人番号が記載され顔写真付きのIC カードを受け取ることになる。その工程は、おおよそ次のとおりである。

【図1】 共通番号/ カード導入の工程のあらまし
・住基ネットの住民票コードから国民一人ひとりに12ケタの個人番号をつける。
・2015年中に市町村が各世帯あてに本人の個人番号を「通知カード」で送付する。その後、各人は通知カードと引き換えに市町村から顔写真付きの個人番号IC カードの交付を受ける。
・2016年1月から納税や年金の照合などから個人番号の利用を開始する。
・2017年1月からは、国税庁や日本年金機構など国の機関が個人番号で個人情報に照合を開始する。また、同年7月からは地方自治体も地方税などの事務に個人番号の利用を開始する。
・個人番号を扱う行政機関をチェックする「特定個人情報保護委員会」を設置する。
・法施行以降3年後をめどに個人番号利用範囲の拡大を検討する。

◆住基ネットと共通番号の大きな違い

住基ネットと共通番号制との違いをあげると、次のとおりである。

【図2 住基ネットと共通番号制との違い

★共通番号制の特徴
(1)3点セット。つまり  見える化/ オープン(公開)利用の個人番号、 個人番号IC カード(法56条以下)、 情報連携/ データ照合/ 情報提供ネットワークシステム基盤(法19条以下/ 法1条13号)が主なコンポーネント
(2)フラット・モデル。つまり一つの個人番号をマスターキーのように官民で多目的利用(汎用)する方式
(3)法定受託事務(国の監督下で自治体が事務を代行)(法58条)
(4)特定個人情報〔個人番号がふられた個人情報〕は、国家は、公益上の必要性を理由(任意の税務調査を含む)(法17条11号)に自由に利用できる。こうした利用については、「特定個人情報保護委員会」のチェックの対象外である。

★住基ネットの特徴
(1)2点セット。つまり クローズド(非公開)利用の住民票コード、 住基IC カードが主なコンポーネント
(2)自治事務
(3)住基ネット違憲訴訟で、最高裁は、住基ネットは、「情報連携」が実施されていないので合憲とした。


◆番号制モデル(方式)の分類

  グローバルに見ると、番号制は次の3つのモデル(方式)に分けることができる。わが国が採用する共通番号制は、成りすまし犯罪を誘発し時代遅れとされるフラット・モデル(型)である。このモデルを採用してきたアメリカでは、「負の遺産」と化し、徐々にセクトラル・モデルに移行してきている。

【図3】 番号制モデル(方式)の分類
①セパレート・モデル(方式)
分野別に異なる番号を限定利用する方式〔例、ドイツ〕
②セクトラル・モデル(方式)
秘匿の汎用番号から第三者機関を介在させて分野別限定番号を生成・付番し、各分野で利用する方式〔例、オーストリア〕
③フラット・モデル(方式)
一般に公開(見える化)されたかたちで共通番号を官民幅広い分野へ汎用する方式〔例、アメリカ、スウェーデン、韓国〕


◆エスカレートする時代遅れの危ない共通番号

  わが政府が提案する共通番号構想では、段階的に番号の利用範囲を広げていくとしている。しかし、導入段階【限られた行政分野+関連民間分野】、3年後の第二段階【あらゆる行政分野+関連民間分野】、第三段階【民間の自由な利用)と広げて行けば行くほど、この番号は極めて危険な成りすまし犯罪ツールと化すことは目に見えている。第三段階では、例えばJR や私鉄が不正乗車牽制をねらいに定期券購入の際に共通番号の提示を求めることも可能になる。

【図4】 ビジネス界と政府がコラボで共通番号のエスカレート利用のイメージ
①導入段階(限定利用) → ②第二段階(全行政分野での拡大利用) →③第三段階(民間の自由な利用) 


◆わが国の住基ネットを基盤とした共通番号制のイメージ

わが国が導入する共通番号制は、フラット・モデルの番号制である。すなわち「一つの個人番号を共通番号として官民で多目的利用(汎用)するマスターキー」として使う方式である。これにより、市民の幅広い個人情報を官民の多様なデータベース(DB)に分散するかたちで集約的に国家管理のもとに置こうというわけである。そのイメージは、図5のとおりである。

【図5】 住基ネットをベースとしたマイナンバーとIC(ID)カード制のイメージ

P1306021

 ちなみに、「公益上の必要性」があれば、当局は、「番号付き個人情報(法的には「特定個人情報」)を入手できることになっている(法17条11号)。これでは、" 官視" 利用の歯止めはきかない。

 また、覗き窓である「マイ・ポータル(ポータルサイト)」も、各人が個人IC カードで国家が管理する自分の情報を見られるから便利だという。しかし、カードを入手できれば他人も見れるわけで、極めて危ない仕組みである。高齢者などが被害に合うのは必至である。


◆アメリカでは、共通番号を止めて分野別(個別)番号に転換の方向

  アメリカでは1930年代から久しく、フラット・モデル(方式)の共通番号を採用してきた。このモデル(方式)のもと、個人の共通番号である社会保障番号(SSN=Social Security Number)を見える化(公開/ オープンに)し官民で幅広く使ってきた。しかし、今日、共通番号(SSN)は成りすまし犯罪ツールと化し、被害が極めて深刻である。

 アメリカ連邦司法省の統計によると、2006年 2008年ベースで、成りすまし犯罪の被害者が1,170万件(16歳以上の全人口の約5%)にのぼっている。また、同時期の成りすまし犯罪による損害額は、約173億ドル【1ドル= 100円換算で、1兆7,300億円(年5,000億円超)】にのぼっている。こうした成りすまし犯罪の最大の原因が、フラット・モデル【一つの番号をオープンにして多目的利用/ 汎用する共通番号】である「社会保障番号(SSN)」にある。

 アメリカの社会保障番号(SSN)が導入されたのは、1936年である。パソコンとインターネットを使ったサイバー取引などまったくなかった時代である。現実空間の取引だけの時代である。ところが、今日は、現実空間の取引に加え、パソコンとインターネットを使ったサイバー取引網が縦横に走り、グローバルな広がりを見せるICT(情報通信技術)全盛の時代である。こうした時代にあっては、犯罪対策からパスワードはできるだけ頻繁に変えるように求められる。生涯不変の共通番号(SSN)の汎用は時代に合わない。

◎米国防総省は共通番号を止め独自の番号を採用

アメリカでは、見える共通番号(SSN)を悪用した成りすまし犯罪に手を焼いている。ついに、昨年(2012年に)、国防総省(DOD= Department of Defense)は、国家安全保障対策から、共通番号(SSN)から離脱し、軍務に独自の分野別番号「DOD ID 番号」への一斉転換、利用に踏み切った。

◆【図6】国防省共通アクセスカード( DODCAC/ID card)サンプル

P1306031

◎米国税庁も一部分野別番号採用へ転換

また、2011年1月から、連邦課税庁/ 国税庁(IRS = Internal Revenue Service/ 内国歳入庁)も、成りすまし不正申告の被害を受けた個人納税者向けに「身元保護個人納税者番号(IP PIN=Identity Protection Personal Identification Number)」の発行を開始した。

◎高齢者医療保険(メディケア)でも分野別番号へ転換の方向
 さらに、アメリカでは、「メディケア(Medicare)」という名の高齢者向けの公的医療保険制度を維持している。メディケア(高齢者医療)カードには、健康保険請求番号(HICN=Health Insurance Claim Number) が記載されており、HICN には、共通番号である社会保障番号(SSN)が転用されている。このHICN/SSN が成りすまし犯罪のツールと化している。多くの高齢者が多発する成りすまし犯罪に巻き込まれ、深刻な社会問題となっている。

【図7】メディケア(高齢者医療)カード・サンプル 略

連邦議会下院は、2012年8月1日に、共通番号(HICN/SSN) を悪用した成りすまし犯罪に対処するねらいから、下院歳入委員会の社会保障小委員会(Social Security Subcommittee) と保健小委員会(Health Subcommittee)が共同で、「メディケア(高齢者医療)カードから共通番号(SSN)を削除することに関する合同公聴会」を開催した。今後、メディケア(高齢者医療)カードから共通番号(SSN)を削除し、分野別(個別)番号を採用する方向で検討をすすめている。

  このように、アメリカでは成りすまし犯罪対策から、他の官民のさまざまな機関で共通番号(SSN)から分野別番号への転換を検討している。しかし、国防総省(DOD)のような血税で対応できる機関は別として、大多数の機関は、膨大な手間とコストがかかることから転換に二の足を踏んでいる。

◆社会保障と税情報の紐づけは共通番号がなくとも可能
 政府の最大のねらいは、給付効率化のために社会保障と税の情報を紐づけ(データ照合/ 情報連携)したいということであろう。そのためにネットワーク上に「情報提供ネットワークシステム(情報連携/ データ照合)基盤」、つまり、いわば「ウソ発見器」を構築することにある。

【図8】 住民票コードとリンケージした分野別番号制の仕組み
P1306051


 政府は、そうした仕組みの構築には、共通番号は必須と触れ回っている。しかし、図8のように、成りすまし犯罪ツールにもなる共通番号を導入しなくとも構築できる。明らかに不要な公共工事である。

◆個人番号ICカードは「国内パスポート」

 もう一つの問題は公定の個人番号IC カードの導入である。共通番号/ 個人番号/ マイナンバーの提示は、災害時を除き、本人が自分の番号を覚えていたとしても、個人番号ICカードとかで確認しないとダメなことになっている。

 顔写真入りの見える個人番号/ マイナンバーが記された個人番号IC カードをあちらこちらに提示してサービスを受ける仕組みは、成りすまし犯罪の大量発生につながるおそれがある。

 しかし、国民総背番号制導入万歳の役人や議員、学者、IT 企業、翼賛マスコミなどは、必要以上の共通番号制のマイナス・イメージを流布しない態度を貫いている。共通番号潰しにつながる言動をしないようにしており始末が悪い。

 個人番号IC カードは、住基カードとは違い、実質的には、持つ、持たない自由はない。「外国人登録証カード」に並ぶ「内国人登録証カード」と考えてよい。つまり、図5から分かるように、個人番号IC カードは、いわば「出生番号カード」の仕組みである。国は、その外郭団体(地方公共団体情報システム機構)を通じて、生れると同時に新生児に入れ墨のように住民票コードと共通番号を振り、各自治体が紙製の通知カードを送付し、各人は通知カードと引き換えに各自治体から個人番号ICカードの交付を受けることになっている。

 現在ある住基カードでは自治体が発行主体である。しかし、各地で抵抗する自治体が出現した。そこで、中央の役人が今回書きあげた共通番号法では、国(総務省)が所管する外郭団体が個人番号IC カードの発行主体になった。つまり、各自治体は「交付」するだけの存在に“ 格下げ” された。" 抵抗勢力の無力化" が実施されたわけである。

 このように、住基カードとは異なり、個人番号IC カードは自由申請ではなく、実質的に強制交付である。また、所定の場所(自治体の住民登録課など)へ出頭して、写真を撮るかたちになるであろう。各人の写真は画像(イメージ)処理されて中央センターに蓄積することになると思う。また、IT産業の利権を考え、数年に1度出頭して写真を更新することになろう。写真付きでないヴァージョンのIC カードの発行も想定される。しかし、このヴァージョンでは、相手方に提示する自分の共通番号確認に、運転免許証とかを他の身分証明書(ID)と組み合わせで2枚のカードが必要になるのではないか。画像処理のねらいは、今の時点では定かではない。しかし、公安目的に使うとすれば、全国ベースの監視カメラ網へ画像データを流し、顔パス(顔面認証)、所在確認に使うことも想定される。「逃がさない監視社会」「逃げ切れない監視社会」の構築につながる。つまり、個人番号IC カードは、「国内パスポート(inner passport)」として機能することになる。

 いずれは、個人番号IC カードの携行なしには出歩けない社会の構築を目指すことになる。個人番号IC カードは「現代版通行手形」と化すであろう。警察官は、IC カードリーダーを持って街中を巡回することになるであろう。職務質問で個人番号IC カードの提示を求め、所持していない場合には最寄りの交番、端末のあるパトカーへ同乗を求め、犯歴確認や本人確認をすることも想定される。

◆診療(医療・健康)事務に共通番号を使うこととは

  政府は、公的医療事務にも共通番号である個人番号/ マイナンバーを使うことを目指している。しかし、国民の医療情報の管理に共通番号を使うことには、医師会とかは消極的である。その理由は、診療(医療・健康)情報とかは、究極のセンシティブ(機微)情報であることにある。

  政府は、こうした情報を製薬会社などへ提供すれば、新薬開発に利用できるといっている。それに、「平和的生存権など要らない」で、憲法改正、国防軍の創設を唱えている自民党からすれば、将来の徴兵制の導入、忌避防止へ診療情報の公益目的利用への途を拓くためにも、診療情報の共通番号を使った国家管理(ナショナル・データベースの構築)は譲れないところかも知れない。

  国民一人ひとりの一生涯の診療(医療・健康)情報を国家が管理することは別の意味でも問題である。こうしたデータには「時効」とかの法理は適用がないことである。言い換えると、国家に知られたくない病気についても一生涯ついてまわる。闇診療、海外での診療に走ることで、「ネガティブ情報」のデータ蓄積を避ける傾向が出てくることも考えられる。

 いずれにしろ、あらゆる病歴、若気の過ち、微罪等々「いかなる前歴をも隠せず、再チャレンジがゆるされない」データ監視国家へまっしぐらということであろう。まさに、人権を蝕む国民監視ツールが共通番号である。

◆むすびにかえて 人権を蝕む共通番号の導入は、IT利権、血税のムダ遣いの典型

 住基ネットは、電子政府には必須のツールとか言って鳴り物入りで導入した。しかし、今や年金事務くらいにしか使い物にならないカネ喰い虫なのが現実の姿だ。こうした無用の国民監視ツールに加え、今度は、成りすまし犯罪ツールになるのが確実な危ない共通番号の導入だ。

 政産官学がスクラムを組んで、IT 利権がらみの公共工事をすすめる愚策は止まらない。共通番号の段階的な拡大利用で犯罪が多発しても、逆に共通番号を廃止、分野別番号に変換するのも、血税を注ぐ巨大な公共事業につながりIT 産業は潤う・・・・といった程度の認識なのであろう。まさに、原発再稼働で事故が起きてもバックエンド(終息作業)も新たな公共事業で潤う、といった感覚なのかもしれない。だが、これでは、いくら増税しても、まさに、「ザルに水」である。

 高度情報社会に今日、ICT(情報通信技術)を成長戦略に据えることに異論は少ないはずだ。だが、生涯不変の見える共通番号の導入はいただけない。犯罪ツールをつくるのに等しい。罰則を厳しくしても、成りすまし雇用など共通番号を使った犯罪を防ぐことは無理である。また、取扱いを間違えばいつ犯罪者にされるかわからないような怖い番号など、企業の社会保障や源泉税実務の現場や税理士事務所などにはなじまない。

 図8からも分かるように、共通番号導入のようなムダな公共工事をしなくとも、今ある目に見える分野別の番号を効率化・整備して紐付けできる仕組みを構築することで十分である。安心、安全は、厳罰ではなく、システムの工夫で確保すべきである。IT 利権、ムダな公共事業の典型である共通番号は絶対に要らない。

  「社会保障と税の一体改革」はどこかへ吹っ飛び、決まったのは国民総背番号制の導入だけがあり、解せない。これでは、まさに、憲法のどこを改正したいのか明確にしないで、改憲手続(96条1項)だけを改正しようというのと同じである。

 イギリスでは、2008年に当時の労働党政権が「国民ID カード制」を導入した。しかし、2010年の政権交代で現政権は「国家は必要以上の国民の個人情報を収集しない。国民の人権を踏みにじる制度」として廃止法案を成立させた。

 わが国でも、この時代錯誤の人権を蝕み、成りすまし犯罪ツールにもなる共通番号や個人IC カードの廃止、分野別番号の仕組みへの転換に向けて国民運動を展開していかなければならない。

〔参考文献〕

・PIJ(プライバシー・インターナショナル・ジャパン)発行の「CNN ニューズ」各号 http://pij-web.net/user/pij_index.php
・田島・石村ほか編『共通番号制のカラクリ』(現代人文社、2012年)

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