「子ども貧困対策法」と生活保護改悪 その矛盾と相関
「子どもの貧困対策法」が成立しようとしている。「貧困率の削減なしには子どもの貧困問題の解決はありません。貧困率の削減目標を明記しない法案は『骨抜き法案』です。」(なくそう、子どもの貧困ネットワーク)と提案していたが、“与党は「貧困率には意味がない」と反論し、協議した結果、政府が策定する大綱の項目の一つに、施策を検討する際の参考にとどめる「指標」を加えることで合意した。具体的な指標は、生活保護受給世帯の子どもの高校進学率などを政令で定める”(東京新聞)とのこと。
その消極性は、同時に進められている「生活保護」改悪を見とればよくわかる。
①生活保護の生活扶助基準が最大10%削減される。特に子どものいる世帯の引下げが大きい。都市部では子ども2人の世帯では月2万円の削減となる。
②保護申請の手続きが改悪される。水際作戦の「合法化」と批判されている。ここでも稼働世代が標的にされている。生活困窮者自立支援法案は、「自立への努力を怠る」という理由で生活保護を無理やり抑制する手段に使われかねない。
あきらかに「子どもの貧困」対策と矛盾している。
【子どもへも「貧困の連鎖」 長崎新聞6/2】
【格差が社会を不健康にする~社会的包摂を/阿部彩(メモ)2012/2】
そもそも「貧困率に意味がない」というところに自己責任を軸とした自民党の考えがでている。
貧困と格差を社会全体のゆがみ、政治の問題としてとらえていない、というか膨大な貧困の実態を覆い隠そうとしている。
生活保護の捕捉率が2割程度であるのだから・・ 生活保護の増大は、低すぎる最低賃金、不安定な雇用、貧弱な社会保障の問題を顕在化させ、国民の「我々にもきちんとした保障を」という政治的目覚めに結びつく可能性がある。
だから、「生活保護」の増大を阻止し、特別な人の問題として押し込め、スティグマ観を醸成し、国民に「自分達と関係ないもの」として貧困を直視しないように仕向ける。
そして、“そこから脱けだそうとする貧困者には「援助」している”とあくまで貧困を自己責任の文脈の中に押さえ込もうとしている。と読み取れるのだが・・・。
とにかく、実効ある「子どもの貧困対策法」を確立には、生活保護改悪のストップが必要だ。
【子どもへも「貧困の連鎖」 長崎新聞6/2】不正受給対策を強化した生活保護法改正案が今国会中に成立する見通しだ。一方、厚労省は8月から生活保護の基準額を3年かけて下げる方針。家族の人数が多い世帯の削減幅が単身世帯より大きくなるという。
保護率が全国平均を大きく上回る長崎市。生活保護受給者に暮らしの実態を聞くと、病の苦悩や雇用問題、子どもにも及ぶ貧困の連鎖が浮かび上がった。「保護は感謝してます。申し訳なく感じてます。いつも子どもに、我慢せんばねって。でもこれ以上、締め付けられたらやっていけない」。女性(55)がつぶやく。長崎市内のアパートに中学の次男と2人暮らし。女性はてんかん患者だ。
女性は中卒で愛知の紡績工場に就職したが、てんかん発作で首に。帰郷して20歳で結婚し長男を出産。夫は月々のお金を渡してくれず、結局離婚した。乳飲み児(ご)を抱え、皿洗いのパートで食いつないだが、発作で続かず保護申請した。
「長男は友達に『税金で食いよる』と言われたこともあった」。奨学金などで高校を卒業した長男は、働きながら月6千円ずつ返済し、5年で完済した。
女性は40歳で別の男性と出会い、いったんは保護をやめ次男を出産。だが男性は借金まみれだった。別れて再び受給者となった。
医療費は無料で助かっている。家賃は3万5千円。月13万円の保護費は、食費を切り詰めてもほとんど残らない。就職したいが、発作がネックとなって、どこも雇ってくれない。
困るのは子どもの入学時。備品などまとまった出費に迫られるからだ。次男は高校までは行かせるつもりだが、まだ資金の当てはない。女性は「病気さえなければ」と涙を浮かべた。
厚労省は、子どもの大学などの入学金のため保護費を預貯金することを認める方針だが、「現実的に大学進学は無理。貧しさを知らないお役人の発想」と女性はため息をついた。■
「貧乏からは抜けきらんです」。市内に暮らす男性(75)は、視覚障害者の60代の妻、40代の娘、女子高校生の孫の4人家族。島原出身の男性は靴職人を経て、三菱重工の下請け会社で40代まで勤務。その後、土木作業員として転々と働いたという。
年金は妻と合わせ月約15万円、娘のパートは7万~8万円の収入があり、保護費は月約2万7千円。パート収入が増えると保護費は削られる。
「孫に小遣いはほとんどあげていない。孫は昼飯代をためて、時々好きな菓子を買ったりしているようだ」。孫は成績優秀だが、大学進学は諦めた。福祉の専門学校に進んで早く就職するのが希望。公的な援助は受けるにしても、入学時のもろもろの資金は工面しなければならない。
男性は思う。視覚障害の妻は介護が必要になるだろう。自分も老いる。娘が介護を担えば、収入の望みは就職する孫になる。だがおそらく低賃金で、家族を援助できるかは分からない。将来にわたって困窮から脱する見通しは立たない。
「不正受給ばかり騒がれるが、多くはまじめに生きている。せめて貧しい家の子も格差なく学べ、能力を発揮していける支援がほしい」と男性は語る。
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