「侵略の定義」は明白… 国際合意の到達点
1974年の国連総会決議について、安倍首相は「それは安保理が侵略行為を決めるために参考とするためのもの」「侵略の定義は、いわゆる学問的なフィールド(分野)で多様な議論があり、決まったものはない」「国と国との関係で、どちらから見るかで違う」と答弁。
その後の国内外の批判に、歴代内閣の立場を引き継ぐとか、「日本が侵略しなかったと言ったことは一度もない」と言っているが、「侵略の定義はない」との発言は撤回していないし、「日本が侵略戦争をした」とも言っていない。
これは、戦後の国際秩序の否定とともに、戦争の違法化という20世紀の大きな流れの中で、国際的な合意を前進させてきた到達点を無視するものである。 ・・そのための資料の整理、メモ。
【侵略の定義】
(1)一般的な侵略の定義
これはベトナム戦争をきっかけに、大国の横暴の手をしばる動きと一体で、「侵略の定義」をはっきさせようと言う非同盟諸国の運動の中で進められたもので、これ事態が、歴史の進歩を示すもの。
○1970年 国連決議「友好関係原則宣言」 報復戦争の禁止など
○1974年 国連総会決議3314
・第一条(侵略の定義)
侵略とは、国家による他の国家の主権、領土保全若(も)しくは政治的独立に対する、又は国際連合の憲章と両立しないその他の方法による武力の行使。
・第2条 (武力の最初の使用)
国家による国際連合憲章に違反する武力の最初の使用は、侵略行為の一応の証拠を構成する。ただし、安全保障理事会は、国際連合憲章に従い、侵略行為が行われたとの決定が他の関連状況(当該行為又はその結果が十分な重大性を有するものではないという事実を含む。)に照らして正当に評価されないとの結論を下すことができる。
・第3条 (侵略行為)
次に掲げる行為は、いずれも宣戦布告の有無に関わりなく、二条の規定に従うことを条件として、侵略行為とされる。
(a) 一国の軍隊による他国の領域に対する侵入若しくは、攻撃、一時的なものであってもかかる侵入若しくは攻撃の結果もたらせられる軍事占領、又は武力の行使による他国の全部若しくは一部の併合
(b) 一国の軍隊による他国の領域に対する砲爆撃、又は国に一国による他国の領域に対する兵器の使用
(c) 一国の軍隊による他国の港又は沿岸の封鎖
(d) 一国の軍隊による他国の陸軍、海軍若しくは空軍又は船隊若しくは航空隊に関する攻撃
(e) 受入国との合意にもとづきその国の領域内にある軍隊の当該合意において定められている条件に反する使用、又は、当該合意の終了後のかかる領域内における当該軍隊の駐留の継続
(f) 他国の使用に供した領域を、当該他国が第三国に対する侵略行為を行うために使用することを許容する国家の行為
(g) 上記の諸行為に相当する重大性を有する武力行為を他国に対して実行する武装した集団、団体、不正規兵又は傭兵の国家による若しくは国家のための派遣、又はかかる行為に対する国家の実質的関与
・第4条 (前条以外の行為)
前条に列挙された行為は網羅的なものではなく、安全保障理事会は、その他の行為が憲章の規定の下で侵略を構成すると決定することができる。
→ 安保理の権限を認めた決議。3条にあてはまらないような行為を考え出して、「我が国は侵略していない」と言いだす国が出てくるから(「事変であって戦争ではない」等)、それに釘を刺している。
○国際刑事裁判所
☆1998年に採択された国際刑事裁判所規程
同裁判所は、ジェノサイド、人道犯罪、戦争犯罪、侵略犯罪の4つの罪を裁くことになっているが、侵略犯罪については、98年の規程では最終的な合意ができなかった。
・が、2010年。98年規程を再検討する会議が開かれ、侵略犯罪についても最終合意に達した。
(規定)
“1. この規程の適用上、「侵略犯罪」とは、国の政治的または軍事的行動を、実質的に管理を行うかまたは指示する地位にある者による、その性質、重大性および規模により、国際連合憲章の明白な違反を構成する侵略の行為の計画、準備、着手または実行をいう。 2. 第1項の適用上、「侵略の行為」とは、他国の主権、領土保全または政治的独立に対する一国による武力の行使、または国際連合憲章と両立しない他のいかなる方法によるものをいう。以下のいかなる行為も、宣戦布告に関わりなく、1974年12月14日の国際連合総会決議3314(XXIX)に一致して、侵略の行為とみなすものとする。 a. 一国の軍隊による他国領域への侵入または攻撃、若しくは一時的なものであってもかかる侵入または攻撃の結果として生じる軍事占領、または武力の行使による他国領域の全部若しくは一部の併合 b. 一国の軍隊による他国領域への砲爆撃または国による他国領域への武器の使用
c. 一国の軍隊による他国の港または沿岸の封鎖 d. 一国の軍隊による他国の陸軍、海軍または空軍若しくは海兵隊または航空隊への攻撃 e. 受け入れ国との合意で他国の領域内にある一国の軍隊の、当該合意に規定されている条件に反した使用、または当該合意の終了後のかかる領域における当該軍隊の駐留の延長 f. 他国の裁量の下におかれた領域を、その他国が第三国への侵略行為の準備のために使用することを許す国の行為 g. 他国に対する上記載行為に相当する重大な武力行為を実行する武装した集団、団体、不正規兵または傭兵の国による若しくは国のための派遣、またはその点に関する国の実質的関与 ”
・この再検討会議で、定義とともに、拒否権のある国は侵略で提訴されることにならないのではないか、という懸念を解決
→ 拒否権が発動され安保理が動かない場合があることを想定し、裁判所の予審部門が許可すれば裁判に付せることになった。
・この合意について、外務省は、日本が積極的役割を果たしたことをのべ、「第二次大戦以降長らく議論されてきた侵略犯罪の法典化が達成されたことは歴史的意義を有する。」と評価している。
☆86年、国際司法裁判所は、アメリカのニカラグアに対する爆撃問題を裁いた裁判で、「侵略の定義」を基準にすえて、アメリカの攻撃が「侵略」にあたると判断。
・ウィキペディアより
「1986年2月、国際司法裁判所はアメリカがコントラに武器・資金を支援して、サンディニスタ政権に対する武力攻撃を行わせていること及び、アメリカ軍がニカラグアを空襲したことに対して、他国の国家主権に対する侵害、他国の内政に対する強制的な干渉、他国に対する侵略的武力行使は国際連合憲章違反であると認定し、前記の侵略・介入・干渉行為の即時停止と120億ドルの賠償金の支払いを命じたが、米国政府は判決の受け入れを拒否した。
1986年11月、国連総会は米国に対して国際司法裁判所の判決を受け入れるように求める拘束力が無い決議を賛成94 - 反対3 - 棄権47で採択した。」
→ すでに法理として力を発揮している。
(2)日本の侵略という特定の行為に極めて明確
○国連憲章
・日本が承認して加盟した国連憲章、第53条(いわゆる敵国条項)
日本やドイツが「侵略政策」をとったことを明示的に規定し、「敵国における侵略政策の再現に備える」場合の軍事行動を地域機関がとる場合は、安保理の承認は必要ない」としている。
→ この条項は、すでに国連総会で時代遅れだと認定されているが、日本が「侵略政策」をとったことが時代遅れの認識だというのではなく、日本が「侵略政策の再現」を試みた場合も、軍事行動をとるには安保理の承認が必要だという趣旨から。
○ポツダム宣言…「世界征服ノ挙ニ出ツルノ過誤」、ポツダム宣言で掲げられた「カイロ宣言」…「日本国ノ侵略」
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