憲法否定する「道州制」〜今国会に推進法案の危険
自公政権が、今国会に道州制推進基本法案の提出をめざしている。法案は、有識者らでつくる国民会議が3年以内に道州の区域割りなど制度内容を答申し、政府は答申から2年程度で制度導入に必要な法律を整備するとなっている。
そもそも国民は、国政と地方自治という2つのルートを通じ、権力を統制し、憲法13条の幸福追求権、25条の生存権など人権保障を求めていく構造となっている。たとえば、米軍の低空飛行訓練について、自治体を通じ、抗議し中止を求める。子どもの医療費無料化を自治体単独ですすめ、国の制度への発展を求めるなどは、その典型である。道州制が前提とする「国と地方の役割分担」論はこれを否定する。軍事などに地方が意見を言えないとか、福祉などは地域の自己責任で・・・と議論は、憲法の否定である。
自由法曹団の決議。また町村会が、昨年の特別決議に続き、書簡を発表している。
【住民の声とくらしを切り捨てる道州制に反対する特別決議】
【「道州制基本法案」の動向に対応し、全国町村会長書簡を全国会議員に配付(4/10)】
【特 別 決 議 平成24 年11 月21 日 全国町村長大会 】我々は平成20 年の全国町村長大会特別決議以来、一貫して道州制の導入には反対してきた。
なぜなら、道州と基礎自治体という二層構造を想定し、地域の実態や住民の意向を顧みることなく市町村の再編を強いることとなれば、我が国にとって重要な役割を果たしてきた多くの農山漁村の自治は衰退の一途を辿り、ひいては国の崩壊につながるからである。
現存する町村と多様な自治のあり方を決して否定してはならない。 一方、これまでの道州制論議は、国民的な議論がない中で、現行の都道府県制度のどこにどういう問題があるのか、道州制は一体何をもたらすのか、道州制での国と道州、基礎自治体の具体的な役割、税財政制度等について明らかにされないまま、あたかも今日の経済社会の閉塞感を打破しうるような変革の期待感だけを先行させ、主権者たる国民の感覚からは遊離したものとなっている。
道州制は、地方分権の名を借りた新たな集権体制を生み出すものである。また、税源が豊かで社会基盤が整っている大都市圏へのさらなる集中を招き、地域間格差は一層拡大する。加えて、道州における中心部と周縁部の格差も拡がり、道州と住民の距離が遠くなって、住民自治が埋没する懸念すらある。
もとより、どの地域においても国民一人ひとりが安心して暮らすことのできる国土の多様な姿に見合った多彩な市町村の存在こそが地方自治本来の姿であり、この国の活力の源泉であることを忘れてはならない。
よって、我々は、改めて道州制の導入に反対していく。
【衆議院- 憲法審査会 笠井亮議員の発言より 2013年04月25日】第八章地方自治で重要なことは、明治憲法下での官制団体ではなく、国民主権の具体化として、住民が主人公の地方自治を憲法に明確に位置づけたことです。その内容は、地方における主権者としての住民が地域的規模での政治を実施するということであり、地方自治体が、その地域に関する事柄について、住民の人権を保障するために必要な限りにおいて国から独立して決定し、活動するということです。
・・・・・ 今、地方分権、道州制のかけ声でやられている方向は、本来の地方自治とは逆の方向を向いていることを指摘しなければなりません。 道州制の考え方の根本には、国の仕事を外交、軍事などに限り、福祉や教育などのナショナルミニマム、全国一律の最低水準に対する責任を国が放棄して、道州あるいは市町村に全部任せるという仕組みをつくるという問題があります。 さらに、道州制導入は、今の都道府県をなくし、単位を大きくし、それに伴い、無理やり合併して千七百余りに減っている市町村をもっと圧縮してしまうというものです。これでは、自治体にとっても、福祉、教育、暮らしに対するサービスの大幅低下になってしまいます。こうした道州制の狙いは、広域にした分だけ、国際競争力を題目にした巨大開発がやりやすくなる。これで一番潤うのは財界です。だから、日本経団連は道州制を一番熱心に求めています。 我が党は、道州制の導入には反対であります。本当の地方分権というなら、この間、三位一体の改革と称して地方交付税の削減などで地方財源を切り縮めてしまったことを根本的に見直し、財源を戻していくことが必要です。
この間、政府が、地方自治体が国の基準以上の福祉の施策をやったらペナルティーを科してきたことは重大です。こういう間違った中央統制こそ撤廃し、地方自治体が住民福祉の機関として、伸び伸びとそれぞれの特色を生かした仕事ができる保障をするということが、憲法のうたう本当の地方自治への国の責任であることを強調し、発言とします。
【住民の声とくらしを切り捨てる道州制に反対する特別決議】第二次安倍政権は、日本経団連等の財界の主張と軌を一にして「道州制」の導入を主張し、本通常国会に議員提案で「道州制推進基本法案」を提出する動きも報道されている。
これまで政財界は、「小さな政府」を目指すと称して政府機関を縮小し、地方への交付金を削減してきた。いわゆる三位一体の改革では、国の行政機関・機能・財源が都道府県に移譲されないままで、都道府県や市町村が福祉・教育にもちいることのできる財源が大きく削減された。この結果、地方はますます疲弊し、地方自治体の働き手が大幅に減少している。また、平成の大合併によって市町村が削減され、地域住民と自治体・議会との距離が拡大し、行政サービスの低下や地方自治に住民の意思が反映されないという弊害が生じている。今般目指されている道州制の導入は、この傾向をますます推し進めるものにほかならない。自民党により公表された「道州制基本法案(骨子案)」では、「国の事務を国家の存立の根幹に関わるもの、国家的危機管理その他国民の生命、身体及び財産の保護に国の関与が必要なもの、国民経済の基盤整備に関するもの並びに真に全国的な視点に立って行わなければならないものに極力限定」することとし、この他の国の事務は「国から道州へ広く権限を移譲し、道州は、従来の国家機能の一部を担」う主体であると規定している。また、同骨子案は、「国及び地方の組織を簡素化し、国、地方を通じた徹底した行政改革を行う」ことも規定している。ここでは、住民のくらしや福祉に国が責任を持つという憲法25条の理念が否定され、地方に社会福祉等の責務が押しつけられることとなる。道州間でも競争と格差が生じ、国が課税権を活用して国民の福祉とくらしに財政責任を負うという現行の制度が否定され、「小さな政府」論に立った「行政改革」の名のもとでの公務員削減も「基本理念」として強要されようとしているのである。
また、道州制の導入により前記のような国と地方の役割分担が進められると、特定の分野を国の「専管事項」として地方の関与の機会を奪うことにつながる。本来、「地方自治の本旨」(憲法92条)に基づき保障されるべき地方自治は、住民要求によって支えられた地方自治体が、中央政府の地方切捨ての施策に歯止めをかけるという勢力均衡の理念を包含している。しかしながら、道州制により国と地方の役割分担が進められると、国の「専管事項」についての政策に地方が関与する余地が奪われる。
加えて、自治体が広域化することにより地域住民と地方行政・議会との距離が拡大し、住民の意思が地方自治に十分反映されなくなる。住民生活に密接にかかわる問題について、地方住民の声は、国政においても地方政治においても反映されないこととなり、地方自治体が憲法上果たすべき住民自治・団体自治の役割は否定されることになる。
以上のとおり、道州制の導入により、憲法25条以下の定める社会権保障についての国の責任は放棄され、国の権限と責任は防衛・外交等に限定され、財政と権限は財界本位に集中投入されることとなり、結果として地域住民のくらしと福祉に大きな地域間格差をもたらし、国と地方自治体に働く労働者の大量首切りをもたらすことにつながるのである。しかしながら、その内容は多くの国民に知られていない。このような状況で、基本理念や期限を区切って「道州制推進基本法」の制定を強行することは、とうてい許されない。
自由法曹団は、憲法の原則に従い、国の責任の放棄をゆるさず、社会保障を実現することを求める立場から、道州制の問題点を明らかにし、道州制の導入を阻止するために全力をあげるものである。
2013年5月20日
自由法曹団5月研究討論集会
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