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設計労務単価引き上げに関する見解と提言 建政研

 建設政策研究所の提言。1997年以降、14年間連続下落してきた公共工事の設計労務単価。市場価格を基準とし、生活給としての基準ではなかった。それにより技能職など後継者不足が深刻化している。社会資本の大規模な更新時期をむかえ重要な課題である。今回、労務単価が単純平均で15%増。
 しかし、これが直接労働者に払われる仕組ではない。確実に労働者の処遇改善につなげる公契約法・条例、最低賃金の引き上げが必要である。
 
 また今回の引き上げは、景気対策としての一時的な公共事業のつみましの結果とも言える。こうしたやり方はよくない。国民の所得の拡大による景気回復、所得再配分効果を重視した税制の確立による安定的な公共事業財源の確保、社会資本の維持・更新を軸にした国土づくりと一体ですすめることが必要と思う。
【公共工事設計労務単価(2013年度)引き上げに関する見解と提言 2013/4/15】

【公共工事設計労務単価(2013年度)引き上げに関する見解と提言 2013/4/15】

 国土交通省は4月1日の入札から適用される2013年度公共工事設計労務単価(以下「新設計労務単価」と呼ぶ)を発表した。また、新設計労務単価が建設労働者の賃金引上げ及び社会保険加入促進につながるよう、建設業団体、公共・民間発注者宛の要請書を発行した。

 新設計労務単価は全国51職種2247区分すべてで上昇し、51職種の単純平均では18,996円(前年度比15.1%増)と、設計労務単価の公表を始めた1997年度以降初めて2ケタの大幅な引き上げとなった。そこで建設政策研究所では、以下のとおり新設計労務単価設定に関する見解を明らかにするとともに、建設政策研究所がすでに発表(「建設政策研究所の提言」2013年1月31日発表)しているこれらに関係する提言を紹介する。


1.建設労働者をはじめとする国民各層の賃金引上げへの要求を反映した大幅な設計労務単価の引上げ

 新設計労務単価の職種別単純平均をみると、普通作業員が14,500円/日(前年度比16%増)、鉄筋工・型枠工18,000円/日(同15%増)など、いずれの職種も前年度に比較し15%前後の上昇となっている。また、東日本大震災の被災3県では単純平均19,373円/日(同21.0%増)と大幅な上昇となった。設計労務単価の上昇が直ちに建設労働者の賃金引上げに連動するものではないが、国土交通省はその基本的認識においてこれが賃金の引上げにつなげる必要性を強調している。

 このことは、構造改革路線のもとで建設労働者の賃金が際限なく切り下げられ、すでに若年労働者の建設業への入職が極端に減少するとともに、熟練技能者の建設業からの退出も急増し、近い将来建設産業が成り立たなくなるという危機感の反映である。

 同時に、デフレ経済からの脱却には大幅な賃金引上げが必要という認識のもとで、広がっている勤労者各層の賃金引上げ要求を反映せざるを得なくなった結果でもある。建設労働者・労働組合はもちろんのこと、全国の労働者・労働組合は政府・行政の今回の施策を積極的に受け止め、官製ワーキングプアをなくす立場から公共分野にはたらく労働者の賃金の大幅引き上げにつながるよう共同した運動が求められる。


2.公共工事コストに係る構造改革の破綻が浮き彫り。設計労務単価づくりの抜本的転換を

 国土交通省が公表を始めた1997年以降、14年間連続下落してきた公共工事設計労務単価が一挙に大幅引き上げを行ったことは、これまでの設計労務単価づくりの修正を余儀なくされたということができる。
特に、市場の賃金実態以外に労働需給のひっ迫状況や労働者の社会保険負担額等を総合的に勘案して設定したことは、労務費調査により市場賃金を確実に設計労務単価に反映させるという公共工事コスト構造改革路線の破綻を示すものである。

 すでに技能労働者の減少は技能の継承を困難にし、施工の品質確保にも大きな影響を及ぼしている。特に東日本大震災被災地では震災前からの地域建設業の疲弊が顕在化し、復旧・復興事業における入札の不調となってあらわれ、事業の進捗に大きな影響をもたらしている。また、日本全国で急迫している公共施設・インフラの老朽化対策や防災・減災対策への大きな支障となってあらわれている。

 建設行政を掌る国土交通省が、公共工事を施工する上で要となる技能労働者の状況を放置し、コスト縮減に目を奪われてきた結果として明確な反省を行い、設計労務単価づくりの抜本的転換を行うべきである。

 公共工事の入札・契約が予定価格を上限として最低価格の入札者を落札者とする制度のもとでは、労働者の賃金実態を調査して設計労務単価を設定し、翌年の予定価格づくりに活用する手法は、基本的に賃金と設計労務単価のマイナススパイラルを生じさせることになる。従って、今回の設計労務単価設定の大幅修正を教訓に、非消費支出(税及び社会保険料等の負担額)を含む標準生計費を基本として、職種間格差を加味した設計労務単価づくりの新たな方式に転換することを求める。

◆建設政策研究所の提言

 設計労務単価づくりを市場賃金調査方式から都道府県別の世帯人員別標準生計費(非消費支出を含む)を基本とした設定方式に転換する。


3.社会保険等未加入事業主・労働者に対する取り締まり対策を直ちに中止し、社会保険等の費用が発注者・元請企業から確実に流れるしくみを先行させること

 今回、新設計労務単価を設定する上での国土交通省の基本的認識として、「社会保険等にすら加入できない就労環境が若年入職者減少の一因」と述べている。そして、新設計労務単価に技能労働者の社会保険料の本人負担相当額を加算した。その上で、国土交通省は発注者・受注者に対して、社会保険料(事業主負担分及び労働者負担分)相当額を適切に含んだ額による下請契約の締結と支払い状況の確認、および技能労働者に対し、社会保険料負担相当額を適切に含んだ賃金の支払を要請している。
 国土交通省「方策2011・2012」は社会保険等未加入企業を不良不適格業者と一方的に決めつけ、今日においても強引な「社会保険未加入企業の排除」策を行っている。

 しかし、今回の国土交通省の認識において、社会保険等未加入の原因について発注者・元請企業が事業主・労働者の社会保険負担費用を積算し、事業主や労働者に支払われていなかったことを明確にした。これは国土交通省「方策2011・2012」の誤りを認めたことであり、その修正である。国土交通省はこれまでの誤った社会保険等未加入対策を反省し、強引な社会保険等への加入策や取締り策を直ちに中止するよう関係者に文書で通知する必要がある。その後、新予定価格にもとづく社会保険等負担相当額の事業主・労働者への支払状況を確認しつつ、粘り強い加入の取組みを行政と業界挙げて行っていくよう方針の転換を早急に示し徹底することが求められる。

 特に、国土交通省は公共・民間発注者が総価契約の中で曖昧にしている法定福利費を別枠で明示させ、元請企業には下請契約に際し、法定福利費を別枠明示し、出来高支払いに応じて別枠支給を行うしくみを確立させ、重層下請のもとで労働者使用事業主に確実に行きわたるよう元請企業の管理責任を明確にする必要がある。

◆建設政策研究所の提言

 労働者が無理なく社会保険等に加入できるためには、労働者の社会保険料負担額と生活に必要な賃金の双方を獲得するための賃金総額の大幅引き上げが必要である。そのためには公共・民間工事を問わず発注者は労務費を積算する際、労働者の生活費としての労務費に労働者の社会保険料等負担額をプラスして積算する必要がある。そして、積算された労務費が中抜きされることなく労働者に支払われる仕組みが必要である。一方、重層下請構造のもとで、下請業者が法定福利費を確実に確保するためには、請負の最初の発注段階から法定福利費を別枠明示・別枠支給する仕組みが必須である。


4.設計労務単価の引上げを確実に労働者の賃金引上げに結実させるために

 国土交通省は設計労務単価の大幅引き上げに際し、公共・民間発注者および建設業団体への要請書を発行し、発注労務単価の引上げ、原価に満たない発注契約の厳禁、適切な価格での下請契約の締結、下請・専門工事業者の雇用労働者の賃金水準引き上げを要請した。また、国土交通省は設計労務単価の上昇が技能労働者の賃金水準の上昇に結びついているか実態把握し、翌年度の設計労務単価の改定に反映する、ことを明確にした。関係団体にこのような趣旨の要請書を通知したことは、技能労働者の賃金引上げに対する国土交通省の姿勢として一定の評価ができる。しかし、民間発注者を含め、元請業者、専門工事業者が直ちにこの要請に応える保証は何もない。そのため、国土交通省は通達を出したことで良しとするのではなく、具体化するための以下のような施策を直ちに実施する必要がある。

①公共・民間発注者への取引上の地位を利用した片務的発注への取締り強化を
 今回、国土交通省は公共・民間発注者に対しても、ダンピング発注の排除を要請した。特に、民間発注者に対し、「建設工事を発注する時は、社会保険料(事業主負担分及び労働者負担分)相当額を適切に含んだ額で請負契約を締結するようにしてください。法定福利費相当額を含まない金額で建設工事の請負契約を締結した場合には、工事の発注者は、保険加入義務を定めた法令への違反を助長する恐れがあると同時に、建設業法第19条の3の違反当事者となる恐れがあります。」という内容の要請を行ったことは重要である。国土交通省はこの要請をさらに一歩踏み込み、実態調査と建設業法による違反取り締まりを厳格に行うことを求める。

②賃金引き上げのための労使の団体交渉ができるよう、政労使の協議会を早急に立ち上げること
 国土交通省は建設業団体に対して、設計労務単価の上昇が技能労働者の処遇改善に結びつけるために、建設業界が共通認識を持って取組むことを要請した。そこで、国土交通省は政労使の協議会を直ちに立ち上げ、元請業者(団体)と下請・専門工事業者(団体)及び技能労働者を組織する労働組合とが対等な立場で賃金引上げ等に関する団体交渉を行うことができるよう指導することを求める。

◆建設政策研究所の提言

①建設業法では、元請建設業者と契約を行う発注者に対しても「不当に低い請負代金の禁止」条項が適用される。大手元請業者と契約するディベロッパーなど民間発注やの不当な低価格指値発注に対しても、法に基づく「勧告」等の適切な行政処分を行う必要がある。
②国土交通省は監督行政職員を大幅に増大するとともに、地方整備局の果たす役割をいっそう重視し、地方自治体とも連携し、大手元請業者の現場を直接点検し、強力な行政指導、指示、勧告、さらには法違反を放置する元請業者に対する営業停止を含む罰則を科す必要がある。
③賃金水準引き上げの実現可能性を高めるには、専門工事業者(団体)と労働組合の交渉、元請業者(団体)と労働組合の交渉などが必要となる。
④適正な水準の賃金・労働条件の合意に向け、労使交渉機構を設置し、労働協約を締結する。


5.公契約法・条例の制定により賃金の最低基準の引上げを

 公契約法・条例は公共事業等に従事する労働者の最低賃金額を取り決め、元請受注者にその遵守を義務付けるものである。歴代自民党政府はILO94号条約(公契約における労働条項に関する条約)への批准を行うことなく、公契約法の制定にも消極的姿勢を示してきた。しかし、今回、国土交通省は新設計労務単価の設定とともに労働者への賃金の引上げを発注者・建設業者に要請した。政府・行政が労働者の賃金引上げを真に望むのであれば、ILO94号条約に批准するとともに公契約法の早期制定のために積極的に準備することが求められる。また、地方自治体で広がっている公契約条例の制定を積極的に支援することも重要である。

 すでに制定されている7つの地方自治体の公契約条例は、設計労務単価を基準に公共工事従事者の最低賃金を設定している。新設計労務単価は建設労働者の最低賃金の引上げに大きく貢献することにつながる。条例制定地方自治体では新設計労務単価に対応して適用比率を引下げるのではなく、新設計労務単価に比例して条例最低賃金の引上げが行われることを求める。また、全国の条例未制定の地方自治体においても、公共事業に従事する労働者の賃金引上げが喫緊の課題であることを鑑み、設計労務単価の大幅引き上げが行われたこの機会に公契約条例の制定に取り組むことを強く望むものである。

◆建設政策研究所の提言

公契約条例の内容の充実と広範な地方自治体での制定で公共工事の低賃金克服を
①公契約で定める最低基準賃金は官製ワーキングプアから脱出できる水準を
②官製ワーキングプアから脱出する上では、条例の最低基準賃金を設計労務単価ではなく、生計費を原則に職種別技能を加算した賃金基準を早急に設定する。


6.安倍自公政権の参議院選挙向けの人気とり政策にさせてはならない

昨年暮れの総選挙により政権再交代を果たした安倍自公政権は、この7月に予定される参議院選挙においても過半数を獲得するという目的のもとで、国民の強い要求であるデフレ解消を最優先させ、アベノミクスと称される経済政策(大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略)を矢継ぎ早に打ち出した。

 しかし、これらの政策はデフレ経済の要因となっている国民所得の減少を解消し国民の消費購買力を高めるどころか、消費者物価の上昇を招き、消費税増税を誘導し、さらにはバブル経済再燃を引き起こし、結果的に国民の実質賃金の大幅な切り下げにつながるものである。

 国土交通省は、今回の設計労務単価引き上げの背景として、「安倍内閣の基本方針(平成24年12月26日閣議決定)において『雇用や所得の拡大を目指す』ことを掲げ、経済界にも働きかけた」ことを挙げている。しかし、「基本方針」はアベノミクスを進めた結果として、雇用や所得の拡大につながると推測しているだけで、正面から労働者の賃金の引き上げに取り組む政策を掲げているわけではない。むしろ、国会における野党(日本共産党等)から、デフレ解消の上で賃金の引き上げの重要性を指摘され、やむなく経済界と懇談した、というのが実相である。
一方、今回の設計労務単価の引上げが、疲弊する地域建設業者に対する参議院選挙での支持取り付け手段として政治的に実施されたことを見落としてはならない。

 すでにマスコミ等を通じて、安倍首相が賃金引上げの旗振り役を果たしているような報道がなされている。しかし、アベノミクスの「三本の矢」は賃金引上げどころか、労働者・国民の生活をいっそう困難に陥れるものであり、その誤った経済政策の問題性を明らかにするとともに、安倍政権に対してデフレ経済脱却の上で賃金・雇用・社会保障の改善、消費税増税中止など政策転換を迫っていく労働者・国民の大きな運動が求められる。

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