グローバル化する政府債務の危機(メモ)
山田博文・群馬大教授「経済2013.4」の「グローバル化する政府債務の危機 ~ 国債ビジネスの繁栄と国民生活の貧困」の備忘録。
「規制緩和と小さな政府を主張する市場原理主義の思想と政策」は、「自ら否定した公的資金で救済してもらい、より大きな政府と債務を誘発する自家撞着を犯しており、誤りであったことを現実が証明」と指摘。膨張した国債は、金融資本の巨大なビジネス市場となり、一方、租税で担保された国債の増加は、将来世代にわたって国民の総債務者化をもたらす、と・・・。
経済の金融化の面では、トヨタ自動車の利益は自動車ローンなど金融事業が86%占めているという数字には驚いた。
以下、備忘録
【グローバル化する政府債務の危機
国債ビジネスの繁栄と国民生活の貧困】
山田博文・群馬大教授 経済2013.4
◇はじめに
・21世紀初頭、なぜグローバル化した政府債務危機が発生したのか?
→ 21世紀初頭に発生した世界恐慌・グローバル恐慌への各国の大規模な財政出動にある
→ それは世界金融危機・経済危機の同時発生/ 各国の金融機関が同時的に経営危機に陥ったことにある
→金融機関自らが発生させた各種バブルの崩壊、暴落したリスクの高い金融商品の大量保有による巨額の損失
・銀行の経営危機、金融システムの動揺の意味するもの
→①世界の経済取引を安定的に営むための銀行の支払い決済機能をマヒさせ取引に大混乱をもたらす
②実態経済に不可欠な対企業貸付を抑えこみ、貸し渋りを促し、倒産・不況を深刻化させる
・そのため、各国政府は、銀行への大規模な公的資金投入、実態経済に対する緊急の大規模な不況対策を実施
→ これらの財源/ 国債を増発することで調達。短期間に各国の政府債務が膨張
・それが、ソブリン危機にまで進行したのは・・・
①規模が返済不能なまでに巨額
②止まることのない金融市場の不安定化と経済の先行き不安
・金融市場の不安定化と経済の先行き不安を再生産する要因
→ カジノ型金融資本主義というべき世界経済の変容/短期的な利益を求める過剰マネーの世界的な投機行動
/ 金利、金融商品、為替相場の乱高下、バブル経済の膨張と崩壊を誘発し、実体経済をも混乱
・国債は租税を担保とした格付けの高い金融商品〜過剰な投機マネーの安全な投資先とされ、巨大な市場を形成
→①政府の債権者となった金融機関・投資家による金融ビジネスと利益の拡大
②政府の債権者のために、世代を超えて長年にわたって借金を払わなければならない国民の総債務者への転換
1 世界金融危機・経済危機と膨張する政府債務
・リーマンショック 先進国の株価指数半減、新興国1/3
・世界の株式売買代金(月間) ピークの10兆ドル超→ 一年後半減→2012/7 3.8兆ドルと4割弱
・アメリカ 家計の純資産(株式投資が貯蓄の最大の割合) 38.8%も減価
家計の実質所得も49600ドル→45800ドルに減少
・金融機関の巨額の損失、大量の不良債権〜 世界の大手金融機関の損失額 1兆5千億ドル(2010年)
→ 膨大な公的資金の投入と将来世代への負担
☆規制緩和と小さな政府を主張する市場原理主義の思想と政策〜 自ら否定した公的資金で救済してもらい、より大きな政府と債務を誘発する自家撞着を犯しており、誤りであったことを現実が証明している。
2.政府債務危機の現代的特徴 〜国債市場とカジノ型金融資本主義
(1)肥大化した金融経済と国債市場
・実体経済よりも、金融ビジネスに関係した金融経済が大きな影響をもつ資本主義
〜 その中でも、財政資金調達のための国債が、安全で格付の高い金融商品として、大口の市場を形成
・世界の金融資産の合計(2010年時点 マッキンゼー・グローバル・インステチュート)
212兆ドル。世界のGDP合計約60兆ドルの3.5倍 (20年前は2.6倍)
・アメリカ 企業利益に占める金融の比率
80年18.8% 02年40.2% 08年10.3% 11年29.4%に回復
・日本 金融事業を展開する企業40社 11年度の営業利益に対する金融の比率27%
トヨタ自動車 自動車ローンなど金融事業からの利益86%
ホンダ73%、日産26%
〜 金融機関だけでなく、個々の企業においても金融ビジネスが選好、経済の金融化が進展
(2)国債市場をめぐる金融機関と政府の関係
・金融経済の主要な柱の1つ 国債市場 〜 日本 1京円の国債市場
・国債〜発行ロットが大きい、格付けが高い、流動性も高い/ 内外の投機マネーの最も適合的な金融商品
日本の三大メガバンク 業務利益のほぼ2割が国債売買差益による利益
・共通した利害関係〜 金融ビジネスにとって不可欠の商品。政府は、内外のマネーの国債市場への流入により、国債の市中消化基盤が拡大、低い国債金利での財政調達が可能に。
→ この金融機関と政府の利害関係が、国債増発を促した有力な背景
・世界の国債増発の歴史
戦争~一次大戦、二次大戦に増発。
日本 90年代半ば バブル崩壊後の不良債権をかかえた銀行救済のための大規模な公的資金投入、大型予算での景気対策 〜 この先例が、リーマンショック後の欧米各国で実施され、急速に国債を累積
・経済の先行き不安が高まれば、株式市場などから逃避したマネーが、国債市場に流入。バブル市場化の傾向
→ 大規模な国債市場の影響力の増加/ 国債価格の高低による影響の拡大
☆金融資本主義の「悪循環」
実体経済が、金融経済の乱高下に翻弄され、ますます不安定化。混乱を拡大 → そのたびに景気対策が実施され、財源調達に国債を発行 → 内外マネーが流入し、国債市場が拡大 → 政府と納税者にとって、元本の償還、利払いのために政府債務が増大。が繰り返される。
(3)金融危機・財務危機・経済危機の相互作用
・日本の国債市場から 売買高、価格からみて、歴史的にあまり例のないバブル市場の様相
〜 実体経済から乖離したバブルは、何らかのきっかけで崩壊することになる
・国債バブルなど資産バブルが崩壊した場合の影響
バブル崩壊⇒
銀行の経営危機→ 貸し剥がし等による企業経営悪化、倒産・失業→ 不況の深刻化と景気対策
→財政出動・減税による財政赤字→ 国債増発、政府債務累積→ 国債の価格下落、利回り上昇
→財政資金の調達難と財政危機→ 政府債務のデフォルト危機→ 緊縮財政・増税
→ 不況の深刻化と経済危機
⇒ 銀行の損失増大、倒産・失業へと悪循環
〜 金融危機・財政危機・経済危機が相互作用しながら進展。国民生活への過重な負担、経済を不安定化
・カジノ型金融資本主義の特徴~ バブル経済の膨張と崩壊を繰り返すことにある
→ 時間・空間の制限をうける実体経済でなく、価格・金利の変動を利用し、世界的規模で瞬時に攻撃的に利益を追求することにある。
・現代の金融機関・大型投資家
①バブルの膨張と崩壊のプロセスで巨額の売買差益を追求し実現
②仮に投資に失敗し、経営危機に陥っても「大きすぎてつぶせない」〜破綻したら経済が大混乱におちいると主張し、巨額の公的資金、支援策を引き出してきた。
3 .政府債務危機の帰結
ジャック・アタリ「国家債務危機――ソブリン・クライシスにいかに対処すべきか」
〜過剰な公的債務に対する解決策は8つ存在「増税、歳出削減、経済成長、低金利、インフレ、戦争、外資導入、デフォルトである。これらの戦略の中でインフレは頻繁に利用される」
・インフレを利用した公的債務の軽減〜 超金融緩和政策を強制的に推進する日本に典型
(一方、2%の物価高だけでも、家計が保有する貯蓄(1300兆円)は26兆円失い。消費税率12%に相当)
→ 二次大戦後のドイツ、日本 過剰な政府債務をハイパーインフレで激減させ「解決」/国民生活は破壊
・すでに実施されてきた「解決」策 〜超低金利政策の実施による国民からの収奪
家計部門が失った純利子所得 1991から2005年249兆円(参院予算委調査室)/消費不況を深刻化
・強権的な「解決策」〜デフォルト
アタリ「ほとんどの主権国は、これまで少なくとも1回はデフォルトを経験」「1800年から2009年までに、対外デフォルトは250回、国内デフォルトは68回も起こっている」
そしてデフォルトが発生すると「不動産価格は6年で平均35%下落」「株式価値は3年で35%下落」「失業率は4年で7%増加」「生産高は2年で9%下落」「公的支出の恩恵を受けていたものは・・・保護されなくなる。・・・資本市場から一時的に退場を命じられ、借り入れなしで生き延びなければならなくなる」
→ 国民所階層への増税と、公的サービスの削減に向かう。
・安倍政権の政策と、政府債務危機
①消費税増税など新たな税収確保で、金融機関など国債保有者に対する国債担保が強化
②金融緩和、インフレ政策により、国債価格の値崩れを防止し、国債大量発行の基盤を整備しつつ、債務者利得の発生=政府債務の事実上の軽減を意図しているが、インフレによる国民犠牲である。
〜 主要先進国にとって、今後とも政府債務問題に、国民生活にとって看過できない重大問題(別項を要する)
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