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拙速な「新安全基準」での再稼働は認められない 市民の会

 田中三彦氏ら技術者、研究者、弁護士らによる「新基準」についての意見書。「新基準は拙速」「万全な新基準を3、4年かけて練り上げるべき」「拙速な基準での再稼働は認められない」とスケジュールありきの作業を批判。

【原子力規制を監視する市民の会「新安全基準監視プロジェクト」
アドバイザリーグループ意見書2/25】

【原子力規制を監視する市民の会「新安全基準監視プロジェクト」 アドバイザリーグループ意見書2/25】

前文

原子力規制委員会・新安全基準検討チームは、2 月6 日、「新安全基準(設計基準)骨子案」および「新安全基準(シビアアクシデント対策)骨子案」をまとめ、パブリックコメントを募集中である。それに応じて、われわれ上記アドバイザリーグループは、本文に示すようなコメントをまとめた。これらの意見を骨子案改訂に反映していただくことを規制委員会に求める。

1. 新安全基準検討チームが発足してからわずか3 か月余り、過密な審議日程で、これら骨子案が作成されたが、あまりにも拙速すぎる。この骨子案をもとに法制化を進め、7 月には新安全基準に沿って、事業者から原発再稼働の申請を受け付けるというスケジュールだと報道されている。再稼働ありきの審議はやめていただきたい。
福島原発事故を起こした反省(すなわち、事故原因究明)に立って、事故再発防止策としての新しい安全基準を作るのであれば、じっくり腰を据えて検討し、抜け落ちのない万全な新安全基準案を、少なくとも3、4年はかけて練り上げるべきではなかろうか。

2. このような拙速審議の結果、新安全基準骨子案と旧安全指針類(立地審査指針、安全設計指針、耐震設計指針、安全評価指針、重要度分類指針)との相互関係が不明確なままである。立地審査指針との関係については、「原子炉立地審査指針の要求内容の新基準における整理(案)」という1 枚紙が示されたのみである(第9 回検討チーム会合資料3、2013 年1 月11 日)。旧来の安全評価指針や重要度分類指針の検討もまた、ほとんどなされていない。これらの旧指針類は、一体となって安全基準を構成する。その機能に欠陥があったことが認識されているのであるから、新しい安全基準は、旧指針類のすべてを総体として検討したうえで、再構築すべきもので
ある。
総体としての把握が不十分なことは、骨子案にある「シビアアクシデント」という用語ひとつとっても、従来使われていた「重大事故」あるいは「仮想事故」との関係が不明確で混乱していることに現れている(詳細は本文のコメント参照)。

3. 新安全基準を「設計基準」と「シビアアクシデント対策」とに分け、それぞれ別のものとして基準を作成しているが、そのような区分が適切かどうか疑問である。
安全を確保する基本は、設計基準において、炉心の著しい損傷あるいは格納容器の閉じ込め機能喪失というような重大な事故が起こらないように最善を尽くす、そのように設計基準を作り直すことではないのか。
今回の二本立て安全基準案では、設計基準の大幅な見直しはなされていない。例えば、福島事故を起こしたマークⅠ型格納容器が欠陥設計ではなかったのか、というような、根本的な検討がなされていない。設計基準と切り離したシビアアクシデント対策として、付加的な安全対策が導入されているに過ぎない。設計の基本に立ち返れば、不十分なものと言わざるを得ない。
福島原発事故という、旧指針で定義した「重大事故」や「仮想事故」をはるかに超える大事故が起きたのであるから、それを防げなかった設計基準(旧安全設計審査指針等)こそを抜本的に見直すべきである。シビアアクシデント対策として示されている「可搬代替設備」や「恒設代替設備」は、設計基準に取り込んできちんと安全評価をおこない、設置すべきものであると考える。

このように考えると、そもそも、新安全基準が福島事故の教訓を十分に踏まえて作成されているのかどうか、その教訓は部分的にしか反映されていないのではないかという疑念につき当たる。福島事故は、安倍首相も明言したように、未だ収束していない。事故原因についても、東京電力が、1 号機建屋は暗闇だという虚偽説明で
国会事故調の現場調査を妨害した事実も明らかになり、再調査が必要になっている。
1 号機非常用復水器(IC:Isolation Condenser)配管が津波以前に地震で破断していたのではないか、1号機と様相の異なる3 号機爆発はどういうプロセスで起こったのか、水素爆発に続く使用済燃料プールでの核爆発は否定できるのか、などの原因究明なくして万全な安全基準は作れないはずである。新安全基準の策定はしばらく待つべきである。

4. 「新安全基準(設計基準)骨子案」には、本文で具体的に指摘するように、数多くの問題点や不備がある。具体性がなく、多様な解釈が可能な用語(「適切な」、「一定時間」、「まれ」と「極くまれ」など)が頻出している。
もっとも基本的な欠陥は、旧指針の「単一故障の仮定」が変更されていないことである。福島事故にみられるように、外的事象(自然現象、人為事象)では、安全系に関わる複数の設備・機器が同時に機能を失う現実的な可能性がある(共通原因故障)にもかかわらず、このことが設計基準に反映されていない。
福島原発事故の引き金を引いた、外部電源喪失についての対策も不十分である。
まったく独立した二系統での電源供給を骨子案が求めているのは一歩前進である(事業者は、この程度の負担増にすらヒアリングで注文をつけ、安全対策を値切ろうとしている)が、外部電源は重要度分類のクラス1に格上げし、最高レベルの耐震性を確保すべきである(現状は、一般産業施設と同じクラス3 である)。原子力規制委員会は、技術的に可能な安全対策はすべて実施するよう求めるという姿勢を明確にすべきである。

そのほかの具体的コメントは、本文に記す。

5. 「新安全基準(シビアアクシデント対策)骨子案」については、シビアアクシデント対策が設計基準と切り離されているところが、まず、問題である。シビアアクシデント対策として求められている「可搬式代替設備」や「恒設代替設備」について、安全評価基準を作り、その機能が十全に働くかどうかの信頼性を検証すべきである。
もっとも重要な問題点は、シビアアクシデント対策の中心が、電源車や消防ポンプなどの可搬設備に置かれていることである。「恒設代替設備」は、「可搬式代替設備により必要な機能を確保できる場合であっても、更なる信頼性向上を図るため、原則として、恒設代替設備を設置すること」(骨子案、9 ページ)とあるように、第二義的に扱われている。「特定安全施設」の多くも同様である。検討チーム会合に出された一覧表(第7 回会合資料1、2012 年12 月20 日)では、BWR のフィルタ・ベント装置以外は、すべて「更なる信頼性向上を図るため」の設備とされている。

安全基準は、現在の技術によって可能な対策はすべて実施するという原則に立つべきである。「更なる信頼性向上を図るため」という文言は、将来的に、新たな科学的知見や技術の向上があった場合に、それを取り入れた対策をおこなうという場合にのみ使うべき言葉であって、時間がかかるから当面後回しにしてよいという再稼働を急ぐための方便として使うべきでない。「更なる信頼性向上を図るため」および「原則として」という表現は削除し、恒設設備を安全対策の必須の条件とすべきである。
そのほかの具体的問題点については、本文でコメントする。

6. 以下に記載する本文のコメントを執筆したのは、原子力規制を監視する市民の会「新安全基準監視プロジェクト」にアドバイザーとして参加した専門家グループである。われわれは、個人としてもパブリックコメントを提出しているが、それらを整理して系統的にまとめたのがこの意見書である。

規制委員会検討チームがまとめた二つの骨子案は、従来、事業者の言いなりに策定されたため、きわめて不備であった過去の安全指針類にくらべれば、一歩前進である。しかし、抜本的な改定はなされておらず、問題点が数多くある。「世界最高レベルの安全対策」などと評価する論調も見られるが、欧米の安全基準が万全なものであるなどとは言えまい。それ以前に、欧米安全基準との対比資料を国民の前に提示していない。まして、地震国日本にあっては、他の国々より厳しい対策がなされるべきなのは当然である。このような拙速に作られた新安全基準にもとづく再稼働は、決して認められるべきではないと考える。

一方で、安全対策をさらに値切って再稼働に持ち込もうとする事業者や原発業界の動きが強まっていると聞く。安全対策を簡便なもので済ませたり、将来に引き伸ばそうとしたりしている。そのような立場からのパブコメも多く寄せられるであろう。「政治がどう言おうと、それにとらわれず、科学的技術的判断をする」と述べた田中俊一規制委員会委員長の姿勢が揺らぐことのないよう強く求める。規制委員会は、日本と世界の人々の将来を憂慮している多くの市民の声にこそ耳を傾けるべきである。

青木秀樹(弁護士)
井野博満(東京大学名誉教授、元ストレステスト意見聴取会委員)
小倉志郎(元東芝原発技術者)
小川正治(プラント技術者の会)
川井康郎(プラント技術者の会)
黒田光太郎(名城大学教授)
後藤政志(元東芝原発設計技術者、元ストレステスト意見聴取会委員)
滝谷紘一(元原子力技術者、元原子力安全委員会事務局技術参与)
只野靖(弁護士)
田中三彦(元原発設計技術者、元国会福島原発事故調査委員会委員)
筒井哲郎(プラント技術者の会)
内藤誠(現代技術史研究会)
長谷川泰司(プラント技術者の会)
藤原節男(元三菱重工原発設計技術者、元原子力安全基盤機構検査員)

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