ジェンダー平等とディーセントワークの実現のために 労働総研
労働総研ニュース№276 2013年3月号、今野久子さん(弁護士・東京法律事務所)の論稿。
「均等法が1986年に施行されてから26年余、雇用の分野で雇用と均等待遇を実現するのに、どれほどの効果があったのか、その限界・課題も含めて、実務家の立場から問題提起したい。」と述べたもの。
「ジェンダー平等の確保はディーセントワークの中核であり、民主主義の基本である」が、「企業の自主性にまかせていたのでは、改善は期待できない」「権利はたたかいとるもの」として取組強化をよびかけている。
【ジェンダー平等とディーセントワークの実現のために―均等法の改正に向けて―】
今野 久子(弁護士・東京法律事務所) / 労働総研ニュース№276 2013年3月号
はじめに
現在、労働政策審議会・雇用均等分科会で、均等法の見直し作業がおこなわれている。男女雇用機会均等法(以下、均等法という)は、国連・女性差別撤廃条約(1979年採択)批准のための国内法整備の一環として、1985年に、勤労婦人福祉法の改正法として制定された。制定にあたっては、男女平等を求める女性を中心とする全国的な運動が展開され、国会の審議には、傍聴を求める女性たちが列をなした。しかし、成立した均等法は、極めて不十分なものであった。
制定の段階から財界・使用者側は「平等というならば、女性保護の廃止を」と強く主張していた。これに対し、労働者側は健康で仕事と家庭の両立をはかることは男女共通の要求なのだから、「保護と平等」は両立するとして、労働時間や深夜労働の男女共通規制を要求し、その実現までは女性に対する時間外・休日労働の制限や深夜業の原則禁止を定める女子保護規定を廃止すべきではないとして全国的な運動が展開された。労働組合、女性団体、法律家団体などからも、男女ともに規制を強める意見等が出された。しかし、1997年(99年施行)の均等法の改正では、85年制定法では努力義務にすぎなかった募集・採用、配置・昇進段階の差別が禁止される等の改正が行われたが、同時に、労基法上の女子保護規定が廃止される改悪がなされた。国民の要求や声とはかけ離れたものであり、男性の基準に女性をあわせ、女性の保護規定を廃止するという、規制緩和の方向であった。
均等法は、さらに2006年(07年施行)に、現行法に改正され、そのときに採択された附帯決議にもとづき、現在「見直し」作業が行われているのである。
均等法が1986年に施行されてから26年余、雇用の分野で雇用と均等待遇を実現するのに、どれほどの効果があったのか、その限界・課題も含めて、実務家の立場から問題提起したい。
1 現行の均等法の内容
均等法は、2度の改正によって、福祉法から平等法へ、女性に対する片面的な法律から男女を対象とする両面的な性差別禁止法へと、性格が変わった。しかし、性差別の是正を行政指導等により実現していくことを基礎とする点では、基本的に変わりはない。
現行法(正式名称「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」)を概観してみよう。
主な規定は、次のとおりである。
(1)(女性差別の禁止から)男女双方に対する性差別を禁止する。
(2) 性別による差別禁止の範囲の拡大(禁止される差別項目の追加・明確化)
従来、募集・採用、配置・昇進・教育訓練、福利厚生、定年・解雇を規制していたが、これを拡充して、降格、職種変更、正社員からパートへなどの雇用形態の変更、退職勧奨、雇止め(労働契約を更新しないこと)についても差別を禁止する(6条)。
(3) 間接差別の禁止
労働者の性別以外の事由を要件とするもののうち、業務遂行に特に必要であるなど合理的な理由がない場合に、実質的に性別を理由とする差別となるおそれがある措置として厚生労働省令に定める三つの措置をとることが、「間接差別」として禁止されている(7条)。
省令により限定列挙された、非常に限られた範囲での間接差別の禁止であり、間接差別全般を禁止するものではない。
(4) 妊娠・出産などを理由とする解雇その他の不利益取り扱いの禁止(9条3項)
妊娠・出産にかかわる保護規定については、拡充されてきた。
(5) 妊娠中や産後1年以内の女性労働者の解雇の無効(9条4項)
この期間内は、他の正当な理由による解雇であることを事業主が立証しない限り解雇は無効とされる。立証責任が、事業主に課せられていることは、評価される。
(6) 母性健康管理措置(12条、13条)
(7) セクシュアル・ハラスメント対策の措置義務(11条)
(8) ポジティブ・アクション(8条、14条)
事業主の自主性に任せられ、事業主が取組もうとするときに、国が一定の援助をする。
(9) 実効性の確保措置(15条、17条、18条、29条等)
苦情の自主的な解決、都道府県労働局長の紛争解決の援助(必要な助言、指導又は勧告)、調停、厚生労働大臣による報告の徴収等。
2 働く女性の現状
世界経済フォーラムが発表した2012年度の世界ジェンダー格差指数によると、日本は135カ国中101位と前年より3位下がり、主要8カ国では最下位という厳しいランキングになっている。
均等法施行後現在までに四半世紀を経て、男女平等はどこまで進んだのか。均等法制定当時期待されたように、「小さく産んだ」均等法が「大きく育った」のだろうか。我が国の現状をみるならば、その実効性については、厳しい結果となっている。
(1)解消されない男女格差
まず、賃金で見てみよう。2011年の女性一般労働者の平均の所定内給与でみると、男性一般労働者の70.6%である。これを「正社員・正職員」で比較して見ても、73.9%に過ぎない。均等法が制定された1985年には、女性一般労働者の平均賃金は男性の59.6%であったから、四半世紀で約10%格差を縮小したことになる。長期的には格差は縮小傾向にあるといえるが、依然として格差は大きい。しかも、注意しなければならないことは、賃金水準が低下し続けている中でのことである。国税庁の「民間給与実態調査」によると、平均年間賃金は、賞与を含めた「給与計」で2000年46万1000円から、2011年には40万9000円まで減り、52万円もの減収となっている。平均給与は、男性504万円、女性268万円、女性では年収200万円以下が43.2%を占める(2012年9月発表。2011年12月現在)。このような低賃金は、年金にも連動するから、女性の貧困化は社会的に深刻な問題となっている。
賃金とも関連する昇格・昇進でも、「民間企業の役職別管理職に占める女性の割合」でみれば、2011年で、部長相当職5.1%、課長相当職8.1%、係長相当職15.3%に過ぎない。上位の役職では女性の割合が低く、依然としてガラスのシーリングは固く厚い。
(2)非正規女性労働の急増
他方で、顕著なのは、1990年代、とりわけ95年以降の非正規女性労働者の急増である。1995年の日経連の『新時代の「日本的経営」』が打ち出した雇用を流動化させて総人件費を抑制する政策のもとで、女性労働者の過半数がパート・派遣労働者・有期雇用労働者等の非正規労働者となり、その多くは身分が不安定で、低賃金等劣悪な労働条件のもとにある。
2011年 女性 正規 985万人
非正規 1188万人 (54.6%)
男性 正規 2200万人
非正規 545万人 (19.8%)
男性(特に若い層)も非正規労働者化がすすんでいるために、女性非正規労働者の劣悪な労働条件を間接(性)差別の問題として捉える視点が弱いと思われる。しかし、雇用分野での女性の地位の向上や良質な雇用の確保は、この非正規労働問題の改善なしにはありえない現状にあることを直視しなければならない。
(3)正規女性労働者の実態
他方、正規で働く女性労働者の実態はどうか。均等法制定前後に大企業中心に導入されたコース別雇用管理制度は、その後様々な変更をされながらも、男女差別の温床となっている。たとえば、芝信用金庫。地域金融機関として転居をともなう転勤はないとされてきた職場である。女性昇格差別事件で、地裁・高裁判決では女性差別是正裁判で初めて課長職という地位確認が認められ、最高裁で画期的な和解が成立した。他方、金庫は、裁判途中で、営業の仕事が含まれるか否かでコースを分けるという人事管理制度を導入し、営業職を希望しない(中高年齢で初めて営業職につくことは体力的にも非常にきつく、実際に営業職になった後にコース転換を求める者もいる)女性たちの賃金を抑え込んでいる。
1月28日に東京で労働法制中央連絡会・全労連主催で開かれた「男女雇用機会均等法の実効ある改正を!」集会では、大手都市銀行でのコース間での著しい賃金格差、総合職へ転換する女性が極めて少数であること、女性が50歳近くで総合職へ転換しても総合職男性の20代の給与水準であること等が報告された。金融ユニオンは「80年代、90年代を通じて一方で正規女性の削減=低賃金非正規への置き換えが進み、同時にコース別人事制度で女性の賃金を非正規とほとんど変わらない低賃金に据え置いた」と結論として述べた。
均等法の改正の国会での審議の前に、職場実態調査が必要であることを指摘しておく。
(4)是正されない長時間労働のもとでのワーク・ライフ・バランスの困難
女性差別撤廃条約は、伝統的な性別役割分担を見直し、育児は「男女と家族の責任」であることを謳っている。仕事と家庭の両立(ワーク・ライフ・バランス)は、政府も21世紀の政策課題として掲げる。育児・介護休業法等の家族的責任を有する労働者のための特別措置の整備は一定程度すすんだが(それも「待機児童の急増」にみられるように必要な施策は不十分で貧弱)、労働時間の短縮など一般労働者の労働条件の改善がなされなければ、ワーク・ライフ・バランスが、男女ともに保障される状況にはならない(ILO156号条約でいうところの2つの目的と2つの措置の実効性の確保)。1990年代後半からの非正規労働者の急増に伴い、労働時間の2極化現象(過労死する危険があるほどの長時間労働者と社会保険も適用されないような短時間労働者)が生じ、真の意味でのワーク・ライフ・バランスの確保は重要な課題となっている。
長時間労働の解消は、重要な課題である。子育て期の男性は、週60時間以上働いている割合は、「25~29歳」が16.1%、「30~34歳」が18.2%、「35~39歳」が19.2%、「40~44歳」が19.4%と、約5人に1人が長時間労働に従事する異常事態となっている。(総務省統計局「労働力調査」2011年・<注>岩手県、宮城県及び福島県を除く全国の結果)。週60時間といえば、時間外労働が80時間を超える、「過労死予備軍」といわれる働き方である。男性の家事関連時間は、共稼ぎ世帯も、夫就業・妻無業世帯も一日1時間未満に過ぎない。その原因には、いまだ解消されない固定的性別役割分担意識があることは否定できないが、労働時間の在り方に重大な問題がある。長時間・不規則労働や深夜労働に対する規制が進まない中では、女性が正規で働き続けるには長時間労働等に応じなければならず、そうでなければ、パートや有期雇用で低賃金で働くという、二極化がすすんできていることが危惧される。
改めて、労働者が求めるワーク・ライフ・バランスについて、要求を打ち出していく必要がある。現在、過労死防止基本法制定を求める運動も、その一つとして成果が期待される。
3 均等法の限界と改正に向けて
(1)均等法の法的な性格
均等法の「~与えなければならない」(5条)、「~してはならない」(6条・7条・9条1項~3項)とする規定は、私法上の強行規定と解される。したがってそれに違反する行為は、無効である。また、財産的・精神的損害を与えれば、不法行為として損害賠償責任を生じさせる。
裁判に訴えて、損害賠償を命じる判決を得て大きな成果をあげている例もある。しかし、損害賠償はあくまでも過去の損害の賠償であり、将来に向かって性差別を是正するものではない。女性であるが故に昇格昇進で差別された労働者たちは、責任ある地位につき、実際に部下をもち、あるいは専門的な仕事につきたいと望んでいる。人間としての尊厳の回復を求めているのである。
それでは、使用者が均等法に違反した場合に、差別された労働者は均等法を根拠に具体的に昇格した、あるいは昇進した地位の確認の請求権を主張できるのか。これについては、均等法は明確な補充規定をおいていない(均等法の定める規定に違反した場合に、その効力について唯一明記しているのは、9条4項)。
判例も、差別是正の均等待遇の請求権を認めることについては消極的で、唯一芝信用金庫事件で、課長職への女性差別を認めた上で、女性原告が同期入職の男性の100%ないしそれに準ずる割合で課長職へ昇格した時期に、女性原告が課長職に昇格したものとして課長職の地位を認めた判決があるだけである。
*昇格した地位まで認めた判例…芝信用金庫昇格賃金差別事件(東京高判平12.12.22.労判796号5頁)
資格の付与が賃金と連動しており、かつ、資格の付与が職位につけることと分離されている場合は、資格の付与での女性差別は賃金の差別と同様に考えることができるとして、労基法3条、4条、就業規則3条(男女の均等待遇の原則)、労基法13条、93条の類推適用により、在職者の「課長職の資格」の確認と、差額賃金の支払い、不法行為としての慰藉料、弁護士費用の支払いを命じた。
昇格試験の人事考課において男性には特別の配慮を行い、女性には配慮しなかったことが、昇格・賃金での男女格差の原因であると認定。同期男性全員(ほぼ全員)が昇格した年を基準として、是正。
是正を認めた法的根拠は、労基法の規定の類推適用と就業規則であり、均等法自体ではない。
<課題> 均等法違反の場合の効果について明記することを検討すること。
(2)性差別の定義の規定なく、間接差別の禁止規定も不十分
1) 性差別の定義を規定していない
均等法は、募集・採用での機会均等と性別による差別的取扱いの禁止を規定するが(6条)、いかなるものが性別を理由にする差別的な取扱いに該当するかについて、規定していない。前述のとおり、2006年改正で、性別による差別を禁止する項目の追加・明確化がなされた(6条)。しかし、この形式を取る限り、いくら拡充されても、差別的取扱いの禁止が規定されていない事項が均等法の規制から外れることになる。その結果、均等法では最も重要な労働条件である賃金について規制対象になっていない。賃金については、労働基準法4条の「使用者は、労働者が女性であることを理由として、賃金について、男性と差別的取り扱いをしてはならない。」という規定があるだけである。
<課題>性差別の定義規定をおき、男女ともに性による差別的取扱いを禁止する。
2) 間接差別の禁止規定の問題点
女性差別撤廃委員会(CEDAW)をはじめ、国際的な批判もあり、2006年改正均等法は、間接差別の禁止に関する規定を加えた(7条)。しかし、それは、間接差別全般を禁止する規定ではない。また、雇用に限らず、間接差別全般を禁止する法律も、日本の現行法には存在しない。
改正均等法7条を受けて、均等法施行規則2条は、
1号 募集・採用に当たり、労働者の身長、体重または体力を要件とすること
2号 コース別雇用管理における総合職の募集・採用に当たり、転居を伴う転勤に応じることができることを要件とすること
3号 昇進に当たり、転勤の経験があることを要件とすること
の3つの措置ついて定める。
2004年6月に発表された「男女雇用機会均等政策研究会報告書」では、間接差別の例として、これ以外に(1)募集・採用における学歴・学部要件、(2)福利厚生の適用や家族手当の支給における世帯主要件、(3)処遇の決定にあたって正社員を有利に扱うこと、(7)福利厚生の適用や家族手当の支給に当たってパートタイムの労働者を除外すること、が挙げられていた。しかし、均等法施行規則は、これらを規定せず、上記の3つに限定するという極めて限られた規定となっている。
このような立法の不備は、司法の流れにも追いついていない。間接差別の禁止法理については、すでに裁判で家族手当等の世帯主要件について、その適用が問われている<日産自動車家族手当事件・平成元年1月26日(東京地判)、三陽物産事件判決(東京地判平成6年6月16日)等>。
たとえば三陽物産事件のケースでは、世帯主か否かで本人給が25歳(後に26歳)の年齢給で昇給が止まることが労基法4条違反か否かが問題とされた。判決は、世帯主・非世帯主基準を適用する結果生じる効果が一方的に女性に著しい不利益となることを容認して制定したなどの理由で、労基法4条違反で無効とした。この裁判では、原告側は、世帯主という基準は性中立的基準であるが、それを適用すると圧倒的多数の女性は25歳で給与が止まる。しかし、世帯主か否かで本給の昇給基準とすることに合理性はないことを主張している。これは、間接差別の法理論にもとづく主張である。均等法に間接差別の禁止が明記されていたならば、司法判断を仰ぐまでもなく、原告は救済されたかもしれないのである。
三陽物産のケースは、間接差別の法理で差別を認めることが十分可能な内容である。三陽物産事件の判決が出たのが平成6年。それから約20年近くも経ているのに、世帯主を基準とする間接差別については、均等法の禁止の対象でもなければ、労基法の規制対象にもなっていない。
差別は,常に新しい形態で生みだされていく。
労働条件の内で最も重要な賃金については、そもそも均等法の規制対象ではない。また、労基法という個別の実定法においても間接差別を禁止する規定が存在しないので、「世帯主」を基準とする基本給に対する差別(例・三陽物産事件の事案)や家族手当に対する差別(例・日産自動車家族手当事件の事案)は、均等法でも労基法でも直接の規制対象とはならないという状況にある。このように行政での救済が非常に限られているため、結局司法救済に頼らざるを得なくなるのは、問題である。
女性差別撤廃条約1条は、差別について、「女性に対する差別」に特化しているが、(1)性に基づいてなされたあらゆる区別、排除、又は制限であって、(2)女性が人権及び基本的自由を認識し、享有し、行使することを害し又は無効にする目的あるいは効果を有するものをいう」、と定義する。行為の目的と効果の双方から差別を捉えているので、直接差別だけでなく、間接差別をも含む。
2009年のCEDAWでの「第6次日本政府レポートに対する第4回審議」の総括所見では、国内法に条約1条に基づく女性に対する差別の明確な定義のないことの懸念を表明し、「2006年の改正均等法の間接差別は狭義の定義をとりこんだが、差別の定義は取り込んでいない。差別の定義が規定されていないことが、条約の完全実施の障害となっている。定義の完全組み込みのための緊急措置をとること」と「間接差別の禁止を明記すること」とあわせて、後に述べる「雇用管理区分」の指針の廃止の意見が述べられている。
<課題>
(1)何が性差別かについて、定義がない。差別の定義規定をもうけることが検討されるべきである。
(2)間接差別の禁止を条文上明記し、省令は例示規定とする。
(3)「雇用管理区分」の問題点
2006年の均等法改正後も、5条、6条の差別になるかどうかは「一つの雇用管理区分において」判断されるという指針が維持されている。つまり、男女平等待遇は、同じ雇用管理区分の中で確保を図るものとされているのである。法令でもない指針が、差別認定の障害となっていることは、重大な問題である。
2008年3月のILO条約勧告適用専門委員会の100号条約に関する日本への「個別意見」では、「委員会は、企業によって設けられた異なる雇用管理区分に属する男女に対して、同一価値労働同一賃金原則の適用を制限することはできないと考える」と指摘して、総合職男性の職務と一般職女性の職務とを、上記原則に基づいて比較し、同一価値労働と評価されれば、同一賃金を支給することが可能であることを、述べている。
<課題>雇用管理区分に関する指針は廃止されるべきである。
(*雇用管理区分とは、「職種、資格、雇用形態、就業形態等の区分その他の労働者についての区分であって、当該区分に属している労働者について他の区分に属している労働者と異なる雇用管理を行うことを予定して設定しているもの」(新均等法指針))
(4)ポジティブアクションの不備―義務化へ
均等法8条は、事業主が募集・採用などの一定の事項について、均等確保のための積極的な措置(=ポジティブ・アクション)をとることは、5条、6条に違反することにはならないと規定し、事業主がそのようなアクションを取るときには、国が援助することを規定する(14条)。
長年にわたって女性が性差別を受けてきた事態を改善するには、性差別を禁止し、差別された労働者を救済するだけでは不十分であり、事業主が均等を確保するための特別措置をとる必要がある。
しかし、ここでも、男性労働者と女性労働者の比較は、あくまでも雇用管理区分別とする。しかも、ポジティブ・アクションを取るかどうかは、あくまでも企業や団体の自主性に任せており、努力義務にもなっていない。
この面での日本での遅れは甚しい。EU諸国の多くは、ノルウェーやフランスのように、一定の企業には、取締役等の女性の登用を促進するために、クオーター制(ノルウェーは2008年1月以降株式会社で女性の役員を40%、フランスでは上場企業で2017年までに40%等)を取るなど、女性の役員登用の促進策がとられている。日本と同様に男女賃金格差が大きい韓国でも、2006年より、従業員500人以上の企業と公共機関に、男女別の雇用者数と女性管理職比率の提出を義務づけ、各産業別の平均値の60%に満たない企業に対しては改善計画を策定し、履行するように指導する積極的改善措置がとられている(男女雇用平等法の改正による)。
<課題>(一定規模以上の)事業主にポジティブ・アクション実施計画の作成・実施状況の報告を義務づける。
(5)救済機関
性差別是正の実効性の確保のためには、男女差別からの迅速・低廉で簡易な救済は、均等法制定前からの課題であった。
実効性の確保の手法としては、一般論として次の方法が考えられる。
ア 行政を通じての実効性確保手段(行政救済、行政制裁、行政指導、行政機関による監視・監督)
イ 司法を通じての実効性確保手段(民事救済、民事制裁・懲罰的な損害賠償等)
ウ 刑事制裁(直罰と行政罰)
エ その他の実効性確保手段(積極的差別是正措置・自主的苦情処理機関の設置等)
1) 現行法では、ポジティブアクション(14条)は、前述のとおり、義務化されず、自主的に取り組む企業等に対し、国の援助があるのみである。均等法では、企業内での苦情に対する自主的な解決の努力義務(15条)のほかに、都道府県労働局長による紛争解決の援助制度(17条)、紛争調整委員会による調停(18条),厚生労働大臣による事業主からの報告の徴収並びに助言、指導,勧告(29条)などがある。制裁措置としては、法29条による厚生労働大臣の勧告に従わなかった事業主の公表制度(30条)、また厚生労働大臣から報告を求められて報告をせずまたは虚偽の報告をした者に対し、20万円以下の過料が科せられる。
2) 均等法制定当時は、調査権限があり、救済命令まで発することができる独立行政委員会のような方式がよいのか、それとも監督官方式がよいのか、あるいは併用か、と真剣な議論が行われた。現行の機構では、不十分であることは明らかである。
<課題>今の制度を迅速・簡易・低廉な解決方法に変えていくことは、重要な検討課題である。事後的な救済では不十分である。差別の予防・防止の手段として監視・監督機関の充実と権限を強化した積極的な差別是正政策がはかられるべきである。
(6)労基法と均等法の調整
一般に職能資格制度をとる企業では、いかなる職能資格に位置づけられるかで、賃金が異なる。しかし、昇格で差別され、それにより賃金で不利な取扱いを受けたとき、現行法では、昇格での性差別の問題とみれば均等法6条1号が、女性なるが故の賃金差別の問題となれば労基法4条違反の問題になる。そして、均等法と労基法では、行政取締り法規であることは共通だが、労働基準法違反であれば労働基準監督署が扱い、均等法違反ならば都道府県労働局長等が紛争解決の援助を行い、所管の行政機関も異なることになる。差別是正の救済を求めるとき、どの機関に持ち込むかという問題に直面するのである。
たとえば、筆者が弁護団の一員であった社会保険診療報酬支払基金女性昇格・賃金差別事件のケースでは、男性は年功で昇格し、それに伴い賃金が上がるのだが、他方同じ勤続年数の女性は、昇格から排除されていたから賃金が上がらなかった。労基法4条違反の明確な「女性なるが故の賃金差別」であるとして労働基準監督署に申告したが、2年近くも経て「昇格と関連しているので労基法4条の問題として取り扱えない」という見解がだされ、提訴せざるを得なかった。この苦い経験から、芝信用金庫事件では、労基署に申告せず、はじめから裁判に訴えることになったのである。
<課題>
(1) 均等法の差別禁止事項に「賃金」を入れること。
(2) 同一価値労働同一賃金(待遇)の原則を実定法(労基法)に明記すること。
あわせて、雇用形態による不合理な差別の禁止の原則を労基法に明記することが検討されるべきである。
終わりに
労働者からは、法律名を「男女雇用平等法」に変更するよう求める声が強い。制定の段階から要求の強かったことである。憲法14条の規定を持つ我が国としては、目的と基本理念を明らかにする意味でも、名称変更が望まれる。
均等法の制定も、改正も、女性を中心とする労働者や労働組合・市民の運動がなければ、進められなかったであろう。企業の自主性にまかせていたのでは、改善は期待できない。
均等法の制定段階で、定年・解雇での女性差別が禁止されたのも、それ以前に女性の結婚退職制・若年退職制、男女差別定年制を民法90条に違反し、無効とする裁判闘争があったからこそ、立法に反映されたのである。制定段階で、努力義務規定とされた昇進での差別については、1990年代に女性の昇格・賃金差別を争う裁判が次々と提起されて違法無効とする判決が累積され、それが差別禁止規定に改正させる力になっていった経過がある。女性差別を巡る裁判と立法の関係をみると、「権利はたたかいとるもの」ということが実証されている。要求やたたかいがない中で、企業が雇用分野での均等待遇に向けて積極的な改善措置をとるなど期待できない。
ジェンダー平等の確保はディーセントワークの中核であり、民主主義の基本である。均等法の改正への取り組みを強めることが求められる。
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