電機産業大リストラから、ものづくり日本と地域経済、国民生活を守る 労働総研提言
提言は「電機の大リストラは、日本の産業基盤をなす電機産業を根底から破壊し、わが国製造業の衰退を決定的なものとする危険をはらんでいる。労働者には失業の増大、所得減少、労働市場の悪化がもたらされ、電機大企業に働く13万人のリストラにとどまらず、下請・関連企業に働く155万人もの就業者が生計の場を失う恐れがある。それは、地域経済はもとより、日本経済にも深刻な影響を与える。」
として、「衰退」の原因の分析とその処方箋を提起し、大リストラをやめさせる対策、人と技術を大切にして産業再生を図ることを幅広い視野で提言している労作。
目先の利益で行動する多国籍企業化した日本の財界がいかに国益と無益な存在か、がよくわかる。
【提言・電機産業の大リストラから日本経済と国民生活を守るために 1/30 労働総研】
【提言・電機産業の大リストラから日本経済と国民生活を守るために 1/30 労働総研】
2013 年1 月 労働運動総合研究所
◆第一部 電機産業の危機的状況をどう打開するか
はじめに――日本経済と国民生活の今後を左右する電機のリストラ問題
電機産業は、製造業のなかでももっとも多くの労働者が働いている産業であり、サービス産業を別とすればわが国最大の産業である。総務省「労働力調査」(2011 年)の産業中分類別雇用者数(役員を除く)によると、電機産業の労働者数は、電子部品・デバイス・電子回路製造業 62 万人、電機機械器具製造業56 万人、情報通信機械器具製造業24 万人の合計142 万人にのぼっている。多種多様な製品を生産する電機産業は、労働集約的で工程数も多く、1990 年には196 万人もの労働者が働いていたが、バブル崩壊後は急速に減少してきた。とはいえ、今日なお、リーディング産業である自動車産業(輸送用機械器具製造業)の雇用者(役員を除く)105 万人よりもさらに40 万人も多くの雇用者が就業しているのであり、しかもこの数字には電機産業に多い非正規の労働者数は十分反映されていない。
この産業でいま、ほとんどすべての電機メーカーをまきこんだ大規模なリストラが強行されつつある。電機労働者懇談会が2012 年12 月30 日現在で108 企業・職場について行なった調査によっても、社員数118 万2980 人のうち、 13 万5821 人が人員削減の対象となっている。すでに先行して解雇されている非正規雇用労働者を別にしても、実に1 割以上の解雇である。なかでも12 の大企業・グループはリストラ1000 人以上であり、パナソニック、ルネサス、TDK、ソニー、NEC、リコー、シャープの7社は1万人以上の大規模リストラを打ち出している。日本経済と国民生活にあたえるその影響はきわめて大きい。
この点で考慮に入れる必要があるのは、大手電機メーカー各社が多くの下請・取引企業を抱えていることである。たとえば、パナソニックグループの国内取引先は一次、二次あわせて3 万1391 社、従業員数は約690 万人、シャープは8495 社、従業員数約420 万人にのぼるという(東京商工リサーチ調査)。電機産業の大リストラはこれら膨大な下請・取引先の企業・従業員をまきこんですすめられているのであり、それはすでに北九州、鳥取
山口、千葉、宮城など全国各地の地域経済に破壊的影響をおよぼしつつある。
電機産業の大リストラは、すでに各地で中小企業の連鎖倒産をも引き起こしながら、日本経済の不況をさらに一段と深刻化させつつある。それは、日本の産業基盤をなす電機産業を根底から破壊してしまう危険さえはらんでいる。国民の雇用と生活を守るうえでも、日本の産業と地域経済を守るうえでも、当研究所として、電機の大リストラをめぐる深刻な諸問題を傍観しているわけにはいかない。
提言では、電機産業がこんにち直面している危機的状況の真の原因を明らかにしつつ、困難を打開する政策方向について提案してみたい。
1 今日の電機大リストラに見る特異な諸特徴
電機産業ではこれまでにもくり返しリストラが強行されてきたが、今回の大リストラは従来にない特異な性格をもっている。
〈エコポイント政策後のリストラ〉
第一に、今回のリストラは、ITバブル崩壊やリーマンショック不況の場合のような、企業の一般的な業績悪化のなかで実施されているものではない。国民の税金を7000 億円以上もつぎ込んだ家電エコポイント政策や地デジ化によって、家電メーカーが需要を先取りし大儲けした後の、国内市場の冷え込みのなかで実施されているものである。景気浮揚のためだとして支出された予算は、かつてなく大規模なリストラという形で国民生活に跳ね返ってきているのである。
〈電機産業まきこむ便乗リストラ〉
第二に、電機産業のなかには、①家電、②重電、③半導体など産業用製品、④航空宇宙機器、⑤原子力発電、⑥兵器関係など多様な分野があり、電機メーカーにも、総合電機メーカー、家電メーカー、電機部品メーカーなど、さまざまな業態の企業が存在する。
そのなかには、総合電機3社(日立、東芝、三菱電機)をはじめ、黒字経営で好調を維持している業種や企業も少なくない。発電、工場設備などの重電部門は大幅黒字である。にもかかわらず今回の電機大リストラでは、ほとんどの電機産業の大企業がなんらかの形でリストラ実施に参加している。こうした産業あげての大規模な同時的リストラの展開は、その破壊的影響を何倍にも増幅する結果を招いている。
〈国内産業破壊のリストラ〉
第三に、今回のリストラのなかには、必ずしも企業の復興・再構築を目指しているとはいえない、清算主義的なリストラが少なからず見られる。国内工場の大半を閉鎖・縮小したり、主力工場を売却して、これまで主たる収益源であった業種から撤退する動きもある。
そのなかには、わが国唯一のDRAM生産メーカーであるエルピーダメモリをアメリカ半導体メーカーに売却する事例もふくまれる。後に見るように、そこには電機産業の生産基地は国内に残さなくとも良い、という経営戦略が反映されている。
〈赤字口実の違法リストラ〉
第四に、電機メーカー各社はリストラ計画の発表に先立って多額の赤字決算を発表している。そして、赤字であれば、従業員解雇や賃金切り下げのリストラは当然であるかのような対応をしている。しかし、発表されている赤字決算の内容を見ると、多くの企業で営業利益が黒字であるにもかかわらず、赤字額を意図的に膨張させている傾向が見られる。
新たな支出を必要とするわけではない「のれん代」の減損を計上する、「繰り延べ税金資産」を取り崩す(将来の税負担の軽減を予定して計上していた資産を、戻ってこないものとして処理する)、これから実施予定のリストラ費用を前倒しで差し引く、等々、あたかも本業の経営破綻によって多額の赤字が生み出されたかのように粉飾しているのである。
パナソニックの場合についてみると、携帯電話を除くすべての事業で黒字が出ているにもかかわらず、三洋電機の買収や松下通信工業の完全子会社化にともなう「のれん代」減損処理、繰り延べ税金資産の取り崩し、リストラ費用などで、バランスシート上7650 億円もの赤字を見込んでいる。その赤字額は、アメリカの大手情報サービス会社・ブルームバーグ・データによるアナリスト予想の247 億円の30.9 倍にも膨張しているのである。
電機産業においては内部留保の減少が見られるとはいえ、なおその蓄積は巨額で、2012年7~9月期の電気機械・情報通信機械産業の内部留保額は17.9 兆円にのぼる(労働総研調べ)。赤字の場合には、内部留保その他の蓄積された利益で処理するのが当然であり、そうした経営努力を抜きに従業員や取引業者を犠牲にすることは許されない。すでに経営破綻している企業を別とすれば、内部留保の活用等によって、整理解雇は十分避けられるはずである。そのうえ問題なのは、リストラの実施に際しては、計画策定段階から実施過程にいたるまで、関係者への十分な説明と同意努力が求められるにもかかわらず、従業員に対しても取引業者や地方自治体に対しても、そうした努力をほとんど行なっていないことである。電機のリストラは明らかに最高裁判決などの判例による「整理解雇の4要件」に違反する大量解雇として強行されているのである。
〈人権侵害など現行法令にも反する違法・不当な手法〉
第五に、今回の大リストラには、法令違反の大量解雇であるためか、違法・不当な手法で労働者を退職に追い込もうとするものが多い。法制度的な解雇規制や雇用保護が弱いといわれるわが国でも、「整理解雇の4要件」をはじめ、労働基準法、労働契約法、育児・介護休業法などによる一定の保護制度があるが、今回の大リストラでは、それらはほとんど無視されている。脅迫まがいの面談、転職コンサルタントへの登録、遠隔地配転、「弱い」従業員をねらい打ちにしての退職強要、違法な賃金カット、業務を取り上げての隔離部屋、企業グループ外への「出向」強要、等々、従来になく陰湿で横暴な、不当・違法な解雇や労働条件切り下げが強行されている。そのなかでは、日本IBMのロックアウト解雇に見るように、経営者による乱暴な解雇自由を一気に既成事実化しようとする危険な動きも出ている。今回の大リストラは、労働者の基本的諸権利に対する先制攻撃的な性格ももっているといわねばならない。
〈業績回復どころか金融不安をよぶリストラ〉
最後に、今回の大リストラで注目されるのは、それが株価の暴落と金融不安を引き起こしていることである。
これまで大胆なリストラの実施は株価改善の妙薬であった。ITバブル崩壊後の2002年の大リストラでも、大手各社は、リストラ計画を発表するたびに株価が跳ね上がるという経験をしてきた。しかし今回は、赤字キャンペーンとリストラ実施にともない、電機大手の株価はストップ安の暴落に見舞われるなど、かつてない時価総額の減少にさらされており、金融面からもその経営基盤を揺るがすこととなっている。その結果、たとえば、豊富な資金量でこれまで銀行からの借り入れをしたことがないパナソニックが、銀行からの融資枠設定に走り、来年から3年間の次期中期経営計画の唯一の目標は「売り上げよりも利益重視」だとして、フリーキャッシュフロー{純現金収支}を毎年2000 億円以上確保することを至上目標にするという事態も生まれている。リストラ=人員削減で業績回復という方程式はいまや通用しなくなっているのである。
2 電機大リストラは日本経済や国民生活にどのような影響をあたえるか
電機の大リストラはまだ道半ばである。事態がこのまま進めば、リストラは今後下請・取引企業や地域経済に、さらには他産業にも飛び火しながら、その破壊的影響を拡大していくことになろう。それを放置するなら、日本経済と国民生活はかりしれない打撃を被ることになる。
第一に、労働者に対する影響では、直接的な影響に限っても、①失業の増大、②所得の減少、③労働市場の悪化(新規求職者の増大、不安定雇用の拡大、賃金水準の低下)、④社会保障・年金財政の悪化、などが引き起こされる。仮にリストラ対象労働者が正規・非正規あわせて30 万人にのぼるとすれば、失業者数は約330 万人、失業率は5.1%に跳ね上がるのであり、それだけでも国民経済にあたえる影響の大きさが推定できよう。
第二に、下請関連企業、地域経済に及ぼす影響の問題がある。その計量的推定は困難であるが、大手電機メーカーの正規雇用労働者削減が約1 割とすれば、下請関連ではそれを増幅した影響が出ると予測される。帝国データバンクの調査によると、パナソニック下請企業の14.3%が二期連続の減収企業となっているということなので、いまパナソニック690 万人、シャープ420 万人、合計1110 万人の下請企業の従業員にしぼって、その14%がリストラの犠牲になると仮定しても、実に155 万4000 人もの就業者が連鎖倒産に巻き込まれて生計の場を失うおそれがあることになる。税収の落ち込みが地方自治体にあたえる打撃などもふくめ、地域経済にあたえる破壊的影響は甚大なものとなろう。
第三に、上記の影響は電機産業の就業者を多数かかえる地域経済の場合、とくに深刻な問題となっているが、そこでの雇用の悪化や消費の落ち込みは他の産業・地域にも波及してきており、非製造業など内需関連のセクターでも景況を悪化させる要因となっている。
第四は、今日の大リストラがこのまま強行されるなら、わが国電機産業の衰退、さらにはわが国製造業の衰退が決定的なものとなる恐れがある、という問題である。
今日では集積回路が主要な生産指数となっているように、半導体は「産業のコメ」であり、電機産業の技術はあらゆる産業技術の基礎である。その発展なしには、日本経済の存立基盤を維持することも、エネルギー、環境などこれからの21 世紀産業の発展を図ることも不可能なのであるが、今日の電機のリストラは、わが国における電機産業の担い手を放逐して生産を空洞化させ、半導体の生産や販売を外資に依存し、独自技術の開発・維持を放棄する方向に向け展開されている。その否定的影響は、すでに日本の貿易収支を恒常的な大幅赤字にみちびいているのである。
3 リストラと企業の社会的責任
〈リストラはやむをえないものなのか〉
電機の大リストラは、上記のように国 民生活にも日本経済にも多大の打撃を与えるものであるが、大企業経営者たちはそれを業績不振によるやむをえない措置として、従業員や取引業者・地域住民に受け入れさせようとしている。そして現状は、少なくない労働者や国民が、リストラはやむをえないのではないかと考え、あきらめている実態がある。AERA誌(2013 年1 月14 日号)が電機産業の早期退職者・退職予定者3007 人にアンケート調査した結果では、リストラの犠牲となった労働者たちでさえも、実に8割の人が「人員削減は仕方ない」と考えているという。しかし、本当にリストラはやむをえないことなのだろうか。
〈赤字理由のリストラは許されない〉
わが国の大企業経営者たちがリストラの理由として第一に挙げるのは、企業経営の赤字である。すでに見たように発表されている赤字には誇大宣伝が多いが、赤字額の多少は別にして根本的な問題は、そもそも赤字となったらリストラで黒字化を図るという経営政策が許されるのか、という問題である。
これは国際社会ではとうてい通用しない、きわめて異常な経営政策だといわねばならない。資本主義的経営にとっては黒字の時もあれば赤字の時もあるのが普通であり、日頃から赤字の際の対策を立てておくのが経営の常道だからである。従業員は企業経営の生命力であり、業績不振の際にもその雇用と生活を守るため最大限の努力をするのが、市場経済における経営の観点からしても必須の要件だからである。そして「業績不振」とはいえ、大手電機メーカーのほとんどが今日なお従業員の整理解雇を回避するだけの体力をもっていることは、すでに見たとおりである。にもかかわらず今日の電機大企業経営者たちは、短期の黒字転換を求める大株主の要求に屈して、あるいは過剰投資などの明らかな経営ミスの責任を従業員に転嫁する形で、自殺行為に等しい大リストラに走っているのである。
〈時代錯誤の海外生産拡大論〉
大企業経営者たちがいま一つの理由として挙げてきた、国際競争力を維持するためには海外進出と国内生産のリストラが避けられない、という言い分についてはどうであろうか。
そこには日本の製造コスト、とくに労務費が、海外企業のそれに比べ割高だという主張が含まれているが、21 世紀の今日、こうした言い分や主張はまったく色あせたものになってしまっている。それは、この間、次のような事情が生じているからである。
①中国やインドネシアなどアジア諸国の賃金が急速に上昇に向かい、先進諸国でも賃金が上昇するなか、ひとり日本だけが長期の賃金低下に苦しむ状況が続いており、内外の賃金格差は縮小している。
②昨年末以来の急激な円安のもとで、この傾向はいっそう鮮明となった。
③製品の製造コストを比較する場合には、賃金のほか、工場整備のインフラや、電力、ガス、水道、通信などのライフラインのコスト、需要地までの輸送コスト、金融コスト、それにカントリーリスクの費用なども加えて比較する必要があるが、そのように実際の製品コストを積み上げた場合の格差は、意外に小さなものである。最近海外企業による国内工場買収の動きが出てきていることは、総合的に見て、日本企業の国内生産にも十分に国際競争力があることを示している。
④製造工程の自動化がすすみ、モジュール化、セル生産など生産方法の改革がすすむなかで、労務費の高低が企業の「競争力」に及ぼす影響はますます限られたものとなった。
⑤大震災後の企業経営は、原材料の調達から生産・販売にいたる物流システムをできるだけ短縮するように原材料調達、製造拠点、市場を近距離に配置・組織するようになってきており、そのなかではアメリカにおける海外進出企業の国内回帰に見るように、国内生産のもつメリットがあらためて注目されるようになっている。
海外生産の拡大によってのみ企業の「生き残り」を図ることができる、などというのは、時代錯誤の経営戦略なのである。
〈企業の社会的責任がきびしく問われる時代に〉
だが、リストラをすすめる大企業経営者たちの時代錯誤ぶりを、なにより端的に示しているのは、かれらが「企業の社会的責任(CSR)」について無自覚なことである。「資本主義企業である以上、利益の拡大を最優先して追求するのは当然である」とか、「企業は株主のものであり、株主の意向にしたがって経営するのは当然である」といった、前時代的な考えにとらわれている経営者がいぜんとして多い。
もちろん周知のように、当初CSRに反対していた財界団体や大企業も、すでに21 世紀末初め頃からCSRの具体化に取り組むようになってきた。たとえば経済同友会の企業白書『「市場の進化」と社会的責任経営』は2003 年3月に、「企業は社会の一員として、社会に何をもたらすために存在するのか、という基本命題にもう一度立ち戻る必要がある」と言い、企業を「社会の公器」としてとらえ、その社会に対する責任を広くとらえる立場に立たなければならないと述べていた。また個別企業でも、たとえば「事業は人なり」を社是とするパナソニックは、その「行動基準」で、「従業員のみならず全てのステークホールダーに対し最大限の配慮と尊重をもって接します」「透明で公明正大な事業活動を心がけ、説明責任を果たします」と述べている。今回の大リストラは、これらの社会的公約がまったく看板だけであったことを暴露したのである。とくにわれわれが重視しなければならないのは、企業には従業員の雇用と家族の生活を守る責務があり、それこそが企業の社会的責任の核心をなす問題だということを、大企業経営者たちが無視していることである。
しかし、今日ではこうした無責任な対応は許されなくなっている。2011 年3月に発表された国連の報告「ビジネスと人権に関する指導原則」は、人権を尊重する企業の責任とともに、企業を含む第三者による人権侵害から人びとを守る国家の義務をも明らかにした。
そして、たんなるうたい文句ではなく具体的な政策・規制や行動として、企業がその社会的責任を日常的にはたしていく道筋を示した。世界の経済界や人権団体からの広範な意見聴取をもとに作成されたこの報告は、国連人権委員会の満場一致の支持で勧告として採択されている。わが国においてもこの勧告は、大企業の横暴とたたかう労働者・国民の運動を通じて大きな力を発揮していくに違いない。
4 日本の電機産業はなぜ衰退したのか
(1) 電機産業の「衰退」として問題になっていること
ところで、最近のマスコミでは日本電機産業の「総崩れ」とか「凋落」が大きく取り上げられている。日本の電機産業にはなお活力が残されており、それはいささかセンセーショナルな取り上げられ方であるが、しかし、最近のわが国電機産業が大きく衰退してきているのは事実である。そこでは何が問題となっているのであろうか。
第一に問題になっているのは、わが国電機産業の輸出競争力が1990 年代から次第に低下し、海外市場でのわが国電機メーカーのシェアが急速に落ち込んできて、日本は2000年頃から電機製品・部品の輸出国から輸入国に転化してしまったことである。最終製品である電算機類やテレビなどの音響映像機器の輸出が急激に下落してネットの輸入国になったばかりでなく、部品類についても、輸入が急速に伸びて輸出を上回り、輸入国となった。
海外生産比率の高い電機産業は、以前から最終組立工程を海外に移し、最終製品の逆輸入をすすめてきていたが、いまやこれまで国内から調達していた部品類についても輸入に依存するようになってきたのである。部品の輸入比率は2001~2011 年に約2.5 倍の増加をしめしている。
第二は、上記の背景となっている問題として、わが国の電機メーカーが、世界的な生産方法や市場の変化に適応できなくなり、活力を失ってきていることである。近年、世界の電機産業では、主要製品(とくに家電製品)の生産がモジュール生産となり、短期間にコモディティ化する(高価な製品が低価格化して普及すること)という大きな構造上の変化が起きている。技術革新のスピードが速く、製品開発のサイクルは短い。途上国台頭のもとで生じているこうした経済環境のもとでは、革新的な技術やデザインの製品を生み出すか、低コスト大量生産で市場を確保しなければ競争に太刀打ちできない、という状況が生まれている。また、近年は途上国においても技術水準が向上し、低賃金も大幅に改善されるようになってきている。日本の電機メーカーはこうした状況変化のもとで、薄型テレビの大幅価格下落で巨額の損失を出すなど投資の失敗を繰り返し、あるいは革新的な技術やデザインでヒット商品を生み出すこともできないままに、台湾、韓国、中国など新興国企業との競争に敗退してきている。ことに問題なのは、わが国の電機産業が1990 年代からその創造力を失いはじめ、とくにITバブル崩壊や金融恐慌の際のリストラ後は、深刻な開発力喪失に見舞われていることである。
上に見た「衰退」が、ただちに個々の電機メーカーの赤字経営に直結しているわけではないことは注意する必要がある。しかし、それは全体としてわが国電機産業が苦境におちいっていることを示しており、日本経済と国民生活の立場からしても早急に打開していかなければならない課題である。
(2) 電機産業衰退の四つの構造的要因
これらの衰退は何によって引き起こされたのだろうか。
この点については、すでに現場からさまざまな指摘がなされている。「現場の声を聴かず、株主におもねるサラリーマン社長が、期末ごとの売り上げ・利益に一喜一憂して会社をダメにした」「かつては『企業は人なり』という信念があったが、現在は『人は経費なり』になった」「異質な人材を排除し、画一的集団でアイディア欠乏症に陥った」「顧客ニーズに目を向けず、不毛なシェア争いのなかで大差ないモデルチェンジにこだわった」「社員の忠誠心が薄れ、それが国際競争力の低下につながった」「経営トップが証券会社のアナリストに自社の将来について教えを請うような企業に将来はない」「電機業界が困難に陥っても国の産業政策は何も示されなかった」等々。いずれも的を射た鋭い指摘である。
マスコミでは、円高による打撃で急速に競争力を失ったとするもの、外需依存の冒険主義的な過剰投資のツケが表面化したと見るもの、日本企業の過当競争や海外への技術流出が原因と見るもの、新興国の追い上げで日本企業の強みであった低賃金やME技術が効果を失ったと見るもの、日本メーカーの活動が国内市場偏重で、その技術や製品がガラパゴス化(日本の技術やサービスが、国内だけで高度に発展してしまい、世界で普及する標準的な技術やサービスと比べて特殊化したこと)して世界に通用しないものになったとするもの、等々、さまざまな議論がなされており、それぞれ検討されるべき多くの論点を含んでいるが、ここではこれ以上立ち入らない。
ここでは、これらの直近の情勢に関わる議論から少し離れて、いま少し中長期的な視点で問題を考えてみることにしたい。日本の電機産業の衰退は決して最近突然生じたことではないからである。それはすでに1990 年代に始まり、21 世紀に入ってからの十数年間に急速にすすんできた構造的変化の結果なのである。情勢は複雑に急テンポで動いているが、その背景にある次のような要因を見据えて対応する必要がある。
〈新自由主義的なアメリカ的経営の導入〉
第一は、わが国電機産業への、新自由主義的なアメリカ的経営導入がもたらした破壊的作用である。
バブル経済崩壊後の1990 年代いらい、電機産業の大企業は率先してアメリカ的経営を導入し、「事業の選択と集中」を叫ぶようになった。そこでは、生活に必需であっても利益の上がらないコモディティ化した製品には見切りをつけ、競争力がなくなったと見なした部門を容赦なくリストラするようになった。そこでは、大規模な「早期退職」募集、一般従業員の賃下げ、管理職の給与カット、下請企業からの部品購入価格引き下げ、などのはげしい「合理化」が繰り返されてきた。アメリカで使われた「ビッグバス」といわれる手法(大きな風呂で垢を洗い落とすようにリストラを行い、人件費を中心に費用を大幅にカットして利益が出るようにする経営手法)が、わが国大手電機メーカーでも軒並み導入されるようになったのである。解雇された技術者、熟練工のなかから、新興国の企業に雇用され、そこでの技術発展に寄与する労働者があらわれたとしても、それは当然の成り行きである。
リストラは日常化し、増益下でさえ強行されるようになった。リストラとともに、賃金抑制のための差別的な成果主義が導入され、開発・設計から加工・組立にいたるまで、正規雇用労働者の請負、パート、派遣など非正規雇用労働者への置き換えがすすめられ、従業員の間の技能・技術の伝承は崩壊していった。リストラされた労働者が請負会社や子会社の社員となって、同じ仕事を7 割程度の賃金で行なうアメリカ流の「ペイ・ローリング」も珍しくなくなった。職場労働者たちの雇用不安が高まり、相互不信が深まるなかで、モノづくの現場は疲弊し荒廃していった。こうして日本の電機メーカーの職場からは、モノづくりの企業文化が失なわれ、新たな技術・製品・デザイン開発への活力も生まれなくなってきたのである。
他方で、アメリカ的経営思想に染まった電機産業の大企業経営者たちは、大株主の利益第一とする短期的な当期利益を重視するようになり、従業員や取引業者を犠牲にするリストラで安易に黒字を出すようになった。彼らは大局的な物の見方や長期戦略的な視野を失い、凡庸な横並びの経営にたずさわるだけで、独自の経営戦略を構築できなくなってきた。
優れた技術者も営業マンも容赦なくリストラしてきた彼らは、科学技術の多様な発展可能性についても、内外の消費者が真に何を求めているかという市場状況についても、無知であった。こうした劣化した経営者たちには、20 世紀から21 世紀への移行期に世界の電機産業で起きた大きな変化を認識することができなかったのである。求められているのは、①新興国の電機産業が急速にその技術水準を高め、良質の製品を供給できるようになってきたこと、②そうした状況下では、従来のような製造現場での原価低減努力やリストラによるコストカットに依存するような経営はもはや成り立たないこと、③今後は、革新的で文化的な技術・商品開発と一体となった生産システムの構築が決定的に重要となった、という状況認識である。
電機大企業の経営者たちは、目先の利益を追求して安易なリストラを繰り返してきた経営政策が、今日の電機産業衰退を招いたことを反省すべきなのであるが、依然としてリストラ依存の経営に固執しているのである。
〈生産の空洞化を進める電機メーカー〉
第二は、リストラが繰り返される過程で、生産の空洞化がすすみ、わが国電機メーカーの体質が大きく変わってきたという問題である。
一つは、生産メーカーであるにもかかわらず、生産部門は分社化したり子会社や関連企業に移して、あるいは海外に委託生産して、できるだけ企業本体から切り離すようになった。いつでも整理・撤退・売却ができるようにリスク回避しながら、徹底した低コスト生産を追求するようになったのである。開発・設計や情報サービス業務は国内に残すが、部品・製品を問わず、製造・組立およびその付帯業務は海外に移転させる。高価格製品は国内で自社生産するが、低価格製品の生産からは撤退して海外の製造委託に出す。製品や部品だけでなく生産設備についても、その内製を放棄し、韓国や台湾の装置メーカーに生産委嘱し、装置製造のノウハウを海外メーカーに流出させる、等々。DRAM(コンピュータに内蔵され、データなどを一時的に記憶するための半導体素子)の需要増に対しても、日本の電機メーカーは自ら追加投資して製造を行なうのではなく、韓国・台湾企業に技術移転して、その企業のリスクで設備投資・生産をしてもらい、低リスク低価格で製品を入手してきた。たとえばソニーは、主力製品の液晶パネルについてさえ、サムスンに技術提供して製造委託してきた。
日本からの生産技術やノウハウの無政府的な海外流出は、アジア企業の技術水準を高め、強力な競争企業を生みだすこととなった。他方で生産現場を空洞化させた日本企業は、製造工程の外注化による製品管理の劣化や対応の遅れに悩まされるようになるとともに、新たな技術・ノウハウ開発への経験を蓄積することも困難となってきたのである。
生産の空洞化は海外についてもすすんでいる。最近の海外への生産移転は、日本企業の現地での直接投資によるものから、OEM(Original Equipment Manufacturing 、他社ブランドで製品を製造すること)やEMS(Electronics Manufacturing Service、電子機器の受託生産)やファウンドリ(foundry 他社からの委託により半導体チップの製造を専門的に行なう)を活用するものに比重を移してきている。海外においても自らは生産設備をもたず、製品の設計・販売などに特化するファブレス企業(生産活動を行なわない「メーカー」)となってきているのである。電子製品の輸出が減った背景には、国際市場でアジア企業との競争に圧倒されているからだけでなく、日本企業が生産を海外企業に委託するようになったという事情も働いている。こうした海外への製造委託は、国内の産業空洞化をさらに進展させるだけでなく、日本企業をも上回る技術と資金力を持つ強大な受託生産企業を、アジアに登場させる要因ともなっている。
生産の空洞化は別の形でもすすんでいる。電機製品の生産・市場をめぐる経営環境が厳しくなるなか、最近の大手電機メーカーは、事業の重点を、製品やデバイスの製造からソリューション事業を含むIT関連サービスへ移していく傾向を見せている。そこでは、対個人取引よりも対法人・対政府取引が重視されている。利益の薄い消費者向けの個々の商品生産・販売からは撤退して、「ソリューション」と言われる内外の国・自治体を対象にした施設・インフラの一括販売とサービス提供で、長期的に高収益を確保していこうというのである。さらにはソニーのように、生産部門のアウトソーシングを徹底的にすすめながら、金融やエンターテインメント部門に進出して収益の安定確保を図る、という「メーカー」もある。共通しているのは、本来の電機製品の生産を本格的に再構築・発展させていこうというのではなく、生産に直接かかわらない、リスクの少ない投資活動で収益を確保していこうとする経営政策である。それは人事の面でも、技術者を軽視し、現場を知らないアメリカ帰りの営業マンが経営の指導権を握るという傾向を生んでいる。
生産の空洞化にともなう以上のような企業体質の変化は、電機の産業活動を根底からむしばみ、疲弊させてきたのである。
〈アメリカの通商圧力と対米追随の経済政策〉
第三に忘れてならないのは、日米安保体制のもとで日本の電機産業にかけられてきた、アメリカからの各種圧力の影響である。
日本の産業はたえずアメリカからの通商圧力にさらされてきたが、電機産業はとりわけその圧力が強く向けられてきた産業の一つである。80 年代の日米構造協議により締結された半導体協定は、アメリカの電機メーカーに20 年にわたって日本国内での特権的地位を与え、日本の技術を収奪させるとともに、強制的に市場を提供させた。日本のメーカーは自らの製品販売を削減してまでもアメリカ製品の購入を余儀なくされた。他方でアメリカ政府は、日本の産業政策を攻撃し、規制緩和で国や業界の調整機能を解体させ、わが国の電機産業を多数の巨大メーカーがしのぎをけずる過当競争の場に変えていった。大型量販店台頭による価格低下に苦しむことになるのも、こうした状況がつくられたからである。
こうして業績を悪化させた日本の半導体メーカーは、90 年代後半にはその地位を後退させ、アメリカのメーカーに大きく水をあけられることになったのである。日米構造協議はその後も形を変えて継続されている。
電機産業へのアメリカの介入は、わが国の民生用技術に対する軍事支配を強める形でも行なわれてきている。 たとえば、アメリカ国防総省先端開発局が中心となったセマテックという半導体の共同研究開発プロジェクトが官民協調で組織されたが、それは軍事機密と結びつけて日本の民生用開発技術の吸収に努めるとともに、先端技術の活用を制約するものであった。その後、軍事技術の輸出や兵器開発への参加にかかわる収奪と制約の歴史は、日本側の武器輸出三原則の緩和もあって、いっそう拡大されて続いている。
最近注目されるのは、日立、東芝、三菱電機の総合電機三社が、3.11 の福島原発事故後もそろって、莫大な資金を投じて海外で原発事業を推進する賭けに出ていることである。
日立がイギリスの原発事業会社ホライズンを買収して米ゼネラル・エレクトリックと事業統合し、東芝は米ウェスチングハウス社の原子力事業部門を買収し、三菱電機とも事業提携しながら、原子力事業への集中投資戦略をすすめている、といった具合である。電機大リストラの最中にも推進されているこの三社の動きは、展望のない破滅の道に日本の電機業界をひきこむものであり, その背後には、アメリカの政府や電機独占の意向にしばられて動く日本の支配層の姿勢を観ることができる。
そして、今日もっとも大きな問題となっているのは、日本電機メーカーに対する外資(とりわけアメリカ資本)のより直接的な支配であり、日本の電機産業全体がグローバルなアメリカ資本の生産システムのなかに組み込まれることになるかどうかという問題である。
それは、とりわけ次のような点に示されている。
①大手電機メーカーの外国人持株比率が上昇し、電機各社の赤字対策や経営再建計画にたいする外資の発言力が大きくなっていることである。最近の電機株暴落のもとで、この傾向はいっそう強まろうとしている。
②三洋電機がゴールドマンサックス主導のもとで再建ではなく売却の道を選択させられたこと、わが国で唯一DRAMを生産してきたエルピーダメモリがアメリカの半導体メーカー・マイクロンに買収され、シャープが台湾のEMS/ODM企業・鴻海の傘下に入り、続いて自動車産業などにLSIを供給できる、これもわが国唯一の半導体大手ルネサスが、回避されたとはいえ危うく外資の傘下に入ろうとしたこと、いままたパナソニックが金融市場での株価暴落と格付切り下げの攻勢を受けて「経営危機」に直面していること、等の事例が示すように、今日では外資(とくにアメリカ資本)によるわが国電機メーカーの大規模な買収の可能性が高まっていることである。
③アメリカの電機独占は1990 年代半ば以降、米国企業が標準規格をつくり、販売マーケティングを担当して、台湾企業がとてつもなく大規模な受託製造するという「新しいビジネスモデル」をつくり、これをパソコンだけでなく、半導体、液晶、電子デバイス、携帯電話、通信インフラ、さらにはカーナビ、液晶テレビ、医療機器にまで広げようとしているのであるが、この「新しいビジネスモデル」の網の目のなかに日本の電機メーカーの生産をも組み込もうとしていることである。
それに呼応してマスコミでは、日本のメーカーの「自前主義」(自ら生産活動を行なうこと)が赤字経営転落の原因であるとか、製造業は円高を活用して海外移転し、海外の労働者を雇用して利益を出せば、国内に製造業を残す必要はない、といった極端な議論が公然と展開されるまでになっている。
日本の電機メーカーは、自らの生産移転や生産委託によって、あるいはリストラした技術者や熟練労働者の転職を引き起こすことによって技術を移転し、新興諸国の電機産業を急速に発展させてきた。そしていまやこれらの国々は、日本を凌駕する技術開発をもすすめながら、世界の電機産業王国となりつつある。「新しいビジネスモデル」は、こうした新興諸国の台頭に対抗するアメリカ多国籍企業の戦略的モデルでもある。日本の電機産業は、新興諸国の産業発展に対応するばかりでなく、アメリカからの政治的圧力や資本攻勢に対しても対抗できるような産業発展の道を見出して行かなければならないのである。
〈労使一体の大企業労組と電機連合の役割〉
最後に、いま一つ取り上げておかねばならない要因は、リストラ問題に対するこの間の労働組合の取り組みである。
かつて中立労連の中心労組であった電機労連は、賃金・労働条件の決定はもとより、企業による「合理化」や解雇についてもきびしくチェックし、その影響力を行使していた。しかし、労働戦線の再編で電機連合に移行してからは、その影響力はほとんど確認できないほど弱いものとなった。正規雇用労働者の職能資格、賃金、定期昇給、退職などに関する制度見直しについても、請負、パート、派遣などの非正規雇用労働者導入についても、さらにはリストラによる出向・配転・解雇などの労働異動についても、労働組合はなんら有効な規制を行なってこなかった。成果主義賃金浸透のもとで賃金・労働条件の相場形成機能を失ってきただけでなく、従業員の雇用安定確保についても積極的な要求や運動を組織してこなかった。それどころか、「電機産業においては、現在もそして今後も、派遣・請負労働者の労働力が必要不可欠である」とか、労働組合には「製造企業と人材ビジネス企業との間の協力関係の構築を支援することが求められている」として、企業による非正規雇用労働者の活用を積極的に支援することさえしてきた。そして正規雇用労働者の大量解雇が問題となっていた2012 年7 月の電機連合定期大会では、会社のリストラ政策については一言も触れずにすませるという離れ業を演じている。企業経営に対する大株主のコントロールがリストラ計画の策定にまで及んで強まっているなかで、労働者の側からの企業経営に対するコントロール機能は放棄されているに等しい。
すでに1990 年代から次第に、21 世紀に入ってからますます顕著となってきた、このような労働組合の労使一体路線が、今日どこまで進化しているかを、電機連合の産業政策について確認しておこう。
〈リストラを容認する電機連合産業政策〉
電機連合は2004 年1月に『電機連合第6次産業政策』を発表し、「本政策は、これからの産業政策活動のベースとなるものである」と述べているが、その後の情勢変化のなかでも特段新しい産業政策は発表しておらず、2012 年の定期大会でも2004 年の政策がそのまま援用されており、今日でもそれが電機連合の「産業政策活動のベース」と見てよい。
だが、メリルリンチ日本証券の協力で作成されたこの政策は、労働組合の政策とはとうてい言えないような異常な内容で、発表当時から職場労働者たちのきびしい批判にさらされてきた。驚くべきことに、116 ページにのぼるその「政策」には、労働者の利益をどう守るかという観点からの分析や提言がまったくふくまれていない。そうなったのは、みずから記しているように「実際には、電機産業の収益性回復、高付加価値化に焦点を絞って取りまとめ」られたものだったからである。「政策の4本柱」とされるその「政策」内容を見ても、それらはことごとく企業の見地からの分析や提言となっているのである。
*リストラを容認~ 第一に、それは、「既存市場は縮小する」「すでにはじまっているドラスティックな事業再編・企業再編は今後とも避けられない」などと情勢の厳しさを強調して、労働者たちがリストラをやむをえないことだと受け入れるよう仕向けていることである。
現実の産業再編やリストラでは、収益拡大のために平然と労働者の生命や生活をふみにじる大資本の魔性が顔を出しているのであるが、そうした点はいっさい不問に付し、企業合併についても、それは「シナジー効果、コスト低減が期待できる」ともっぱら大資本の立場からの肯定的評価に終始している。
*産業「合理化」を支持 ~第二に、「政策」は、これからの企業活動の方向として「単品を大量生産する『供給サイド型』から、ソフト・サービスを付加・提供する『需要サイド型』への転換」をうたい、大企業がすすめる産業「合理化」への支持を表明していることである。
すなわち、すでに見たように最近の大手電機メーカーは、家電などの一般消費者向け製品は利幅が薄いとしてその研究開発や生産を軽視・敬遠し、かわりに内外の企業や国・自治体を顧客とする大規模な総合的事業への参画を追求するようになっている。いわゆるコモディティからソリューションへという動きである。それは、研究開発部門の圧縮や生産部門の整理・外部委託による人員削減=リストラ策と表裏一体の政策であり、電機産業の寄生的性格をつよめて国民生活とのつながりを弱めてしまう経営政策なのであるが、電機連合はそれを無条件で支持しようというのである。とりわけ、研究開発費の半分は人件費だと指摘しながら、収益圧迫要因となっている過大な研究開発投資は削減すべきだと執拗なまでに主張していることは、この「政策」がいかに労働組合の政策とは異質のものであるかを端的に示している。
*企業の海外進出を支持 ~ 第三には、「国内生産の質的変化を促進させるため、海外展開の拡大を活用すること」が大事だとして、企業の海外進出を労働組合として積極的に支持する政策を打ち出したことである。
「政策」は、電機産業における「対外直接投資の拡大と海外生産法人の従業員数増大」が顕著であり、「国内従業員数の減少がそのまま海外生産工場の従業員数増加に」につながっていることを指摘しながらも、「製造拠点としてのアジア地域の活用」を積極的に提唱する。「中国やインドネシアでの低賃金労働力を活用した生産体制の効果は大きい」、「中国進出は消費地立地型海外生産としても十分検討に値する」、最適生産体制の確立に「中国沿岸部の活用」を、中国での低賃金活用は今後とも十分可能、等々、労働組合として経営者に海外での低賃金活用を具体的に推奨するものとなっている。それによって促進される「国内生産の質的変化」とは何であろうか。明言されてはいないが、文脈からすれば、国内生産における「労務コスト」の低減であろう。その背後には、会社の国際競争力を強化し高収益体制を確立するためには、従業員はみずからを犠牲にしてでも貢献しなければならない、という労働者を奴隷視する思想が隠されている。
*企業による解雇の自由を保障~ 第四は、「生涯1社」から脱皮する新たな「長期安定雇用」への転換、と称する雇用政策の提唱である。
「政策」は言う。今後の「長期安定雇用」は、①従来の生涯1社や、②グループ・関係企業内で雇用を維持する形から、③グループ・関係企業外、さらには④雇用のセーフティ・ネットを通じて新たな企業で雇用される、あるいは⑤みずからのキャリアを活かし起業したりNPOなどで活躍するなど、失業せず、さまざまな形で雇用を維持する形へ変化するものと考えられる、と。①②から③④⑤への「変化」とは、要するに、今後企業は従業員の雇用についていっさい責任を負わなくなる、ということであり、電機連合はその「変化」を自然の成り行きとして容認する、というのである。いいかえれば、リストラで解雇され失業する組合員がいたとしても、もはやその再就職保障や生活保障について企業に要求することはしないということであり、すべては個人責任で対応してもらう他ないということである。
しかも「政策」によれば、無報酬でボランティア活動をしている場合も失業ではなく「雇用」が維持されていると見るべきなのであり、そうした「さまざまな雇用」が維持されているかぎり労働者には生涯にわたる「安定雇用」が保障されていると見るべきだ、というのである。「長期安定雇用」とは、まさに黒を白と言いくるめる欺瞞的政策だと言わねばならない。ちなみに、この「長期安定雇用」を実現するうえで障害となるのは、従業員の意識なのだと言う。従業員が「企業への忠誠ではなく、自らの業務への忠誠を」誓うようになれば(つまり、リストラされても企業にしがみつかずに、各自が自己責任でみずからのキャリアを活かすよう努力すればいいということ)万事はうまくいくというのだ。「長期安定雇用」の政策とは、企業による解雇自由を労働組合が保障する政策に他ならない。
「政策」は、厳しい情勢に対処するには「労使による共通認識と対応が必要不可欠である」として、労働組合の任務についてこう教えている。企業に対し経営計画を従業員に明示させ、それを共有化すること、そして、その計画を実現するための人材の形成と職業能力開発をはかる社内の仕組みを作り、仕事に対するやりがいや働きがいを喚起していくことに、労働組合は従来以上に取り組むべきである、と。だが、大リストラを容認し、さらには推進さえするなかで、なおかつ従業員の「働きがい」を喚起できる組織とは、はたして労働組合なのであろうか。企業経営者の劣化を生み、人間を大事にしない経営路線の暴走を引き起こした要因の一つに、このような「労働組合」の存在があることは、誰も否定できないであろう。
これまで述べてきたことから、次のようにいえよう。
①「リストラによる業績改善」という経営施策は破滅への道であり、内外の経済環境はもはやそれが通用するような状況ではない。何よりも人間=従業員を大事にする経営への転換こそが電機産業の困難を打開する道である。
②生産現場を大切にせず、短期的な高収益確保を追求して生産の空洞化をすすめる施策は、メーカー企業にとって自殺行為である。独創的で革新的な技術・製品開発と、消費者の生活と文化に根ざした需要とを結びつけていくような生産現場の構築こそが、21 世紀における産業・企業の展望を開くものである。
③電機産業の健全な発展をはかるうえでも、対米従属のくびきからの解放は重要である。
とくに原発輸出事業への呪縛や外資による日本電機産業支配の進展は、日本経済の存立基盤を根底から脅かす問題である。日本の政治は、国民の立場に立ってこうした障害を取り除かなければならない。
④大企業の経営施策の転換を実現していく基本的な力は、労働運動と住民運動との連帯による、大企業に対する社会的責任の追及であり民主的規制である。この点ではとくに、労働組合による労働者の権利擁護のたたかいが重要になる。大企業労働組合の現状は改革され活性化されねばならない。
5 大手電機メーカーの経営破綻と財界・政府の「政策」
ところで、日本電機産業の「総崩れ」と評されるような現状に対して、電機大企業の経営者や財界はどう対処しようとしているのであろうか。
大企業経営者たちの間からは、その場しのぎの赤字対策や株価対策は聞こえてくるものの、企業再建、あるいは電機産業再興に向けての明確な展望は示されていない。しかも、危惧されるのは、彼らが思考停止に陥ったかのように、依然として従来からのリストラ依存の経営に走っていることであり、従来にも増して「自前生産」を放棄し、海外への生産委託を拡大し、外資との「連携」をすすめようとしていることである。一言で言えば、日本電機産業の破滅に向けて盲目の集団自殺行進をしているのである。
財界はどうであろうか。大新聞はさかんに大手電機メーカーの経営破綻について書き立てているが、不思議なことに、日本経団連や経済同友会の財界からも、日本電機工業会、電子情報技術産業協会、家電製品協会といった業界団体からも、これといった対策は発表されておらず、政府への要望も特段出されていない。政府の方でも、かつて石炭産業の大「合理化」の際に見られたような産業対策や離職者対策は検討もしていない。全体として電機メーカーの整理淘汰やM&Aについては、「市場原理」に任せて放置し容認する方針をとっているように思われる。
たとえば、ルネサスの場合である。車のエンジンや産業機械をきめ細かく制御する高性能マイコンLSIを供給するわが国唯一の半導体大手企業ルネサスが、外資に買収されようとしたのに対し、国の産業革新機構が「日本の産業基盤を守るため」に出資してルネサスを傘下におさめたが、財界筋は「政府系機関が特定の企業を支援することは競争をゆがめる」として、これに批判的である。むしろ「国際再編という選択肢を否定すべきではない」として、外資系企業による「日本の半導体立て直し」の方が好ましいという態度をとっている。シャープの台湾企業・鴻海への売却についても財界は冷ややかである。いまや多国籍企業の利益代表となった財界にとって、国益という観点からの政策には「大いに違和感がある」のである。いわんや国民生活の視点からの産業政策など、今日の米倉財界は夢想だにしないであろう。
〈安倍政権の製造業支援策とは〉
ところで、総選挙後に登場した自民党安倍政権は、電機メーカーなどの競争力強化のためだとして、公的資金による製造業支援策を打ち出した。具体的には、政府の財投機関と民間リース会社とで共同出資会社をつくり、この特別目的会社が企業から工場や設備を買い取る。そして、こんどはその同じ工場・設備を5年程度のリース契約で企業に貸し出すのだという。企業はリース料を払えばこれまでと同様に工場や設備を使えるうえ、売却代金を新規の設備投資や研究開発にあてることができる。こうして企業の競争力強化に資するだけでなく、国内の雇用維持や空洞化防止の効果も期待できるというのである。この制度を使って資産売却をすすめる企業としては、さしあたりシャープなどが有力候補となっているという。
安倍内閣は、この事業を「日本経済再生本部」が制定をめざす「産業競争力強化法」(仮称)の一つの柱にするといい、すでに新法成立以前から、2013 年1月にまとめる2012 年度補正予算にこの事業をもりこもうとしている。それは一見すると、国益にそった電機産業再興への措置であるように見えるが、そこには電機産業の「危機」を口実とした、見逃すことの出来ないリストラ推進策や国民収奪が隠されている。
第一に、この政策は、電機メーカーの工場・設備のスクラップ化を大規模に推進しようとするものである。売却されリースに出された資産は、5年後のリース終了時には市場で転売される運命にある。現状では、その過程でさらに大規模な人員削減、賃金・労働条件切り下げ、非正規労働の拡大などのリストラ策が強行される恐れがある。
第二に、特別目的会社が資産を買収しリースに出すにあたっては、リース会社に資産額の3分の1もの補助金を支払うことが想定されている。またリース会社は、リース契約の終了時には資産価格の急減した資産を安く取得することで利益を得ることができる。ここでいう「リース会社」とは、最近広がってきている、企業の設備投資などを代行投資してリースで稼ぐ金融業者のことであるから、この制度は国民の税金で、わが国電機産業の工
場・設備を金融業者に安く払い下げるものとなろう。払い下げられた工場・設備は、外資企業など転売され、いっそう強力な海外企業を登場させることにもなる。
第三に、この制度では、特別目的会社がリース料と資産の転売額から、財投機関とリース会社に出資分を戻すことになっているが、買い取った資産の転売価格が想定を下回った場合には、国民の税金でその穴埋めをすることになっている。現実には転売価格の大幅下落は避けられず、国民は初めから多額の負担増を覚悟しなければならないのである。
第四に、この制度では、従来の産業革新機構や企業再生支援機構による出資の場合と違って、公的資金の支援を受けた企業に対する政府の経営参画や規制をほとんど行なわなくなっていることである。政府の介入を嫌う経営者たちに配慮した結果というが、安倍内閣は、公的資金が目的にそって支出されているか、その政策効果はどうかを点検することさえ放棄しようというのである。
最後に、しかし、もっとも重要な問題点として、この制度にはそのうたい文句にもかかわらず、「雇用維持」や「空洞化防止」のための具体的施策がまったくふくまれていないことである。あるのは、赤字企業や金融業者に対する税金の大盤振る舞いだけであり、そこからは活力のある創造的な企業経営の発展など期待すべくもない。
安倍政権の「製造業支援」とは、国家主義的な産業保護の形式をとりながら、その実、わが国の製造業や国家財政を金融資本や外資に収奪させる政策だと言わねばならないのである。
安倍政権の政策は財界の場合といくらか異なるようであるが、両者に共通しているのは、国民の立場に立って大リストラにストッブをかける姿勢がまったく見られないことであり、金融資本=多国籍企業の支配に対抗して電機産業を国民的産業として発展させていく展望も政策ももちあわせていないことである。日本経済と国民生活を守るためには、こうした支配層の姿勢や政策を改めさせ、国民本位の民主的な産業政策を確立していかねばならない。
6 提唱する政策の基本方向
わが国の電機産業を再興し、労働者・取引業者・地域住民の雇用と生活を守っていくためには、当面の緊急課題と中期的な改革課題の両面にわたって、以下のような視点と方向で打開策を講じていく必要があろう。
(1)全体をつらぬく視点
まず、政策全体をつらぬく視点として、次の諸点に十分留意したい。
①大企業の社会的責任を徹底して追及し、それを制度・政策・行動として具体化し定着させていく必要がある。
②国・自治体は、国民に就業と生活を保障する自らの責任とともに、大企業にその社会的責任をはたさせていく政治的指導責任についても、自覚的に取り組むようにする必要がある。
③民主的な産業政策を確立し持続的に発展させていくためには、労働組合運動の力や住民運動、人権団体の力を強める必要がある。
④産業政策の民主化は政治の民主化と不可分である。以下の民主的産業政策を実現するためには、それを国民的要求実現の課題として提起し、民主政治実現の課題とむすびつけて追求していく必要がある。
(2)当面重視すべき施策
当面の緊急課題としては、少なくとも次の施策が不可欠であろう。
①野放しで強行されている大手電機メーカーの大量解雇に歯止めをかけ、その社会的責任を明らかにさせるとともに、解雇された労働者や連鎖倒産にまきこまれた業者に対する失業・生活・住宅・健康保障や再就職保障の施策を、国・自治体に早急にとらせることである。
②リストラによる被害をこうむっている地域住民や地方自治体に対し、当該企業が十分な説明責任と補償責任をとるよう要求するとともに、リストラに依存しない再建策の探求をふくめ、地域経済の再興についても当該企業が積極的に協力するよう求めていく必要がある。
(3)中長期的に改革していく課題
電機産業のあり方を中長期的に改革していく課題としては、次の諸点が留意されるべきであろう。
①労働者の雇用と権利を保障するための法制度を整備していかねばならない。そこでは労働組合とともに自治体も、企業の雇用責任をチェックすることができるようにする必要がある。
②職場における雇用や賃金・労働条件を改善して、人と技術とモノづくりを大切にする職場づくりをすすめることである。差別と敵対の職場を信頼と協力の職場に変え、技術や熟練の継承・発展にも創造力を発揮できるようにしたい。
③21 世紀の地球規模的な産業発展と日本経済の将来を展望しつつ、「原発ゼロ」の自然エネルギー活用や環境関連産業の創出で、電機産業が先進的な役割をはたすことができるよう、積極的な施策を講じることである。国内は人件費やインフラコストが高いため生産の海外移転は避けられないとする単純な理論は、もはや時代遅れの有害な理論であることを明確にし、日本の技術開発力と独自の文化を創造時に発展させるような産業の構築を目指すべきなのである。
④そのためにも、大企業の横暴を排して、中小企業が自立した多様な取引関係を構築・発展させ、産業クラスター化をすすめることができるようにする必要がある。すなわち、企業が資本関係の枠を超えてさまざまなビジネスごとに自由に有機的に連携して、新しい製品・サービスを輩出する産業地域を創り出すように支援するのである。東京・大田区に見るように、そこでは、業種を超えた幅広い技術が生み出され、さまざまな融合商品が創造される。近年の産業空洞化によって消滅しつつあるこうした産業集積地域を復興・発展させる必要があり、大企業もそのための役割を担うべきであろう。
⑤きわめて重要な課題として、電機産業をになう青年たちの養成問題がある。これには公教育における理系教育の改革問題をふくめ、多くの問題点があるが、中心的な問題は、公共職業訓練および企業内職業訓練を総合的に結合し改革して、21 世紀にふさわしい職業技術教育をどのように構築・発展させるか、という問題である。現状は、ほとんどの大企業が職業技術教育を軽視し、縮小したり放棄したりしている。他方で変化と進歩の激しい今日では、個別企業の狭い必要から離れた、総合的技術教育の視点にたった職業教育がますます重要になっている。こうした状況から今日では、公的教育訓練の拡充と、労働組合の教育訓練への参画が強く求められるようにもなっている。そして、なによりも青年労働者たちの雇用・生活の安定を保障しなければならない。
以上にその方向を示した産業政策は、電機産業の範囲で自足的に実現できるものではなく、日本経済全体を国民本位に転換していく諸政策とともに具体化されるべきものである。
以上の観点から、労働総研は以下のような具体的施策を提言する。
◆第二部 労働総研の具体的提案
◇提言1 リストラ・産業空洞化を許さず、雇用・地域経済を守るために
日本では、従来からEU などの先進諸国では考えられないような横暴な首切り=大量解雇がまかり通ってきたが、今回の電機大リストラはそのなかでも最悪の事例となりつつある。日本では、労働者の雇用を守るルールが、労働慣行としても、法制度としても確立していないのが、その最大の要因である。解雇にかかわる現行法制には“抜け穴”があるだけでなく、EU 諸国では当たり前になっている集団解雇規制や解雇規制法などの法的ルールが確立されていない。日本でも、雇用にたいする企業の社会的責任を明確にし、リストラ・解雇をやめさせる正しい“処方箋”が必要である。
1 大企業の横暴なリストラをやめさせ、労働者の雇用・生活と地域経済を守る
大企業の身勝手なリストラは、労働者の雇用と生活を破壊するだけでなく、地域経済に大きな打撃を与えている。インフラ整備や税制など自治体のさまざまな優遇策を受けてきた大企業が、自らの経営ミスから生み出された業績不振のツケを、解雇や工場閉鎖などで、労働者と地域住民にしわ寄せするようなことは許されない。労働者・地域住民の雇用と生活を守ることは、最も基本的な企業の社会的責任である。大企業の横暴なリストラをやめさせ、企業の社会的責任をきちんと果たさせるルールを確立する。
(1) 現行法を活用し、雇用維持のための努力を義務づける
解雇は最後の手段とするよう雇用の継続措置を取らせるようにする。
① 雇用を確保するために、サービス残業、長時間労働を是正させる
② 雇用対策法にもとづいて、大量雇用変更届けと再就職援助計画を事業所ごとに提出させ、雇用を守らせるために、労働局など政府と自治体が力を合わせ、努力することを義務づける。
③ 「解雇は最後の手段」とさせるよう、雇用調整助成金(休業、教育訓練、出向)を活用させ雇用を継続させる。
(2) 集団整理解雇規制法を法制化する
EU 諸国では、EU 労働指令(集団整理解雇指令)にもとづいてリストラ大量解雇を規制するルールを確立し、加盟諸国での法制化を義務づけている。リストラ大量解雇は、通常の解雇と違って、地域の雇用や経済に多大な影響を与えるからである。日本でも、EU諸国では常識となっている集団整理解雇規制法を法制化し、横暴なリストラをやめさせ、労働者・住民の生活を守る。
① 集団整理解雇の内容の通知~ 集団整理解雇が適用される場合は、労働者及び労働組合に対して、集団的解雇の内容――その理由、対象となる労働者数、および実施時期、対象者の選定方法を通知しなければならない。
② 協議のための情報開示~ 使用者は労働者及び労働組合との間で、集団的解雇の内容につき協議しなければならない。協議のために、使用者は以下の情報を開示しなければならない。
・解雇の理由
・解雇される労働者数
・通常雇用されている労働者数
・解雇の行われる時期
・提案される解雇対象者の選択基準
③ 協議手続きの内容~ この協議手続きにおいて、使用者は、上記の情報を与えた後、一定の期間内に労働者、労働組合にたいし、解雇の回避は可能か? 解雇される労働者の人数の減少は可能か? 解雇の影響を和らげる措置についてなど、質問、討論、修正提案の機会を与え、提起された質問、討論、修正提案を検討したうえで、これらに対し、回答、説明を行わなければならない。協議には、労働組合、解雇対象者が指名するものを同席させる。
④ 自治体への届け出を義務づける ~大量解雇の30 日前までに、事業所所在地の自治体への届け出を使用者に義務づける。解雇の発効についてはEU 指令並みに、自治体の同意がなければ1 カ月間延期され、自治体は最長2 カ月間解雇の発効延期を決定することができる。
(3) 企業の社会的責任を明確にして、地域経済を守る
電機産業の大リストラにたいして、社会的責任を追及する要求と行動が広がっている。
その先頭に地方自治体の首長が立っているところも少なくない。自治体は企業を誘致するにあたってさまざまな優遇策を講じてきた。そうして進出した企業が、自治体に何の相談もなく、工場・企業閉鎖などリストラを強行するのであるから、「雇用と地域経済を守れ」と声を上げるのは当然である。
大企業やその子会社が工場・企業閉鎖などの集団解雇をする場合は、解雇の影響を和らげるために、以下のような措置を取らせるようにする。
1) 新しい雇用の場の確保
撤退する大企業は、自治体と協力して集団解雇された労働者の新しい雇用の場を確保するために努力することを義務付ける。
2) 企業が撤退する場合には、補償金を自治体に拠出させる
企業が雇用と地域社会への責任を果たすのは当然の責務である。さまざまな優遇策のもとに企業進出したのであるから、地域から撤退する場合、それ相当の資金を拠出するのは当然である。
3) 離職した労働者支援
離職した労働者にたいする就職あっせん、職業紹介、職業訓練をすることによって、雇用と生活の安定を図る。
① 就職あっせん相談体制の確立
離職した労働者の希望を生かして、就職あっせんができるように、国の責任で相談体制を確立する。そのために、抜本的にハローワークの拡充をはかり、職安行政に携わる職安職員を大幅に増員させる。
② 離職者への職業訓練の実施を
離職した労働者が、それぞれの地域で働き、社会的に貢献できるようにすることが大切になっている。そのために、新たな技術・技能を身につける無料の職業訓練を国の責任で実施させる。
③ 自治体による公的就労事業の推進
離職した労働者の生活を保障するために、国の支援も受けて自治体は公的就労事業を推進する。
2 雇用と人権を守る解雇規制法を制定する
電機職場ではいま、横暴な退職強要など違法・脱法のリストラが横行している。不当解雇の禁止などが判例や行政基準にとどまり、ルール化されていないためである。企業のこうした横暴をやめさせるためには、雇用と人権を守る解雇規制法を制定する。このなかでは、解雇禁止の原則を明確にすることはもちろん、「整理解雇の4要件」の法制化、人権無視の退職強要をやめさせる具体的手立てのルール化をはかる。
(1) 解雇権の乱用の禁止
ILO158 号条約は、労働組合活動への参加、人種、皮膚の色、性、婚姻、家族的責任、妊娠、宗教、政治的意見、出産、病気などの一時的な休業は、解雇の正当な理由とはならないことを明記している。これらの正当でない理由で使用者が労働者を解雇してはならないことを明確にし、正当な理由の挙証責任は使用者が負うものとする。
(2) 「整理解雇の4 要件」の法制化
現行法規では、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められた場合は、その権利を乱用したものとして無効とする」という解雇ルールが労働契約法で示されている。しかし、経営上の理由による整理解雇にかかわる「整理解雇の4 要件」が明確に盛り込まれていないために、個別具体的な事情を総合勘案して4 要件すべてが充足していなくても解雇回避努力をしていれば整理解雇は有効とする判例も出されている。
これでは、労働者の働く権利は守れない。
整理解雇は、通常の個別の解雇や労働者に責任のある解雇などと違って、労働者には何の責任もない。経営上の理由による解雇については、次の「整理解雇の4要件」をすべて満たさなければならず、これら要件を満たさない解雇はすべて無効とすることを労働基準法に明記する必要がある。
*整理解雇の 4 要件
①解雇を行わなければ、企業の維持・存続ができないほどのさしせまった必要性があること。②解雇を回避するあらゆる努力がつくされること。③解雇の対象とする労働者の選定基準、それにもとづく人選の仕方が、合理的・公平であること。④以上について、労働者個人及び労働組合(労働組合がない場合は労働者の代表) にたいし、事前に十分な説明をして了解をもとめること。
(3) 違法・無法な首切り強要をやめさせる
電機大企業は、「希望退職」に名を借りて、「あなたの働く場所はない」などと退職を強要し、「希望退職」に応じなければ、遠隔地への出向・配転を強要することで退職に応じざるを得ないようにしたり、仕事を奪って「隔離部屋」に“幽閉”するなど労働者の人権を踏みにじる無法・違法な横暴を繰り返している。あらゆる形の退職強要をすべて禁止する。
① 退職の強要を禁止する
強制的な退職強要を禁止する。労働者が会社の退職強要に合意した場合でも、2 週間以内なら、それを取り消す権利を保障する。
② 出向の強要を禁止する
労働者に職業上の不利益、本人の意向、通勤、社会及び家庭生活など、正当な理由がある場合、出向を拒否する権利を保障し、これを理由とする不利益扱いを禁止する。
③ 転籍の強要を禁止する 転籍の強要を禁止し、本人の同意を義務づけます。転籍を拒否したことを理由とする不利益扱いを禁止する。
④ 転勤を伴う配転についての配慮義務
転勤を伴う配転にあたっては、家族的責任、健康などへの配慮を義務付ける。これを理由とする不利益扱いを禁止する。
(4) パート・契約社員、派遣労働者に対する一方的な契約打ち切りを禁止する
正当な理由のない雇用契約期間内の一方的な契約の打ち切りをやめさせる。パートや契約社員など期間の定めのある労働者については、その雇用継続期間が反復雇用などによって1 年以上となった場合には、期間の定めのない常用労働者とみなすこととする。
◇提言2 電機産業の展望は人と技術を大切にしてこそ切り開かれる
1 モノづくりを大切にし、日本ブランドの技術開発を推進する
日本の大手電機企業は、日本の電機産業で働く技術者や労働者が様々な困難に直面しながら苦労して開発した先端技術をアジア企業に流出させ、委託生産などによって、技術移転・流出を一層拡大してきた。そのために、日本の電機産業は深刻な状況に陥っている。
この苦境を抜け出すためには、日本の電機産業の技術とモノづくりを一層発展させることが必要である。そのためには、電機産業の技術者・労働者が安心して研究し、働ける職場環境――安定した雇用と労働条件を確立することが重要である。
日本製品の性能の高さと日本の技術力を築いてきたのは、日本の技術者、労働者、消費者である。その英知を結集して、日本ブランドの技術の研究・開発をすすめる必要がある。
そのためには、先端技術の開発を推進する体制づくりと技術を支える人材の育成が喫緊の課題となっている。
(1) 国の技術・開発援助の事業の民主化
大企業優遇の研究開発減税など大企業中心の国の技術・開発援助を改め、先端技術開発と同時に基礎的な技術研究を重視し、日本のモノづくりを支える技術・開発を促進する方向に国の技術・開発援助の事業の民主化をはかる。
(2) 技術開発センターを設置し、中小企業の技術開発を推進する
日本の技術を支える中小企業に対し、その技術開発を援助・促進するための国の公的機関=技術開発センターを各都道府県に設置する。技術開発センターは、自治体や中小企業団体とも協議し、その地域にふさわしい産業技術開発に中小企業とともに取り組むことを目的とする。
(3) 人間的な労働条件の下で、高い技術を身につける職業・技術訓練の抜本的拡充
地場の企業が高い技術力を基盤として経営がなりたつように、労働者が高い技術力を習得できる職業・技術訓練機関を設置する。この機関は、国・自治体が資金を拠出し、訓練は大学・高等専門学校が協力し、自治体・ハローワークが企業の必要とする技術訓練を受ける候補者を紹介することとする。
2 人と技術を大切にする経営を
――安心してモノづくりと技術開発に従事できる労働環境を
日本の技術を世界に誇る最先端技術としていくためには、技術開発を担う技術者と生産工程を担う労働者が、協力して安心してモノづくりに取り組むことのできる労働環境が必要である。そうした労働環境を保障してこそ、労働者の英知を結集して、研究・開発を促進することができる。技術を大切にすることと労働者を大切にすることは一体不可分の関係にある。
(1) 成果主義的労務管理をやめさせる
成果主義的労務管理は、厚生労働省「2008 年版労働経済白書」でも指摘されているように、短期的な成果を労働者に競わせ、労働者が協力して技術開発、生産活動をすすめることを困難にするなど、その弊害は明白である、成果主義的労務管理を廃止し、職場の労働者が一致協力し意欲を持って研究開発・生産に取り組むことのできる環境をつくりだすことは緊急の課題である。
(2) 働くルールの徹底と長労働時間の規制
労働者が高い意欲を持ってモノづくりと技術開発に従事するためには、健康を心配せずに働ける労働環境を整備しなければならない。サービス残業が横行し、長時間労働がまかり通る職場では、メンタルヘルスが増大していることにも示されているように、モノづくりと技術を担う労働者の生命と健康が破壊されている。これでは、安心して研究開発と生産業務に従事することはできない。働くルールにかかわる安全衛生法規を厳守するとともに、長労働時間を規制することが必要である。
① サービス残業の根絶をはじめ働くルールの厳守をさせる
違法のサービス残業をやめ年次有給休暇の完全取得を実現する。そのために、サービス残業根絶法、年休完全取得法を実現する。
② 厚生労働省時間外労働の基準を厳守させ、特別条項付協定を撤廃する
厚生省の時間外労働基準では、1 週間15 時間、2 週間27 時間、1カ月45 時間、3カ月120 時間、年間360 時間となっている。当面、この労働基準を時間外労働時間の上限とする。この基準を実効性あるものにするために、労働基準法の、特別条項付き労働協定を結べば1 カ月65 時間まで延長できるという規定を廃止する。
③ 時間外労働については割増率を50%とする
(3) 正規雇用が当たり前で、非正規雇用は一時的臨時的業務に限る
技術職場でも、生産職場でも、派遣社員や契約社員が大量に雇用されている。派遣社員や契約社員は低賃金に加えて雇用が細切れという劣悪な労働条件のもとで仕事に従事している。これでは安定した生活を送ることはできないし、技術を身につけ安心して仕事に集中することはできない。
企業の技術力を継承していくうえでも、安定した雇用を保障することが必要である。厚生労働省『労働経済白書2012 年版』も指摘しているように、「人件費をコストのみならず、人材への投資及び内需としての消費の源泉」と考えれば、非正規雇用の待遇改善と正規化は「デフレ不況」を打開するうえでも重要な課題である。
非正規雇用は一時的臨時的業務に限るとともに、非正規雇用労働者への均等待遇の実現、正規化を望むすべての非正規雇用労働者を正規化する政策を推進する。
3 自然エネルギー活用の技術で「原発ゼロ」の日本に貢献
福島原発事故は、「原発と人類の共存ができない」ことを明らかにした。「原発ゼロ」の社会づくりはいまや急務となっている。そのためには、原発に代わるエネルギー源として、太陽光、風力などの自然エネルギーや再生エネルギーの活用が必要である。これら身近にあるエネルギー資源を有効活用して発電し、それを利用できる送配電網の構築などの技術開発が必要になっている。環境関連産業の発展も大切である。これらの技術開発の先頭に電機産業が立てるようにする。
(1) 自然エネルギー、再生エネルギーの技術開発を推進する
太陽光や風力、地熱、バイオマス、マイクロ水力などの技術開発に取り組み、自然エネルギー型産業を前進させることをとおして、「原発ゼロ」の日本に貢献する。これらの技術開発の推進は、エネルギーの自給率の引き上げはもちろん、雇用創出にもつながり、地球温暖化対策などにも役立つものである。こうした環境にやさしい技術開発も合わせて推進する。
(2) IT技術を活用し、自然・再生エネルギーの送・配電網構築のための技術開発を推進する
再生エネルギーの活用拡大にともない、これを可能とする電力の送・配電網の研究・開発が進んでいる。IT技術を活用し、これらの事業に貢献する研究・開発を推進する。
(3) 核燃料廃棄の研究・開発を推進する
日本の原発からつくりだされた使用済み核燃料=「核のゴミ」は1万6000 トンにも上っている。ところが、これを安全に処理する技術はなお存在しない。歴代政府がすすめてきた再処理核燃料を使用するはずの「もんじゅ」はトラブル続きで完成の見込みはまったくたっていない。
使用済み核燃料の処分についての研究・開発を専門家の英知を結集してすすめることが重要になっている。国はもちろん、電機産業としても、この技術開発に貢献できる研究・開発体制を確立し、専門家の確保・育成をすすめる。
4 電機産業をはじめ日本の産業を守る経済政策への転換
(1) モノづくりの国内拠点を守るために
電機産業のモノづくりからの全面撤退とでもいうべき工場閉鎖・事業再編による13 万人首切り攻撃をやめさせるためにも、今後の電機産業の発展を実現するうえでも、モノづくりの国内拠点を守ることが重要である。企業の海外進出を促進する「みなし外国優遇税制」などの国の施策を改め、海外に進出する企業にたいして、企業の社会的責任をはたさせるために、次の施策にとりくむ。
① 国内の雇用を守らず、海外に生産移転する企業は、研究開発減税や補助金支給の対象外とする
政府は、企業の進める研究・開発の費用の一部を法人税の減免という形で“補助”している。また、次世代半導体や携帯電話開発などの大型プロジェクト事業でも大企業を支援している。これらの施策は長期的には再検討する必要があるが、当面の措置として、海外に生産移転し国内の雇用を削減する企業に対しては、こうした支援を行なわないものとする。
② 逆コンテンツ法の制定
電機産業における中小企業の存続基盤を維持するため、海外に生産拠点を移した日本企業にたいして、一定率以上の日本部品の調達を義務付ける逆コンテンツ法を制定する。
(2) 異常な為替の変動を是正させる
日本の製造業は数年来、異常な円高に苦しめられてきた。それは輸出企業の経営を圧迫し、海外への生産移転を拡大し、「産業空洞化」とデフレ不況をいっそう深刻化させてきた。
しかし、自民党安倍内閣が登場するや、今度は急激な円安が進行するようになり、人びとは物価上昇と金融不安におびえなければならなくなっている。それは輸入価格の高騰をまねき、内需をいっそう冷え込ませ、中小企業の経営環境をきわめて厳しいものにしている。
ドル高=円安の進行は、外資による日本企業買収に新たな道を開くことにもなっている。
いずれにせよ、為替相場の急激かつ大幅な変動は、モノづくり企業の経営環境にさまざまな角度から大きな打撃を与えている。日本のモノづくりを守るという観点からしても、為替相場の異常な乱高下はどうしても是正させる必要がある。
異常な乱高下の要因はいくつかあるが、今日のそれは主として国際金融資本の投機活動によって引き起こされているものである。歴代のわが国保守政権が、アメリカ追随の経済政策によって、投機資本の活動をまったく規制せず野放しにしているため、日本の通貨「円」は格好の投機対象になっているのである。異常な為替変動を是正するためには、少なくとも以下の施策をとる必要がある。
・投機的資金を規制する金融取引税を新設する
EU では、投機マネーを規制するための「金融取引税」の創設が具体化されようとしている。金融自由化を世界一徹底してすすめた日本では、為替取引など投機的な資金の移動に対する金融取引税を、むしろ世界に先駆けて新設する必要がある。
(3) 対米追随の経済政策をやめ、TPP に反対し、日本経済を守る
TPPは、関税を例外なしに撤廃するものであり、その被害は、日本農業と地域経済に及ぶだけでなく、電機産業をふくむ日本の製造業にも深刻な打撃を与えるものである。TPPの恩恵を受けるのは、アメリカの大企業と海外進出を進める一部の輸出大企業だけである。アメリカ支配の閉鎖的なTPPへの参加をやめ、内需主導の経済を基礎に、世界各国と平等互恵の自由な経済関係を発展させることによってこそ、わが国産業の健全な成長を図り、労働者・国民の生活を守っていくことができる。
(4) 労働者の処遇改善によって内需主導の国民経済に
労働者の賃金引上げと「安定した雇用」を実現し、内需主導の国民経済に転換する 健全で活力のある産業が成長するためには、なによりも豊かな国内市場が存在しなければならない。電機産業の経営危機が、テレビなど一般消費者向けの家電部門からはじまったことを想起する必要がある。
内需拡大のためには、何よりもまず、労働者の賃金を引き上げ、正規雇用が当たり前の「安定した雇用」を実現することである。時給1000 円以上の全国一律最低賃金制の確立、正規雇用労働者と非正規雇用労働者との「均等待遇」の実現、労働時間短縮による正規雇用の創出、労働者派遣法の抜本改正、有期労働者規制など非正規雇用の労働条件改善、などを早急に実現していく必要がある。また、下請二法を厳守させ、下請け単価の切り下げを規制し、下請・中小企業の取引条件を改善して、中小企業が先端技術開発の面でも大きな役割を担うようになるなら、わが国の電機産業=製造業再生への道も大きく開けてくるであろう。
◆おわりに
電機産業でリストラされた労働者たちは、いまどこで、どんな冬を過ごしておられるだろうか。その多くは残酷に仕組まれた社会の襞のなかに身を隠し、声を上げることさえできずに孤立しているのではないだろうか。その労働者たちが連帯の輪の中に勇気をもって姿を現し、遠慮のない意見を述べてくれるようになったとき、この提言は命を吹き込まれることになるであろう。
この提言が、リストラされた電機労働者への国民的関心を高め、電機産業の大リストラから日本経済と国民生活を守るうえでの一助となれば幸いである。
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記事を読ませていただきましたが、管理者自身が通信機メーカーにいたので、痛いほど良く分かります。
Posted by: 教育ブログ | July 07, 2013 10:08 AM