「緊急経済対策」に関する見解と提言 建設政策研
建設政策研究所の見解と提言のうち、以下は「提言」の部分。
特に「2.地域経済再生に役立つ公共事業の拡大と地方自治体への財政支援により地域循環型経済の確立を」「3.地域住民の安全と地域経済再生を担う地域建設産業振興への対策を」は、公共調達のあり方ふくめて、地方の取組を考える上で参考になる。
【政府の「日本経済再生に向けた緊急経済対策」に関する見解と提言 2/15 建政研】
【 政府の「日本経済再生に向けた緊急経済対策」に関する見解と提言】
Ⅱ.「緊急経済対策」に関する建設分野からの見解と提言
1. 経済対策は大規模公共事業の大盤振舞いではなく、雇用の促進と賃金の引き上げを
かつて1990年代初頭のバブル経済の崩壊に伴う民間投資の急激な縮小を補てんする目的で、大規模公共投資のバラマキが行われた時期があった。1991年度からのGDP(名目値)の推移(図表2)をみると、公共投資が1993年度には1991年度より10兆円も増加したにもかかわらず、民間投資は14兆円も下落している。さらに1995年度には公共投資が44兆円と大盤振舞いしたにもかかわらず、民間投資はさらに落ち込み1991年度比17兆円も下落した(図表2④⑦)。このように1990年代以降の公共投資は民間投資への誘発効果を持たないことを実証している。
一方、GDPの構成の中で50%~60%を占めているのが家計消費支出である(図表2③)。2008年、アメリカの金融危機に端を発した世界的恐慌が原因して、2011年度の家計消費支出は2007年度に比較し約10兆円減少し、民間投資は22.9兆円も減少している。特に民間住宅投資は2007年度の16.4兆円から2011年度には13.6兆円と回復が困難なまま推移している(図表2⑤)。
GDPの5割以上を占める家計消費支出を押し上げるカギは国民の消費購買力である。しかし、勤労者一人あたりの月当たり可処分所得は、2001年度の419,505円から毎年減少し、2011年度には383,232円へと、この11年間に月当たり36,310円、年間では43万円以上も減少している(図表3)。建設就労者の月あたり賃金では2007年度の352,046円から2010年度には308,049円へと43,997円も減少した(図表4)。
このように、GDPを押し上げ、デフレ経済から脱却するには、減少している国民・勤労者の可処分所得を引き上げ、民間投資を誘発する国民の消費購買力をつけることがカギとなる。
また、1997年には消費税が3%から5%に引き上げられたが、直後の1998年度の民間投資は前年度比1兆3596億円も急減している。そのうち民間住宅投資は2,906億円も落ち込んだ。GDPの持続的拡大を行う上では消費税の引き上げは何としても避けなければならない。このようなGDPをめぐる状況を踏まえて、以下のような建設分野からの提言を行う。
①建設業に従事する労働者の賃金を地域の標準生計費プラス非消費支出(税および社会保険料負担額)から算出した賃金水準に大幅引き上げを行うこと
②低賃金・無権利な請負労働者をなくし、直接雇用関係を明確にすること
③公契約法・条例を制定し、公共事業に従事する労働者の最低賃金基準を明確にし、保障すること
④地域に密着した小規模・維持補修関係の雇用効果の高い公共事業を地域建設業者向けに大量に発注し、建設就労者の雇用の拡大を行うこと
⑤消費税の8%、10%への引上げを中止し、消費購買力を確保すること、また請負契約の各段階で消費税額の別枠計上を明確にすること。
2.地域経済再生に役立つ公共事業の拡大と地方自治体への財政支援により地域循環型経済の確立を
今日、経済対策として重視すべきは地域経済の疲弊への対応である。「構造改革」による、大都市への資本の集中、工場等の海外移転、三位一体改革による地方交付金や補助金の減少、地域密着型公共事業の減少、等々がもたらしている地域経済の疲弊は全国の地方自治体に広がっている。
したがって、公共事業の分野では地域循環型経済に役立つ公共事業の拡大とそのための地方自治体への思い切った財政支援が求められる。
「緊急経済対策」の中には、「事前防災・減災対策」として、
①河川・海岸・道路・空港・鉄道・航路標識・上下水道等の老朽化対策、
②密集市街地の改善整備の促進、避難所となる都市公園の整備等、
③住宅・建築物の耐震改修、建替え等の推進、
④医療施設、社会福祉施設の耐震化等整備、
⑤学校の耐震化・老朽化対策等の推進、等の公共事業が掲げられている。
また、「暮らしの安全・地域活性化」の中では、
①通学路等の交通安全対策、
②公営住宅の老朽更新・耐震改修、
③公共土木施設等の災害復旧等事業、
などが挙げられている。
このような地域住民の生活と安全にかかわる事業を地域建設業者が受注し、地域産材の活用、地域の下請業者を活用し、地域の労働者の雇用を促進することにより、地域循環型経済に貢献していくことが可能となる。また、地方への交付金は地方自治体の財政窮迫を鑑み、財政力の弱い地方自治体に思い切った財政支援を行うことが必要である。同時にそれらが国のひも付き・条件付きではなく、地方自治体の裁量により、地域の活性化のために自由に使用できるものとする必要がある。
3.地域住民の安全と地域経済再生を担う地域建設産業振興への対策を
長期にわたる公共事業の削減等により地域建設業者の経営の悪化、倒産・廃業の増加、および建設労働者、特に熟練職人や若年建設就労者が急減している状況があり、地域における公共事業を実施する上で、以下のような地域建設産業振興のための緊急対策および中長期的対策が求められる。
(1)震災復興事業を含め、急増する建設事業がもたらす資材や労務費の高騰に対応できる公共工事の積算・予定価格づくりを
①すでに全国規模で資材や労務費の高騰が進行している。そのため、予定価格づくりは直近の市場動向を適切に反映した積み上げ方式の積算を行うこと。また、工事受注後の単価の高騰に際しては、工事終了時に設計単価の見直し、実状に応じた増額変更を行うこと。
②設計労務単価づくりは従来の二省協定労務費調査方式を改め、地方自治体の標準生計費に非消費支出を加味した費用を基準に職種別格差を加味したものを設定する。
(2)労働者不足への対応は元請受注者が責任を持ち、安易な下請依存を行わないこと
①元請及び下請受注者は工事の主要工種については直接施工を行い安易な再下請業者への外注を行わないこと
②労働者が受け取る賃金は元請受注者が責任を持って管理し、重層下請の途中で中抜
きが行われないようにすること
③公共工事発注者は元請受注者に対し、建設業法、労働法制の順守を徹底し、下請業者への指値発注や不当に低い請負契約のないように、また労災隠しや労働者への基本的人権を侵害する横暴な対応などがないように厳格な監督行政を展開すること
(3)地域における公共事業の長期的見通しを明確にし、地域建設業者の中長期的経営見通しに展望を与えること
①国および地方自治体は公共施設等の耐震・老朽化対策および防災・減災対策、市民生活の利便性確保等の事業の中長期的見通しおよび財政施策を明確にした計画を早急に打ち立て、それに対応した地域建設業者の育成計画を明確にする
②公共工事の発注政策はコスト縮減に偏らず、受注者の適正な利益を考慮した、最低制限価格や失格基準の設定を行い、低価格受注競争に歯止めを掛けること
(4)公共事業の公正な競争や地域建設業の振興に逆行するTPPには参加しないこと
図表12012年度補正予算案
(支出内訳)項目 予算額
①復興・防災対策 3兆7,889億円
復興事業 3,177億円
復興債の減額・償還 1兆2,685億円
防災・減災対策 2兆2,024億円
②成長による富の創出 3兆1,373億円
③暮らしの安全・地域活性化 1兆7,044億円
④地方向け交付金 1兆3980億円
⑤公共事業の前倒し契約枠 2,530億円
経済対策への国費投入(①‐⑤小計) 10兆2,815億円
⑥義務的経費の増加 2,397億円
⑦基礎年金国庫負担の維持 2兆5,842億円
経済対策以外の小計(⑥⑦小計) 2兆8,239億円
合計 13兆1,054億円
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