競争・自己責任と道徳の強化…「教育改革」の矛盾
毎日の特集ワイドがおもしろい
学テの推進、社会保障改革で自己責任の強調、心のノートなど価値観に型枠ははめこむ。安倍政権の「教育改革」は、そもそも「詰め込み教育で競争させ、人を蹴落としてでも金もうけする力を育めば道徳心は下がります」という矛盾したもの。また、価値観の押し付けは、 「子供の多様性や主体性を可能な限り尊重すべきです。新しいアイデアや意外な発想を生かしてこそ、社会の活力の源になるはず」と「強い日本」とも矛盾する、と・・・
【特集ワイド:安倍首相の「後ろ向き」教育改革2/13】
私なりの思いは・・・
・競争・自己責任を強調しながら、まわりの人も大切にに教えるのは、「建前と本音がある」「学校は嘘つく場」とモラルハザードを助長するだけ。
・マネジメントの本筋は、自由で多様な個人を前提に、その違い、対立を調整し、勝ち負けでなく、新たな場を創造し共通利益を追求することにある。同質性の強制に活力ある社会はない。
・「ゆとり教育」で学力低下が虚構…最初にPISAのテストで騒がれた生徒は、それ以前の学習指導要領の世代。低下の原因は、「学力」の二極分化。貧困の拡大が主な原因。子育て世帯によりア重い生活扶助の切り下げを実施。少人数学級など先進国で最低レベルの条件整備はみおくり。
・新自由主義をすすめながら、その中で崩壊する地域社会、人間関係にへの危機感から、個人の自立を基礎としてない封建的な「共同社会」性へのノスタルジーに逃げ込んでいるだけ。
深刻な「少子化」という民族の危機をつくりだしておいて「国を愛する」もないと思う。
【特集ワイド:安倍首相の「後ろ向き」教育改革2/13】安倍晋三首相肝煎りの「教育再生実行会議」(座長・鎌田薫早大総長)がスタートした。いじめ、体罰問題をはじめ、教育委員会制度や大学入試改革にも取り組む方針だ。「取り戻す」の安倍首相、教育でいったい何を取り戻そうとしているのか。2人の識者に話を聞いた。【小国綾子】
◇強い日本を志向した結果が戦争であり、エコノミックアニマルだった。同じ道を歩むのか。−−寺脇研・京都造形芸大教授
◇道徳名目に画一的な人物像押しつける。多様性、主体性を尊重しないと、社会の活力が生み出されない。−−本田由紀・東大教授安倍首相は教育改革を「経済再生と並ぶ最重要課題」に挙げるほど、教育へのこだわりは強い。06年の第1次内閣時は発足1カ月後にトップダウンで教育再生会議を設置。「愛国心」条項を盛り込んだ改正教育基本法を成立させたほか、「ゆとり教育」脱却を進めた。会議では「学校週5日制」見直しや「徳育」の教科化などが話し合われたが、最終報告書提出前に首相が突然の辞任。多くの提言は実現しないままとなった。
だからだろう、安倍首相は今回復活させた会議の名称に「実行」の2文字を加えた。再チャレンジへの思いがにじむ。メンバーは作家の曽野綾子さん、八木秀次・高崎経済大教授ら保守系論客が目立つ。その初会合で、安倍首相は「強い日本を取り戻すため、教育再生は不可欠だ」とぶち上げた。
「強い日本」って何?
「『世界の一等国でありたい、それがダメでもせめてアジアで一番でいたい』ということでしょう。明治時代からの日本の願望です」。元文部科学省官僚の寺脇研・京都造形芸術大芸術学部教授はそう語る。「富国強兵時代、あるいは高度成長期の教育という印象です。けれど、世界の大国になろうとして無理をした結果が戦争であり、エコノミックアニマルだった。また同じ道を歩むのか」。「ゆとり教育」のスポークスマン、“ミスター文部省”と呼ばれた寺脇さんの目には時代錯誤と映る。
一方、東大の本田由紀教授(教育社会学)は「安倍首相が『取り戻し』たいのは、彼の思い描く『美しい国』。国民が皆、私の思うような人間になってくれればそうなるはずだ、という思い込みが、彼を教育再生へと駆り立てているように見えます」と批判する。
前回の教育再生会議は「道徳」から「徳育」への名称変更とともに、成績評価の対象とする教科化を提案したが、文科省内などに反発が強く実現しなかった。今回、安倍政権は、民主党政権の事業仕分けで予算が削られ、配布が取りやめられていた道徳の副教材「心のノート」を復活させるため、8億円を来年度予算案に盛り込んだ。本田さんは言う。「道徳を名目に国家が人の心の中に踏み込もうとしている。しかし『このような人物であれ』と画一的な人物像を押しつけるのは教育ではありません。子供の多様性や主体性を可能な限り尊重すべきです。新しいアイデアや意外な発想を生かしてこそ、社会の活力の源になるはずなのに」
寺脇さんは、安倍首相の教育観には「大きな矛盾」があると指摘する。「授業時間を増やし、学力を上げ強い国にという一方で、道徳心も高めたいという。しかし詰め込み教育で競争させ、人を蹴落としてでも金もうけする力を育めば道徳心は下がります。安倍首相の上半身は精神主義の保守思想だが、下半身は新自由主義。いったいどちらをやりたいのか」。そして、本物の道徳心を学ばせたいなら「心のノート」より、総合学習の中で地域のお年寄りと触れあう時間を作る方がずっと意味があるというのだ。
第1次安倍政権時代からのもう一つの“宿題”が「週5日制」の見直しだ。先月には「土曜日授業復活」の検討を文科省が始めたことが報じられた。「脱ゆとり教育」を掲げる新学習指導要領は安倍首相自ら前回政権時に導入を進めたもの。「強い国」づくりのために学力低下は放置できないというわけだが、寺脇さんは反論する。「学力低下説に根拠はありません。文科省の国立教育政策研究所も否定している。国際学力調査の順位が下がったのは他国が伸びただけ。相対的な問題です。そもそも授業時間が長ければ学力は上がるのか。ならばOECD(経済協力開発機構)の学力調査で世界上位のフィンランドの授業時間が日本より短いのはなぜですか?」
「教育は量より質」と本田さん。「OECDは学力以外に、学校でIT(情報技術)機器をどれくらい活用しているか、実験授業をどのくらい導入しているか、生徒にとって自由度の高い授業ができているかなども調べている。日本の順位は散々です。教室に多くの子供たちを押し込め一斉型授業ばかり行っている。むしろそちらの方が問題でしょう」。民主党政権は「全学年35人以下学級」を5年間で中学3年まで拡大する計画だったが、政権交代後の来年度予算案では見送られた。
安倍首相が「ゆとり教育」を目の敵にするのは学力の観点からだけなのか。「ゆとり教育は『個』を大切にする。それが安倍首相には『公』をないがしろにしていると映るのではないか」と寺脇さんは分析する。
前回の教育再生会議で盛んに議論されたのが「親学」。子守歌や母乳による育児奨励などの「緊急提言」が検討された。超党派の国会議員でつくる「親学推進議員連盟」の会長は安倍首相その人だ。
本田さんは「国の役に立つ次世代を育てるため、まず親を何とかしようというのでしょう。しかし家庭の経済基盤が脆弱(ぜいじゃく)になっている今、むしろ必要なのは家庭を支えることです。『早寝早起き朝ごはん』などとスローガンを掲げたところで、子供にしてあげたくてもできない家庭が増えている。政策の不備を個人や家族の自己責任論にすりかえてはいけない」と強調する。また、安倍首相は、衆院選の公約に幼児教育の無償化を掲げる一方、女性の労働力の活性化も口にする。「『3歳児神話』を堅持し、3歳になるまでは家できちんと育てろ、その後は面倒みてやるといっても、3年間も退いては仕事になりません。矛盾していますよ」
寺脇さんは「親を変えることは行政の仕事ではない」とばっさり。「親を何とかしよう、ではなく、親に恵まれない子供が不利益を被らないよう、子供の学びを支援するのが教育でしょう」
教育改革でこの国を「取り戻」そうとする安倍首相。「『取り戻す』という言葉自体が後ろ向きですよね。バブルに踊った世代は共感するのでしょうが、本来、教育とは未来を生きる力を育むもの。30年後、50年後の日本がどんな社会になっていくのかを予測し、変化に応じて教育を変えていく。それが国の仕事なんです。過去を志向してどうするんですか」(寺脇さん)
取り戻す、で本当にいいのか。
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