生活保護の大幅削減予算案の撤回を 全国会議声明(案)
予算撤回をもとめる声明案への賛同を呼びかけている。
今回、最初に450億円削減あって始まった改悪。これは予算枠をきめて生活保護からの排除をし、餓死者を出した北九州方式の全国版でる。
就学援助などの波及への怒りの声の前に、「他制度への影響を与えない」とさかんに弁明しているが、声明(案)はこう批判している。
一般財源化(交付税措置)されたことによって,就学援助制度の実施は完全に地方自治体に委ねられている。そのため,就学援助制度の実施状況は地方自治体の財政状況によって相当のばらつきがあるのが実態である。国が,この国庫補助制度を復活させるのであればともかく,そのようなことはあり得ない。そうすると,国にできることは地方に「お願い」することだけである」。
実態は、一般財源化で全国的に就学援助は、縮小されている。そのもとでナショナルミニマムの基準が下がるのだから、影響しないというのはゴマカシでしかない。
【生活保護費を大幅削減する平成25年度予算案の撤回を求める緊急声明(案)】
【生活保護費を大幅削減する平成25年度予算案の撤回を求める緊急声明(案)】生活保護問題対策全国会議(代表幹事尾藤廣喜)
第1 はじめに
本年1月27日,政府は,2013(平成25)年度予算案で生活保護の生活扶助基準を3年間で総額670億円削減することを決めた。削減幅は平均6.5%(最大10%)で,この基準引き下げによって受給額が減る世帯は96%に上るという。現行生活保護法が制定された1950年以来,生活保護基準が引き下げられたのは,2003年度(0.9%減)と2004年度(0.2%)の2回だけであり,今回は前例のない大幅引き下げである。
併せて,政府は,就労支援の強化,医療費扶助の適正化など「生活保護制度の見直し」によって450億円を削減することを決めたと報じられている。
しかし,一方において,20兆円規模の緊急経済対策を打ち出し,公共事業等による財政出動を行うとしながら,生活保護基準の引き下げによって生活保護利用者をはじめとする低所得者層に対して負担増(実質的な増税)を強いるのは,政策そのものが根本において矛盾していて著しく公平を欠く,国家による「弱い者イジメ」である。のみならず,以下述べるとおり,提示された予算案(以下,単に「予算案」という。)の考え方そのものが著しく恣意的で大きな問題があり,到底容認できない。
そこで,私たちは,予算案の撤回を求めて本緊急声明を発表するものである。第2 生活扶助基準の引き下げによる保護費削減について
1 突然持ち出された「デフレ論」の問題点
(1)明らかに生活保護基準部会の検証結果を逸脱している。
予算案は,生活扶助基準の見直しによって3年間で総額670億円の削減を図るとしているが,そのうち580億円については「前回見直し(平成20年)以降の物価の動向勘案」によるものであり,「(社会保障審議会)生活保護基準部会における検証結果を踏まえ,年齢・世帯人員・地域差による影響調整」による削減はわずか90億円にとどまっている。つまり,削減額の9割近くは,いわゆる「デフレ論」によるものである。
しかし,現在の保護基準決定方式である水準均衡方式は,もともと「当該年度に想定される一般国民の消費動向に対応するよう,毎年度の政府経済見通しの民間最終消費支出の伸びを基礎とする改定方式」(2003年12月16日生活保護制度の在り方に関する専門委員会「生活保護制度の在り方についての中間取りまとめ」)であり,物価の要素を排除して保護基準は決められてきた(ちなみに,民間最終消費支出の平成25年度見通しは,実質で1.6%増となっている。「平成25年度の経済見通しと経済財政運営の基本的態度」平成25年1月28日閣議了解)。したがって,基準部会の報告について,物価を考慮に入れることは,これまでの保護基準設定方式である消費水準均衡方式を放棄するものであって,保護基準にかかる根本的かつ重大な方針変更である。少なくとも基準部会はもとより社会保障審議会等での審議,了解抜きにはできないはずである。
ところで,基準部会報告書自体にもさまざまな問題はあるが1,社会保障審議会の専門部会として,貧困問題に詳しい専門家が13回にわたって議論した結果をとりまとめたものであるから,生活保護基準を改定するにあたっては最も重視すべきものである。
その基準部会報告書は,第1十分位(下位10%)の消費水準との比較検証を行っているものの,検証方法に統計上の限界があることを認めるなど安易な引き下げに警鐘を鳴らしているのである2。ましてや,「デフレ論」は上記のように保護基準設定方式から排除されている要素であり,当然一切言及していない。さらに「デフレ論」についても,基準部会が比較の対象とした第1十分位(下位10%)の消費水準はデフレの影響によって下がってきているのであり,そのうえにさらにデフレの影響を考慮するというのは,「デフレのダブルカウント」である。
基準部会報告書は,全くないがしろにされたわけであるが,それは何故であろうか。それは,基準部会の検証結果に従えば,高齢世帯については逆に第1十分位(下位10%)の消費水準よりも生活保護基準の方が低く生活保護基準を引き上げなければならないこととなって削減効果が乏しくなることから,生活扶助費1割カットを公約に掲げた自民党の意向に従い,大幅削減(削減幅最大10%)の結論先にありきで「デフレ論」を持ち出してきたとしか考えられない。
今回の予算案は,基準部会の検証結果を明らかに逸脱しており,このような考え方に基づく引き下げが断行された場合には,裁判所においても,厚生労働大臣の裁量権の逸脱濫用として違法と判断される可能性が高い。(2)物価が高騰した2008(平成20)年を比較対象とすることの恣意性
予算案は,「前回見直し(平成20年)以降の物価の動向を勘案」するとして,比較対象を平成20年の物価に置いている。しかし,別添の表(1,2,3)と図(1,2)に明らかなように2008年(平成20年)は,消費者物価指数(10大品目総合)が102.1と突出して高騰した年である。これは原油高の影響を受けた物価高である。
前年の2007年末にも今回同様,生活保護基準の引き下げが政治課題となったが,強い反対運動の結果,「目下の原油高が物価に与える動向を見極める必要がある」として生活保護基準の引き下げは見送られた。つまり,物価高を理由に生活保護基準の見直しは見送られたにもかかわらず,その年の高い物価を基準にして生活保護基準を引下げようというのであるから論理矛盾もはなはだしい。
そもそも,「デフレ論」は「デフレで物価が下がっているのに生活保護基準は下がっていないから下げるべきだ」というものであるから,仮にこの理屈をとるのであれば比較対象とすべきは前回生活保護基準が下げられた2004(平成16)年の消費者物価指数のはずである。別添の表1のとおり,2004年の消費者物価指数(10大品目総合)は100.7であって,2011年,2012年のそれ(99.7)と比べると1ポイントしか下がっていない。
2008年を比較対象としたのは,2.4ポイントという高い下落幅をもって大幅な基準引き下げの結論を得るためであって牽強付会の屁理屈以外の何物でもない。(3)物価が大きく下がっているのは「ぜいたく品」であって,生活費や光熱費はむしろ上がっている
上記の表に明らかなとおり,物価が大きく下落しているのは家具等(2004年から2012年に22.5ポイント下落。中でも電化製品等の耐久消費財の下落幅が大きい)と教養娯楽(同前14.3ポイント下落)であって,食料(同前2ポイント上昇),水道光熱費(同前14ポイント上昇),被服・履物(同前0.2ポイント上昇)などの生活費についてはむしろ上昇している。
別添の表(3)と図(3~9)のように,低所得者ほど家計の中で食費や光熱費が占める割合が高く,家具等や教養娯楽費については逆の傾向があることからすると,低所得者層の生活はむしろ厳しくなっているのが実態である。
だとすれば,仮に消費者物価指数を比較対象とするにしても,こうした傾向を考慮して,耐久消費財や教養娯楽費については除外又は比重を落とすなどするべきである。
そうすると,特に食費や水道光熱費が高騰し,低所得者層の消費生活が厳しくなっている中で,低所得者層全般の所得水準を押し下げる効果を持つ生活保護基準は引き下げるべきではないという,2007年の検証時と同様の結論になるのが当然であって,消費者物価指数を理由に保護基準を引下げるという結論になどなりようがない。
なお,既に2012年の消費者物価指数は発表されているにもかかわらず,何故か予算案は2012年の指数を比較対象としているが,2011年から2012年にかけて,家具等や教養娯楽費等の「ぜいたく品」の物価が下落し,食料,水道光熱費等の生活費が高騰するという傾向はより顕著になっている。2 子育て世帯への打撃が大きく「貧困の連鎖」が強化される
予算案での生活扶助費の減少幅は,例えば,
①夫婦と子1人の世帯(都市部)で17.2万円から15.6万円に1.6万円減少
②夫婦と子2人の世帯(同上)で22.2万円から20.2万円に2万円減少
③母と子1人の世帯(同上)で15万円から14.1万円に0.9万円減少
となっており,子どもの数が多いほど大きく,子育て世帯に過酷な内容となっている。
生活保護世帯における「貧困の連鎖」がかねてから問題とされ,その解消のために生活支援戦略において学習支援の強化などの方策をとろうとする一方で,子育て世帯への現金支給を大幅に減額するというのは,明らかに矛盾している。こうした引き下げが実施されれば,生活保護世帯の子どもたちは,ますます厳しい状況に追い込まれ,生活保護世帯の子どもたちは長じて生活保護から脱却することができず,「貧困の連鎖」が強まることが必至である。
予算案では,20~40歳の単身者(都市部)については,7000円削減するとされているが,生活保護利用者にとって,7000円の減額は単身者なら1週間の生活費に相当するほどの極めて「大きな」金額である。ましてや,より費用のかかる多人数世帯で2万円にも及ぶ減額となれば,その暮らしへの影響は計り知れない。親が十分に働くことのできない事情や子どもの障害や病気の有無などに対して何ら考慮もなく,単に数字の比較だけで一律に引き下げを行えば,その先にどのような悲劇が待っているのか,過去に発生した餓死事件や心中事件を思えば火を見るよりも明らかである。段階的引き下げなどという小手先の激変緩和措置を行っても,現実の生活は確実に困窮度を増すものであり,徐々に慣らされれば生き抜けるというレベルの問題ではない。3 生活保護利用者だけではない国民生活全般への打撃
(1)最低賃金,就学援助・地方税非課税・保険料減免等の基準も連動して下がり,低所得者層全般の収入減(負担増)となる
言うまでもなく生活保護基準は,憲法25条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」の基準であって,我が国における生存権保障の水準を決するナショナル・ミニマムである。生活保護基準が下がれば,最低賃金の引き上げ目標額が下がり,地域によっては最低賃金そのものが下がって,労働者(特に時給800円,850円で働いている低賃金労働者)の労働条件に大きな影響が及ぶ。
また,生活保護基準は,地方税の非課税基準,介護保険の保険料・利用料や障害者自立支援法による利用料の減額基準,就学援助の給付対象基準など,福祉・教育・税制などの多様な施策の適用基準にも連動している。
生活保護基準の引下げは,現に生活保護を利用している人の生活レベルを低下させるだけでなく,今や国民の多数を占めるに至っている低所得層の収入減(負担増)を招き,市民生活全体に大きな影響を与えるのである。
低所得層には貯蓄する余裕がなく収入のほとんどを消費に回すため,低所得層の収入減少は消費の減少に直結する。そうすると,デフレを理由に生活保護基準を引き下げながら,さらなるデフレを招くという負のスパイラルに陥ることが明らかであって,経済政策としても愚策というほかない。(2) 生活保護基準がナショナル・ミニマムである以上,他制度への波及を回避することは不可能である
ここに来て,特に就学援助への連動に対する批判の声が強いことから,自民党は,こうした制度への波及が及ばないようにする旨言及し始めている。
しかしながら,最も多くの人への影響があると思われる最低賃金との関係について言えば,改正最低賃金法9条3項において,地域別最低賃金を決定する場合には,労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるよう,生活保護に係る施策との整合性に配慮しなければならないこと(つまり,最低賃金は生活保護基準を上回るよう改善しなければならないこと)が明記されており,法改正をしない限り,最低賃金への波及効果を避けることはできない。また,地方税の非課税基準についても,法令によって,級地(地域)によって生活保護基準の1.0倍,0.9倍,0.8倍の金額を参酌して定めるべきことが明記されている(地方税法295条,同法施行令47条の3,同法施行規則9条の2の3)。
さらに,生活保護費と同額を想定している永住帰国した中国残留孤児の支援給付(4687世帯7230人)や,ハンセン病国家賠償訴訟で和解に応じ,国立ハンセン病療養所に入ったことのない患者の給与金(4世帯),療養所入所者とは別居している家族への生活援護費(33世帯35人)については,保護基準と連動して下がらざるを得ないことを厚生労働省自体が認めている(2013年02月1日毎日新聞朝刊)。田村厚生労働大臣などは,しきりに就学援助制度への波及を回避すると発言しているが,それは実際には実現不可能である。すなわち,2005年に生活保護に準じる程度に困窮している「準要保護者」についての国庫補助は廃止され,一般財源化(交付税措置)されたことによって,就学援助制度の実施は完全に地方自治体に委ねられている。 そのため,就学援助制度の実施状況は地方自治体の財政状況によって相当のばらつきがあるのが実態である。国が,この国庫補助制度を復活させるのであればともかく,そのようなことはあり得ない。そうすると,国にできることは地方に「お願い」することだけであるが,平成25年度予算では,地方交付税についても2013億円(▲1.2%)削減されている中,財政状況の厳しい地方が「お願い」に応じることもあり得ない。参議院選後に生活保護基準が引き下げられた後に,「検討したが,やはり無理だった」とされることが目に見えている。現在,与党が言っていることは,他制度への波及が及ばないようにしてもらえると他制度の利用者に期待させることによって,批判を沈静化させるためのまやかしに過ぎない。
いずれにせよ,先に述べたとおり,生活保護基準がわが国の生存権保障水準を画する岩盤(ナショナル・ミニマム)である以上,これを下げながら,連動する諸施策の水準のみを維持するということ自体が論理矛盾であって,諸施策への波及を回避することはできないのである。
仮に,何らかの方法で当面の間,諸施策の波及効果を回避することが可能であり,それが実施されたとすれば,逆に何故そこまでして生活保護基準を下げることにこだわらなければならないのか理解に苦しむ。まさに,生活保護利用者に対する「国家的イジメ」であると言うほかない。第3 生活保護制度の見直しによる保護費削減について
今回の予算案では,生活扶助基準の引き下げと併せて,就労支援の強化等の生活保護制度の見直しによって,450億円の保護費を削減するとしている。この問題点については,ほとんど報じられていないが,実は,生活扶助基準の引き下げと勝るとも劣らないほどの害悪の発生が予想される。
生活保護基準の検証と並行して社会保障審議会に設置されていた生活困窮者の支援の在り方に関する特別部会は,本年1月25日,報告書をとりまとめた。同報告書の中には評価できる新たな取り組みに関する記載も少なくはないが,生活保護制度の見直しについては,3~6か月の期間を定めて集中的に就労支援(指導)を行い,希望の職種につけない者については地域や職種を変えて就職活動をすることや低額でもまず就労することを基本とすべきことが打ち出されている。
この見直し案については,例えば,3か月経過しても希望の職に就職できない者に対して,本人が希望しない就職先が他地域にあるから転居して就職活動をするよう指導指示をし,これに従わないことを理由に指導指示違反で保護を廃止するような,形式的かつ厳格な運用がなされ得ることについて危惧が表明されてきていたが4,上記のとおり,450億円の保護費削減という数値目標が設定されたことによって,厚生労働省や会計検査院による監査強化の中で,この危惧が現実のものとなる危険が飛躍的に高まっている。
かつて「厚生労働省の直轄地」「保護行政の優等生」と言われていた北九州市においては,2005年から2007年にかけて生活保護をめぐる餓死事件や自殺事件が連続して発生した。同市においては,保護費は300億円を上回らないようにするという数値目標を実現するために,「闇の北九州方式」と呼ばれる,各福祉事務所ごとにノルマを課して保護実施件数の総数管理を行った結果,こうした悲劇が頻発したのである。
450億円削減という数値目標は,稼働年齢層を生活保護の利用から排斥するという形で全国的に同様の悲劇を頻発させる危険が高く,到底容認できない。以 上
« 原発新基準 “退場”迫る根拠に | Main | 「原発防災計画 4分の1自治体、丸投げ」が問題はもっと根本的 »
「生活保護、母子福祉」カテゴリの記事
- 地域振興券(臨時交付金)の生活保護世帯の収入認定 自治体で「認定しない」可能 (2023.11.03)
- 生活保護 冬季加算「特別基準」(通常額の1.3倍) 高知市「抜かっていた」「速やかに実施」 (2022.12.28)
- 生活保護基準引き下げ違憲訴訟 横浜地裁で4例目の勝訴判決 ~国は控訴やめ、元にもどせ(2022.10.26)
- 厚労省 扶養照会を拒否する者の意向尊重の方向性を示す通知 ~不要な扶養紹介根絶させよう(2021.04.08)
- 声明 生活保護引下げ違憲訴訟(いのちのとりで裁判)大阪地裁判決について2/22(2021.02.24)
Comments