「体罰」ではなく虐待
児童虐待で、よく加害者の親が「しつけのためにやった」と言い訳する。
学校教育などに関わり使われる「体罰」という用語が、そもそもおかしい。絶対的な力関係の差があるもとで一方的に振るわれる暴力であり、虐待である、と思う。
政府は「児童虐待」は、社会全体で解決すべき問題と訴える。同法も子どもの権利条約も、18歳以下が児童、こどもとしている。
追記(3/30)
【「体罰」問題についてのメッセージ 全国柔道事故被害者の会1/13】
児童虐待は以下のように4種類に分類される(厚労省HP)。
◆身体的虐待
殴る、蹴る、投げ落とす、激しく揺さぶる、やけどを負わせる、溺れさせる、首を絞める、縄などにより一室に拘束する など
◆性的虐待
子どもへの性的行為、性的行為を見せる、性器を触る又は触らせる、ポルノグラフィの被写体にする など
◆ネグレクト
家に閉じ込める、食事を与えない、ひどく不潔にする、自動車の中に放置する、重い病気になっても病院に連れて行かない など
◆心理的虐待
言葉による脅し、無視、きょうだい間での差別的扱い、子どもの目の前で家族に対して暴力をふるう(ドメスティック・バイオレンス:DV) など
政府はこう呼び掛ける
「児童虐待のニュースが後を絶たず、深刻な社会問題になっています。児童虐待とは、親や親に代わる保護者が、子どもの心やからだを傷つけ、健やかな成長や人格の形成に重大な影響を与える行為をいいます。児童虐待は、社会全体で解決すべき問題であり、誰にとっても決して他人事ではありません。」として、「虐待を受けたと思われる子供」や「虐待の疑いがある家庭」を見かけた場合に、児童虐待を受けたと思われる児童を発見した場合には、近隣の市町村、児童相談所に通告しなければならない(児童虐待防止法第6条)。
「児童虐待防止法」は、親など(児童を元に監護(監督・保護)しているもの)が、その監護する児童に対する虐待を防止するものだが・・・
「何人も、児童に対し、虐待をしてはならない。」とし、「国及び地方公共団体は、児童相談所等関係機関の職員及び学校の教職員、児童福祉施設の職員、医師、保健師、弁護士その他児童の福祉に職務上関係のある者が児童虐待を早期に発見し、その他児童虐待の防止に寄与することができるよう、研修等必要な措置を講ずるものとする。」
また、文部科学省の「いじめ」の定義は「一定の人間関係のある者から、心理的・物理的な攻撃を受けたことにより、精神的な苦痛を感じているもの」としているので、当然、教師・子ども間にも通じるものである。
虐待、いじめを防止する立場の教師が犯した罪であり、重大であるし、級友からの「いじめ」、親の「虐待」と並んで、教員など第3の加害行為として明確にする必要がある。
【「体罰」問題についてのメッセージ 全国柔道事故被害者の会1/13】大阪で起こった悲しい事件をきっかけに、最近報道では、「体罰」問題が大きく取り上げられています。
また、女子柔道の日本代表選手に対する監督の「暴力行為」も明らかにされました。
私達は一連の報道の中で「体罰」という言葉が頻繁に使われ、問題が「体罰」として扱われることに大きな違和感を感じます。
体罰とは、親や教師などが、子供や生徒などの自己の管理責任の下にある相手に対し、教育的な名目を持って、肉体的な苦痛を伴う罰を与えることを指します。
すなわち「体罰」とは、悪い事をした子供に対して、それが悪い事であると痛みをもって解らせるということです。
この意味において、体罰を擁護する声が一部の方から起こり、またこの意味において、体罰を肯定する風潮すらあります。
しかし、痛みをもって「悪い事であると解らせる事」が体罰であるなら、「勝たせたいという気持ちが強すぎて手を上げてしまった」「気合いを入れるためだった」「試合に負けた」「指導した通りに出来ない」更には「声が小さい」等々という理由で生徒や選手を殴ったり蹴ったりする行為は、それは「体罰」ではなく「暴力」でしかありません。
そして、絶対的権力を持つ者が弱者に対して行う「暴力」を「虐待」と言います。
スポーツや教育の場においては、指導者、教師と選手、生徒の間に、絶対的支配の関係が成立する事が多々あります。
教師や指導者、監督という絶対的支配力を持つ者が自己の管理下にある相手に対して行う「暴力」は、すなわち「虐待」です。
「体罰」という曖昧な表現がされる事で、体罰擁護の声が起こります。
しかし、いま「体罰」として報道されている多くの事件は、「体罰」ではなく「虐待」であると私達は考えます。
そして、この「虐待」を「熱心な指導の結果」「成長を願っての指導」などという言葉で擁護する事は決して許されることではありません。
それは、虐待を行った親の多くが「躾のつもりだった」と主張する姿勢に通じるものがあります。
「虐待」をする親の多くが、幼少期に自分もまた「虐待」を受けていたとされます。同じように、暴力を伴った稽古を受けて育った指導者が、暴力を伴った指導をします。
このような負の連鎖が延々と続いてきた事が、そして、それを一部の人間が容認、または黙認してきたことが、いま報道されている問題に繋がっていると考えます。
負の連鎖は、断ち切らなければなりません。
すべての指導者、すべての教育者は、大人の理性を持って「虐待」の連鎖を断ち切ってください。
なお子どもの権利委員会の勧告は以下のとおり。
【子どもの権利委員会:総括所見:日本(第3回) 2010/6】体罰
47.学校における体罰が明示的に禁じられていることには留意しつつ、委員会は、その禁止規定が効果的に実施されていないという報告があることに懸念を表明する。
委員会は、すべての体罰を禁ずることを差し控えた1981年の東京高等裁判所判決に、懸念とともに留意する。委員会はさらに、家庭および代替的養護現場における体罰が法律で明示的に禁じられていないこと、および、とくに民法および児童虐待防止法が適切なしつけの行使を認めており、体罰の許容可能性について不明確であることを懸念する。48. 委員会は、締約国が以下の措置をとるよう強く勧告する。
(a)家庭および代替的養護現場を含むあらゆる場面で、子どもを対象とした体罰およびあらゆる形態の品位を傷つける取り扱いを法律により明示的に禁止すること。(b)あらゆる場面における体罰の禁止を効果的に実施すること。
(c)体罰等に代わる非暴力的な形態のしつけおよび規律について、家族、教職員ならびに子どもとともにおよび子どものために活動しているその他の専門家を教育するため、キャンペーンを含む伝達プログラムを実施するこ
と。子どもに対する暴力に関する国連研究のフォローアップ
49. 子どもに対する暴力に関する国連事務総長研究(A/61/299)について、委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
(a)東アジア・太平洋地域協議(2005年6月14~16日、バンコク)の成果および勧告を考慮しながら、子どもに対する暴力に関する国連研究の勧告を実施するためにあらゆる必要な措置をとること。
(b)以下の勧告に特段の注意を払いながら、子どもに対するあらゆる形態の暴力の撤廃に関わる同研究の勧告の実施を優先させること。
(i)子どもに対するあらゆる形態の暴力を禁止すること
(ii)子どもとともにおよび子どものために活動しているすべての者の能力を増進させること。
(iii)回復および社会的再統合のためのサービスを提供すること。
(iv)アクセスしやすく、子どもにやさしい通報制度およびサービスを創設すること。
(v)説明責任を確保し、かつ責任が問われない状態に終止符を打つこと。
(vi)国レベルの体系的なデータ収集および調査研究を発展させ、かつ実施すること。(c)すべての子どもがあらゆる形態の身体的、性的および心理的暴力から保護されることを確保し、かつ、このような暴力および虐待を防止しかつこれに対応するための具体的な(かつ適切な場合には期限を定めた)行動に弾みをつける目的で、市民社会と連携しながら、かつとくに子どもの参加を得ながら、これらの勧告を行動のためのツールとして活用すること。
(d)次回の報告書において、締約国による同研究の勧告の実施に関わる情報を提供すること。
(e)子どもに対する暴力に関する国連事務総長特別代表と協力し、かつ同代表を支援すること。
なお学校選択制、成果主義が、結果のためには目をつぶる体質を助長していなかったか。そこから見直す必要がある。
また、スポーツとの関係においては
元プロ野球選手の桑田真澄さんが、自らも小中学校時代に指導者や先輩らに殴られたとし、「練習に行くのが嫌で仕方なかった。体罰は必要ない」と明言。絶対的な上下関係のもとで起きる「スポーツで最も恥ずべきひきょうな行為」と指摘。部活動の指導者に対しては「暴力に頼るのは怠慢。時代に合った指導法を学んでほしい」と求めている。(朝日新聞より)。
部活動などと教員の体罰との関係について、昨年4月18日、衆議院文部科学委員会で宮本たけし議員が質問している。
○宮本たけし 安全対策とあわせて、外部指導者も含めた指導者のあり方が大きく問われていると思うんですね。 昨年、私の質問に対して、当時の高木文科大臣は、しごきや体罰など、人権を侵害するとか、健康、安全を害することは絶対あってはならないと明確に答弁をされました。これは大臣も同じだと思うんですね。しかし、残念ながら、そういう事例が後を絶たないんです。 私は、先日、全国柔道事故被害者の会の方々と直接お会いをして、子供たちが事故に遭った状況をお伺いいたしました。幾つか紹介をしたいと思います。 経験一年足らずの息子は、部活動で講道館杯優勝経験を持つ顧問との乱取りで何度も投げられ、急性硬膜下血腫を発症。さらに、七分間に二回も気管を絞めるわざをかけられた。神奈川県中三男子。 ぜんそくの持病を抱える初心者の息子に、部員も顧問も過度に無謀な練習を課し、顧問に投げられて死亡。病院に運ばれたときは、体じゅう、あざだらけだった。滋賀県中一男子。 百六十センチ、六十五キロの息子と、百七十五センチ、八十キロの生徒同士の授業中の試合で頸部負傷。親への連絡に二時間もかかり、親が駆けつけて救急車を呼んでもらったが死亡。どの体育教師でも同じ判断をしたと説明された。静岡、高一男子。 これらの指導者に共通するのは、行ったことの重大性ももちろんですけれども、その後も、事故の現実、事実に向き合おうともしない姿勢なんですね。大臣、こういう、指導者によるいじめやしごき、体罰などというものは絶対に許されません。このようなものは虐待や暴力そのものであって、スポーツでもなければ武道でもないと言わなければなりません。 子供たちの命と安全を守ることを最優先に指導できる人こそ指導者とすべきでありますけれども、少なくとも、学校での柔道の指導者には暴力や人格を否定する言動は絶対認めない、この立場を大臣として明確にするのは当然だと思いますが、大臣、ぜひその立場を表明していただきたいと思います。○平野(博)国務大臣 武道というのは道ということを書くわけですが、その道をきわめるというのはやはり人格をきわめていくということになるわけでございます。
したがいまして、今議員御指摘の、例示をいただきましたが、武道に限らず、指導者たるものは、しごきや体罰などあってはならないのは当然であります。これは、道という、道をきわめていく武道の一番の原点でございますが、そういうことをわきまえてやっていただかなくてはならないと思います。
特に武道は我が国固有の文化でありますし、中学校において、武道の学習を通じて、技能という観点のみならず、我が国の伝統の文化を尊重するという、道をきわめていく、礼にあって礼に終わっていく、この精神を養ってもらうことが期待されるものでありまして、しごきや体罰は絶対にあってはならないものと私も思っております。○宮本委員 フランスでは柔道指導者は国家資格なんですね。それで、講義、実技、柔道クラブでの実習を合わせて千二百時間が必要とされております。それでもなお、三年ごとの更新制をとっている。フランス柔道連盟のジャン・リュック・ルージェ会長は、最新の医科学的知見を身につけてもらうために三年ごとの更新をしているんだとテレビの取材に語っておられました。
加速損傷など頭部損傷の危険性についての知識を身につけなければならないという点では、初心者も経験者も違いはないんです。これはスタートラインなのだから、絶対に授業開始前までには徹底する必要がある、このことを強く求めておきたいと思います。
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