慰安婦・NY議会決議と「普遍的価値観」に基づく同盟
07年、アメリカ下院の決議に続き、またしても安倍政権下での決議。ニューヨーク州上院議会が「人道に対する罪」の表現を使った決議をあげた。下院も上がる見込み。
この問題で、浦部法穂・法学館憲法研究所顧問が、昨年9月にコラムを書いている。アメリカが「国民統合のシンボル」として重視している人権と民主主義(実態は別にして)。06年の共同文書「21世紀の新しい日米同盟」は、「普遍的価値観と共通の利益に基づく日米同盟」をかかげた。「普遍的価値観」の内容は、「自由、人間の尊厳及び人権、民主主義、市場経済、法の支配」。
“日本が「慰安婦問題」についてあれこれ責任回避のようなことを言うのは、「普遍的価値観」を否定するもの”と解説している。
他国ではありえない傍若無人な低空飛行訓練(フィリピンで開始したオスプレイの低空飛行訓練は、フィリピン政府が承認したルートで行われ、フィリピン空軍が地上管制を担当する)や突出した基地犯罪率~ 同じ(価値を持つ)人間として見なしてないことが根底にあるのではないか。
【慰安婦は「人道に対する罪」=NY議会が非難決議 時事1/30】
【「日米同盟」と「慰安婦問題」2012/9/20 浦部法穂・法学館憲法研究所顧問】
【慰安婦は「人道に対する罪」=NY議会が非難決議 時事1/30】【ニューヨーク時事】米ニューヨーク州上院は29日、旧日本軍の従軍慰安婦問題について、「人道に対する罪」との表現を使って事実上、これを非難する決議案を採択した。
決議案はニューヨーク市近郊の公園に2012年6月に「慰安婦の碑」が建てられたのを記念し、今月、上程された。「日本がアジアと太平洋の島々に対し、植民地支配と戦時占領を行った1930年代から第2次世界大戦の間、約20万人の若い女性が強制的な軍の売春である慰安婦システムに従事させられた」と指摘。慰安婦の碑は、人道に対する罪を思い起こさせる役割を果たすとしている。
決議案を提出したトニー・アベラ議員は採択に先立ち、慰安婦問題を「20世紀最大の人身売買事件の一つ」と断じた。
下院にも同様の決議案が提出されており、来週にも採択される見通し。
米国では2007年7月、慰安婦問題で日本の首相が公式声明の形で明確な謝罪をするよう促す決議が連邦議会下院で採択されている。
【「日米同盟」と「慰安婦問題」2012/9/20 浦部法穂・法学館憲法研究所顧問】・・「日米同盟」という言葉は、いまでこそ、政治家も、そしてマスコミも、何のためらいもなく使っているが、30年ほど前までは、実はおおっぴらに使える言葉ではなかった。1981年の鈴木善幸首相とレーガン大統領との日米共同宣言ではじめて日米「同盟」という言葉が使われたとされるが、その鈴木善幸首相は「同盟には軍事を含まない」と釈明し、これに異を唱えて「同盟という以上軍事を含むのは当然だ」と言った伊東正義外務大臣が結局辞任に追い込まれた、という騒動さえあった。「同盟」という言葉一つでここまでの騒ぎになったのは、憲法9条がまだ一定の「重し」になっていたからである。逆に言えば、いま「日米同盟」という言葉がこれだけあっけらかんと使われるということは、この30年の間に9条の「空洞化」がそこまで進んだということでもある。
さて、こうして、いま、民主党代表選でも自民党総裁選でも、どの候補者も例外なく、「日米同盟が基軸」だの「日米同盟の強化」だのと言っている。それと同時に、日本の戦争責任を否定するかの発言が、またぞろあちこちから吹き出している。8月末に野田首相が「慰安婦問題」について「軍や官憲が強制連行したことを証明する資料はない」と発言、また、自民党総裁選に立候補した安倍晋三・元首相も、「証拠がないのに日本軍による慰安婦の強制連行を認めた『河野談話』は見直すべきだ」という趣旨の主張をしている(なお、橋下徹大阪市長も8月下旬に同じようなことを言ったと報じられているが、大阪市長はこの問題について口を挟む立場にはないはずで、記者に聞かれてへらへら喋るほうもどうかしているが、こんなことを大阪市長にわざわざ喋らせる記者はバカとしか言いようがない)。これも、「日米同盟」という言葉と同じく、9条「空洞化」の進行を示す一つの現象であるが、こういう発言と「日米同盟が基軸」だの「日米同盟強化」だのという言葉が、実は抵触する可能性がある、ということに、彼らはまったく気づいていない。
2007年に、アメリカ下院で、慰安婦問題に関する日本政府の公式謝罪を求める決議案が採択された。この決議案が提出されたとき、日本の政治家・学者・ジャーナリストなど44人が『ワシントン・ポスト』紙に慰安婦問題に関する意見広告を出した。それは、「日本軍によって強制されたことを示す歴史的な文書は歴史家あるいは研究機関によって発見されていない」、「慰安婦は、当時世界で一般的であった公娼制度のもとで働いていた」、「多くの慰安婦は将校よりも高い所得を得ていた」などという「事実」をあげ、「日本軍が若い女性に性的奴隷になるよう強制する罪を犯したと主張するのは、事実を大きく、しかも意図的に歪曲したものであると指摘せざるをえない」として、下院決議案の不当性を訴える内容のものであった。しかし、これがむしろ「逆効果」となって、決議案に賛成する議員が増え、7月30日、下院本会議でこの決議案は採択されるに至った。アメリカ的感覚では、慰安婦問題は「女性の尊厳と人権」に関わる問題であり、強制性の有無などは重要ではなく、まして「当時としては一般的なことだった」などとして正当化するような言いぐさは、破廉恥きわまりないと受け止められたからであろう。
アメリカにおいて、人権と民主主義は、一つの「国民統合のシンボル」である。実際のアメリカがそんな立派なことを言える国・社会なのかは別にして、「普遍的価値としての人権・民主主義」という感覚は、いわばDNAのようなものとしてアメリカ社会に根づいている。だから、女性を兵士の性欲処理の道具として扱う、それ自体「人間の尊厳」を損なう行為を、どんな理由であれ正当化するような言動には、いわば本能的な嫌悪感を示すわけである。日本は「慰安婦問題」について民主主義国家が共有すべき「人権」問題として取り組むべきだ、という意見は、「知日派」とされるアーミテージ元国務副長官などからも聞こえてくる。
2006年のブッシュ・小泉首脳会談で出された「21世紀の新しい日米同盟」と題する共同文書は、「普遍的価値観と共通の利益に基づく日米同盟」ということを掲げた。そういう「日米同盟」の位置づけのもとに、日本はブッシュ政権の「対テロ戦争」に積極的に協力してきた。まさしく、「テロとの戦いにおける勝利」という「共通の利益」に基づく日米同盟、である。しかし、上記共同文書には、「共通の利益」だけでなく、もう一つ「普遍的価値観」に基づく日米同盟ということも掲げられていた。そこでいう「普遍的価値観」としては、「自由、人間の尊厳及び人権、民主主義、市場経済、法の支配」といったことがあげられている。だから、日本が「慰安婦問題」についてあれこれ責任回避のようなことを言うのは、「普遍的価値観」を否定するものとして、「日米同盟」の「核」の一つを否定するのと同じことになるわけである。
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