新たな福祉国家とジョブ型労働市場の提起(メモ)
「日本の賃金」などの著者・木下武男氏の「若者の逆襲」から、2章「貧困・過酷労働と闘う社会労働運動 ~新たな福祉国家とジョブ型労働市場の提起」の備忘録。
90年代からの「雇用の差別化」戦略で、労働市場の部隊が大転換し、貧困と過酷な労働が蔓延、それを土台に新自由主義が再登場するなかで労働運動の新しい構想力として、新福祉国家、ジョブ型労働市場の将来ビジョンと「生きさせろ」「殺すな」と、目の前の具体的課題を解決するシングルイシューにもとづく連帯のとりくみに、ついて語る。
3章は、それをうけ、新しい運動の姿について、ガテン系労組などの具体的なたたかいの教訓から、語っている。
【貧困・過酷労働と闘う社会労働運動 ~新たな福祉国家とジョブ型労働市場の提起】
木下武男 若者逆襲 2013
1990年代から2000年代にかけ、「労働市場の差別化」戦略により、貧困と過酷な労働が蔓延。その貧困と格差の深まりを、いっそう抜本的に拡大させようとする新自由主義が再登場しつつある。
1.立ち現われた課題・時代が求める課題
(1)高まる期待と日本の行方~「反貧困」から政権交代へ
・派遣切りによる実質的な大量解雇と失業、膨大なワーキングプアの出現による深刻な貧困問題~ 戦後労働運動にとってはじめて直面した課題
・新しい国のあり方への関心 「どんな国とよばれたいか」朝日新聞「政治・社会意識基本調査」09.3.18
福祉国家35%、平和・文化国家32%、環境先進国家12%、経済大国10%
(2)おおう閉塞感と新自由主義の再登場
・経済界・完了、マスコミ、「御用学者」などの政権交代への批判、野田政権よる構造改革路線への復帰
・2000年代の政治の流れの底流
05年郵政選挙での自民圧勝、09政権交代、2011橋下大阪市長選圧勝
~ 貧困と格差の深まり。生活苦、不安の蓄積と変わらない政治への民衆の不満、いらだちの巨大な蓄積
◇危機をチャンスに ~ ショック・ドクトリン
時代を打開する方向が民衆に理解されないなかで、危機を絶好の機会として展開された新自由主義政策
ナオミ・クライン OWSでの演説 「危機を望んでいる」人たちがいる。「人々がパニックや絶望に陥り、どういたらいいか誰にもわからない、そのときこそ、彼らにとっては自分達の望む企業優先の製作を強行する絶好のチャンスとなります」。企業優先の政策とは「教育や社会保障の民営化、公共サービスの削減、企業権力に対する最後の規制の撤廃」(世界2011/12号)
◇新自由主義と新しい社会労働運動との対抗
・新自由主義 公的サービスを削減し、教育・社会保障を商品に。そのための企業規制の緩和
富裕層は、十分な医療・介護、高い教育・保育水準などを買える。貧乏人は最低限の貧困生活
・「維新の会」など過酷な新自由主義勢力の台頭 規制緩和・民営化・公的資金の削減を推進/ 国民の支持
・過酷な新自由主義に対抗できるのは、貧困・格差・失業と闘う社会労働運動だけ
→新自由主義が期待する社会的危機は貧困・失業という時代状況に根ざしており、その根を立つ運動だから。
(3)大きな展望に向う小さな課題(シングル・イシュー)
◇長い道のりと足元の課題 ~ 社会労働運動に求められる新たな構想力
①日本を根源的に変える大きな展望 ~ 長期的な方向性についての幅広い議論
ヨーロッパ型福祉国家の水準に向上させる福祉国家戦略
労働社会にジョブ型労働市場を確立させる戦略
《ジョブ型労働市場》 ◇メンバーシップ型契約とジョブ型契約 ・雇用契約 労働者は労働し賃金を得る。使用者は賃金を支払い、指揮命令を行い労働をさせる関係 → 資本主義社会でのどの国でも同じ労使ま関係だが、過労死があるのは日本だけ。何故か?・「ジョブ」という概念がない日本社会
→日本型雇用システムの本質「雇用契約が職務の限定のない企業のメンバーになる契約」(濱口桂一郎)
特定のジョブ(職務)に従事するのではなく、会社のメンバーシッブにり、どんな働き方も受容する。◇働かせ方のフリーハンド
・「ブラック企業」現象の根本~ジョブ型雇用契約でない。働き方のフリーハンドを経営陣を持つこと。・ジョブ型とは…職種、職務というジョブの内容と範囲、責任が明記され、そのジョブを基礎にジョブ型賃金や労働時間を含めて、雇用の際に労使で合意~職種・職務と賃金、労働時間がセット。賃金はジョブにより固定。
→ 会社で担当する職務が縮小したり、廃止されたら会社を去る。会社の指揮命令も契約の範囲のみ。
(メモ者 最低賃金はジョブ型賃金の土台。最賃かせあがると、すべての賃金に連動する )・メンバーシップ型契約… 直接に人間をつかむことができる。ジョブがなくなっても雇用を守る(全国配転に応じなくてはならないが…欧米ではそれ自身が離婚の要件となる単身赴任を会社は平気で命じる)
→ 企業の専断的な人事権がある。賃金が上昇、その前提である企業の収益をあげるためにどんな残業もする。◇「逃げられない世界」
・メンバーシップ型契約の社会
①年功賃金と終身雇用による生活保障と雇用保障の処遇システム
②絶対な指揮命令権と専断的人事権にもとづく企業による労働者の人事管理・人格的支配
~ メンバーシップを得ると、②のもとで、①が保障されるが、それは・・・
特定企業の中でだけ通用する資格。会社に居続けることによってのみ「保障」される
→ 社会全体のシステムではない。転職は不利
→ 欧米 職種・熟練がメンバーの資格。同じ職種・業種の範囲では企業間の移動はフリー◇労働市場圧力と「ブラック企業」現象
・高度成長期に形成された①②の関係から、①の衰退・衰退、②の増長 が「ブラック企業」現象
→ ジョブ型雇用が存在しないもとで、①が解体(成果主義賃金、「即戦力」主義) → 生活の保障(終身雇用、年功賃金、企業内育成)から、失業の恐怖へ→ 「逃げられない世界」=企業支配の強化・今や②は、「肉体消耗的」労働基準を課す指揮命令権、「使い捨て」「使いきり」をやりつくす専断的な人事権
◇「生きさせろ!の労働運動」「殺すな!の労働運動」
・生きさせろ ~ 若者ホームレス、中高年フリーターの現状
・殺すな 過労死ラインを超える36協定…「会社は殺意をもっている」と見るべき・今、労働運動は、賃上げなど処遇改善だけでなく、労働時間の短縮、自由時間の創造のみならず、人事権・指揮命令権の制限をするような方策を考え、企業・業界におしてけていく運動が必要。
→ 生きさせろ、殺すな、を言わざるを得ないところまで若者はおいつめられている。※労働運動の新しい舞台… 働く者の過酷な労働と引き換えに、企業意識に絡めとられてきた労働運動が、企業意識、企業忠誠心もない、労使対抗の固い土俵がつくられた。
→ その時求められる労働運動の新しい構想力とは・・・・
②目の前の緊急の個別課題(シングルイシュー)を漸進的に着実に進めていく、運動の進め方、運動様式の改革
◇2つの構想力の関係
・福祉国家の実現をめざす道のりが、個別課題にとりくむ過程である。
~ リーダーシップをもつ政治家・政党、あるいは選挙における一回の投票行動で実現するものではない。シングルイシューに基づく政治的直接行動のくりかえしと、民衆の運動体験の積み重ね、個別政策の前進の過にほかならない。/日本の運動は高い峰のふもとあたり。「大きな物語」語り、シングルイシューを確実にすすめるスタイル。
◇個別課題と運動の水位
・政策の前進、紛争解決のレベルは、すぐれて運動の水準によって規定される、どんな正しい主張も、しょせん運動の「身の丈」以上のことは実現できない。
~ 個別課題をつうじて全体の運動の水準をつねに上昇させることが、戦略の実現に不可欠
・「高い運動水準を背景にして社会政策は実現せさる」という社会政策学の基本が広く理解される必要がある。
◇「焼け野原」願望への応答
・時代閉塞状況のなで「焼け野原」願望を持つ人々が、新自由主義支持の土台
・将来ビジョンを示す~ 新自由主義政策に対抗する構想を、運動側が説得力をもって示して対峙していく。
・シングルイシューの運動の特別の意義
生活保護、公務員バッシングにみられる新自由主義を支える意識を掘り崩す作業が「シングルイシュー」の運動、/どんな思想、政治的意見を持っていようと、労働と生活の場面で、なんらかの個別課題をもっているはずであり、その課題の政策と運動を通じ、民衆の意識が変わっていく。
2 反貧困から福祉国家へ
◇なぜ「反貧困」が労働運動の課題となるのか
・福祉国家は、労働運動の戦略的展望であり、労働者が運動の中心的担い手である
~福祉国家という戦略 /目の前の貧困問題との格闘を通じ、はじめて多くの人々に理解される
・貧困問題は労働運動が取り組む課題~ 直接的には「ワーキングプア」の問題
ワーキングプアは、日本の貧困者の多数派、貧困問題の核心部分
(メモ者 マルクスの言う産業予備軍 死重をのぞく運動 /欧州の労働運動「社会保障は労働者階級のもの」)
◇低賃金不安定雇用労働者の貧困
・働く貧困層は、福祉国家が確立していない日本の特殊な基盤から生まれたもの
・雇用のときと失業のときに、どう生活が保護されているか~雇用の「土手」、失業の「土手」
・雇用の「土手」 最低賃金制
ヨーロッパ 着き20万円以上、日本12万円以下(しかも家賃、教育、医療の高負担)。
「ネット難民の実態調査」07厚労省 短期派遣労働者の平均月収13万3千円。
・失業の「土手」 25歳月収28万円弱の若者の場合 失業してから90日間、50万円しかない。
しかも多くの非正規雇用の若者は雇用保険にも入れない。失業したら即、生活費ゼロに。
ヨーロッパ 失業保険が2年とか長期。保険が切れれば公的扶助。しかも高度な職業訓練。
・日本は、雇用、失業の「土手」が確立しておらず、両者の間に大きなグレーゾーンが存在する
→ 生きていくためにはどんな職にでも就かなければならない。(メモ 労働市場が組織化されていない)
・政府、経営側による「土手」の破壊 ~ このグレーゾーンが仕事を求める労働者同士の競争の「るつぼ」
→ 低賃金で解雇しやすい労働者のくめどもつきぬプール。
・働く貧困層 「国策ワーキングプア」であり、土手の問題、国の制度の問題。自己責任ではない。
◇「反貧困」と福祉国家の運動基盤
・06年からの「反貧困」運動 ~ 一部の貧乏な人を救う運動ではなく、広く存在する貧困を明かにした
・3つの階層がかかわった「反貧困」の運動
①若者を中心とした家計自立型の非正規社員、使い捨てで低賃金の周辺的正社員の増加
年収100-300万円 「貧困下位層」/ 結婚、子育てをためらう水準
②夫婦と子どもからなる労働者家族の貧困層 年収350-500万円「貧困上位層」(後藤道夫)
①+②が、非常に広範に領域
③日本の勤労階層すべて 住宅・教育・年金のそまつな国の制度。働く人の生涯にわたる心配事
住宅ローン、高い教育費の私費負担など・・・
◇富の配分の格差と階層内格差
・貧困 憲法25条の「最低限度の生活」を営むことができない状態
最低賃金、失業保険の確立は、労働運動であり、反貧困の運動。
・「反格差」の運動
①1国内の富の配分における格差、富の偏在問題 ~ 財政問題と密接に関係する課題
②勤労者間の格差 非正規社員と正社員の大きな賃金格差
格差が絶大で、貧困に結びついている。フルタイムで働いても貧困という現状
以前からある根深い男女間の賃金格差
社会保障の給付額の格差 / 雇用と結びついた「保険」制度の格差
年金 月4万円以下24% 月6万円以下4割
→ 「反格差」による「反貧困」の道が必要
・反格差の運動とは・・ 大企業、富裕層に溜め込まれた「富」を再分配する運動 / 勤労者の最下層の格差縮小を優先的な課題とする運動。/ 反貧困を達成しても、さらに続く運動
3.貧困と過酷労働を克服するジョブ型労働市場
◇均等待遇が実現可能な労働市場
・この間の雇用・労働の大きな変化、反貧困の運動を通じ、日本型雇用システムから、ジョブ型労働社会への転換が労働運動が真剣に検討する課題であることが、明かになった。
①非正規雇用の規制、均等待遇のために
非正規雇用の規制は、派遣労働、請負労働をふくむ間接雇用の問題、有期雇用の問題、民間の職業紹介システムの問題/個々の形態にそくした規制が必要
→ が、ヨーロッパのようなジョブ型労働市場の土台があり、そのもとで規制された非正規雇用の労働市場があるという構造をめざすべき。/2つの労働市場ともにジョブを基準に、均等待遇が実現する。
◇「逃げられる」労働市場
・メンバーシップ型契約から、ジョブ型雇用契約へ
成果主義的人事制度を、ジョブにもとづく変化しない基本給・職務給制度への転換
日本型就職システムから、ジョブ型採用に ~ ジョブ型労働者の大量養成・「外部養成」
→ 大量の非正規、使い捨てによる「無技能国家」への転落を防ぐこと。
①ジョブ型正社員 日本型の終身雇用ではなく、有期雇用から無期雇用に。賃金も「ジョブ型賃金」
~住宅、教育、医療・年金となどライフスタイルに合わせた「間接賃金」=社会保障の充実
②福祉国家の労働政策 ~ 企業にもメリットが感じられる制度を
積極的労働市場政策…生活の保障を江ながら成長分野の職業訓練を受けられる制度
企業の外部に職業要請システムを構築~企業や経済分野が必要とする「ジョブ型労働者」を育成
③ユニオン運動によるジョブ型労働市場の形成
福祉国家型労働政策は重要。が労働市場のあり方は、ユニオンの力、労使間の力関係で決定される。
→ 企業別から、職種別結集の推進を。職種別の連帯基軸を確立し、職種別の賃金運動を
4 財政問題は労資対抗
・勤労者の生活基盤にかかわる財政支出が貧困な日本
家族政策、積極的労働市場政策、失業政策、住宅政策、生活保護など
・社会保障・社会政策~公的社会的支出のGDP比(OECD05年)
日本1.7% スウェーデン・フランス6.8% ~ 日本のGDP(479兆、2010年)で24兆円の差
・極端に低い事業主負担
EU15カ国平均11%前後、日本5%。EU並みなら26兆円の増収
→ 企業に応分の負担をもとめれば財源は出でくる
(メモ者 それは消費不況の克服、積極的労働政策による人材育成として企業にもメリットに)
・他にも内部留保
利益から法人税、株主配当を差し引いたもの
利益剰余金 99年157兆円(金融・保険のぞく) →2010年294兆円
・ 〃 富裕層
個人金融資産1400兆円 うち1億円以上の層の合計400兆円。証券優遇税制
*大企業、富裕層が負担するのは当然、「奴らから取れ」が労働者、民衆の標語となった時、日本は大きくかわる。
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