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大飯原発を直ちに停止すべき法的根拠 日弁連

 関電は直ちに停止すべき、規制委員会、経産大臣は停止を命ずるべきという意見書。
 伊方原発最高裁判決は,設置許可の違法判断の基準時として,設置許可時の科学技術水準を基準とするのではなく,「現在の科学技術水準」を基準とする旨,明言しており、「災害が万が一にも起こらないようにするため」に,原子炉設置許可処分の取消しという重大な処分に比してより軽い措置というべき,運転を一時停止させる権限も,当然に内包されているというべきである。とし、規制法及び電気事業法の定めに触れ、“規制法には,「原子炉の停止が命じられる規定はない」などという行政解釈”は誤りだと指弾している。

【 関西電力株式会社大飯原子力発電所の運転停止を求める意見書 日弁連2012/12/20】

【 関西電力株式会社大飯原子力発電所の運転停止を求める意見書 日弁連2012/12/20】

第1 意見の趣旨

1 関西電力株式会社は,自らの判断で,稼働中の大飯原子力発電所を直ちに停止するべきである。
2 原子力規制委員会又は経済産業大臣は,関西電力株式会社に対して,稼働中の大飯原子力発電所の停止を直ちに命ずべきである。

第2 意見の理由

1 はじめに

 原子力規制委員会は,日本原子力発電株式会社の敦賀原子力発電所について,原子炉建屋直下の断層が活断層の可能性が高いと有識者会合が判断したとの報告を受け,再稼働のための安全審査をしない見通しであるとされている。これは,事実上,敦賀原発の廃炉を決定するものであるが,後記国の指針においても,活断層の真上に原子炉建屋などを建てることを認めておらず,これに照らして,極めて適切かつ正当な判断であるというべきである。
 一方で,関西電力株式会社大飯原子力発電所(以下「大飯原発」という。)の敷地内の「F-6断層」については,複数の専門家が「活断層である」又は「活断層でないとは否定できない」と述べているにもかかわらず,原子力規制委員会は,結論を先送りし,調査の継続を決めた。その一方で,大飯原発は停止されることなく,稼働し続けている。
 そもそも,原子力規制委員会は,福島原発事故を受けて,安全指針類を改訂中であり,これらの安全指針類は2013年7月をめどに策定し,その後に既存の原発の適合性を審査する旨述べており,新指針に適合すると認められた後でなければ,再稼働がされることはあり得ない。大飯原発は,原子力規制委員会が発足する前に,国内で唯一再稼働されたものであるが,この点において,他の原発と取扱いを異にするべき合理的な差は見当たらない。かかる事態は,次なる原発事故災害を引き起こしかねない危険な事態であり,到底容認できるものではない。
 以下,現行法において,原子力規制委員会又は経済産業大臣は,大飯原発を停止させることが可能であり,むしろ,停止させなければならないことを述べる。

2 前提事実

(1) 活断層かどうかについての専門家の意見
 原子力規制委員会の現地調査チームの専門家4名は,11月2日に,大飯原発の敷地内のトレンチを調査し,「12万~13万年前以降の地層のずれがあることは否定できない」との認識で全員が一致したという。さらに,「地滑りの可能性もある」という意見もあったものの,活断層であることを否定した者はいなかったという。
この結果からすれば,問題のF-6断層は,「活断層である可能性はある」「活断層でないとはいえない」という帰結になるものと思われる。

(2) 「発電用原子炉施設の耐震安全性に関する安全審査の手引き」について
 耐震設計審査指針の運用について,2010年12月に原子力安全委員会が定めた「発電用原子炉施設の耐震安全性に関する安全審査の手引き」(「手引き」)では,活断層かどうかについて,「調査結果の精度や信頼性を考慮した安全側の判断を行うこと」「断層運動が原因であることが否定できない場合には,耐震設計上考慮する活断層を適切に想定する」と定めている。
現在,原子力規制委員会では,耐震設計審査指針等の見直し作業が行われているが,手引きにあるような「安全側の判断」は,極めて甚大な被害をもたらした(現在ももたらしている)福島原発事故を踏まえれば,原子力発電所の安全性を考える上では,よりいっそう貫徹されなければならない。

3 大飯原発を直ちに停止させるべき法的根拠

(1) 原子炉設置許可について
 発電の用に供する原子炉は,核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(以下「規制法」という。)第23条に基づく原子炉設置許可申請に対し,同第24条が定める基準に従って,原子力規制委員会(改正前は,経済産業大臣)によって,設置許可がなされる。

(2) 伊方原発最高裁判決の帰結
 伊方原発最高裁判決は,原子炉設置許可処分について,「原子炉が原子核分裂の過程において高エネルギーを放出する核燃料物質を燃料として使用する装置であり,その稼働により,内部に多量の人体に有害な放射性物質を発生させるものであって,原子炉を設置しようとする者が原子炉の設置,運転につき所定の技術的能力を欠くとき,又は原子炉施設の安全性が確保されないときは,当該原子炉施設の従業員やその周辺住民等の生命,身体に重大な危害を及ぼし,周辺の環境を放射能によって汚染するなど,深刻な災害を引き起こすおそれがあることにかんがみ,右災害が万が一にも起こらないようにするため,原子炉設置許可の段階で,原子炉を設置しようとする者の右技術的能力並びに申請に係る原子炉施設の位置,構造及び設備の安全性につき,科学的,専門技術的見地から,十分な審査を行わせることにある」とした上で,「現在の科学技術水準に照らし,右調査審議において用いられた具体的審査基準に不合理な点があり,あるいは当該原子炉施設が右の具体的審査基準に適合するとした原子力委員会若しくは原子炉安全専門審査会の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があり,被告行政庁の判断がこれに依拠してされたと認められる場合には,被告行政庁の右判断に不合理な点があるものとして,右判断に基づく原子炉設置許可処分は違法」として,原子炉設置許可処分を取り消すことができることを明確にしている。

(3) 具体的審査基準の内容について
 そして,伊方原発最高裁判決にいう「調査審議において用いられた具体的審査基準」とは,具体的には,以下のようなものを指す。

原子力安全委員会が定める指針
原子炉立地審査指針
安全設計審査指針
安全評価に関する審査指針
耐震設計審査指針(「手引き」も当然含まれる。)
安全機能の重要度分類に関する審査指針など

 これらの「具体的審査基準」の前提となる科学技術水準は日進月歩であり,地震学,地質学,地形学,耐震工学においても,それは例外ではない。

そして,伊方原発最高裁判決は,設置許可の違法判断の基準時として,設置許可時の科学技術水準を基準とするのではなく,「現在の科学技術水準」を基準とする旨,明言している。
これは,原子炉による深刻な「災害が万が一にも起こらないようにするため」に,常に最新の科学的知見を,原子炉の安全性に取り入れさせることが必要という判断に基づくものである。
そして,以上の理は,裁判にのみ妥当することではなく,当該処分をした行政庁にも等しく当てはまる。すなわち,当該処分をした行政庁は,「現在の科学技術水準に照らし,右調査審議において用いられた具体的審査基準に不合理な点があり,あるいは当該原子炉施設が右の具体的審査基準に適合するとした原子力委員会若しくは原子炉安全専門審査会の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があり,被告行政庁の判断がこれに依拠してされたと認められる場合に,右判断に基づく原子炉設置許可処分は違法」として,当該原子炉設置許可処分を取り消すことができることは,当然である。
仮に,そのような確定的な判断に至らない段階であったとしても,「現在の科学技術水準に照らし,右調査審議において用いられた具体的審査基準に不合理な点があ」る疑いがあり,「あるいは当該原子炉施設が右の具体的審査基準に適合するとした原子力委員会若しくは原子炉安全専門審査会の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があ」る疑いがあり,「被告行政庁の判断がこれに依拠してされたと認められる」疑いがある場合には,「右判断に基づく原子炉設置許可処分は違法」である疑いがあるのであるから,当該原子炉による深刻な「災害が万が一にも起こらないようにするため」に,原子炉設置許可処分の取消しという重大な処分に比してより軽い措置というべき,運転を一時停止させる権限も,当然に内包されているというべきである。

(4) 現行法の諸規定について

この点,規制法には,「原子炉の停止が命じられる規定はない」などという行政解釈が示されているが,上記伊方原発最高裁判決は,当然に行政権も拘束するものであって,同判決の趣旨からすれば,上記行政解釈は誤りというほかない。現に,現行の関係各法令にも,原子力規制委員会又は経済産業大臣が,原発の運転を停止させる根拠規定がある。

①規制法及び電気事業法の定め
ア 規制法第36条第1項には,以下の定めがある。
 「原子力規制委員会は,原子炉施設の性能が第二十九条第二項の技術上の基準に適合していないと認めるとき,又は原子炉施設の保全,原子炉の運転若しくは核燃料物質若しくは核燃料物質によって汚染された物の運搬,貯蔵若しくは廃棄に関する措置が前条第一項の規定に基づく原子力規制委員会規則の規定に違反していると認めるときは,原子炉設置者又は外国原子力船運航者に対し,原子炉施設の使用の停止,改造,修理又は移転,原子炉の運転の方法の指定その他保安のために必要な措置を命ずることができる。」

イ 上記の規制法第36条第1項で指摘されている同法第35条第1項には,次のような定めがある。
「原子炉設置者及び外国原子力船運航者は,次の事項について,原子力規制委員会規則で定めるところにより,保安のために必要な措置を講じなければならない。

一 原子炉施設の保全
二 原子炉の運転
三 略」

ウ そして,規制法第35条第1項にいうところの主務省令とは,「実用発電用原子炉の設置,運転等に関する規則」(昭和53年12月28日通商産業省令第77号)であり,その第7条の3~第15条において,「保安活動」に関する規定がある。

エ また,規制法第36条第1項は,同法第35条第1項の外に,同法第29条第2項も挙げているが,この条項は,同法第73条の規定により,大飯原発の原子炉には適用されない。その代わりに適用されるのは,電気事業法第39条第1項,第2項である。そして,これらの条項が定める技術基準への適合がない場合には,規制法第36条第1項ではなく,電気事業法第40条が適用される。

オ 電気事業法第40条は,「主務大臣は,事業用電気工作物が前条第1項の主務省令で定める技術基準に適合していないと認めるときは,事業用電気工作物を設置する者に対し,その技術基準に適合するように事業用電気工作物を修理し,改造し,若しくは移転し,若しくはその使用を一時停止すべきことを命じ,又はその使用を制限することができる。」と規定する。

カ そして,ここでいう経済産業省令とは,「発電用原子力設備に関する技術基準を定める省令」(昭和40年通商産業省令第62号。以下「発電用原子炉技術基準省令」という。)のことである。この基準は,設置許可申請に対する安全審査で確認された事項をそれ以降(設計及び工事方法の認可以降)の規制で具体的に確認するための基準であるが,発電用原子力設備が有するべき性能を定めている。

キ また,電気事業法第40条が指摘する同法第39条第1項は,「事業用電気工作物を設置しようとする者は,事業用電気工作物を主務省令で定める技術基準に適合するように維持しなければならない」と規定し,さらにそれを受けて同条第2項は,「前項の主務省令は,次に掲げるところによらなければならない」と規定し,その第1号には,「事業用電気工作物は,人体に危害を及ぼし,又は物件に損傷を与えないようにすること」とある。

ク そして,発電用原子炉技術基準省令は,その第5条において耐震性,第5条の2において津波対策(平成23年10月7日新設),第6条において流体振動による損傷防止,第8条において原子炉施設の能力等,第9条において原子炉施設の構造等についての定めを置いている。
発電用原子炉技術基準省令第5条は,安全設計審査指針の「指針2 自然現象に対する設計上の考慮」(第1項)及び発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針に対応するものであり,設置許可申請における地震に関する判断が誤りであれば,同条に規定する「地震力による損壊により公衆に放射線障害を及ぼさないように施設しなければならない」という技術基準に適合しない状態になっているのである。

②大飯原発が,上記基準を満たしていないこと
既に,2でみたとおり,大飯原発の敷地には,「12万~13万年前以降の地層のずれがあることは否定できない」と,調査に当たった専門家が全員一致している。したがって,問題のF-6断層は,「活断層である可能性はある」「活断層でないとはいえない」というものである。これは,明らかに,耐震設計審査指針(及び「手引き」)違反であり,上記に述べた技術基準違反である。

また,原子力規制委員会は,現在,福島原発事故を踏まえて,各種安全指針類及び技術基準を見直しているところ,これらはいまだ不存在であり,2013年7月をめどに取りまとめることとされている。さらに,改訂された指針類に対して,既存の原発がそれを満たしているかの確認には,更に時間を要する。
したがって,大飯原発は,電気事業法第39条第2項第1号「事業用電気工作物は,人体に危害を及ぼし,又は物件に損傷を与えないようにすること」を満足する技術基準に適合していない。

③原子力規制委員会及び経済産業大臣には,裁量の余地がないこと
 なお,規制法第36条第1項も,電気事業法第40条も,規定の文言上は,「停止を命ずることができる」という定め方をしている。
 しかし,原子炉に関する技術上の基準は,原子炉の安全性を担保する最低基準であると同時に,原子炉が事故を起こした場合には,後に述べる福島第一原発事故を見ても明らかなように,極めて多数の人たちに対して甚大な被害を及ぼすことになる。したがって,法律の条文では「停止を命ずることができる」とされていても,原子炉が技術上の基準に合致していない場合は,原子力規制委員会及び経済産業大臣には裁量の余地はなく,その停止を命じなければならないものと解すべきである。
 特に,原子力規制委員会は,「国民の生命,健康及び財産の保護,環境の保全…原子力利用における安全の確保を図ることを任務とする」(原子力規制委員会設置法第3条)のであるから,危険な原発を放置することは許されないものである。

(5) 改正規制法について

①改正の経緯
 2012年6月27日,新たに原子力規制委員会設置法が制定され,それに伴って規制法も大幅に改正された。同改正においては,第4章に第2節「発電用原子炉の設置,運転等に関する規制」(第43条の3の5~第43条の3の33)という項目を設けた。また,旧法第73条は削除された。その結果,大飯原発の原子炉のような商業発電用の原子炉に関する技術上の基準等も,規制法の対象となった。

②規制法の改正の内容
ア 新たに設けられた項目の中で,第43条の3の14本文は,「発電用原子炉設置者は,発電用原子炉施設を原子力規制委員会規則で定める技術上の基準に適合するように維持しなければならない」と定めている。いわゆる「バックフィット制度」といわれる制度である。これは,最新の知見を技術基準に取り入れ,既に許可を得た施設に対しても新基準への適合を義務付ける制度である。

イ そして,改正後の規制法では,発電用原子炉施設に関し「災害の防止上支障がないものとして原子力規制委員会規則で定める基準」(第43条の3の6第1項第4号)及び「第43条の14の技術上の基準」に適合しないと認められた場合,原子力規制委員会は,当該発電用原子炉施設の使用の停止等を命ずることができることとされている(規制法第43条の3の23第1項)。

ウ この改正は未施行(原子力規制委員会設置法の施行日から起算して10月を超えない範囲内において政令で定める日から施行)ではあるものの,伊方原発最高裁判決に適合するように明文化されたものであって,その趣旨は,現行法においても等しく当てはまるというべきである。

4 結語

以上のとおりであるから,意見の趣旨記載のとおり,

(1) 関西電力株式会社は,自らの判断で,稼働中の大飯原子力発電所を直ちに停止するべきである。
(2) 原子力規制委員会又は経済産業大臣は,関西電力株式会社に対して,稼働中の大飯原子力発電所の停止を直ちに命ずべきである。

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