貧困な「貧困対策」と生活保護バッシング(メモ)
唐鎌直義・立命大教授 経済2012/11「日本の貧困と生活保護バッシング」よりメモ。
資本主義が生み出す相対的過剰人口の重石からの防波堤としての社会保障制度の誕生は、19世紀の「真の貧困者」だけ助ける制度では、貧困は防ぐことはできなかった歴史の事実がある。
論稿は、日本の生活保護バッシングの「根拠」に、貧困の大量性と捕捉率の低さ。生活保護以外の最低保障制度の欠落があると指摘する(これがことの本質)。
同時に、バッシングを通じて社会保障を切り刻むという政府の思惑どおりにいっていないとも・・・・。
派遣村、無料低額診療など貧困の可視化など反貧困の運動、誰もが短期間に貧困に転落する「すべり台社会」という認識のひろがりがある、と思う。
【日本の貧困と生活保護バッシング】
唐鎌直義・立命大教授 経済2012/11
◆はじめに
・繰り返されるマスコミを利用していの「不正受給」の喧伝と生活保護の削減
・1981年「123号通知」も前年の「不正受給80億円」報道が発端
→ 不正受給は0.4%。99.6%が適切という中身は報道されず。フレームアップに等しい
・今回も同じ 2011年度も不正受給は0.4%。かなり厳格に運用されている
→ 不正受給の責めをおうべきは、人手不足で十分な調査ができない行政、それを放置する厚労省の姿勢
・論稿の目的/ なぜ生活保護が攻撃されるのか。その客観的な根拠の解明
それは・・・
①生活保護を受給している人が、保護をうけるべき権利を有する人々のごく一部に限定されている
→ 受給者は、大量の要保護層(ボーダーライン層)に取り囲まれている。
②最低生活保障機能が生活保護制度に集中する社会保障制度の不十分さ
→ いわゆる「逆転現象」を容易に発生させやすい特殊日本的な社会保障の構造上の問題
1.生存権保障に地域間格差あり
・「国民生活基礎調査」のデータより分析(詳しくは「脱貧困の社会保障」参照)
・もちいた「貧困測定基準」 単身、2人世帯、3人世帯、4人世帯
1級地-1 225万、285万、345万、395万 南関東
1級地-2 210万、270万、325万、370万 近畿Ⅰ
2級地-1 200万、255万、310万、355万 北海道
2級地-2 190万、240万、290万、335万 東海、北九州
3級地-1 180万、225万、275万、315万 東北、北関東、北陸、中国、近畿Ⅱ
3級地-2 170万、215万、260万、300万 四国、南九州
2人世帯の最低生活費 「夫婦世帯」「単親+未婚子の世帯」「その他」に
3人世帯 〃 「夫婦+未婚子の世帯」
3人世帯 〃 「三世代世帯」 を適用。
(1)貧困率の高さと貧困の大量性
・世帯貧困率 25.1%、貧困世帯数1204万9300世帯
→ 生活保護受給(2010年7月) 3.01%、148万6341世帯にすぎない
捕捉率10.56%(09年)/ 9割弱、約1078世帯が「漏給」
→ 貧困の喫緊の課題は「貧困のかたち」でなく、「貧困の大量性」
(参考 貧困世帯の推計について 後藤道夫氏の論稿
【「貧困と格差の最新状況と深めるべき論点」 後藤道夫(都留文科大)/自治と分権09 夏】)
・全国的に高い貧困率を示す世帯構造
「女・単独世帯」65.4%、「単身+未婚子の世帯」38.4%、「男・単独世帯」33.7%
→ いわゆる「変則的世帯」が高い/「夫婦のみ世帯」19.0%、「夫婦+未婚子」10.8%
・貧困世帯数から見た特徴
「女・単独世帯」398.5万、「男・単独世帯」197.8万、「単身+未婚子の世帯」123.9万
貧困率の低い「夫婦のみ世帯」213.3万、「夫婦+未婚子」160.3万
→ 率が低くても、絶対数では多い。
(2)保護率の低位性と捕捉率の地域間格差
①地域ブロックの貧困率 (全国25.1%)~ 2倍以上の差
・南九州35.3%、近畿Ⅰ32.0%、~ 世帯の1/3が生活保護基準と同程度か、それ以下
→ 「河本事件」は、こうした貧困が大量に存在する地域で発生した。
・東海16.3%、北陸19.1%、近畿Ⅱ19.3% /低いといっても1/6
・貧困率の地域差は、国家による是正が必要(地域的再配分機能)~ 地域主権改革は逆行
②貧困率と保護率 相関関係は認められない
・捕捉率10.56%(全国)~同程度の地域 近畿Ⅱ、南関東、四国、中国
・捕捉率 比較的高い 北海道、近畿Ⅰ、北九州 /生活保護制度の機能が活性化している地域
→ 「河本事件」 貧困層が多く、制度が相対的に活性化している地域・大阪が狙われたのだろう。
・国に、捕捉率を速やかに引上げるとともに、地域差をなくす取組が必要。
(1)「不安定就業世帯」の高い貧困率
・世帯業態別、世帯人員別の貧困率
・最も高い層(世帯人員平均)「短期雇用者世帯」34%、「雇人なし自営業者世帯」33%、「所得を伴う仕事をしている者のいるその他の世帯」29%、~ 「不安定就業世帯」を多く含む世帯/
・2つの共通低
①1人世帯で貧困率が際立って高い いずれの業態も50%前後
②世帯人員が2名になると、ともに30%前後まで低下。が3人以上になっても25%前後で低下しない
→ 3つの業態は、約3割の貧困層を中核に、「低所得・不安定就業世帯」を幅広く形成
・生活保護制度の最低生活費に満たない所得で生活している全国の職業についている貧困世帯612.7万
~ そのうち3業態に属する世帯47%(290万円)
→ 9つの業態のうち、世帯数で1/4の3業態の世帯が貧困層の約半数 /働く貧困層がここに集中
(2)小規模企業常雇用世帯の高い貧困率
・「一般常用者世帯」 世帯数で9つの業態の約2/3 /全貧困世帯の44%を占めている事実
→ 勤め先企業の規模と世帯所得は比例 ~ 大きな企業に就職することが貧困と縁の薄い生活の必要条件
・働く貧困層は、3つの業態の「低所得・不安定就業世帯」を中核に「30人未満規模の常雇用世帯」と「30-999人」の一部へとひろがっている。
→ 総数612.7万世帯。貧困世帯総数の半数が稼働世帯で構成、稼働世帯の貧困率18.2%
→ 生活保護制度が長く「保護の対象」と認識してこなかった稼働世帯で貧困が浸透 /この稼働世帯の貧困の放置が、生活保護受給者に対する強いバッシングをもたらす原因と考えられる。
3.事実上は「制限扶助主義」の生活保護制度
(1)一般的扶助主義という名の制限扶助主義
・法文上は「貧困」という事由に基づき保護を開始すべきとする「一般扶助主義」/憲法規定から当然
→ が、実際の運用は、「稼働能力者」を厳しく制限。申請者に「資力調査」「扶養義務者調査」を課している
・「扶養義務者調査」/家族のあり方が大きく変化。他出した子供、兄弟まで扶養義務を追い求めるには無理が生じ、「要件」とはできなくなっていた。
→ それを無理やり復活させようと問題視したのが「河本事件」
・「資力調査」 保護基準月額の半分(7万円)程度の所持金で「資産保有」と見なして制限する事態が絶えない
・申請者が「丸裸」に近い状況にならないと受給できない。→ 実態は「制限扶助制度」
・我が国の公的貧困救済のフレームワーク~ 過去の「極貧」から今日の「貧困」になっただけで、明治期の恤救規定と大きくは変わっていない。
→ 保護の申請者に生活困窮以外の受給要件を課す限り、イギリス新救貧法(1834年)が採用した「救済に値する貧困者」だけを選別的・効率的に救済しようとする制限扶助制度そのもの
(2)「ナショナルミニマム」機能を一身に担う生活保護制度~ 英日の相違
・イギリスの公的扶助制度~ 日本の生活保護制度の「生活扶助」部分にほぼ特化した制度
・日本 8種類/ 医療1兆4515億円、生活1兆163億円、住宅4427億円、介護610億円、教育170億円、生業115億円、葬祭67億円、出産4.3億円/ 総計3兆72億円
→ 5割が医療と介護、教育扶助が0.6%と著しく低い
→ 学齢期の児童を養育中の世帯が受給を認定されることはごく少数で、「心身の病気または要介護状態で働けない人々の貧困」が、政府の想定する「貧困」/ 生活扶助は、総額の33.8%にすぎない。
・なぜ8種類の扶助が用意されているか〜 それぞれの分野で最低保障の仕組が脱落しているから
→ 生活保護の外側に各種社会保障制度がナショナルミニマム機能を持たないので、生活保護が相対的に「手厚く」見える。/この制度では、選別され「保護された国民」に対する「保護されない国民」の反発をまねく
→ 怒りは、制度的につくられた問題
・イギリス医療 国民保健サービス ~ 全額税負担で運営される国営医療事業
イギリス国民は保険料を徴収されない。/窓口負担 薬剤費の定額負担6ポンド60ペンス(850円)、高齢者と子ども(15歳以下)は免除
→ 国民全体が原則無料/ よって日本のように「認定貧困者」だけを対象にした医療扶助の仕組がない
・イギリス家賃補助 公的扶助受給者100%、それ以外の低所得者80-90%免除 /国民の2割が受給
・生活保護以外の支援策をクー作ることが喫緊の課題/その上で捕捉率を高めれば、バッシングは起こりにくい。
◆おわりに
・「フレームアップ」(でっちあげ)による世論のミスリードは、それが通用する土壌があること、その土壌を利用できると政府が認識していることを意味する。
・が、片山議員に対する批判、河本氏への声が「批判」一色でなかったことは、厚労省の思惑は、今回は空振りになったのではないか
→ 単純に通用する時代はおわった。国民が大量失業と雇用の劣化に苦しむ時代には、生活保護受給者に対する反発と同時に、一定の共感が生まれる。厚労省は国民の疲弊を軽く見てすぎているために、策におぼれるとこになった。
(メモ者 「年越し派遣村」「無料定額診療所」「ホームレス支援」「無料塾」などこの間の反貧困の取組が、貧困を可視化し、事実によって、誰もが容易に貧困に転落する「すべり台社会」であるという認識を、国民、労働組合、市民運動、行政関係者にひろげてきたことが、その変化を作り出してきた重要な力である。)
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