核廃棄物処分~「総量管理」「暫定保管」を柱に 学術会議
提言は、原発政策の合意がないまま、高レベル放射性廃棄物の最終処分地の選定という個別的課題を進めることは「手続き的に逆転しており手順として適切でない」という立場からのもの。
以下、「6つの提言」と「総量管理」と暫定保管」にかかわる部分。
これは、将来のエネルギーの選択に関わる課題。というか原発の本質的問題。これ抜きに「原発維持」とかありえない。
【高レベル放射性廃棄物の処分について 9/11】
≪提言の内容≫本委員会は以下の6つを提言する。本提言は、原子力発電をめぐる大局的政策についての合意形成に十分取組まないまま高レベル放射性廃棄物の最終処分地の選定という個別的課題について合意形成を求めるのは、手続き的に逆転しており手順として適切でない、という判断に立脚している。
(1) 高レベル放射性廃棄物の処分に関する政策の抜本的見直し
わが国のこれまでの高レベル放射性廃棄物処分に関する政策は、2000 年に制定された「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」に基づき、NUMO をその担当者として進められてきたが、今日に至る経過を反省してみるとき、基本的な考え方と施策方針の見直しが不可欠である。
これまでの政策枠組みが、各地で反対に遭い、行き詰まっているのは、説明の仕方の不十分さというレベルの要因に由来するのではなく、より根源的な次元の問題に由来することをしっかりと認識する必要がある。また、原子力委員会自身が2011 年9月から原子力発電・核燃料サイクル総合評価を行い、使用済み核燃料の「全量再処理」という従来の方針に対する見直しを進めており、その結果もまた、高レベル放射性廃棄物の処分政策に少なからぬ変化を要請するとも考えられる。これらの問題に的確に対処するためには、従来の政策枠組みをいったん白紙に戻すくらいの覚悟を持って、見直しをすることが必要である。(2) 科学・技術的能力の限界の認識と科学的自律性の確保
地層処分をNUMO に委託して実行しようとしているわが国の政策枠組みが行き詰まりを示している第一の理由は、超長期にわたる安全性と危険性の問題に対処するに当たっての、現時点での科学的知見の限界である。
安全性と危険性に関する自然科学的、工学的な再検討にあたっては、自律性のある科学者集団(認識共同体)による、専門的で独立性を備え、疑問や批判の提出に対して開かれた討論の場を確保する必要がある。(3) 暫定保管および総量管理を柱とした政策枠組みの再構築
これまでの政策枠組みが行き詰まりを示している第二の理由は、原子力政策に関する大局的方針についての国民的合意が欠如したまま、最終処分地選定という個別的な問題が先行して扱われてきたことである。広範な国民が納得する原子力政策の大局的方針を示すことが不可欠であり、それには、多様なステークホルダー(利害関係者)が討論と交渉のテーブルにつくための前提条件となる、高レベル放射性廃棄物の暫定保管(temporal safe storage)と総量管理の2つを柱に政策枠組みを再構築することが不可欠である。
(4) 負担の公平性に対する説得力ある政策決定手続きの必要性
これまでの政策枠組みが行き詰まりを示している第三の理由は、従来の政策枠組みが想定している廃棄物処分方式では、受益圏と受苦圏が分離するという不公平な状況をもたらすことにある。この不公平な状況に由来する批判と不満への対処として、電源三法交付金などの金銭的便益提供を中心的な政策手段とするのは適切でない。金銭的手段による誘導を主要な手段にしない形での立地選定手続きの改善が必要であり、負担の公平/不公平問題への説得力ある対処と、科学的な知見の反映を優先させる検討とを可能にする政策決定手続きが必要である。
(5) 討論の場の設置による多段階合意形成の手続きの必要性
政策決定手続きの改善のためには、広範な国民の間での問題認識の共有が必要であり、多段階の合意形成の手続きを工夫する必要がある。暫定保管と総量管理についての国民レベルでの合意を得るためには、様々なステークホルダーが参加する討論の場を多段階に設置すること、公正な立場にある第三者が討論過程をコーディネートすること、最新の科学的知見が共有認識を実現する基盤となるように討論過程を工夫すること、合意形成の程度を段階的に高めていくこと、が必要である。(6) 問題解決には長期的な粘り強い取組みが必要であることへの認識
高レベル放射性廃棄物の処分問題は、千年・万年の時間軸で考えなければならない問題である。民主的な手続きの基本は、十分な話し合いを通して、合意形成を目指すものであるが、とりわけ高レベル放射性廃棄物の処分問題は、問題の性質からみて、時間をかけた粘り強い取組みを実現していく覚悟が必要である。限られたステークホルダーの間での合意を軸に合意形成を進め、これに当該地域への経済的な支援を組み合わせるといった手法は、かえって問題解決過程を紛糾させ、行き詰まりを生む結果になることを再確認しておく必要がある。
また、高レベル放射性廃棄物の処分問題は、その重要性と緊急性を多くの国民が認識する必要があり、長期的な取組みとして、学校教育の中で次世代を担う若者の間でも認識を高めていく努力が求められる。
≪第二段階の政策アジェンダと討議≫「総量管理」、「評価基準」、「科学的知見の取り扱い」について、一定の共通認識や合意形成ができれば、それらを共通基盤として、議論は新しい局面に進むことができる。第二段階での主題として、次のような問題群の検討が必要である。
①処分すべき高レベル放射性廃棄物の総量の把握と管理
総量管理を行うことに社会が合意すれば、処分すべき高レベル放射性廃棄物の具体的な総量を数量的に把握することが次の課題となる。
社会が直ちに脱原子力発電を選択する場合には、「総量の上限の確定」が可能となり、処分すべき高レベル放射性廃棄物の最終的な総量が数量的に把握される。
また、社会が一定程度の原子力発電の継続を選択する場合には、「総量の増分の抑制」の考え方を厳格に適用し、常に高レベル放射性廃棄物の総量の増加を抑制する努力を継続して、総量の増分を厳しく管理し続けなければならない。② 対処方式の大局的選択-暫定保管
現在の最終処分法で想定しているような手順とタイミングで最終処分をするのか、暫定保管を伴う方式を選択するのか。
現時点で最終処分の形態として想定されている地層処分には、地層の変動やガラス固化体の劣化など、千年・万年単位にわたる不確定なリスクが存在するため、踏み切るには課題が多い。このリスクを避けるには、比較的長期にわたる暫定保管という処分法が有力な選択肢となると考えられる。暫定保管のメリットとして、以下の点を指摘できる。・第一に、暫定保管は、遠い将来にわたって1つのシナリオを固定するものではなく、数十年ないし数百年後の再選択に対して開かれた方式である。最終処分と異なり、回収可能性があり、再選択が可能であるということが、現時点での社会的合意の可能性を高めるように作用すると考えられる。
・第二に、暫定保管は将来世代の選択可能性、決定可能性を保証しうる方式であり、この点で、意思決定に関する世代間の不公正を、完全にではないにせよ減少させうる方式である。
・第三に、暫定保管は将来における技術進歩による対処の選択肢を広げる可能性を有する方式である。容器の耐久性の向上や放射性廃棄物の核反応による半減期の短縮技術(核変換技術)などの技術的進歩があれば、また地震学や地質学の進歩があれば、そのメリットを処分方式に反映させることができる。
・第四に、施設の立地点からみれば、放射性廃棄物を永遠に受け入れるのではなく、暫定的期間だけ受容し、その期間の後には、他への搬出という選択が開かれているため、最終処分地よりは受け入れやすい。さらに暫定保管は、「地元にとって不都合な事態が生じた時には、搬出することを要求できる」という承認と組み合わせることができるので、暫定的受け入れ可能性を高める要因となる。
・第五に、合意形成の条件として、超長期の安全性確保の確証は不要であり、暫定保管を行う一定期間についての安全性の確保をすればよい。
なお、暫定保管については、様々な形態が存在しうる。まず、使用済み核燃料を再処理せずに保管する方式と、再処理後のガラス固化体を保管する方式に大別される。
また、特に後者の場合、その具体的な保管方法についても、深地層処分と同程度の深さの地中を想定するもの(例:取り出し可能性を確保した地層処分)から地上に設置するという案(例:現在、青森県六ヶ所村の「高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センター」で行われているような貯蔵に近い形態)まで、様々に構想しうる。どのような方式が望ましいのかについては、その技術的な利害得失、安全性、経済性等の様々な要素を今後十分に検討する必要があり、これは先述した原子力政策についての大局的な政策決定の結果とも深く関わる。
ただし、再取り出し可能性の確保と隔離とは、相反する概念であることを十分念頭に置く必要がある。それは、最終処分と再取り出し可能な保管との間に、施設の地質環境、工学バリアの設計・施工などの考え方において様々な違いがあることを意味する。これは、隔離という考え方に基づく地層処分に比べて、暫定保管がそのリスク等において全面的に優位に立っているわけではないことを意味する。暫定保管中に事故等が発生し、放射性物質による汚染が周辺地域等に及ぶのではないかという危惧、保管期間が長期化した場合に、放射性廃棄物を発生させた世代の責任がうやむやになる可能性などが問題点として挙げられる。
また、暫定保管がなし崩し的に実質的な最終処分につながるのではないかという疑念が社会から出されることも想定される。したがって、この選択肢を採る場合には、そうした事態には立ち至らないことを何らかの形で明確に担保し、暫定保管はあくまでも管理可能な形で実施し、将来の時点での次の社会的意思決定が求められることを明確にする必要がある。
こうした問題点を社会が理解し、受け入れられると判断する場合においては、暫定保管は、段階的な社会的合意に基づいた政策決定を実現していく上で有力かつ有益な選択肢となり得ると考えられ、少なくとも現時点で、地層処分に踏み切るという現行の方針との間でリスクの比較考量を行うに十分に値するものと考えられる。
なお、暫定保管という考え方においては、必要に応じて保管物を移すことが保証されなければならない。このためには最低2か所の保管場所が必要となる。つまり、1つの暫定保管施設に対して必ず1つ以上の代替保管施設を設ける必要がある。
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