高校中退調査からみえてきたもの~求められる支援とは(メモ)
乾彰夫・首都大学東京教授の論稿「高校中退調査からみえてきたもの」(2012/9前衛)の備忘録。
「本当に困難な層に支援は届いているか」「どういう生徒たちが中退するのか」を目的にした内閣府の調査に参加したなかから見えてきたもの・・・低所得者層へのリスクの高さなど改めて浮き彫りにするとともに、その後の「職場の異年齢関係に支えられた成長体験」に注目し、「就労体験と組み合わせた高校課程の学習システム」、地域での「10代の若者にとって必要な模索の保障される場」の確立などに言及している。
震災ボランティアでの「自分さがし」なども・・・ 成長体験、模索の場ということで通じるものがあると思う。
以下、備忘録。
【高校中退調査からみえてきたもの】
乾彰夫・首都大学東京教授 2012/9前衛
◆なぜ高校中退調査をおこなったか
・内閣府2010-11年度実施/2010年アンケート調査、その後、その中の41人に面接調査
・企画分析会議委員(座長・宮本みち子放送大教授)として参加
≪調査の背景—本当に困難な層に支援は届いているか≫
・「若者の自立挑戦プラン」(02年)以来の支援策の弱点
本人や家族からの支援機関のアプローチがいなと、支援がえられない。
→ どんな困難層が、その地域にどのくらい存在しているか、きちんと把握していない。
・特に、高校中退者は、リスクを抱えている層として大きな位置を占める
サポステは、20代以上が多く、むしろ多くの困難が蓄積してからやってくる。それ以前の段階の把握が重要
≪高卒資格未取得者の大半が高校中退≫
・高校進学率98% /卒業率93%/高校卒業程度認定試験の合格者増加、それも含め94%強
・同世代の約4%が、高卒程度の資格が取れない 〜学歴で言えば一番のリスクが高い層
文科省 中退5.7万人、高校進学しない層2.7万人
・実態はもっと多いと推定される
「全日制」 入学者に対する卒業者数93%/ 全日・定時あわせると約8万人がやめている。
→ 8万と5.7万の差/ 通信制高校などに転校しているケースが多いと見られる
通信制高校 中卒で入学する人数より卒業者数が数倍/ 通信制の中退の割合が高いにも関わらず
≪調査の背景--どういう生徒たちが中退するか≫
・困難層の家庭が多いとの指摘はあるが、文科省の調査では、家庭の問題は触れられていなかった。
◆浮かび上がった全体的な特徴
≪アンケート調査と面接調査≫
・アンケート調査は、都道府県と政令市の教育委員会に、中退後2年程度以内の生徒に対して依頼したもの/
返送先は抵抗感を低くするために内閣府の委託した調査会社。回収率44%と郵送アンケートしては高く信頼性も高い。/その中から面接調査。一定のタイプと地域を考慮し、1人1時間程度の聞き取り
≪困難な家庭の生徒たちへの隔たり≫
①社会的経済的に困難な家庭階層の割合が高い
・母子家庭の割合21.1% /国勢調査での割合5.8%の3.6倍
・親世代の大学・短大・専門学校などの割合 平均50%。/調査では父親20%強、母親26%
・所得は調査していないが、所得も低いと考えられる
②学校類型や家庭階層のタイプによる違い
・普通科の進学校(都道府県の平均値よりも進学率が高い学校)とそれ以外の学校
・進学校/中退者が全体的に少ない、二人親家族がほとんど。両親の学歴も高学歴が多い
→ 中退の理由/ 精神的にきつくなって不登校、休学から中退のケースが多い
→ 中退後も、塾、予備校に通いながら高認試験を受けて大学に進学か、その純後をしている。
・それ以外/母子家庭が多く、親も低学歴、中大の理由も怠学・問題行動、家計上の影響
→ アルバイトをしている生徒も多く、家計上の必要と思われるケースが多い
→ 中退後の進路も多くが就労、アルバイト。学校にもどる場合は通信制が多い。
③中退理由/「進級できない」が最後の一押しに
・「欠席など進級できそうになかった」55%、「校則校風があわなかった」「勉強がわからなかった」「人間関係がう まくいかなかった」50%前後 /多くの理由が重複しながら「進級できない」が決定打と思われる。
・「経済的な余裕がなかった」16%、
・「妊娠」4%、女性だけだと7%。/妊娠と回答した人は、他の理由との重複がない。
→「妊娠」はそれ1つだけで中退理由となる /妊娠・出産しても高校を続けられる体制がない。
◆中退後の実際
≪中退後は多くがアルバイト就労≫
・就労56.2% 求職中(失業)13.6% /就労のうち77.2%がアルバイト 正規17.1%
→ 正社員では、建設関係の仕事が圧倒的に多い
・ジェンダー格差 正社員の8割が男性 /中退者だけでなく10代の正社員比率でも同じ傾向
≪雇い止め、余儀ない離転職、労基法違反も多い≫
・アルバイトでは、コンビニ、飲食業が圧倒的に多い /全体としてかなり頻繁に転職/聞き取りでは、不本意ながらの転職が多い
・中卒、18歳未満は、若年労働市場の中でもかなりのハンディキャップに。/そもそも募集がない
・大都市部以外では「通勤手段がない」制約 〜 自転車で通える範囲 /交通費を払ったら収入にならない
◆注目すべき「成長の姿」
≪安定した就労の中で得られる成長感覚――高校再入学者との落差≫
・就労の中で、学校とは異なる成長体験をしている人が少ながらずいる。
・自尊感情の設問「仲間からの信頼」「うまく行くかわからないことにも意欲的に取り組む
→ 中退後、正規雇用で働いている人の意識状況が一番よい/将来不安も少ない
→ 逆に、高校に戻っている人は、意外と不安感が高く、自尊感情も高くない
・「必要な支援」との設問の意外な回答
高校に戻り在学中の人 「進路や生活などについて何でも相談できる人・施設」の回答が多い66-73%
→ ホームルーム、担任がいるのに/自尊感情は十分に育まれていない ★よく分析する必要あり
≪職場の異年齢関係に支えられた成長体験≫
・正規でもアルバイトでも同じ職場で2年、3年と働き、安定した状況にある人の共通した特徴
①達成感や成長感覚を得ている(社会から必要とされている感覚)
②親方、先輩など縦、ナナメの関係が大きな影響 「成長モデル」が身近にいる
③見えやすい目標~ 「成長モデル」があり、具体的な将来展望を持てる/「あと何年で一人前になれる」等
(正社員で、建設関係などの職種では、かなりはっきりとイメージが持ちやすい)
・アルバイトでも2-3年続け、「正社員への登用」のあるところでは、同様の傾向
~全体として就労は不安定でしんどいが、働くことの意味について言えば、学校と違う成長体験があり、将来展望をもてるケースがある
◆支援において考えるべき点
≪留年者や再入学者をはじく高校の同一年齢規範文化をどうするか≫
・中退して、さまざまな体験をして高卒資格の必要性を改めて考える人は多い/就職、進学
・が、年下の学年に入る抵抗、教師の方も扱いかねるような例が多いのでは・・・ /同世代関係(ピアグループ)は、中退後も続く仲間関係として交流・情報交換など重要な関係。それだけに少しで年齢がずれるとはじかれていまうことをどうしていくかは大きな問題
≪就労体験と組み合わせた高校課程の学習システムを≫
・「就労」と「高校課程の学習」を組み合わせた場を高校制度の中につくり可能性をもっと真剣に検討すべき
→ 定時制など「働きながら学ぶ」だけでなく、「就労をささえる学び」も含めた学習が必要になっている。
・中退者の受け皿として通信制の比重の高まり/なかでも私立の広域通信制でサポート校と組んでいる学校の比重がかなり大きい(通信制の枠内では卒業までこぎつけるのはなかなか困難、一定のサポートが必要)
→ が、正規の高校部分は、無償化、高校等就学支援金の対象だが、サポート校には制度がない。/サポート校まで含めると約100万円の費用がかかり、誰でも入学できる、となっていない。
・公立の通信制のなかで、サポート校の仕組に近いことができないか。
→ 地域の学習サークルを組織し、集まってレポートを作成する/地域生徒会なども作っていく。
→その取り組みを「サポステ」などと組み合わせて活動していけないか。/ 地域の中で「就労」と「高校課程学習」の組み合わせていく可能性を大きく広げていく。/高校のあり方の多き問題
◆求められる支援の仕組とは
≪必要な者たちに届く支援の仕組づくり≫
・「ジョブカフェ」「サポステ」などの制度が、中退者にほとんど知られていない/高校教師もよく知らない例も
→ 支援施設と高校を結びつける努力/「サポステ」アウトリーチ事業の拡充
・生活保護など低所得家庭の中学生への学習支援が進展/厚生労働省のモデル事業
→そうした中で、入学後の支援、通信制に入学した生徒の支援が課題に/ 今ある枠組みの有効利用を
≪若年アルバイトにも労働条件管理・監督の目を≫
・高校中退者の多くがアルバイトの状態であり、きちんとした規制が必要(学びを保障するためにも)
≪10代の若者にとって必要な模索の保障される場≫
・この時期の若者の特徴~模索と試行錯誤の期間でもある/ 進路を何か1つに絞ってしまうのではない支援のあり方を考える必要がある。/そういう場が必要ではないか。
→ かつては地域青年団。同世代中心に、少し年上の人もいて、間接的に大人が関わっている場 /そういう形の支援もいま必要となっていると考える。
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