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日本軍「慰安婦」問題~国際社会に孤立する日本(メモ)

 「日本軍『慰安婦』問題~国際社会に孤立する日本」(大森典子・弁護士 2012.9前衛)の備忘録。

 「(軍により)強制されたかどうかは関係ない。日本以外では誰もそんなことに関心はない。問題は慰安婦たちが悲惨な目にあったということ」(グリーン氏/ブッシュ政権・国家安全保障会議上級アジア部長)・・・自由を奪われ性奴隷状態にあった。重大な人権侵害があった。これが世界の共通認識(国連自由権規約委員会の日本政府への最終報告08/10など)

 「ナチスを責めても今のドイツは平和国家と誰もが思うのと同じで、今の日本は当時の日本と違う国と考えている」(パリセイズパーク市長)…にもかかわらず、なぜ、軍国主義の過去との連続性にこだわるのか? その「成果」は、「過ちを認めない国」「同じ過ちをくりかえすかもしれない国」として不信の拡大でしかない。

~ 日本の議論と世界の認識の乖離の状況・問題点やそれが現在の女性差別問題にもリンクしていることに視野を広げた論稿。以下、備忘録。

【日本軍「慰安婦」問題~国際社会に孤立する日本】

  大森典子・弁護士 2012.9前衛
 
1 .国際社会の常識と乖離する日本

・日韓首脳会議(2011.12) 韓国の「慰安婦」問題の優先的解決の要求に対し、ソウルの日本大使館前の少女の像撤去を要求
・ソウルで民間NGOが開館した「戦争と女性の人権博物館」(2012.5)の展示内容について、日本大使館が、韓国外交通称部に抗議。
・米ニュージャージー州パリセイズパーク市立図書館に設置されている日本軍「慰安婦」追悼碑について、ニューヨーク総領事が撤去を求め、他方で財政支援を示唆(2012.6)

~ 今までも批判を浴びてきた日本という国の見識に、さらに決定的に国際的評価を落とすもの/歴史を総括できない国として、世界の目は様々な分野で跳ね返るであろう。

・クリントン国務長官  「性奴隷」の表記を使うように指示(7/9付朝鮮日報)
・国務省副報道官「これらの女性が強いられた好意は悲惨。米国政府の公式の立場は“深刻な人権侵害”」(7/9定例ブリーフィング)~ 市立図書館の追悼碑撤去に対する反応と見られている。


☆07年にもあった「跳ね返り」~米下院「慰安婦」問題解決を求める決議をめぐって

・6/14 「歴史事実委員会」を名乗る日本の国会議員、ジャーナリストが、ワシントンポストに全面広告/主張の柱は、強制連行したという証拠はなかった(メモ者 橋下、石原、安倍と同じ)、というもの
・が、この広告が出たため決議案は6月末の外交委員会で圧倒的多数、7月下院にて全会一致で採択

~ なぜなら 
・「(軍により)強制されたかどうかは関係ない。日本以外では誰もそんなことに関心はない。問題は慰安婦たちが悲惨な目にあったということ」(ブッシュ政権・国家安全保障会議上級アジア部長をつとめたグリーン氏)
・今回のクリントン国務長官も、被害女性の境遇は「性奴隷」と言うべきものという国際社会の共通認識にたったものにすぎない。
→玄葉外務大臣「米国務長官が性奴隷表現したのなら…これは誤った表現」と語ったとのこと。

≪なぜ、これほどまで乖離するのか≫

①被害が日本社会の中できちんと認識されてない 
 国際社会では、ナチの犯罪はガス室に数百万のユダヤ人を送り込んだ、という具体的イメージを持って語られる。「慰安婦」問題も、女性を事実上監禁して兵士の相手をさせたこと、イメージされている。/明確なイメージが国民共通の認識になっていないため日本以外ではだれも関心をもたない「強制連行」の有無に議論が流れる

②仮に、意に反する性的行為の強制があったとしても、当時は公娼制度が合法とされており、問題にすることはない、という言説が大きな反対もなく、世論が受けいれていること/人権感覚の決定的な遅れ
(メモ者 米国が発表している人身売買の防止について、日本は今日でも先進国で最低クラス)

③政府が繰り返し、この問題は「法的に解決ずみ」と述べ、それが一定浸透していること。

 ~以下、これの点を検討し、今後、日本政府と市民がなすべきことを考える

2.被害の実相~「奴隷」状態であったことは明らか

・国際社会「慰安所」で自由を奪われ、性行為を強要された「性奴隷」と表現される存在。重大な人権侵害
・日本では… “業者が軍とともに連れ歩いた”“個人の意思で売春婦として募集に応じた”“かなりのお金を稼いだ”とすくなくない人がとらえている。

→ が、自由を奪われた状態で一日数人から数十人の相手をさせられ/子宮に変形をきたしたり、妊娠するたびに掻爬手術をうけ子どもが生めない体にさせられたり、兵士たちの暴力で体に障害を残したり、PTSDなど精神的後遺症をうけた。/ 多くの裁判の判決で認定され、被害者の多くの証言が記録されている。

3.問題は「解決済み」なのか

≪法的解決済み論について≫

・サ条約 相互の請求権の放棄/条約当時国とならなかった国とも同様の協定を締結 ~ これをもって「慰安婦」被害者の日本政府に対する請求も「解決済み」とするもの
(05年に態度変更/従来、日本政府は、「慰安婦」問題については解決済みだが、被害者個人の損害賠償請求権までは消滅してないとの態度をとってきた。)

・07年最高裁・西松建設への強制連行被害への賠償請求訴訟判決
“72年日中共同声明での相互の請求権の放棄により、中国人被害者は、日本の裁判所に対し損害賠償の裁判を起すことができなくなった。「訴権」を失った”/被害者の請求権は残っている。というもの

→ 要するに、日本政府の言う「法的に解決済み」との主張は、最高裁によれば
①「日本の裁判所に被害者が提訴できない。提訴しても敗訴判決をうける」ということに過ぎず
②厳然として残っている被害者の請求権そのものに対応することは、日本の裁判所以外でなすべきことであり、そのような意味で日本政府に「法的義務」は残っているということができる。

・国際法/国際秩序に違反した国家は国際法上の国家責任が生ずる。そして国家責任が生じた場合は、違法をおこなった国家に被害国に対して違法を報いそれから生じた一切の結果を可能な限り除去すべき法的義務を負う
→ 河野談話は、当時の日本政府が批准していた「婦人及び自動の売買禁止に関する国際条約」「強制労働禁止条約」、奴隷禁止の国際慣習法等に違反しており、被害の回復など国際法上の義務がある。/「法的には解決ずみ」といえない状態にある。

≪アジア女性基金で問題は解決したか≫

・95年 日本政府「アジア女性基金」を設立/国民の募金を集め被害者に「償い金」として配布するもの

→が、「償い金」が、日本政府からのものでなく、日本国民からの募金という点に多くの被害者が反発/違法行為に対し、日本政府が責任を回避したものであり、被害者の尊厳の回復という要求を、単に金の支給でなだめようとするもの、という強い反発を生み、受け取り拒否をする被害者が相次いだ。
→ 少女像建設につながった1000回を超える「水曜デモ」は、この基金事業を批判し、今日まで継続
・基金の対象は、韓国、フィリピン、インドネシア、オランダ、台湾に限られ、07年3月に基金は解散。

・成り立たない「女性基金で対処し解決」という政府の主張

 国連自由権規約委員会の日本政府への最終報告(08/10)
 日本が「いまだに第二次世界大戦中における『慰安婦』制度に対して、その責任を認めていないこと、加害者が訴追されていないこと、被害者に提供されている補償金が公的資金よりむしろ個人的な寄付によって提供されていること、およびそれが不十分であること、『慰安婦』問題への言及を含む歴史教科書がほとんどないこと、および一部の政治家及び報道機関が被害者の中傷あるいは出来事の否定を続けていることに懸念を持って留意する。締結国は、被害者の大半が受け入れ可能で彼らの尊厳を回復させるような方法で『慰安婦』制度に対する法的な責任を認め、率直な謝罪し、存在している加害者を訴追し、すべての生存者の権利として適切な補償を行うために迅速で効果的な立法府および行政府による措置をとり、本問題について生徒及び一般の公衆を教育し、及び被害者を中傷しあるいは出来事を否定するあらゆる企てに反論しおよび制裁措置をとるべきである」
 
 ~ 国際社会に認識はまったく違う

≪強制連行の証拠はなかったのだから「慰安婦」問題はなかった、という言説について≫

・日本では「強制連行」があったか、なかったかが「慰安婦」問題があったかどうかの指標、とする言説が広く流れている~ そして強制連行の証拠がなかったから、「慰安婦」問題は捏造とする主張。

→ この主張は、
①公娼制度が認められており、強制されずに自分の意思で実施したことは、日本国として指弾される問題でない②女性を集めることに民間業者が使われ、その業者がどのようなことをしても日本国が責められる問題でない
③官憲がだまして連れていっても、被害者は自らの意思で行ったのだから日本国の責任はない
④唯一、「官憲が女性を強制連行した」場合のみ日本国に責任が生じる。/被害者の供述は証拠とはいえないから命令書など官憲による強制連行を裏付ける証拠が必要。

とし、結果して「慰安婦」問題はなかったというもの。

→ これは、国際社会が共有している「自由をうばわれ性的奴隷状態にあった。重大な人権侵害があった」から乖離した議論。/「日本以外でも誰も関心がない」議論に終始。人権感覚の鈍さをも示している。

≪解決でできていない≫

・「解決済み」どころか、被害者が初めて名乗り出てから20年たっても未だに解決できていないことが問題。

4.今こそ解決する時

≪韓国との新しい関係の中で≫

・韓国憲法裁判所判決2011年8月30日 
~「慰安婦」被害者の日本政府への請求権が請求協定によって消滅したか否かの日韓両国の協定の解釈における紛争は、請求協定に規定された手続きに従って解決すべきだが、それを実施しなかった韓国政府の不作為は韓国憲法に違反する、というもの。
・解釈の相違/ 日本政府は「解決ずみ」/韓国政府は、請求権協定締結時、「慰安婦」問題は、両政府で認識されておらず、請求権放棄の対象になっていない。反人道的行為による請求権は放棄の対象とならない

→ 請求権協定 外交による解決/それでも解決しない場合、「仲裁委員会」を設置して解決

・韓国政府は、協定にもとづく解決を申し入れ/ 日本政府は回答せず「解決済み」と繰り返すだけ

・この結果、軍事情報の秘密保護協定が、署名式の1時間前になり延期/ FTA交渉も頓挫 /(メモ者 そして今回の竹島への大統領上陸。また北朝鮮の核保有・拉致問題の解決でもマイナス影響)
~ 民主政権は、日韓関係を最重要二国間関係としてきたが大きな停滞に

・世界の中で比重をますアジア/ 日韓、日中の真の信頼関係の構築が、地域の平和、安定にとって不可欠
→ 日本には、侵略戦争を真に反省した、新たな一歩がもとめられている。

≪国際社会で信頼を回復するために≫

・日本政府は、過去の事実の否定だけでなく、他国の民間団体や市民の取組みにまでクレームをつけ、相手国に是正を求める、国際社会の常識を超えた方の否定をおこなっている。
~ アメリカ市民の感覚「ナチスを責めても今のドイツは平和国家と誰もが思うのと同じで、今の日本は当時の日本と違う国と考えている」(パリセイズパーク市長)

→ が、日本政府のしていることは、過去との連続性を強調し、かつての過ちを否定し、過去も現在も日本は正しい国と強調するもの

→ 日本の過去の過ちを歴史の事実と共有している世界で「過ちを認めない国」つまり「同じ過ちをくりかえすかもしれない国」として不信を拡大するだけ/ 信頼を勝ち取るためには「慰安婦」問題の解決が不可欠

≪日本の人権状況の前進のために≫

・「日本以外では誰も関心をもたない」という「官憲の強制連行の有無」議論の根底にあるもの
→ 「公娼制度」は合法的だったとして、そのような境遇に置かれた女性の人権に対する無頓着な人権感覚
・現在も、「性産業」にアジアの諸国から女性達が人身売買同様の仕方で連行されている問題/ 離婚件数の1/3にはDVの問題があり、デイトDVも珍しくないこと、など女性に対する暴力、人権侵害が社会的制裁になりにくい感覚がある。(かつて太田誠一自民党衆院議員の集団レイプについて「元気があってよい」発言など)
→ 女性解放運動の力が、アメリカなどに比べて格段に弱いことの反映

・「慰安婦」問題は、
①過去の日本軍の犯罪行為の責任をどうとうるか 、という側面だけでなく
②現在も、女性への暴力、人権侵害が蔓延している日本の現状を変えるためにも
〜 その真の解決が求められている。

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Comments

こんばんは。私も「前衛」9月号のこの論文は、たいへん整理されていて、とても勉強になりました。「慰安婦」問題は、日本の戦争責任の自覚と反省、民主化、日本人の人権感覚をはかるものさしとして重視しなければいけないと思っています。

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