原発は超高コスト GEトップ発言の波紋
フィナンシャル・タイムズが「推進力を失った原子力発電 GEのトップが認めた高コスト」の題で、先日のGEトップのインタビューの反響など後追い記事を配信している。
なお、昨年、9月、東電社長も「福島の事故のようなリスクをどう評価するかが難しい。現時点で賠償を単純に織り込めばむちゃくちゃ高くなるのは、自明の理だ」とインタビューに答えている。
【推進力を失った原子力発電 GEのトップが認めた高コスト 未来はガスと自然エネルギー? FT8/6】
(2012年8月3日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
【西澤俊夫・東京電力社長――民間が原発のリスクをすべて負うのは無理だ、賠償含めば原発は超高コスト 東洋経済2011/9/16】
【推進力を失った原子力発電 GEのトップが認めた高コスト 未来はガスと自然エネルギー? FT8/6】(2012年8月3日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
環境保護団体が原子力は高すぎると訴えることはあるが、発言の主がゼネラル・エレクトリック(GE)のような原子力産業の先駆的企業のトップとなると、話はまるで違ってくる。
GEは1950年代に世界でも最初の部類に入る商用原子炉を建設し、2007年に日本の日立製作所と原子力発電の合弁会社を設立して以来、業界トップの一角を占めてきた。◆GEのトップの発言の波紋
投資家の中には、GEの最高経営責任者(CEO)のジェフリー・イメルト氏が7月末に本紙(英フィナンシャル・タイムズ)に対し、原子力発電を経済的に擁護するのは「非常に難しく」、大半の国はガスと再生可能エネルギーの組み合わせに移行していると述べた時、同氏は業界の「不都合な真実」を口にしただけだと見る向きもある。
昨年の各種経済予測では、原子力発電所が生み出す電力はこの先何年も、天然ガスや風力発電所、ソーラーパネルが生み出す電力よりも安いか、同じくらい安い状況が続くとされていた。
一部の専門家はそうした予想を疑問視していた。
ソーラーパネルの市場価格が急落し、風力タービンの価格も下落したうえ、膨大な量のシェールガスの発見で米国における安いガス価格が各地に広まるとの期待が生じたからだ。
欧州で20年ぶりの原子炉建設となるフィンランドのオルキルオト3号機とフランスのフラマンビルのプロジェクトでは、建設が大幅に遅れ、原子炉建設コストの試算を膨らませた。さらに、日本の福島での原発事故が一段とコストを増加させ、ドイツなどの一部の国は原子力を廃止することになった。
「基本的にイメルト(氏)は正しい。最終的には、ガスと風力、太陽光の組み合わせになるだろう」。ロンドンに本拠を構え、クリーンエネルギー関連プロジェクトに投資するプライベートエクイティ(非上場株投資会社)、ズーク・キャピタルのCEO、サマー・ソルティ氏はこう話す。
一方、原子力業界の幹部らは、イメルト氏の発言は、米国というたった1つの国の事情を反映したものだと言う。世界原子力協会(WNA)のスティーブ・キッド副理事長は、次のように話している。◆原発を正当化できないのは米国だけ?
「ガス価格が安いと、新しい原発が経済的に競争するのが難しくなるが、我々としては、今のような価格水準がまだまだ続く可能性は疑わしく、世界各地の状況との関連性も疑問だと思っている」
「欧州では、ガス市場が米国の状況と同じになる可能性は低く、そのため、各国の市場によっては、原発プロジェクトは経済的に正当化できる。また、アジアでは、各国はまだ高価な輸入液化天然ガス(LNG)に依存しているため、原発プロジェクトは非常に魅力的に見える」
GEのライバル企業は、GEにとって原子力は小さな事業で、同社はもはや米国外では原子力産業の大きな勢力ではない、と話している。だが、業界幹部らは、コストが上昇したことを否定することはできず、今では、国の助成金なしで新たな原子炉を建設できるという従来の主張が見当外れだったように見える。
2007年から2008年にかけて原子力の復活が勢いを増していった頃、企業は電力価格が大幅に高くなると予想しており、原子炉建設に必要な莫大な投資はリスクが小さいように思えた。各社は炭素価格も上昇すると予想しており、石炭やガスを使った火力発電所が原子力や再生可能エネルギーに比べて不利になると見られていた。
ところが、多くの先進国では、景気後退のためにエネルギー需要と電力価格が予想より低く抑えられ、原発に投資する条件が悪化することになった。◆福島事故後の規制強化より深刻なコスト高
また、福島の事故以降、規制当局は、発電所の設計に補助電源システムなどの追加の安全対策を加えることを要求している。
EDFと共同で原子炉建設を検討している英国のエネルギー企業セントリカのCEO、サム・レイドロー氏は「福島の事故後に一定の設計変更があったのは間違いない」と言う。だが、同氏は、コストの前提を変えた主な理由として、欧州の原発建設の進展の遅さを挙げる。
シティグループの公益事業担当アナリスト、ピーター・アサートン氏(ロンドン在勤)によると、英国で3.2ギガワット(GW)の原子炉を建設するコストは、2008年に40億ポンドと推計されていたが、フラマンビルとオルキルオトの経験に基づくと、今では70億ポンドと推計されるという。
「原子炉1基当たり70億ポンド払わないといけないと、経済的にも政治的にも、建設を正当化するのが非常に難しくなる」
原子力発電がほかのタイプの発電と競争できるかどうかは、地理と、業界幹部らが予想している通りに原子炉建設が増えるに従いコストが低下するかどうかにかかっているようだ。◆政府の願望で、一部の原発計画は実施されるが・・・
それでも、主に低炭素エネルギーの安定供給を望む政府の願望を受け、一部のプロジェクトはどのみち実施されるだろう。
英国のウラン濃縮会社ウレンコの社外取締役で、再生可能エネルギー専門の投資ファンド、ノーバスモーダスの代表を務めるリチャード・ノース氏は、多くの国が二酸化炭素排出量の削減目標を採用したことから、将来の発電ミックスで原子力が一定の役割を担わない状況を想像するのは「非常に難しい」と言う。
「とはいえ、太陽光発電のコスト激減を筆頭に、再生可能エネルギーを使った電力の価格低下は、原子力が幅広く利用されるには競争力を保つ必要があることを意味している」
原発には莫大な投資が必要で、建設にリスクが伴うことから、財政運営に苦しむ政府からの助成金や奨励金なしで、民間部門が進んで新たな原発に資金をつぎ込むことは考えにくい。前出のアサートン氏は「あれだけの規模の損失(20億ユーロに上るオルキルオトの予算超過)を被りながら支払い不能状態に陥らずに済む企業は世界にほとんど存在しない」と言う。
民間部門の関心が薄れる一方、各国政府が次世代原子炉の建設コストを綿密にチェックするようになっている中、原子力発電がガスや再生可能エネルギーと張り合えることを示し、イメルト氏が間違っていることを証明するには、まだ前途遼遠だ。
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