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自然エネ買取制度スタート~ 今後の課題とあり方 ISEP等

 7月1日からはじまった固定価格買取制度の今後の課題について、環境エネルギー政策研究所の見解と、「消費者の観点から見た固定価格買取制度(FIT)のあり方について」という自然エネルギー財団/環境エネルギー政策研究所の提言。

 前者は、制度論的なことが中心。後者は、その意義や制度の仕組みを平易に解説したうえで国民合意を進める視点での提言という感じ。

【自然エネルギー固定価格買取制度のスタートにあたり 
〜日本の自然エネルギー元年に相応しい一里塚に〜 7/2】

"> 【提言 消費者の観点から見た固定価格買取制度(FIT)のあり方について】

【提言ポイント】

① 制度に関する理解の促進
・エネルギー政策全体の中での再生可能エネルギーの位置づけや重要性、また、再生可能エネルギーの大幅導入を達成するための施策としての固定価格買取制度(以下、買取制度)の意義、目的といった全体像の提示無くして、消費者の理解は得られない。

・消費者の理解を得るためには、買取制度の仕組みを丁寧に説明することが必要。また、専門用語を分かり易く説明するなどの工夫も必要。

② 徹底的な透明性・情報公開
・買取制度の利点は、消費者が払った賦課金がどのように活用されるか、賦課金設定の元となる費用の計算等が全てトレースできる形で示せることである。原子力行政の反省を踏まえ、買取制度では再生可能エネルギーのコストデータなど可能な限り全ての情報を広く公開し、専門性・中立性のある第三者によるチェックなどを行い、消費者の信頼と納得が得られるような運用を行うべき。

・買取制度による再生可能エネルギーの導入促進効果、雇用効果などのデータを政府が積極的に公表することで、消費者が自分の払った賦課金が全て再生可能エネルギーの導入促進に役立っていると認識できるような仕組みとすべき。

・また、原子力など再エネ以外の電源を利用する際のコスト(短期だけでなく中長期も含め)の情報も示すべきである。

③ 買取制度のメリット・デメリットの明示
・買取制度のメリット・デメリットを明確化し、デメリットは対応策も示す。

・電気料金上昇により企業におけるコスト増が想定されるが、現状の電源構成のままでは将来の化石燃料コスト高騰リスクを抱えるため、再生可能エネルギーへのシフトは、長期的なリスク対策効果を持つ点を始め、温暖化対策効果、エネルギー自給率向上効果等のメリットを明示。

・一方、デメリットとして、電気料金上昇による企業活動への負の影響についても明示し、対応策として減免措置等の措置がある旨も明示。

・再エネ・省エネに企業がシフトできるような買取制度以外の税制優遇などの施策も併せて実施することが重要。

・また、この買取制度により再生可能エネルギー事業を各地域が主体となって実施することが可能となり、地域経済の活性化を促すことができるメリットがある。その際、地域が主体となるための制度の整備や人材育成などと共に、再生可能エネルギーに関する専門技術・知識の標準化・共有化が重要である。

・消費者が単に電気を使い、賦課金を負担するだけでなく、自ら発電事業を行ったり、発電事業に出資するなど再生可能エネルギーの事業に参加できる仕組みである点もメリットである。


【自然エネルギー固定価格買取制度のスタートにあたり 
〜日本の自然エネルギー元年に相応しい一里塚に〜 7/2】

 いよいよ7月1日からスタートした自然エネルギー(再生可能エネルギー)の固定価格買取制度「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」(以下、本制度という)について、そのスタートにあたり、日本の自然エネルギー元年に相応しい一里塚として歓迎すると共に、今後の課題や留意事項について指摘する。この度スタートしたFIT制度は、すでに世界中で80以上の国と地域が採用している自然エネルギー普及の切り札とも呼ぶべき制度であり、その運用においては、これらの国々で得られた知見を活かすと共に、日本国内の自然エネルギー導入の政策目標や現状を十分に考慮する必要がある。本制度のスタートにあたり、定められた買取価格や買取期間などに関する詳細については、概ねこれまで当研究所が提言してきた主要なポイントが反映されていると評価できるが、今後の買取価格の改定や優先接続など幾つかの重要な課題も残されている。 さらに、日本の将来を決める自然エネルギーの本格的な普及の為には、本制度の詳細を定めるための政省令の内容等をさらに精査し、今後の規制・制度の改革や改善を求めていく必要である。本制度のスタートにあたり、自然エネルギーの本格的な導入に向けた本制度の今後の課題と留意事項は以下のとおり。

■ 本制度の今後の課題

(1)買取価格と買取期間の設定

 再生可能エネルギーの本格的な普及を進めるための買取価格および買取期間について、本格的な導入に必要な事業成立性を確保できる水準にする必要があるが、最新のコストデータや知見に基づき、予見性をもった設定が必要である。

 業界団体や事業者からのヒアリング等による現時点のコストデータや事業リスクなどの知見に基づき、発電種別や規模毎に買取価格の設定が行われている。ただし、現時点で得られるコストデータや事業リスクの知見は限定的であり、来年度以降の買取価格の検討に際しては新規に導入された発電設備のコストデータを含め、新たな知見を取り入れた検討が継続して必要である。特に買取区分の設定については、将来的には規模や事業形態に応じたきめの細かい設定が必要になる。
 再生可能エネルギーの種類・規模を踏まえた上で、それぞれ一定の事業成立性を見込めるように買取価格が設定されている。また、再生可能エネルギーの種類により事業リスクが異なることから、プロジェクトIRR(内部収益率)を再生可能エネルギーの種類毎に変えていることは評価できる。ただし、特に事業リスクが高いとされた風力発電や地熱発電については、事業リスクの低減に向けた各種の規制や制度の改善が望まれる。

 買取期間については、発電設備の法定耐用年数を考慮した上で、その使用可能期間や事業成立性などに配慮して、おおむね20年間と定められたことは評価できる。ただし、制度は今後の20年間に起こりうることに対処すべく柔軟性を措置しておくべきである。例えば、電力システム改革の実現により、発電事業者が電力取引市場に容易にアクセスできることも想定され、発電事業者が市場で売電するオプションを持つことも措置すべきである。

 今後、普及に伴う導入コストの低減に伴い、原則年度毎に設定される新規の発電設備に対する買取価格を予見性をもって低減していく必要がある。予め翌年度の買取価格の逓減率を定める方法が望ましいが、予見が可能なコストデータを頻繁に公開する方法もある。そのためには、買取区分や買取価格を定めるその際のコストデータを着実に集積し、できるだけ頻繁に公表(ホームページ等)・活用する仕組み(データベース等)を整えるべきである。そのため、認定設備などの建設コストや維持費用などから、買取価格を計算する式を公開し、計算ツール(Excelなどによる)を提供することも必要である。

(2)バイオマス発電について
 
 使用する燃料の種別やコストが大きく影響するバイオマス発電については、規模や燃料種別等によるきめ細かい条件を定め、それごとに買取価格の設定が必要である。特に、木質バイオマスについては熱電併給や燃料のカスケード利用を前提とした買取価格の設定を行う必要がある(詳細は、2012年4月23日の自然エネルギー財団からの提言を参照)。
 
 バイオマス資源の特性から、地域資源の活用が前提となるため、大量の燃料を必要とする大規模な設備に対しては、一定の制限が必要である。例えば、発電規模の制限として2万kW程度とすることや、バイオマス比率の低い石炭混焼発電については、対象とするバイオマスを廃棄物に制限する必要がある。

 バイオマス比率の測定精度は電力量の計測精度に比べて著しく劣るため、特に調達価格の高い未利用木材および一般木材などについては、バイオマス比率を100%に限定すべきである。また、エネルギー効率の向上、GHG排出量や持続可能性の観点から総合効率の高い熱電併給を前提とすることも重要であり、木質バイオマス(未利用木材、一般木材等)については、設備の総合効率を60%以上とするべきである。

 使用するバイオマスの持続可能性などにも配慮したトレーサビリティの仕組みなどを整備し、日本国内における持続可能なバイオマスの利用を目指す必要がある(詳細は、2012年3月19日のバイオマス産業社会ネットワーク等からの提言を参照)。

 バイオマス発電単価が法的に定められる本制度では、燃料のサプライチェーンに携わる全ての主体(山元、収集業者、チップ工場、発電所)が、高く売るために不正を行うインセンティブがある構造となっている。木質バイオマスについては、農林水産省がトレーサビリティのガイドラインを整備するとのことであるが、経産省は別途、根本的解決策を措置すべきである。


(3)送電網への優先接続および優先給電について

 欧州で行われている発送電分離や電力取引を視野に、送電網への実質的な優先接続や優先給電を実現し、現在の電力会社間連系を含む系統の増強・出力変動への対応を積極的に行うべきである。特に風力発電については地域毎の分布に偏りが大きく、適地に大量導入するための送電網の整備が不可欠である(2012年2月16日の自然エネルギー財団からの提言を参照)。

 送電網への優先接続が達成されるための最大限の努力を電気事業者が行うために、やむを得ない理由で接続を拒否する場合には、必ず第三者による情報開示内容の正当性の評価を義務付けそれを公開すると共に、電気事業者は送電系統の増強や出力変動への対応に関する計画を示すことを義務付けるべきである。

 自然エネルギーの発電事業者にとって技術的・経済的にみて優れていると考えられる接続可能な地点の提示が可能な時期を明示することを発電事業者に義務付け、これらの情報開示や評価については、回答期限を必ず定めるべきである(例:申請から1か月以内)。


(4)既存設備の扱いについて

 既存設備の運転が問題なく継続できるだけではなく、既存事業者のノウハウを活かしつつ、新たな設備導入へのインセンティブを生み出す仕組みとするために、本制度において既存設備を含めることには、一定の評価ができる。既存設備については、以下の様な配慮が必要である。

 既存設備を認める際には、今後の新規事業の参考になるように、これまでのコストデータや運転データ(発電量など)の提示を義務付けるべき。特に、これまで設備認定されたRPS設備については、これまでの実績データを整理し、必要に応じて発電事業者や研究者が実績データを活用できる仕組み(データベース)を作るべきである。
RPS認定設備以外にも、以下の様な設備は本制度の対象となる検討をすべきである。

・小水力発電: 出力10000kW以下の設備(原則としてダムを使わない水路式のもの)
・地熱発電: 比較的小規模(例:1.5万kW以下)な設備
・バイオマス発電: 木質バイオマス(未利用木材、一般木材)で熱電併給を行い、総合効率が60%以上の設備。


(5)住宅用太陽光発電の全量買取について

 住宅用の太陽光発電(出力10kW未満)については、現状の余剰電力の買取制度を継続することがこれまでの経緯に配慮した形としてスタートした。しかしながら、現時点の移行措置としてはやむを得ない面もあるが、本来は以下の理由により住宅用の太陽光発電についても全量買取に移行すべきであり、今後の導入状況を見ながら再検討を要すると考える。
 家庭毎に電力の余剰率には10〜90%程度と大きな差があり、不公平を内在している。全量であれば、本質的に公平な制度となる。
 余剰のみ比べて飛躍的な普及が可能となり、導入量の拡大による技術学習効果によってコスト低下が早まり、長期的にはむしろ有利である。

 「余剰の方が省エネ効果」との指摘もあるが、一時的かつ限定的な効果に過ぎず、省エネはそれを目的とした施策や技術により対応することが本筋である。同じく「余剰の方が賦課金負担が小さい」との指摘もあるが、これは買取単価設定との見合いであるため、全量方式にしたうえで、適切な単価を設定すべきである。
 「全量だと配線など多大な工事費が発生する」との指摘は正しくない。実際の電力の流れは現状とまったく変わらず、たんに太陽光パネルの全発電量の計量データを買い取りに用いるだけのことである。計量器を検定付きメータに取り替える作業は、余剰であっても全量であっても同じである。新規設備を全量買取の対象とすることにより、既設に対する追加費用は発生しない。


■ 自然エネルギーの本格的な導入に向けた留意事項

(1)電気料金への賦課金に関する仕組みへの理解促進

 再生可能エネルギーの普及を前提としてコストベースの買取価格の設定や送電網の整備を行った場合、2020年頃までの普及期の需要家負担(電気料金への賦課金)は、一時的に大きくなると予測される(2011年7月25日のISEPブリーフィングペーパー等を参照)。ただし、再生可能エネルギーに関する負担は、化石燃料の負担を軽減する効果もあり、これまでも電気料金に含まれてきた他の化石燃料や原子力発電に関する負担と比較して考える必要もある。むしろ、確実に再生可能エネルギーが普及することにより、国内事業への投資が進み、設備投資も大きく伸びるだけでなく、雇用の創出や地域の活性化が同時に進むという多くのメリットを評価すべきである。

 また、現時点では賦課金算出のため、買取費用から回避可能費用を控除することとなっている。一層の透明性、客観性を確保するために、市場価格を適用すべきであるが、このためには速やかに電力システム改革の実現が必要である。当面は回避可能費用を適用するとしても、変動費だけでなく固定費も含んだ回避可能費用を用いるべきである。


(2)再生可能エネルギー導入の政策目標の策定

 再生可能エネルギーの本格的な導入には以下の様な様々なメリットがあり、現在検討が進んでいる新エネルギー基本計画などで、中長期的な視野でしっかりとした政策目標を掲げる必要がある(2012年5月13日のISEP「3.11後のエネルギー戦略ペーパーNo.1」を参照)。

 原子力や化石燃料を代替し、将来のエネルギー需給において基幹的な役割果たす再生可能エネルギーを大量に比較的短期間に導入することができる(欧州や世界各国での成功事例)。

 原子力の安全性や経済性に大きな疑問符がつき、そのリスクを考慮する場合には、短期的には天然ガスや石
炭•石油など化石燃料にシフトすることも考えられるが、化石燃料の将来の供給リスク(供給ピークによる価格高騰)や気候変動対策の世界的な流れから化石燃料への依存度も将来的に下げることができる(原発依存度の低減、温室効果ガスの大幅な削減)。

 設備投資、事業投資など国内投資や雇用の拡大による経済的な効果。再生可能エネルギーのポテンシャルが豊富な地域における事業により、地域の経済活性化を実現できる。

 国内の再生可能エネルギー産業を成長分野として、国際的な再生可能エネルギー市場へうって出られる企業群を生み出すことができる。


(3)大規模な再生可能エネルギー事業の進め方

 太陽光発電のメガソーラー事業(1000kW以上の事業規模)を進めた場合には、土地利用などに対する社会的な合意をスムーズに進めるための制度作りが必要。風力発電については、従来より数万kW規模のファームが主流となっており、優先接続制度や送電網の整備、土地利用に対する社会的合意をスムーズに進めるための制度作りが必須。具体的には、以下の二つの施策が社会的な合意形成のためには重要である。

・予防的な土地利用のゾーニング
・地域のオーナーシップ、意思決定プロセスへの参加、事業利益の地域還元


(4)先行する欧州などの経験に学ぶ

 世界では80を超える国と地域でこの固定価格買取制度(FIT:Feed-in Tariffs)が導入され、特に先行するドイツでは2000年にこの制度を導入して、すでに20%を超える電力が再生可能エネルギーにより賄われている(日本は大規模な水力発電を含めて10%程度)。ドイツの太陽光発電については、2011年末までの累積導入量が約2500万kWに達し、日本の導入量500万kWの5倍、国全体の発電規模から考えると10倍の規模の太陽光発電が導入されていることになる。1年間の新規導入量も700万kWを越え、日本の5倍以上の導入ペースとなっている。ドイツでは、これまでの経験からFIT制度の内容を少しずつ調整しながら、持続的な再生可能エネルギーの導入政策を進めている(詳細は2012年4月18日のISEPブリーフィングペーパーを参照)。この様に先行する欧州各国の経験に学び、国際的な政策ネットワークを構築する中で、日本の自然エネルギー政策を再構築していく必要がある。

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