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世界的経済危機と多国籍企業(メモ)

 多国籍企業をどうとらえ、民主的規制をどうかけるかは、持続可能な地域・社会・世界を築くうえで焦点の課題。「経済2012・6」の特集より、丸山恵也・立教大名誉教授の巻頭論文、座談会からの気になった点、「世界の労働組合運動と国際枠組み協約」よりの備忘録。

 「meno20120604.doc」をダウンロード

 【世界的経済危機と多国籍企業】 

              丸山恵也・立教大名誉教授 経済2012・6

1.現代における多国籍企業とは何か

(1)多国籍企業とは—今日における多国籍企業の概念

・国連規定「資産を2ないしそれ以上の国において総括する企業で、2ヶ国以上に拠点を有する企業」
→ この規定は、地域数量的特徴付けにとどまり、組織的特徴と企業としての本質を把握することが必要

・組織的特徴/ 製造、購買、研究開発、マーケティングなど企業活動を自らの企業内に内部化し、これらを世界最適配置の企業内国際分業として、世界戦略の視点から統括するもの
・企業としての本質的規定/「自己を増殖する価値」としての資本であることを本質とし、地球的規模で利潤を求める「資本運動」。

・今日の多国籍企業〜 「資本輸出の新しい特徴と形態を示すもので、本国本社の世界的な経営戦略にしたがって、世界各地に設立された海外子会社が一体として国際的な事業活動を行い、最大の利潤を獲得することを目的にしている国際独占体」

(2)海外資産を基準とすると

・上位50社(430億ドル以上) 本国別 米10、仏9、独7、英6、日本6

(3)資本輸出としての世界の直接投資(FDI)の動向

・直接投資〜 長期の国際間の資本移動で、投資先企業の支配、参加を目的とするもの
   国内企業が海外に対し行う「対外直接投資」、国外の企業が国内の企業に行う「対内直接投資」がある。
・対外直接投資残高 上位30社
 1990年、2兆942億ドル → 2010年 20兆4083億ドル 約10倍に増加
・対内直接投資残額 米英は増加率低下、仏・独低下。香港、中国、ブラジル、インドで著しく増

2 世界の多国籍企業の最近の特徴

(1)世界経済危機と多国籍企業の新しい特徴

①資本主義の基本的な矛盾が金融危機、さらに欧州信用不安として露呈したこと。
・短期間の二度の深刻な経済危機は、危機要因に、資本主義の過剰生産という基本矛盾があり、資本主義の存続そのものが問われている。
・世界経済を一瞬巻き込んだ金融危機は、国際金融資本の暴走によるもの。しかも金融危機は、資本主義のグローバル化の進展による経済の金融化が進む中で発生しただけに、実体経済へも大きな影響。

②米国一極支配の終わりの始まり
・新興国の台頭は、市場、資源、食料の獲得をめぐる競争をこれまで以上に激化。
・基軸通貨ドル体制の揺らぎは、米多国籍企業のグローバル蓄積を一層不安定にした。

③多国籍企業中心のグローバル化経済に反対する新しい世界の流れが大きく発展
・富裕層増税をもとめる動き。「世界社会フォーラム」に結集する声の広がり
・国連、EUなどで、国際金融資本の暴走、経営者の高額報酬に対する規制が本格的に始まりつつある。

(2)アジアの多国籍企業の台頭

・中国の直接投資 2010年2976億ドル、2000年277億68億ドルの10倍以上。
進出企業の総資産額1兆5千万ドル、年間売上げ7千億ドル
 → これまでの資源・技術獲得型から、現地生産中心に(アジア72%、南米14%、アメリカ4%)
・中国政府は、国家戦略として資源・技術獲得型の企業の海外進出を積極的に支援
   ポルトガルのガルフ・エネルジアの保有するブラジルの石油利権の30%取得
   IBMのパソコン事業の買収を通じ、米日両国の研究開発拠点と流通ネットワークを取得など
・07年アジア大企業上位50(営業利益基準) 日本25、韓国8、中国5、インド5、香港3、台湾2

(3)多国籍企業の企業間国際分業の新しい動き

・世界最適地分業の体制を、企業内分業という垂直型統合型から、他企業との垂直分業型に変化。
・パソコン産業 技術優位を有する多国籍企業による国際的企業間分業
インテルは、最も重要なMPUと外部機能をつなぐPCIパスを開発し、ブラックボックス化。その一方で、外部との接続部分のインターフェイスは、規格化し国際標準として他社公開。/関連会社は、標準規格にそって部品を作成。労働集約的な組み立ては、アジアで生産。

→ 最も重要な、演算機能MPUをインテル、ウインドウズOSをマイクロソフトが所有することで、技術優位性を確保し、最も高い付加価値を手にいれる。

(4)多国籍企業のグローバルな資本蓄積

・資本は、もともと「無国籍」。本籍国を犠牲にしても利益を追求する /TPP
→ グローバル化経済の中での、多国籍企業と国民経済の乖離

・現在のグローバル化はアメリカン・グローバリズムであり、それは米国の恒常的な貿易赤字に基礎をおいている。/ そのことにより、米国は財とサービスを調達・収奪し、米国以外の国は貿易黒字による利潤を獲得している。
→ 貿易赤字は、国内の利潤を低下させる。米国企業はそれを享受している。それは米国の主要な企業が多国籍企業であり、米国だけで利潤を獲得する必要はなく、全世界でより大きな利潤を獲得できれば文句はない
→ が、貿易赤字は、資本収支の黒字でカバーされなければならない。/資本収支の黒字は、ドル資産が高収益であること。ドル価値が維持されていることが必要。
→ ドル価値維持は、貿易が拡大し、貿易赤字が拡大する/ よって資本収支の黒字も拡大し続ける必要
→ この悪循環は、アメリカへの資金投入・資金還流が持続される限り表面化しない

・金融危機の暴走が、この矛盾を顕在化。/米多国籍企業の資本蓄積は、構造的に極めて不安定に。

(5)多国籍企業とタックスヘイブン

・国際金融の汚濁の最深部 〜 脱税、資金洗浄、移転価格操作、財務不正利用、裏金蓄積など  
   オリンパス、AIJ事件も、ケイマン諸島を舞台に発生
・IMF 94年 「国際的な金融の約半分がタックスヘイブンを通過」
・タックスヘイブンの子会社への投資利益は、米国の海外直接投資利益率の2〜3倍といわれる。
・多国籍企業は多数の子会社間の取引を通して「価格移転」を行い、税金を最小限に抑える
→ 多国籍企業は、①グローバルスタンダードで、国民国家の壁を破壊し、②タックスヘイブンとして国民国家の壁を利用して、より大きな利潤を獲得する。

(6)新自由主義ビジネスモデルと経営者報酬

・新自由主義は、企業の所有者は株主であるから株主の利益第一とする「株主資本主義」に帰着する
・規制緩和による民間投資、IT産業の技術革新による発展、豊富な資金による空前の高株価を背景に
 経営者に莫大な利益をもたらすストックオプション制度の積極導入

 「会社が成功すれば非常に有利になる価格で、経営者が自社株を購入できる権利。これは経営者に利益を増大させ、株価を上昇させるためなら何でもするという非常に強い動機を与えた」(グリン「狂奔する資本主義」)
→ 金融の暴走の中で破綻/エンロン、ワールドコムの破綻と同様、自滅の道を進む

・リーマンショックまでの途方もない高額の報酬
  04-06年売上高1兆円以上の米企業のCEO  固定報酬1億5666円、賞与2億9405円、ストックオプション7億6232円。計12億1203万円。
 07年 ゴールドマン・サックスCEO 7千万ドル(63億円)、JPモルガンCEO 3千万ドル(27億円)
  〜 全経営者への報酬は、両者とも会社収益の50%を占めている。

→ このモラルハザードに、OWSなど社会的反撃が拡大している。

3 日本の多国籍企業の特徴

(1)「貿易立国」から「投資立国」へ

・2011年 所得収支19.9%増 14兆296億円。貿易赤字(2兆4927)を穴埋め

・「成熟した債権国」は「投資立国へ」(米経済学者キンドルバーガー)/が、安定した経済成長を続けた国はない。/アメリカ、イギリス。日本も
・日本は、「輸出立国」「投資立国」をめざすべきでなく、国内市場に依拠した「内需立国」をめざすべき
    その点で、「輸出もどし税」は改めるべき/米国は、事実上の輸出補助金としてGATT違反と批判

(2)多国籍企業のアジア事業の高収益

・日本の直接投資は、中国から、ASEAN、インドへ/ 設備投資 北米、EU減、ASEAN8.8%増
・アジアへの積極進出の理由/高収益の確保 日本企業の事業収益の7割がアジア/石油、自動車等 

(3) 日本の多国籍企業の「金あまり」と海外M&A

・日本企業のM&A 2011年 10兆4155億円 前年比57%増/ うち67%は海外企業が対象
   件数 アジア198件・42%増、EU 96件・26%増 北米109件・9%減
→ 長期低迷の国内市場から、脱出をめざし、超円高を追い風に、溜め込んだ「手元資金」をテコに推進
    大企業 内部留保266兆円 うち手元資金55兆円 
→ 銀行・証券会社は仲介料として、莫大な手数料収入
・政府の円高対策は、多国籍企業支援のM&A融資/ 海外移転促進の愚妻

(4)総合商社の資源獲得投資の高収益性

・貿易商社から、投資事業会社への変容 /資源権益、インフラ事業投資、新興国投資など
・7商社の海外投資額 2012年3兆1800億円  過去最高08年2兆3500億円の35%増
・三井物産など5大商社の連結純利益(11年4-12月期) 1兆3千億円と前年同月比20%増、過去最高
・上位10社・12年3月期連結純利益 三菱商事3位、三井物産4位、伊藤忠7位、住友商事8位

(5)日本多国籍企業のアジアへの原発輸出  2011年、官民一体の「国際原子力開発」創立

4 日本の多国籍企業と国民の生活

(1)企業の海外進出と産業空洞化問題
・財界は、6重苦を言い、「海外に出て行く」と脅すが・・・
・経産省「海外事業活動基本調査」(2011) 投資決定ポイント
  現地の製品需要が旺盛または今後の需要が見込まれる73.3%が断トツ

(2)日本の多国籍企業と「国際競争力」

・政府は「輸出立国」日本は、輸出産業の「国際競争力」を強めて経済を発展させ、国民生活を守る、と主張
→ 実際は逆 / 企業の「国際競争力」の強化が、国民生活を困難に陥れている。

・日本の企業の実際の税率は高くない。表面上の法人税は、地方税も含め40.69%
  トヨタ32.1%、NTTドコモ14.6%、三菱商事8.1%、JT14.6%、三井物産9.3%/上位100社30.7%
 〜 OECDも、減税競争を「有害な競争」と警告

・80年代、日本の製造業 「いいものを安く」 〜 この「いいもの」を今日の状況で再検討が必要
→ 「いいもの」/その製品の使用価値が社会的に保障され評価されていること/ 車の安全性、環境面
→ 「安く」/極端な低賃金、不安定雇用などで「量をこなす」生産ではない。
〜 良好な労働環境と可能な限りの低価格での製品提供には、技術の高度化への最大限の努力が必要。「すりあわせ」の高度な熟練・技術を、ICTと組み合わせながら、アジアの「組み合わせ」の量産技術を包摂し、発展させなくてはならない。
(メモ者 全国民の能力を、全面的に引き出す労働政策、教育制度、社会政策が必要)

(3)日本の多国籍企業と経済格差の拡大

・1億円以上の報酬の経営者170社294人 総額492億円(11年3月期)
  日産ゴーン9億8200万円、ソニー・ストリンガー8億8200万円(ともに前年より増)
・役員報酬と従業員の平均賃金の格差  上位50社平均 格差23倍
  日産142対1、大日本印刷121対1
・所得上位2割の所得額 08年 全所得の45.8% /93年は42.6%
・所得下位2割の平均所得 08年122万5千円 /93年165万9千円  7割程度に落ち込み

・93-08年 年収2千万円超 1.49倍に増加。200万円以下 1.45倍増加/ 中間層が低所得層へ
・貯蓄なし 95年8%、2010年22.3%、11年28.6% /3.5倍以上に増加
〜 4千万円以上の貯蓄を持つ世帯 10.2% 全貯蓄の4割以上保有

⇔ 大企業が莫大な内部留保を積み上げ、経営者などに高額報酬を払う一方、ワーキングプア、失業者、貧困層が激増している。

(4)米多国籍企業のアジア戦略と日本のTPP参加

・米多国籍企業のアジア需要の横取りがTPP/ 米軍事戦略とも一体(メモ者 オフシェアーバランス)
・NAFTAの実態 /発足から18年
カナダの牛肉産地アルバータ州 食肉処理を米多国籍企業が独占、メキシコの食肉生産も支配
無関税の安いトウモロコシの大量輸入によるメキシコ農家の離農の拡大
カナダ ケベック州の農薬規制を不服とした損害賠償の訴え(ISD条項)
→ これらはTPP参加後の日本の姿

5 世界の多国籍企業の規制と課題

 世界の市民の動向は、資本主義そのものの存続を問い、深刻な経済危機をひきおこす多国籍企業の責任を厳しく追及し、その国際的規制を求めるものになっている。

(1)多国籍企業規制の国際的な取組み

・70年代 新国際経済秩序を求める動き。80年代 新自由主義の台頭、反対する国際的な運動の広がり
・世界社会フォーラム 02年ブラジル 122カ国700余の組織の代表4700人と1万5千人の一般参加
〜 グローバル社会のオルタナティブを追求する運動体 /多国籍企業の利益に奉仕するグローバル化に反対。人権、環境、社会正義・平等、人民主権確立のための民主的な国際システムを支持

→ 2000年 OECD「多国籍企業ガイドライン」作成、国連の「グローバル・コンパクト」の提唱
→ 国連ステッグリック報告「金融危機という市場の失敗を是正するには、新しいガバナンスの構築が必要」 
→2012 「ダボス会議」、シュワブ会長「資本主義は時代遅れのシステム」「新たなモデル構築を」
     同時期の世界社会ファーラムに3万人結集。「オキュパイ」運動の広がり
→ オバマ大統領 富裕層増税の「バフェットルール」提唱 10年間で1兆5千億ドル(120兆円)の増税
         海外に雇用を移転した企業の税控除廃止、タックスヘイブン利用の企業に「基本税」

(2)ステッグリック報告――国際金融規制
〜 報告の概要 〜

・金融危機の源には新自由主義の思想があり、行き過ぎた金融緩和とリスクテイクが促された
・新自由主義改革で、セーフティネットとなるべき社会保障システムが壊された
・そのことで、社会に所得と富の格拡大をもたらした。
・こうした金融の専横を許し、経済危機をもたらした原因は、金融グローバル化に経済のグローバル化が追いつかず、経済のグローバル化に静止できガバナンスのグローバル化が追いつかなかったから。
・それ故、危機への対策は、国際協調を推進する民主的ガバナンスの構築。

→ フランス(スティグリッツが大統領の経済顧問団組織) 「金融取引税」導入決定。
→ オバマ大統領 在米金融機関にリスクの高い投資を禁止する「ボルガールール」、税金による金融機関救済の資金を、大銀行への課税で回収する「金融危機責任税」の提唱。

(3)地球環境問題と多国籍企業

・京都議定書以降の日本の温暖化対策の非常な遅れ /2011年COP17で、日本は京都議定書の延長に反対
・地球環境問題 /市全エネルギーの導入など急務だが、本質は「大量生産、流通、消費、廃棄」という現代の社会経済システムの限界を示した問題。/システムの根本的な変革が必要
→ 市場原理で、自由競争をしている経済成長方式では、地球環境は守れない。

・金融危機、地球環境問題への対応で明らかなように、経済社会に支配的な組織力をもつ多国籍企業の事業活動には、一定の社会的、国際的なルールを定め、規制することが何よりも大切。

≪座談会の中から「国民生活と多国籍企業の規制課題」について≫

小栗嵩資・駒沢大教授、古賀義弘・嘉悦大名誉教授、友寄英隆・経済研究者、丸山恵也立教大名誉教授

◆多国籍企業の民主的規制はなぜ必要か

・「国際競争」という強制法則にかりたてられ経営戦略が暴走。「国際競争」という罠/ 国際競争では「国内競争」と違い「明確なブレーキがない」。そこで「多国籍企業の民主的規制」が必要。
→20世紀は、国内の大企業の横暴を規制するため、労働者・国民の運動で規制をつくってきた。21世紀は、世界市場で暴走する多国籍企業を民主的に規制する時代
・多国籍企業は、自由な活動を促進するためグローバルスタンダードを形成/BIS規制、国際会計標準等
→ このグローバルスタンダードを規制力あるものに変える必要
・2011 国連「企業活動と人権に関する気泡指針」、OECD「多国籍企業ガイドライン」、/それを一歩すすめたステッグリッツ報告 /EU 金融取引税 2014年の導入への提案への動き
→ 世界の外為取引、1日4兆ドル(330兆円)。0.01%の課税でも膨大な額(年間12兆円)

◆脱原発の新しいエネルギー産業の育成と課題

・脱原発、自然エネルギー革命が世界的な課題に
・日本の技術水準は、太陽光発電で世界をリード、地熱発電でもトップ、(メモ者 風力発電の主要部品の3-5割が日本製)/ 日本がクリーンエネルギー開発のモデルとなり、産業育成をかるべき
→ 技術と企業とを一直線に結ぶ指向の反省を/ 自然科学だけでなく人文科学など諸科学の英知を結集し、人間社会、地球環境への影響の検証が必要〜 技術と企業の癒着の典型が原発。

・アメリカ依存、大企業中心の経済の反省を / 日本に資源がないか
→ ものづくりの知恵と蓄積、歴史的に培ってきたノウハウ、技術。

☆シャビロ「2020 10年後の新秩序を予測する」〜「グローバル化がすすめば大企業の本社のある国の色をさらに強める方向に作用する。…今日の大企業が最大の関心を払い投資しているのは『無形資産』で、今や企業の性格を決める大きな要素は本国と呼ぶその国の中での活動にある」
→ 脱原発をめざす自然エネルギーの育成、ものづくりのノウハウ。

・経済危機・地球環境危機をもたらしている社会システムを変えなくてはならない。/クリーンエネルギー政策の推進は、世界と地球を救う大きな課題。原発のない社会をめざす取組みは、社会システムの転換、生産力の社会的管理(ガバナンス)の強化を求める活動と一体。
→ 21世紀は多国籍企業の専横を終わらせる世紀に。


【世界の労働組合運動と国際枠組み協定】
 
 筒井晴彦・日本共産党国民運動委員会

○はじめに

・新自由主義、グローバル化のもとで世界の労働組合運動は混迷の時期を迎える/ その状況を打破するのは、発展途上国の労働組合運動。新植民地主義反対の立場から多国籍企業の横暴とのたたかいが、先進国の運動に多大な影響 /世界の労働運動は、多国籍企業規制のためのロビー活動ではなく、大衆的運動、職場からの団結で、労働協約の締結を勝ち取っている

1.国際枠組み協定はどれだけ普及しているか

(1)世界の81社が締結

・88-02年までの15年間で21協定。その後、2010年半ばまでの7年余で60協定
・ヨーロッパ地域に限定した協定を含めると160協定(10年3月) 労働者800万人
~ 国際枠組み協定は、取引・下請け企業の労働者にも適用されるのど、実際の適用労働者はるかに多い
・協定締結した企業 多くはヨーロッパ。それ以外は14社。
~ アデコ(スイス)、ケリー(米)、マンパワー(米)、ブルネル(豪)の人材派遣会社が含まれる/注目点
〜 ヨーロッパ限定だが、GM、フォードもヨーロッパ労連と協定を締結

(2)日本企業は高島屋のみ

・日本の立ち遅れは異常 / 経団連「企業行動憲章」改定(2010/9)〜改定のたびに後退
→ 世界人権宣言の引用削除、ILO基準への具体的言及なし。ILOの中核的労働基準についても「個別企業で判断するべきこと」と、まったく社会的責任を果たさない内容。
・ILO「持続可能な企業」を提唱/「労働者はコストでなく財産」「熟練労働者は企業の競争力の源泉」を打ち出す中で、日本企業の態度は「先進国」に例を見ない異常なもの

2.国際枠組み協定の効力は

(1)団体交渉で締結される労働協約

・国際金属労連などの国際産業別労組が、多国籍企業と団体交渉し、締結したもの
・その出発点は、人権ならびILOの中核的労働基準を適用する点。そのうえで、さらに詳細な内容の労働協約を各国毎に締結。/ 監視のメカニズムも確立している点も重要。

(2)企業の社会的責任(CSR)とどう違うか

・労資で締結する協約は、企業が一方的に策定する「CSR」と根本的に異なっている。
・協約が労働基準に焦点。CSRは、労働基準は行動規範の1つ。

・「CSR」の弱点 /(その反面は「国際枠組み協約」の強み) 
①企業が一方的に策定 ②ILOの中核的労働基準を必ずしも承認してない ③経営側だけで実施
 ④取引・下請け企業を除外 ⑤労使対話の基盤が弱い

・「枠組み協約」を締結する労働組合の動機
①グローバルなレベルで社会対話を承認し、労働組合権を保護するグローバルな枠組みを提供し、社会対話と団体交渉を奨励することになる。
②多国籍企業内に社会対話の構造を構築することになる。
③国内外で中核的労働基準侵害とのたたかいを強化し、良好な労働条件をそろえることができる。
④CSRと国境をこえた社会対話をリンクさせることができる。

(3)使用者側も価値を確認

・使用者側の抵抗は大きい /が、締結した使用者側も、次ぎのような「協約」の価値を確認
①社会的ダンピングを減らす
②中核的労働基準の厳守をすすめる
③国際市場における競争力をつよめる
④よりよい職場を実現する
⑤紛争処理の対案となる(裁判に訴える前に解決する)

・使用者側が「締結」する動機
①株式市場において、倫理的基準にかかわって競争力を担保する
②それにより投資家に影響をあたえ、消費者、顧客、NGOに対する企業の約束を果たす明確な枠組みをつくることになる。
③イニシアチブを促進し、企業グループの文化と価値を促進することになる。
④よりよいリスク管理に貢献する。

・ILOによる「枠組み協定」の調査(09年、15社)の回答
①株主、投資家に対する信用の高まり(12社) ②労使関係における信頼の高まり(11社)
②消費者へのイメージアップ(4社)

(4)国際枠組み協約はなにを定めているか

・多国籍企業に対し、ディーセントワークの確立、保障するもの
①IMFとダイムラーとの協約 02年
「社会的責任を果たしてこそ、私たちは、これからの世界の平和と繁栄に貢献できる」と宣言し、人権尊重、強制労働と児童労働の廃止、機会均等、同一労働同一賃金、団結権と団体交渉権の保障など定める。

②IMFとルノーとの協約 04年
「社会的責任こそ長期の成功のカギを握るという信念にもとづき、共同して、以下の基本原則を発表する」と宣言し、安全衛生、児童労働・強制労働の廃止、機会均等、職業訓練への権利、賃金と有給休暇など定める。
〜とりわけ「リストラ」については・・・
「ルノーは、仕事を保護することを約束する。再編成、リストラクチャリングの場合には、職種変更のために労働者に職業訓練をおこなうこと、または、可能な場合には必ずグループ内で新しい仕事を見とけることを約束する」と明記

・法令順守以上のものを要求/「結社の自由は、それが保護されて国においても保障」(ダムラー、レオニ等)

(5)適用範囲―― 海外進出先の労働者も対象

・「枠組み協約」は、企業グループに雇用される全世界の労働者に適用される。
・サプライヤー(取引・下請け企業)にも適用される。/協約の80%がサプライヤーを対象に。
①ボッシュ(独自動車関連企業)「ILOの労働基準を順守を明かに怠っているサプライヤーとは取引しない」
②プジョー・シトロエン「サプライヤーの見積もりにあたり、人権の順守を業者選定の決定基準とする」
③フォルクスワーゲン 取引企業は、企業の社会的責任の関する同社の方針に「留意した」という署名が必要
・ 派遣労働に対する協約は少数。適用拡大が今後の課題

3.労働組合と多国籍企業とのたたかいのなかで

(1)職場からの団結で使用者側の抵抗をはねかえす

・協約締結は81社だけ。意義をみとめつつ、使用者側の抵抗は大きい。共通する理由は
①「ILOの基準は、政府に適用され、政府が実行するもの。企業への適用は適切でない」
→ 「ILO条約・韓国が企業に適用されない」は大きな誤解 /ILO「多国籍企業及び社会政策に関する3者宣言」/「ILO加盟国政府、関係労使団体およびILOの加盟国において活動している多国籍企業に対し、宣言に示されている諸原則を順守するよう要請する」

②ドイツでは「CSR」を推進することで「すでに社会的貢献を果たしている。協約は必要ない」
→ IGメタルは「進歩的な経営者に働きかけて前例をつくることが大切である」と対抗
/その際、職場の団結力が決定的に重要と強調している。/これはイギリスでも…

(2)なぜ国際枠組み協約を重視するようになったのか

◇定まらなかったグローバル化への対応
・最大の国際組織・国際自由労連は、正確なスタンスが定まらず、長期にわたり激しい内部対立をかかえる。

◇対立の軸/ 多国籍企業の規制と「社会条項」をめぐる対立

・70年代 国際自由労連のグローバル化への対応は多国籍企業問題に集中。
→ 社会的規範づくりがすすめられたが、国連の「行動規範」づくりも中断に / 「企業活動の自由」を求める米日政府。さらに途上国の多くも「規制しすぎる」と反対。途上国の労組も反対した。
・そのもとで登場した「社会的条項」求めるキャンペーン
~米国労働総同盟・産別組織会議(AFL-CIO)が協力に推進/ 途上国を利用した「社会的ダンピング」を防止することで、途上国の労働者の地位と権利を守る目的。だったが/途上国の労組が反対
→ 労働者の権利と貿易をリンクさせる「社会条項」は「保護貿易主義」というのが理由
・「社会条項」をもとめる国際自由労連の活動は、WTO、IMF、世銀に対するロビー活動に軸足がうつる/ が、そもそも協議するシステムは存在せず(ILOは3者構成、国連は諮問資格がある)、成果あげられず
・たたかわない路線に強い批判
→“もっと激しく多国籍企業と対峙し、世論に直接訴える行動が必要”南米などの労組から突きつけられた。
→ 国際自由労連を、国連やOECDと同等の組織とみなすような活動は「労働組合としての優先事項がみえなくなってしまう」との批判もうまれた。

◇直接キャンペーンへの転換

・国際自由労連17回大会(00年)「人々の不安や恐怖にこたえる行動の中心は職場」「職場から出発しよう」
・18回大会(04年) 多くの加盟労組が「(国際自由論廉が)労働組合らしくなり、グローバル経済のもとで労働者が必要とするような国際労働組合センターに転換する必要があると主張するようになった」
→ 職場を基礎に、草の根が運動を強化。団体交渉を行い協約締結を労働者を守る活動へ転換

(3)未組織の組織化に活用

・国際枠組み協約が、国境をこえた労働者の組織化の基礎と考え、未組織の組織化を結合
 ~ 国際金属労連は、レオニとの協約を活用し、ルーマニアの2工場で組合結成。東欧地域でも運動展開
 ~ 全米自動車労組も、協約を活かし、米国内の事業所の労組結成にとりくむ。
 ~ダイムラー下請け企業 03年、200名解雇提案に、8ヶ月にわたるストライキでたたかい。雇用守る

4.全労連の職場からの国際連帯運動

・全労連全国一般愛知地本日本アクリル分会 名古屋工場閉鎖の発表に、ストライキをはじめ職場からのたたかいをすすめ、グループの親会社の米国ダウケミカルの全米鉄鋼労組に、「閉鎖は必要ない」と訴え、協力を要請 / 全米鉄鋼労組が動き、本社から「ローカルの問題は、ローカルで解決すること」の回答を引き出し、工場閉鎖をすすめた香港の担当執行役員が解任され、閉鎖が凍結に。
→ 職場のたたかいをもとに調査し事実が海外の組合に伝わることで、連帯を築くことで展望を拓くことが可能に。/この連携したたたかいが「国際枠組み協定」などにつながっている。

○おわりに

・世界労連  新自由主義的グローバル化に対する2つの対抗軸
①ILOが提唱するディーセントワーク 
②組織化戦略(拡大とともに、組合民主主義を強化し、一人ひとりを意思決定、行動に参加させ、職場からたたかう力を強めること、)
→ 「国際枠組み協約」締結のとりくみは、この2つの対抗軸の具体化。

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