緊縮の罠からいかに抜け出すか ILO世界レポート
ILO世界労働レポート2012「より良い経済のためのより良い仕事」は「多くのユーロ圏諸国が財政緊縮に狭い焦点を当てていることが雇用危機を悪化させ、欧州の新たな景気後退を導く危険性があるのに対し、仕事を中心に据えたマクロ経済政策を選択した国は経済・社会面でより良い結果を達成している」として、「緊縮の罠」から抜け出す重要性を指摘している。
フランスとギリシアの選挙結果は、「緊縮の罠」からの脱却をしめすもの。同レポートの 巻頭文「緊縮の罠からいかに抜け出すか」を、本日の赤旗経済面が紹介している。
【労働市場に回復の兆候なしと警告-ILO新刊4/29 】
【How to move out of the austerity trap? Raymond Torres】
(原文もついでに載せました。語学が堪能な方が訳して紹介でもしていただければ・・・)
【労働市場に回復の兆候なしと警告-ILO新刊4/29】ILOはこのたび発表した年次刊行物『World of work report 2012: Better jobs for a better economy(仕事の世界報告書2012年版:より良い経済のためのより良い仕事・英語)』で、幾つかの地域で経済成長再開の兆しがあるものの、危機前に比べてまだ5,000万人分余りの仕事が不足しているといったように雇用情勢は世界的に警戒すべき状態にあり、近い将来回復する兆しが見られないとして、世界がより大きな問題をはらむ新たな雇用危機の時代に突入しつつあることを警告しています。
報告書はこの理由として、
1)先進国を中心に多くの政府が優先事項を財政緊縮と労働市場改革の組み合わせに移し、
2)先進国では多くの求職者が意欲をなくし、技能を失いつつある一方で、小企業は資金調達機会が限られ、投資や雇用創出が抑えられており、
3)ほとんどの先進国で新たに創出されている仕事の多くが不安定雇用であり、
4)サハラ以南アフリカと中東・北アフリカを中心に世界の多くの場所で社会の雰囲気が悪化していることを挙げています。
そして、欧州におけるものを中心とした最近の改革の幾つかが雇用創出に失敗している一方で雇用の安定性を低下させ、不平等を悪化させたことを示して、労働市場の規制緩和と財政緊縮の組み合わせは短期的な雇用展望の促進に結びつかないと記しています。一方で、雇用に優しい租税政策の組み合わせと公共投資や社会給付支出の増大が実施されれば、先進国では来年にかけて200万人分近い雇用が創出されようと唱えています。
報告書が見出したこの他の事項には以下のようなものがあります。
•2007年以降に先進36カ国中就業率が上昇したのはオーストリア、ドイツ、イスラエル、ルクセンブルク、マルタ、ポーランドの6カ国のみ
•若者の失業率は先進国の約8割、途上国の3分の2で上昇
•貧困率は先進国の半分、途上国の3分の1で上昇、不平等度は先進国の半分、途上国の4分の1で増加
•先進国の求職者の平均4割以上が1年以上の長期失業者、途上国では大半で長期失業率と非労働力率の両方が低下
•先進国の3分の2で非自発的なパートタイム雇用、半数以上で臨時雇用が増大
•新興経済諸国及び途上国の3分の2でインフォーマル就業者の比率が4割以上
•情報が得られる40カ国中26カ国で2000~09年の期間に労働協約が適用される労働者の割合が低下
•一部新興経済・途上国群の28%、先進国の65%が危機時に社会給付を削減する政策を実施
•世界の投資額は2010年に国内総生産(GDP)の19.8%と、過去平均より3.1ポイント低く、下降傾向は先進国でより顕著。すべての地域で世界危機は小企業の投資に不均等に大きく影響ILOは報告書と同時に米国や欧州など複数の先進国について概況を発表しましたが、日本については、2011年の東日本大震災は既に弱かった世界危機からの回復力に相当の影響を与えたとして、非労働力率が2011年に40.7%(2009年40.1%)に上昇したこと、就業率が低下したこと(2007年第3四半期58.3%→2011年第3四半期56.6%)などを記して労働市場の状況が依然弱いことを示した上で、公共支出の削減が社会に相当否定的な影響をもたらす可能性を指摘し、雇用目標を満足しつつ財政不均衡に取り組むことは可能として、景気再生に不可欠な公共支出のために、貧困世帯の可処分所得への支援措置を伴う税収増を通じた予算強化を提案しています。
ブラジル、インドネシア、ウルグアイなどインフォーマルな就業形態を減らしつつ、就業率の上昇を達成した国の例に見られるように、主として巧みに設計された雇用・社会政策の導入を通じて雇用の質を改善しつつ雇用を創出すること、あるいはそのいずれかに成功した国もあります。
報告書を作成したILO国際労働問題研究所のレイモン・トレス所長は、多くのユーロ圏諸国が財政緊縮に狭い焦点を当てていることが雇用危機を悪化させ、欧州の新たな景気後退を導く危険性があるのに対し、仕事を中心に据えたマクロ経済政策を選択した国は経済・社会面でより良い結果を達成していることを指摘してこれらの国の経験から学ぶことを提案しています。
本書は2009年版以降、『世界労働レポート』の邦題で、(株)一灯舎から日本語版が発行されています。
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