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子育て新システムについて8つの疑問 保育学会

 国会に上程された新システム法案に付いて、保育学会が、子育て、保育制度を大きく変容させるどう制度について、政府による明確な説明と国会での慎重審議をもとめて8つの疑問を提出。
 保育3団体などもワーキングチームに入り、「とりまとめ」の議論に参加した(内容にすべて賛成したわけではない)経過があるので「疑問」という形になったのだと思うが、疑問は、肝の部分にむいており、事実上「反対」と読める。
8つの疑問を私なりに、要約すると
・平等主義の視点の弱さ /市町村の実施義務がなくなり、現物給付から現金給付への変更。
・これまでの到達点を無視した幼児期の教育と保育の理念の曖昧さ。
・多元化・複雑化した制度。すべての子どもに対する権利保障の基本原則と矛盾。
・直接契約、保育時間の認定制により親と子どもは不安定な状況におかれる。
・給付費が保育者の処遇や保育環境の改善に必ず充てられるという保障がない。
・待機児童数の把握する責任、施設整備の責任があいまいに。財源保障も不明確。
・追加費用7千億円あれば3歳以上の幼児教育無償が可能、効果的か。
・保育にかかわる経費はすべて親の給付と保育料等(施設整備は、こども園給付内に、減価償却費の一定割合を算定)。現物給付への公的責任の後退

【子ども・子育て新システム関連法案に関する私たちの見解
日本保育学会政策研究委員会としての8つの疑問 5/5】

【子ども・子育て新システム関連法案に関する私たちの見解 政策研究委員会としての8つの疑問】

一般社団法人日本保育学会保育政策研究委員会

日本保育学会は、乳幼児保育の実践者と研究者が協力して保育研究を進めることをめざして1948年に設立され、60年間の歴史を持ち、約4800名の会員による保育に関する日本最大の学術研究団体です。子ども・子育て新システム関連法案は、今後、良質な保育環境保障と保育の質の向上を進める保育の制度・政策を考えるうえできわめて重大な問題であり、学術研究成果に鑑み看過できない喫緊の問題を持つと判断し、日本保育学会保育政策研究委員会として、見解をまとめ、公表いたします。

政府の少子化社会対策会議は、2012年3月2日「子ども・子育て新システムの基本制度」(以下「基本制度」)及び「子ども・子育て新システム法案骨子」(以下「法案骨子」)を決定しました。政府はこの「基本制度」及び「法案骨子」案に基づき、子ども・子育て新システム関連法案(総合こども園法案、子ども・子育て支援法案、関係法律の整備等に関する法律案)を3月30日閣議決定し、2012年通常国会に提出しました(以下「新システム関連法案」)。提出された新システム関連法案関係資料はA4版730頁余(内、2法案条文及び整備法案法律本文で258頁)と膨大で、大変複雑な内容であり、これまでの保育制度よりわかりにくい内容になっています。

 「基本制度」の冒頭において子どもの権利保障の重要性について次のように述べています。
 
 「親の経済状況や幼少期の生育環境によって格差が生じることがないなど、子どもの最善の利益を考慮し、幼児期の学校教育・保育のさらなる充実・向上を図るとともに、すべての子どもが尊重され、その育ちが等しく確実に保障されるよう取り組まれなければならない」

 この理念が新システム関連法案においても明確に位置づけられなければならないという視点から、以下、危惧される8つの疑問点をまとめてみました。
 いずれの課題もこれからの日本の保育制度・政策を展望するうえで、きわめて重要と考えます。特に、新システム関連法案は戦後築いてきた制度を大きく転換する内容であることから、この8つの疑問について、保育関係者だけでなく国民諸階層を含め社会全体でしっかりとした論議を深めていただきたいと考えています。とりわけ、関連法案が国会に上程されたことから、国会審議においては慎重かつ徹底した審議を切望し、国民へのしっかりとした説明責任を果たせるような対応を切に望みます。

○第一、法案の理念と子どもの権利保障について

 法案の理念において、「子どもの健やかな成長」等については明記されていますが、「すべての子どもが尊重され、その育ちが等しく確実に保障されなければならない」という平等主義の視点の強調が明確でないように思えます。今日の格差社会の状況下で、「子どもは社会の力であり、未来をつくる力である」(「基本制度」前文)という理念の実現のためには、「すべての子どもの育ちを等しく確実に保障する」という理念や「入所する子どもの最善の利益を考慮する」(保育所保育指針)等子どもの権利保障の原則が、法案の理念に明確に示され、国・自治体及び社会全体で共通に確認できるような内容にすることが必要と思います。とりわけ、選択力・判断力の未熟な乳幼児期の子どもに最善の利益を等しく保障していく営みを継続的に進めるためには、国・自治体の果たす責任はきわめて大きいといえます。

 現行の児童福祉法では「親の保育所入所・選択の権利」を保障するために「市町村の保育実施責任義務」が課せら、「保育に欠ける」状態の子どもの保育を受ける権利は何とか法的には保障されています。この法律の規定を、すべての子どもに拡大し、保育を受ける権利保障を明文化できるように発展させることが必要です。

 また「等しく確実に保障する」ためには、どこの園に入園しても、一定水準以上の保育が等しく確保されなければならないことから、国と自治体が責任をもって保育者の配置や環境整備等現物給付がきちんと保障されることが必要不可欠です。新システムではこども園現金給付(親への直接補助方式)制度となり、国・自治体からのこうした現物給付が難しくなり、平等の確保がどのように実現されることになるのか危惧されます。

○第二、「教育・保育」の理念について

 「総合こども園法」では「幼児期の教育及び保育が重要である」と強調し、「教育・保育」という用語も多く見られますが、乳幼児期の子どもを主体とした教育・保育の理念やその規定については、きわめて複雑で不明瞭に思えます。

 総合こども園法(第2条)、子育て支援法(第7条)において、幼児期の教育と保育について定義しています。

 教育については、教育基本法第6条1項で規定する学校において行われる教育であるとしています。教育基本法の規定は教育の一般的規定であって、幼児期の教育を規定しているものでありません。学校教育体系における幼稚園の目的については、学校教育法第22条で「幼稚園は、義務教育及びその後の教育の基礎を培うものとして、幼児を保育し、幼児の健やかな成長のために適当な環境を与えて、その心身の発達を助長することを目的とする」と定め、幼稚園教諭は「保育をつかさどる」(学校教育法第27条⑨)と明示され、幼稚園の目的は「保育」であることが示されているといえます。この理念にもとづいて進めてきた幼稚園の保育概念をなぜ位置づけないのですか。

 しかも、総合こども園法第3条の「教育及び保育の目標」では6項目がしめされ、そのうち5項目は「幼稚園の目標」5項目(学校教育法第23条)と一字一句同じ文章です。総合こども園も幼稚園も目標はほぼ同じなのに、なぜ現行の学校教育体系に位置づけないのですか。幼稚園の保育・幼児教育とは異なる別のあらたな「教育及び保育」概念を持ち込もうとしているようにも読み取れます。違うのならその内容を明確に示すべきなのに、それも示されていません。保育・幼児教育概念の二元化になりかねない危うさを感ぜざるを得ませんし、混乱を持ち込むことになりかねないと危惧します。

 さらに保育については、児福法改正案の一時預かり事業を規定(第6条7項)している文章の中で示されています。それは「一時預かり事業は家庭において保育を受けることが困難となった乳児又は幼児…」の文脈の保育に「(養護及び教育(第39条の2第1項に規定する満3歳以上の幼児に対する教育を除く)を行うこと)」と記されています。

 まず、なぜ保育の規定を、一時預かり事業の規定において示しているのかということです。保育所等の保育は「家庭における保育」と同じという位置づけなのでしょうか。本来なら、基本理念にかかわることから、総合こども園や保育所の目的等の条項で明確に示されるべきと思います。

 さらに、保育を「養護及び教育」と記していますが、総合こども園の3歳以上児の保育には「教育」が除かれるという意味に取れます。この用語の使い方からすると、3歳以上の午前中の保育は「教育」であり、早朝や午後は保育であるとも理解されます。もしそうであるなら、現行保育指針では「養護及び教育を一体的に行うことを特性とする」と保育を規定していますが、これとも矛盾します。また幼稚園の目的は「保育」としている学校教育法の規定とも異なります。あらたに教育と保育、養護と教育とを分離する考えを取り入れようとしているのでしょうか。

 このように新システムでの「幼児期の教育及び保育」の概念は、あいまいさと不明瞭さで、一層複雑となり、混乱を助長しかねないのではないかと危惧します。

 今日求められていることは、これまでの幼稚園・保育所の二元化制度の下で、育まれてきた保育・幼児教育の理念をきちんと整理し、乳幼児期の子どもの権利保障の視点からどのように発展させるかを方向付けることにあります。

○第三、制度や施設の体系について

 「基本制度」において、「幼保一体化を含め、制度・財源・給付について、包括的・一元的な制度を構築する」と強調しています。しかし、「関連法案」では現行の幼稚園制度は残り、総合こども園(幼稚園型、保育所型、企業等適合法人型)と指定こども園(幼稚園型、保育所型、認可外等届出保育施設型)、指定地域型保育事業(小規模保育、家庭的保育、居宅訪問型保育、事業所内保育)と4分類され、基準もそれぞれ異なり、施設種類は10~11パタン程度に多元化・複雑化することが予想されます。さらに法律も現行の文科省管轄の学校教育法(以下学教法)、厚労省管轄の児童福祉法(以下児福法)の他に、新たに内閣府管轄の総合こども園法、子ども・子育て支援法(以下子育て支援法)が作られています。総合子ども園だけは認可制度となっていますが、こども園給付を受けるためには、新たに「指定こども園」の指定も受けなければならないのです(子育て支援法第31条)。そのうえ指定は「5年ごとにその更新を受けなければならない」(同第33条)とされています。さらに、総合こども園法では総合こども園を学校教育法の学校ではなく、教育基本法第6条の学校に位置づけています。総合こども園は大変複雑な制度になっています。

 管轄省庁も現在の二元化から、あらたに内閣府を参入させて三元化となっています。「一元的な制度」を掲げながら、これだけ多元化・複雑化していることは、当初の目的や理念から大きくかけ離れた内容になっているといえます。「基本制度」に示された方針にもとづくなら、現行制度をどのように「一元的な制度」に移行するのか、どのように改善されるのか具体的プロセスを明確にしめすことこそ必要ではないでしょうか。その際大切なことは、前述した入園・入所する子どもの最善の利益を考慮するという権利保障の視点から、制度や施設の体系のあり方を検討することが大切です。

 子どもの権利を平等に保障することを最優先に考えるなら、まず、施設基準は一元化されなければなりません。総合こども園、指定こども園、指定地域型保育事業等それぞれ異なる施設基準になるなら、ダブルないしトリプルスタンダードとなり、すべての子どもに保育を等しく保障するという子どもの権利保障の基本原則と矛盾することになります。施設の基準は、「すべての子どもの育ちを等しく確実に保障する」という視点をふまえて、現行の幼稚園・保育所水準以上の基準に一元化することが必要です。同時に、その施設整備の費用については国と自治体による施設への補助金などの財政保障が制度的に確保されていなければならないと考えます。

 法律や行政管轄については、多元化・複雑化ではなく現行の幼稚園や保育所それぞれのメリットを生かし、子ども福祉と教育との一体的対応を目指した「一元的な制度」に整理・統合していくことが大切と思います。

○第四、園への入所手続きや保育時間のあり方について

 保育所や子ども園への入所手続きや保育時間のあり方は子どもの視点から考えられなければならないのです。
 現行制度では「親の保育所入所・選択の権利」を保障するために「市町村の保育実施責任義務」が課せられていて、市町村の責任で希望するすべての子どもの入所認定と入所申請を一体的に行い、認定内容も就労等の有無等単純であり、特別に支援の必要な子どもの優先的入所も配慮され、待機児童数もカウントすることになっています(児福法第24条)。しかも朝から夕方まで1日の保育を入所児童すべてに等しく保障するというシステムです。簡素で単純な手続きで、親や子どもへの安心度が高いといえます。

 しかし、新システム制度では、市町村の保育実施責任義務が解除され、市町村の責任は親の申請に基づき給付認定証を交付することになります(子育て支援法第20条)。園への入所はこの給付認定書を受けたうえで、親は園との直接契約で入所するという二段階の手続きと複雑になります。入所決定の手続きが複雑になることで、親と子どもは不安定な状況におかれます。

 そのうえ、認定書には親の就労時間に応じた「保育必要量」(保育時間区分)さらにはひとり親等の優先理由、所得階層別保育料額などプライバシー条項も記入されることになっています。それらに変更があれば親は「変更の認定を申請する」ことになりますし、市町村の職権で給付認定の変更もできることになっています(子ども・子育て支援法第23条)。認定内容に変更があれば、入所契約の変更にもなりかねないのではないのか一層不安になります。また、日本の場合、親の就労時間もサービス残業や繁忙期、通勤上のトラブル等で一定でない場合が少なくないのです。自営業、農業・酪農従事者等の就労時間も一定ではありません。認定された保育時間を超えると実費料金を支払うということにもなります。このように親の就労時間で保育時間が左右されることは、手続きが一層複雑で煩瑣になり、その度に親や子どもは不安定な状況に追い詰められたりして、子育ての不安が一層助長されかねないのではと危惧されます。

 乳幼児期の保育時間は親の就労時間を配慮しつつも、子どもの生活と発達保障の視点を中心に決められることが必要です。園生活における望ましい子どもの生活リズム、子ども自身の体調や心身の状況の変化をふまえての対応が大切です。楽しく友だちと遊でいる途中や、食事やおやつを食べている途中で、子どもの思いが一方的に無視され、親の就労時間等の都合で帰宅させられる等ということは、あってはならないことです。

 子どもにとっては、園生活を楽しみ、ゆとりを持って家庭生活への接続がされるよう配慮されなければならないのです。園生活の主体は子どもであり、その子どもの園生活のリズムが配慮された保育時間でなければなりません。このことは、保育の質の確保にとって前提必要条件です。「保育必要量」という用語は、親の就労時間だけで保育時間を決める等子どもにとって望ましい園生活のリズムや保育の質の確保が無視されかねない危惧を感じます。

 さらに、特別に支援の必要な子どもの入所については、子育て支援法ではなく、児福法(第24条)での措置入所となります。一般の子どもは給付認定証を受けて、園との直接契約ですが、特別に支援の必要な子どもは市町村の措置入所と子どもの入園・入所が二元化されています。このことは、子どもの権利保障を考える上で、子どもが法的に2種類に分けられることなりかねない等重大な問題を内包しています。

 子どもの権利保障の視点から、だれでもが安心して入所できるには、親の就労や所得状況等で影響を受けることなく、市町村の責任で、すべての子どもに等しく保育を保障できるシステムが必要であり、入所の認定や手続きは簡素で一体的・一元的に対応することが求められます。保育時間は子ども達がみんなで楽しく園生活に参加でき、楽しく過ごして、安心して帰宅できる時間帯(一般的には朝から夕方)を基本に考えることが大切です。

○第五、ナショナルミニマムとしての施設基準と保育の費用について

 すべての子どもの保育の質を等しく確保するためには、保育者等職員の資格、保育者等職員の配置基準、クラスの規模、面積基準、建物等の安全基準などはナショナルミニマムとして位置づけ、すべての地域で遵守する基準として、国が主務省令ではなく、法律に明記することが必要と考えます。自治体の独自性は、地域の状況や特殊性などを配慮して、保育の質の向上を進める視点から、ナショナルミニマムを超える水準の確保を図るということで発揮することに意義があります。現行制度においては、市町村の保育実施義務の規定を受けて、国の基準で不十分な内容を独自財源で改善する等の取り組みも見られ、国の最低基準の向上に貢献してきています。こうした自治体の取り組みについて、国が十分な財政保障を進めてきていないということには課題が残されています。この課題についても新システムの検討では、ほとんど論議されていません。しかも、新システム関連法案では、このナショナルミニマムは、一層あいまいになり、ほとんど主務省令で定めるとして明らかにされていません。

 また、ナショナルミニマムとして定める内容については、国の財政負担がともなわなければ実現できません。現行制度では、児福法第45条(設備運営基準)を受けて児福法第50条6の2及び第51条、第53条において、「基準を維持するために要する費用」について国と自治体の負担が義務づけられています。

 新システム関連法案の施行に伴う児福法改正案おいては、「第45条1項の基準を維持するために要する費用」(第50条6の2)という規定が削除され、園の運営費への補助金規定は廃止されています。子ども子育て支援法では、「子育て支援」として「子どものための教育・保育給付」を子どもの保護者に支給する制度にあらためられています。その給付費は内閣府令で定めた「指定教育・保育(保育にあっては、保育必要量の範囲内のものに限る)」を受ける保育の費用に限られています。これを「支給認定教育・保育」としています(子育て支援法第27条1項)。
 該当する子どもが園から「支給認定教育・保育」をうけたとき、市町村は、「支給認定教育・保育に要した費用」として、「給付費」を保護者に代わり当該園に支払うことになります。「支給認定教育・保育に要した費用」として園に支払われることから、すべて「教育・保育」に使われなければならないことは当然です。

 しかし、子育て支援法では、支払われた給付の使途制限については、指定こども園や指定地域型保育事業では、何らの法的規制は示されていません。総合こども園については、総合こども園法において、使途規制のない指定こども園や指定地域型保育事業への流用や配当金(限度額は政令で定める)に充てることができるとなっています(総合こども園法第7条4項)。給付費は「支給認定教育・保育に要した費用」とされているのに、その使い方にはきちんとした規制がないのです。そのため、給付費が保育者の処遇や保育環境の改善に必ず充てられるという保障がないシステムであり、結果として「教育・保育」の条件改善が大変困難になることが予測されます。財源の流れはきわめて不透明となります。

 貴重な国民の税金が原資であり、消費税増税を追加財源にする以上、給付費の使途は「教育・保育」に限定する使途制限を法的に明確にすることが必要です。さらに、この問題は、国民の税金の使い方の問題であり、民主主義のルールとして少なくとも、国民の了解が必要です。実施する場合でも、支給認定を受けた保護者に、「教育・保育」以外の費用に充てることの承諾や国民への情報公開などの法的手続きも必要と考えます。

○第六、待機児童解消への取り組みについて、

 この新システム改革の大きな理由の一つに「待機児童解消」が上げられていました。新システム関連法案では、待機児童解消が具体的にどのように進展するかが明らかにされていません。
子どもの権利保障の視点から待機児童解消を進めるには、まず、市町村が待機児童数とその実情とをしっかり把握し、その実情をふまえて、その地域の生活環境のあり方をふまえた地域計画として保育所整備計画を作成することです。さらにそれを実施するためには、国や都道府県が市町村に対して持続的・積極的な財政支援を行うことが必要となります。

 現行制度では市町村に保育実施責任が課せられていることで、待機児童数をカウントし、待機児童50名以上の特定市町村については、整備計画の策定が法的に義務づけられ、実施状況を公表するとされています(児福法第24条、第56条8,9)。さらに、法人立認可保育所の新築や改築、老朽改築等の整備費については、四分の三以内の国・自治体の補助規定(児福法第56条の2)があります。そのため、認可保育所の増設や増改築等が進み、私立認可保育所が増え、待機児童解消に役立っています。最近では平成20年度末「安心こども基金」が創設され、保育所緊急整備事業が3カ年計画(平成20~22年度)として実施され、22年度143ヶ所(入所児25961人)増、23年度317ヶ所(46503人)増と保育所不足の解消が少しすすみ、23年度末まで延長、さらに24年度末まで延長と今日にいたっています。この間、待機児童数が減少していることも事実です。こうした国の施設整備補助金制度が必要であることは火を見るより明らかです。

 新システム制度に伴う児福法第24条改正案では、市町村の責任については、保育の実施責任義務が削除されて、総合こども園等施設を「確保するための措置を講じなければならない」(児福法第24条1項)として、不足している場合は「施設の設置者」に対して「児童の利用の要請を行う」(児福法24条2項)となっています。そのため、市町村が直接的に待機児童一人ひとりを把握する法的責任はなくなり、保育所不足の状況を把握した場合には、「施設の設置者」への要請等を前提とした計画を作成で対応ということのようです。

 新システム制度では、内閣府の所管する子育て支援法において、市町村に国の「基本指針に即して5年を一期とする教育・保育及び子ども・子育て支援事業整備計画」の策定は義務づけています(子育て支援法第62条1項)が、「総合こども園等の市町村整備計画」については、児福法改正案において「必要な場合は…作成することができる」(児福法改正案第第56条の4の2)と努力義務にとどまり、前述の現行児福法の市町村保育計画義務づけ規定から大きく後退しています。国や自治体の責任で待機児童解消のための整備計画を作成することができにくくなるといえます。

 新システム関連法案では、これらの計画を進める施設整備への財源については、児福法改正案(第56条の2)で、施設への補助金制度が廃止されて、私立保育所の新設、修理、改造又は整備に要する費用の四分の三以内補助規定は削除されています。新設園の建設費は設置者負担が原則となり、多額の準備資金ない限り私立認可園の新設は困難となります。それだけではなく、老朽改築や定員増改築も難しく、認可園の存続にもかかわる重大な問題といえます。

 さらに、子育て支援法での「子育て支援事業整備計画」については、財源保障の規定は見あたりません。児福法改正案の「総合子ども園等の市町村整備計画」については、国は、市町村に対し、「厚生労働省令で定めるところにより、予算の範囲内で、交付金を交付することができる」(児福法改正案第56条の4の3)として、補助率も示されない、きわめて限定的な交付金となっています。内閣府管轄の子育て支援法の事業整備計画と厚労省管轄の施設整備計画に二元化され、複雑化し、そのうえ国の財源保障は、施設補助金の廃止できわめて限定的です。市町村にあっては、縦割り行政の複雑化と財源保障の大幅な縮小等国の責任があいまいになり、これまで以上に不安が増え、整備計画を進めることが困難になるのではないかと危惧されます。

 消費税増税で7千億円を追加財源で確保するとしているのに、待機児童解消の解決策が示せないのは制度が複雑で、財源の流れと成果とが見通せない制度設計に原因があるのではないかと思います。

 待機児童解消を進めるには、市町村にきちんと待機児童数や状況を把握する責任とその計画作成を義務づけ、国や都道府県に財政的支援の責任を義務づけることが必要ではないでしょうか。「基本制度」の「Ⅰ市町村、都道府県、国の役割」において「市町村が制度を実施し、国・都道府県等が制度の実施を重層的に支える仕組みを構築する」と強調していますが、これをふまえれば、当然国が保育所整備補助金制度の充実等子育て支援事業への財源保障を明確に示すことこそ必要と思います。そのためには、現在の安心こども基金の保育所整備補助金制度の取り組みを拡充、発展させて、中期的(5カ年程度)な保育所緊急整備計画に着手することが必要ではないでしょうか。


○第七、消費税増税7千億円の追加財源について

 財源については、消費税増税で追加財源7千億円を充てるとしています。新システムでは国が子ども・子育て包括交付金として市町村に財源を支給することになっています。包括交付金は「こども園給付」、家庭的保育等の「地域型保育給付」、「子ども手当(児童手当)」、さらに延長保育、病後児保育、学童保育、妊婦健診等諸々の子育て支援事業として「子育て市町村事業」経費等からなり、地域の子育て支援事業全体の財源として一括で国が市町村に支給するというシステムといえます。「こども園給付」、「地域型保育給付」、「子ども手当(児童手当)」は義務的経費で負担率が決められていますが、「子育て市町村事業」は裁量的経費で「予算の範囲内での交付金」(子育て支援法第69条2)ときわめて限定的です。市町村はこの包括交付金と独自財源を合わせた財源で、独自の基準と判断で、子ども手当やこども園給付等地域の諸々の子育て支援事業に財源を配分して進めることとされています。

 そのうえ、新システムのこども園給付額は「子どもの区分、保育必要量、当該指定こども園の所在する地域等を勘案して」国の定めた基準により算定した費用の基準額から、「政令で定る額を限度として」親の所得状況などを勘案して市町村が定める保育料額を控除した額で決められます。つまり、給付額の基準額は国の定めた額であり変えることはできないことになるようです。保育料は市町村が定めることで違いが生じます。保育料を国の基準より軽減すれば、独自財源が必要となります。「子育て市町村事業」の充実を図ろうとすれば、交付金のため独自財源が必要となります。自治体の自主財源の状況で、給付額や子育て環境整備に格差が拡大することになりかねません。

 しかも、こども園給付はすべての乳幼児を持つ家庭を対象に申請できることから、全国で約400万人以上が対象となります。これらのすべてを国が管理するには、統一した管理ソフト開発など間接経費があらたに必要になると推測できます。保育に直接充てられるべき財源が、こうした間接経費に回されることになりかねないのではと危惧します。

 こうした複雑なシステムなのに、追加財源7千億がどの分野にどの程度配分されるのか、自治体の独自財源はどの程度必要か等のシミュレーションも示されていません。消費税増税を充てる以上、7千億円がどのように配分され、保育の現場にどの程度投資されるのか等財源の流れを透明にすることが必要です。消費税増税がなぜ必要なのかを国民に説明するうえでも必要な手続きです。

 現行制度の下で、7千億円という額は、「幼児教育の無償化」の財源に匹敵します。無償化については2009(平21)年5月文科省研究会の中間報告で幼稚園と保育所三歳以上児約300万人対象に7千9百億円と示されています。仮に消費税増税で7千億円を使う場合でも、「幼児教育の無償化」を含めた論議を行い、どの選択が好ましいかを国民的に論議することが大切と考えます。現行制度で「幼児教育の無償化」を優先させるという選択肢もあるからです。作業チームに出された資料では、日本の保育料(親負担率)は、国ベースで3歳以上(公私立幼・保合計)は経費の55%です。OECD調査では3歳以上の平均親負担率は20%程度ですから、日本は先進国の中で最も高いグループに入ります。この改善はきわめて重要な課題になっています。それなのに、新システムでは親の保育料軽減についてのシミュレーションも示されていませんがどうしてなのでしょうか。

○第八、親への直接補助(こども園給付)方式制度になぜ変更するのですか

 以上の検討から、新システム制度案は戦後築かれてきた現行制度を根底から大きく変えようとする内容といえます。

 現行保育制度は国と自治体の責任で、幼稚園・保育所への補助金制度と親への保育料減免補助制度の両立支援を基本としたシステムとなっています。国と自治体が幼稚園・保育所への運営費や施設整備補助金を交付し、一定水準以上の保育を提供できるよう条件整備をはかることで、保育への責任を果たすことになります。その結果、親には現物給付として保育が提供されているのです。保育を受ける費用として親が支払う保育料についても国・自治体が補助金で軽減措置を図り、利用しやすい環境が保障されることになるのです。

 国と自治体が保育水準の確保に責任を持つ制度であることから、保育者の配置人数や保育室の広さ等保育環境の不十分さや高い保育料等については、国の補助金が十分でないことに原因があることが明確になります。その改善には、いうまでもなく、国と自治体の対応責任が問われ、どの程度の財源保障をすれば、どのような改善がされるかが見通せます。

 新システムでは親への直接補助方式としてこども園給付が交付されるが、施設への補助金制度は廃止されます。保育にかかわる経費はすべて親の給付と保育料等で賄うことになります。国や自治体は、親への現金給付の交付についての責任義務は持ちますが、現物給付としての園の環境整備については直接補助金を交付する法的責任がなくなるため、間接的責任での対応になります。そのうえ、前述したように、園に支払われた「給付費」の使途制限が大幅に緩和されているため、経費のすべてを保育に充てなくとも法的に許されます。そのため、国と自治体の責任が弱まり、資金の流れも不透明で見えにくくなります。

 この60余年の間、日本の保育制度を支えてきた現行補助金制度を廃止して、親への直接補助 (こども園給付)方式制度に変えなければならないのは、どのような理由からでしょうか。また、この二つの制度についての比較検討がどのようになされたのでしょうか。二つの制度の比較検討を明確に示して、保育関係者や多くの国民がきちんと選択できるような説明責任が果たされなければならないと考えます。

 この制度の変更は、保育に対する国・自治体の責任のあり方、保育行政の進め方、施設運営のあり方を大きく変えることになりかねませんし、強いては、地域の子育て環境や支援のあり方にも大きく影響をもたらすことになります。


 以上とりわけ重要と思われる問題について、8つの疑問として見解をまとめましたが、いずれの内容も、乳幼児保育の質を向上させるうえから、きわめて大切な課題です。私たちの趣旨をくんでいただき、国会審議において、政府は丁寧な説明と慎重な審議がはかられるよう十分な配慮をし、各政党は徹底した審議を行い、国民への説明責任を果たせるような審議内容であることを切望いたします。

 また、保育の実践や研究にかかわる私たちは、子どもの視点から乳幼児保育の質的向上を図るために、実践的・学術的成果に基づき、現行保育制度と新システム法案の比較検討等積極的・社会的な論議を重ね、今後の保育のあゆみに禍根をのこさない、よりよい制度・政策の構築に貢献していくことが大切と思います。

2
012年5月5日 一般社団法人日本保育学会第65回大会
子どもの日を迎えるにあたり
一般社団法人日本保育学会保育政策研究委員会
村山祐一(委員長)、岡健(副委員長)、岡上直子、
小川博久、柴崎正行、田中泰行、山縣文治、吉田龍宏

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