尖閣 「都が土地買取」の「?」
石原知事が、尖閣諸島の土地を都が買い取ると発言した。
自治体の土地購入には、住民の利益にとってどうか、というフレームがある、という問題は、脇において、なにが「国民益か」を、私なりの考えを少し整理してみた。
(追記、今朝の社説)
【[尖閣購入計画]石原知事の狙いは何か 沖縄タイムス4/18】
【「尖閣」石原発言 都税は暮らしのために 東京新聞4/18】
一次大戦、二次大戦をたたかったドイツとフランスは、石炭鉄鋼の共同開発というスキームの中で、現在の関係をつくった。ベトナム戦争を敵味方でたたかったアセアンは、民族、宗教、政治体制の違いを超えて、平和共存のスキームで今や世界をリードする役割を果たし、中国との領土問題でも平和的解決の枠組みをつくる知恵を発揮している。
。どの国にあってもそうだが、理性的に解決する潮流と膨張主義・冒険主義的潮流があるが、対応する国は、相手国のどちらの潮流を激励する対応をとるべきか。そこに知恵がいる。
では、日本はどうか。日本にとって核心的、死活的利益は何か、から考えないといけない。
中東をはじめ石油・資源輸入国との安定した関係をこわさないこと(イラク、アフガン戦争の協力で、失いつつある信頼をどう回復するか)
地理的にも近くであり、成長する中国、インド、アセアン、またロシアとの良好な関係をどう築くか。米国一辺倒でない多様性が、経済のうえでも安全保障の上でも(経済の相互依存の拡大は、安全保障の土台となる)欠くことのできないものではないか。
そのためには、大きな柱として、日本が9条にもとづき平和の貢献(紛争の仲介・軍縮、医療・教育、環境、災害復旧などの分野)を、どう果たしていくのか、が問われていると思う
次に、領土問題の扱いである。
領土問題は、船舶の性能、航海技術の向上により、漁場としての価値が生まれ、さらに技術の飛躍的な発達により、海底資源の利用が現実化するもとで、鋭い問題となってきた分野である(昔は、取るに足らないモノだった。だから問題にならなかった)。
尖閣諸島、竹島、「北方領土」…それぞれに歴史があり、相手の主張がある(その主張には、今の国際ルールは、欧米諸国が『優勢』な環境のもとで、つくったルールだ、という異議も含めて)。
領土問題というのは、相手も「正義」を掲げ、こちらも「正義」を掲げている。
で、どうするか。
①一歩の妥協も「国益を損なう」と主張し、最終的には武力対決も辞さない。
この「勇ましさ」は、一時の「溜飲が下がる」思いはもてると思う。栄養にはならないが、スカッとさわかやコカコーラ的対応。(飲みすぎると、ペットボトル症候群や添加物の懸念が生まれる点でも、似ている)
②こちらの「大義」を主張しつつも、相手の「大義」にも配慮し、相手国の中の「理性的解決」を求める流れを激励し、「死活的利益」という判断のもと、「実利」を勝ち取る。
スカッとはしない。苦いが、体によい青汁的対応。
たとえば、東シナ海海底油田開発。日本は、開発地域は、中国の排他的経済水域であっても、中間点の間際で、吸い上げる資源は、日本の排他的経済水域の分もある、と主張し、一方的な開発に抗議している。
中国が「共同開発」を提案した。これをどうみるか。実は、海洋法条約にかかわる国際裁判所の最近の判例は、中間点を基準にしながら、「特別の事情を考慮する」というもの。
つまり、それぞれの領土の中間点であっても、その始点が片方が大陸、片方が島の場合、大陸側を重く見て線を引くというもの。これで、行けば、排他的経済水域は、圧倒的に中国側が大きくなる。
問題は、それがわかっていて中国がなぜしないのか。エネルギーが逼迫しているので、一刻も早く開発したいからである。
それは、日本にとっても、その利益が還流できる点で意味がある。徹底抗戦したら、何ものこらない。
尖閣で言えば、日中国交回復時に、中国が「棚上げ」を主張し、日本が実効支配している、という現状を維持し、紛争に発展させない枠組みが大事ではないか?
アセアンと中国の議論に、日本、韓国が加わる「アセアン+3」の枠組みで、互恵の立場で、それぞれが抱える領土問題を包括的に平和的に解決するスキームをつくる知恵があってもいいのではないか。
(この点で、日韓の領土問題を理性的に処理することが、中国に理性的対応を一致して求める力になる。)
石原都知事の主張は、国益を考え抜いた戦略とは思えない。
コカコーラ的発想では、未来を創ることができない、と思っている。
(国や宗教の対立をメディアは言うが、本質は、一握りの巨大多国籍企業との対決。死の商人が「利益」確保の場をねらっている、ことを忘れてはならない。そして巨大メディアも巨大多国籍企業のお仲間である。)
【[尖閣購入計画]石原知事の狙いは何か 沖縄タイムス4/18】石原慎太郎東京都知事が米ワシントン市内で講演し、尖閣諸島を買い取るため都が最終調整に入っていることを明らかにした。
民間の地権者と詰めの交渉を進めており、年内の取得を目指しているという。
尖閣諸島が歴史的にも国際法上も、わが国固有の領土であることは言うまでもない。
石原氏の狙いは何なのか。
国民の注目を集めるための石原氏一流の政治的パフォーマンスのようにも見えるが、日中双方に新たな混乱を招き、緊張感を高めることにつながらないか、危惧する。
都が購入する予定の尖閣諸島は、魚釣島、北小島、南小島の3島。現在、国が地権者と賃借契約を結び管理している。賃料は年間で計2450万円に上るという。
尖閣諸島は行政的に石垣市に属している。東京都が沖縄県、石垣市を飛び越えて買い取るのは釈然としない。都民の税金が使われるが、東京から遠く離れた尖閣諸島を購入することに理解が得られるだろうか。都は寄付を募り、国民運動的な広がりにしたい考えのようだ。
領土、領海に関しては国の専権事項である。仮に領土をめぐって中国とトラブルが起きたとしても東京都が何か手出しできるわけではない。
都の買い取り構想は唐突な感じは否めないが、国境の島を個人が所有することについては議論の余地がある。
領有権を主張する中国は「いかなる措置も不法で無効だ」とし、台湾も「全く認められない」と反発を強めている。
ことしは日中国交正常化から40周年を迎える記念すべき年であるのに、ぎくしゃくが続いている。
2010年9月には中国漁船衝突事件が起き、日中間は最悪の状態に陥った。
ことしに入ってからも河村たかし名古屋市長が「南京虐殺事件」はなかったと発言し、友好都市の南京市との交流が冷え込んでいる。
日本政府が尖閣の島々に名前を付けると、中国も対抗して独自の名称を付け、尖閣諸島を初めて「核心的利益」と位置付けるなど対立が激しくなっている。
漁業監視船が領海侵犯するなど海洋権益のため活動を活発化させる中国の行動はエスカレートする傾向にある。
石原氏は国民の一部にある中国への警戒感に火を付けようとしているのだろうか。それとも有効な手だてを打てないでいる民主党政権を覚醒させようとするつもりなのだろうか。都民からも戸惑いと評価の声が上がっている。
東シナ海でトラブルが起きた場合の危機管理を話し合う日中の「海洋協議」の初会合が5月に開かれ、解決の糸口を探ることになっていただけに、このタイミングでの石原氏の発言は残念だ。
低迷から抜け出せない経済など日本を覆う閉塞(へいそく)感のはけ口として領土ナショナリズムに向かっていくことにならないか懸念する。
中国もナショナリズムを刺激され、さらに対立が深まることになりかねない。政府には国民感情に配慮しながら慎重なかじ取りを求めたい。
【「尖閣」石原発言 都税は暮らしのために 東京新聞4/18】石原慎太郎東京都知事が尖閣諸島の一部を都が購入する考えを表明した。政府の対中外交姿勢に一石を投じる狙いだろうが、都が買う必然性はあるのか。都民の税金は暮らしのために使ってほしい。
仰天発言は米首都ワシントンで飛び出した。購入対象は尖閣諸島五島のうち、最大の魚釣島、北小島、南小島の三島。いずれも民間人が所有し、現在は日本政府に貸与している。
都が所有者との間で土地売買に関する基本合意に達したのは昨年末だという。石原氏が直ちに発表せず、購入表明の場に米首都を選んだのは、尖閣問題を国際的に周知させる狙いがあったのだろう。
つまり、中国が「日本の尖閣諸島の実効支配をぶっ壊すため、過激な運動をやりだした」現実があり、実効支配を守るためには「本当は国が買い上げたらいい」が、「外務省はビクビクしている」から「東京が尖閣諸島を守る」と。
大前提として尖閣諸島は日本固有の領土であり、実際に日本が実効支配している。同時に、領有権を主張する中国が経済発展とともに海洋権益確保の動きを強め、尖閣周辺で日本の領海を侵犯する事案も増えている。
こうした中国に対する民主党政権の外交姿勢が、石原氏には弱腰に映るのであろう。国がやらないのなら自分がという、かつて「タカ派」議員としてならした政治家としての自負が見え隠れする。
ただ、尖閣を守るのは政府の仕事であり、外交は政府の専権事項だ。尖閣を個人ではなく、国、尖閣のある沖縄県や石垣市などの関係公共機関が管理することが望ましいことは理解するが、なぜ東京なのかという疑問は拭えない。
都知事の第一の仕事は都民の暮らしを守ることだ。国益を守ることが都民の暮らしを守るという理屈は成り立たなくもないが、都の貴重な税金は子育て環境の充実など身の回りのことに使ってほしいと願う都民は多いのではないか。
田中角栄、周恩来両首相は尖閣問題を棚上げして国交正常化を果たした。自民党政権時代には中国が日本の実効支配を黙認する代わりに日本も中国の体面を汚さない黙契があったとされる。
中国の海洋進出から尖閣の実効支配を守るには、領土領海領空を守る毅然(きぜん)とした態度はもちろん欠かせないが、中国世論をいたずらに刺激することは逆効果ではないか。外交問題を複雑化させない知恵の歴史に学ぶことも必要だ。
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