東電値上げ問題 Q&A 吉井英勝氏
「値上げは権利だ」と公言し、平均17%にも及ぶ大幅で一方的な企業向け電気料金の値上げを発表した東電に、「福島原発事故の原因究明も全面賠償もなしの、一方的な電気料金値上げは許されない」と、Q&A形式で値上げ問題について解明している。
【福島原発事故の原因究明も全面賠償もなしの、一方的な電気料金値上げは許されない!! 吉井英勝4/5】
「値上げは権利だ」と公言し、平均17%にも及ぶ大幅で一方的な企業向け電気料金の値上げを発表した東京電力のやり口に、多くの企業・団体、国民から怒りの声が上がっています。東電は「供給停止」をタテに値上げを押し付けようとしていますが、自由化部門とはいえ、東電には電力供給義務が課されていますから、一方的な供給停止は許されません。
この間、電気料金のしくみについて多くの質問が寄せられましたので、この問題をどう見ればいいかをQ&A形式にまとめてみました。
Q1 値上げに応じなければ、電力供給を止められてしまうのですか?
―――そんな勝手なことはできません。電気事業法第18条第2項では、自由化部門の需要家(=電気の利用者)に対しても、電力会社に対して電力供給義務を課しています。一方的に電力供給を止めることはできません。
引き上げ交渉がまとまらなかった場合にも、東電はあらかじめ経済産業大臣に届け出た「最終保障約款」に基づき電力供給を行わなければなりません(最終保障義務)。西沢社長は「値上げは権利だ」と発言していますが、自分勝手に権利を主張し、福島原発事故の原因究明や被害者への全面賠償、電力供給義務など、本来果たすべき自らの義務にはだんまりというやり方に国民的な批判が沸き起こるのは当然です。
Q2 最終保障義務があるのに、「供給停止」を脅し文句に値上げを押しつけるのは問題ではないですか
―――その通りです。他社との競争がない地域独占を認める代わりに、電力供給についての最終保障義務を負わせているのです。特別な地位を与えられているのですから、その地域の需要家に対し、特別な責任を負うのは当然ですよね。電力供給が止められると需要家にとっては死活問題です。電気代の引き上げを受け入れざるを得ない状態に追い込み、値上げを押し付けるやり方は電気事業法上も問題です。
Q3 自由化部門の料金は電力会社が自由に決められるのでは?
―――自由化部門とはいえ、その料金算定のもとになるのは、家庭などの規制部門と同じ「総括原価方式」で積み上げられた発電コストです。人件費・資本費・減価償却費・燃料費・修繕費・バックエンド費用など、発電のために必要な経費に適正利潤を加えた総原価を、規制部門と自由化部門に分けてそれぞれの料金を算定しますから、自由化部門だからといって、原価をまったく無視した料金体系にはなりえません。
東電は今回の引き上げ率を平均17%としていますが、需要家ごとに13.2%とか16.0%とか、提示された引き上げ幅はまちまちです。根拠も内訳も何ら示さないまま一方的に値上げを提示されても、とても「わかりました」とはなりませんよね。
だいたい「自由化」というのは、需要家に対して供給先を選択する“自由”を与えているもので、東電が好き勝手する“自由”を保障しているわけではありません。
Q4 なぜ自由化部門のみで引き上げが行われたのでしょう
―――東電は引き上げの理由を「燃料費等の負担が大幅に増加したため」だとしていますが、それは家庭などの規制部門でも同じです。それなのに自由化部門のみ先行して値上げを実施したのは、自由化部門と規制部門では料金引き上げの手続きが異なるからです。
規制部門の料金を引き上げる場合には、公聴会を開き広く国民の意見を聞いたうえで、経済産業大臣による認可を受ける必要があります。これら電気事業法に基づく手続きに加え、電気料金は公共料金ですから、「物価問題に関する関係閣僚会議」での協議も行わなければなりません。値上げを申請したとしても、実施するまでには相当の期間がかかります。だから、手っ取り早く引き上げが実施できる自由化部門から手をつけたのでしょう。
しかし、自由化部門のみの引き上げであっても、マンションの共用部分の電力を自由化部門から調達している場合には値上げ対象となります。一般家庭にも直接影響を及ぼす問題でもあるのです。
Q5 今後、家庭など規制部門の料金も引き上げられるのでしょうか
―――東電は、「『総合特別事業計画』の策定や、『電気料金制度・運用の見直しに係る有識者会議』の議論を踏まえ、できるだけ早い時期に国に申請したい」と、家庭用の電気料金の値上げの企みを表明しています。しかし実際に引き上げるためにはQ4のような手続きが必要ですし、何よりも総括原価のブラックボックスにメスを入れることなしに値上げなど認めることはできません。
値上げが必要だというのであれば、東電にはその理由や、総括原価に含まれる費用を説明する責任があります。1つ1つ明らかにさせ、無駄なコストを削ることで値上げ幅を押さえることができます。その際、すでに電気料金1Kwh当たり0.73円も徴収されている「原発付加金」(電源開発促進税・使用済み燃料再処理費用・高レベル放射性廃棄物処分費・廃炉費用を合計したもの。電気料金の明細書には内訳が記載されていない)の見直しや、原発に代わるエネルギー源として再生可能エネルギーを爆発的に普及すること、今後の電力供給の在り方…等々、みんなでしっかり議論することが大事になるでしょう。
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