原発を再稼働しなくても夏の電力は足りる ISEP4/23
政府の「0.4%足りない」という資料との関係でいえは、昨年の20%の節電実績、さらに改善できるスマートな節電と、特にピークマネジメントの取組みを正しく評価し、それを後押しするのか、という姿勢の違いにある。政府は、「過大に見積もった需要を固定視」している。
大阪府市エネルギー戦略会議と関電の話し合いの席でも、関電側のピークマネジメントの努力不足が露呈している。総括原価方式、地域独占で利益を確保したい原子力村の「脅かし」である。---「原発が止まれば石器時代にもとる」という主張はどうなったのか。今動いているのは1機のみ。
各種の世論調査、ロイターの企業調査も、再稼動すべきでない、という声が多数。
【原発を再稼働しなくても夏の電力は足りる ISEP4/23】
【原発を再稼働しなくても夏の電力は足りる ISEP4/23】■ 要旨と提言
・2011年夏の東京電力と東北電力は電力制限令などの節電努力で、ピーク・平均とも前年比20%の節電効果があった
・2011年夏なみの節電で、原発が全停止・再稼働なしでも、全ての電力会社で2012年夏の電力を賄える
・原発再稼働問題と電力需給問題は切り離し、前者は安全性と社会合意により判断すべき
・政府は、需給調整契約の拡充やピーク料金など市場を活用した需要側管理(DSM)の促進を重心的に実施すべき
・政府および電力会社は、過大に見積もった需要を固定視せず、「節電発電所」と見なした需給対策をすべき
・政府は、省エネ・節電投資を促す施策を拡充し、構造的な節電による電力費用総額の削減を促すべき■ はじめに
2011年3月11日に発生した東北関東大地震とそれに続く巨大津波によって、福島第1原子力発電所において国際原子力事象評価尺度レベル7という深刻な原子力災害が発生し、東京電力・東北電力管内の主要電源が被災した。
福島第一原発から放出された大量の放射性物質は、東日本全体の広い地域で様々な被害をもたらしている。多くの住民がいまだに避難を強いられ、農林水産業だけでなく地域の産業が活動停止をよぎなくされた。製造業を含む日本の輸出品が、輸出を拒否されたり、放射線検査を求められ迷惑したこと、農林水産業だけでなく交通や観光産業など幅広い産業に深刻な影響をもたらし、雇用者数5万人に満たない原子力産業のためにその数倍の失業が発生する「原発不況」の状況にある。東京電力管内では夏の需要ピークでの電力需給の見通しから2011年7月1日より大口需要家に対する15%の電力使用制限等が発令され、ピーク需要に対して20%近い節電効果が実証された。国民の多くが脱原発を望む中、日本政府も脱原発依存の方向性を打ち出し、エネルギー政策の根本的な見直しが始まっている。
一方、2012年夏の電力需給が逼迫するという関西電力からの一方的な見通しから、関西電力大飯原発3、4号機の再稼働を目指す政府の手続きが四大臣と経産省により進められている。2012年4月6日には、東京電力福島第一原発事故は津波が原因であって地震や老朽化の問題ではないとの総括のもとに、四大臣会合により、安全対策工事の計画さえ提出すれば工事が終わっていなくても再稼働を認めるといった再稼働暫定基準が発表された。4月13日には四大臣会合においてこの基準にもとづき関西電力大飯原発3、4号の再稼働が妥当とされた。
このペーパーでは、この2012年夏の電力需要のピーク時に、日本全国の原発の再稼動がまったくなくても電力の供給について問題がない様な需給対策は十分に可能であることを、これまでの実績データをもとに示す。
◇1. 2011年夏と2012年冬の電力需給の実績
3.11の東京電力福島第一原発事故以降、定期点検に入った全ての原子力発電所について安全性の確認が困難なことから再稼動が出来ず、地震やトラブルでの停止とあわせ、2011年8月末までに全体の約8割の原発が停止した。一方、2011年の夏は企業や家庭の節電により、ピーク電力は東京電力管内で前年より18%削減され、全国でも13%削減されたため、原発が8割停止していても電力需給には問題は生じなかった。3.11以前には「電気ノコギリでバターを切る」かのような無駄な電気の使い方があふれていた日本の社会が、3.11事故を契機に節電・省エネに取り組み、豊富な電力を前提とした大量消費の見直しに踏み出した。
この状況を電力会社ごとに詳しくみると、表1の通り、2011年夏には、企業および家庭の大幅な節電効果があったことがわかる。大口需要家に対して強制的な15%の電力使用制限が行われた東京電力と東北電力管内では、例年に比べてピーク時の電力需要が20%低下、それ以外の電力会社においても節電が行われ結果、全国で前年比13%削減がみられた。また、2012年1月までに全国の原発の9割が停止したが、1月は冬のピークの需要期にあたり、2012年1月の最大電力は前年同月と比べ4%削減、原発の大半が停止しても電力需給には問題は発生しなかった。また、関西電力ではこの2012年1月のピーク時の供給力の実績が、2011年10月の段階でISEPが予測した供給力とほぼ同じレベルであった。
以上のことから、原発の再稼働をしなくても2012年夏のピーク時の電力需給を満たせる節電対策が可能なことは、2011年夏と2011年冬の実績ですでに立証されつつある。
需要側の電力量の削減実績を検証すると、原発をもつ9電力平均で電力量の平均8%の削減が得られたが、事業所あたりで最も電力消費量の大きい「特別高圧」では、東北・東京電力エリアでピークカット15%義務を課されているにも関わらず、電力消費量の削減率が最も小さい(表2)。特別高圧の削減率が小さい傾向は9電力全体だけでなく東北・東京電力エリアでも同様である。特別高圧契約に多い大規模工場では、省エネ設備投資などピーク電力も電力量も両方減らす対策を選ばず、ピーク電力シフトの対策を選択したため、表11で後述するように、各種のしくみで、電力量も減る多くの対策を促す余地があることを示唆している。2. 政府も「足りる」と判断する2012年夏の需給
政府のエネルギー・環境会議(議長:国家戦略大臣)は、2011年11月1日の報告で、電力需要を2011年夏なみに抑制できれば、つまり2011年夏なみの節電を実施すれば、日本全体の電力需要1億5661万kWに対し供給力は1億6297万kWと、636万kWの供給予備(4%の予備率)があると発表、経産省の詳細発表によれば全国で8%の供給予備率が確保され、東日本3社、中西日本6社全体での不足はないとされた(表3)。
また、政府発表では表3のように北海道、関西、四国、九州が「不足」とされた。しかし、九州電力の様にその後修正されていたり、北海電力での真夏の定期検査、四国電力の様に需給が微妙な電力会社が他社に融通して「不足」になる、という不自然な「想定」をやめれば、追加対策(他社からの融通を含む)が必要なのは関西電力だけであることがわかる。政府はこの電力需給対策のために5794億円(国民一人あたり約5000円、4人家族なら2万円)の予算を投じ、需要削減980万kW(対応する政府予算は2493億円)、供給力増強642万kW(対応する政府予算は3301億円)、あわせて1622万kW増強を確保、しかもこの対策は2013年には1936万kW、2014年には2171万kWに増加し、「需給構造の改革が社会に定着」するとしていた。
関係省庁および関係各社が確保された予算を誠実に使ってこれらの電力需給対策をしていれば、再稼働はそもそも必要ないことになる。表3. 2011年並み節電時の政府見通しによる「不足」(注:ISEP見通しは表4以降)
(中略)4. スマートな需要削減とそれを促す手法
2011年夏のピーク時の電力需要の削減対策は、準備が不十分だったこともあり、冷房を切る、夏休みを長くする、ピーク需要時間帯の平日昼間から深夜あるいは休日に労働時間帯を移す、生産拠点を西日本に移す、など、少々無理をして節電対策がとられた傾向があった。政府は、2011年夏の対策の総括として、産業にとってはコストのかかる対策が多かったとまとめた。さらに、2012年4月13日の四大臣会合資料では、生産減、深夜休日労働シフトなど、コストや労力がかかる節電対策、あるいは家庭でクーラーを止めて扇風機使用など、条件によっては健康や生命に関わる対策対策ばかりを列挙している。
しかし、本来、ピーク時の需要削減としての節電は、旧型機器の更新で快適性を保ちながら電力消費を半分にする方法や、大口需要家で多くの空調機器の負荷を平準化する方法、などなど様々な手法があり、表10のようにスマートな節電対策が数多くある。さらに、これらの節電対策を促すインセンティブの手段として、表11のような手法がある。こうした手法を、関西電力エリアをはじめとして全国に拡大し、ピーク電力の需要抑制を行い、かつ電力消費量を削減することにより、原子力発電に依存しない電力の安定供給が確保され、経済的にも大きなメリットを得ることが可能である。
表10. スマートな節電対策の例
おわりに2011年3月11日は、日本にとって、明治維新、太平洋戦争敗戦に次ぐ、歴史的な「第3のリセット」の日となる。もはや過去の体制には戻れないし、戻ってはならない。震災による数多くの犠牲はもとより、福島原発事故という「人災」が私たちに与えたとてつもない恐怖や今後長い年月にわたって向き合わなければならない。放射能汚染という厄災を捨て石にしてはならない。
そのためにも原子力発電の再稼動は、全ての安全上の条件をクリアし、かつ事故発生時の損害賠償や防災体制などの全ての条件が揃った上で無ければ認められず、その条件が整うことは基本的に困難だと言える。その想定の上で、今年2012年の夏に向け日本全国で原子力発電所が5月に全て停止し、再稼働しない想定での電力需給を前提として、有効かつ合理的な節電への取組み供給力の確保を行う必要がある。そうした状況の中、短期的な火力発電所の活用を前提としつつも、原子力発電所に頼らない電力需給を確立し、長期的な視点で高い導入目標を掲げて自然エネルギーの全国的な普及と、省エネ技術の全工場・事業所への普及に本格的に取り組むことが必然である。
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