競争と罰--「落ちこぼれゼロ法」の破綻
競争と罰によるブッシュ政権の教育改革の失敗を、ブッシュ政権の教育調査官ラビッチ教授が語っている。
「教師は子どもに“学ぶ喜びを忘れろ”“創造性もいらない”“正しい答えだけを書けばいい”と教えるのです。これは21世紀の教育とは思えない」(毎日放送VOICE)、「競争による学校や教員の淘汰は行き詰まる。それがアメリカの教訓です」(3/4朝日新聞)、と・・・
県議会の予算修正の討論で引用したこともあり、整理してみた。
「落ちこぼれゼロ法」とは・・・
学カアップにノルマを課し、果たせない学校は退場させる。具体的には3 〜8 年生(日本では小3〜中2 ) に毎年英語と数学のテストを受けさせ、各学校は、12年後に「良」を取る生徒が1 0 0 % になるよう目標を設定。2 年連続で目標達成に失敗すれば、保護者は子どもを転校させることができる。4 年連続で失敗なら教職員総入れ替え。5年連続なら、閉校か民間委託。ダメな学校は淘汰され、落ちこぼれはいなくなる(朝日説明)—
と目論見だったが、貧困地区の学校の統廃合など弱者の置き去り・排除、また学習意欲の低下をもたらした。
その失敗の理由を同教授は
「学校のランクづけは下位の子の自尊心を傷つけ、やる気を失わせた」「テストのための教育が広がり、かえって自分で考える力を失わせてしまった」と分析。
そして「予算をかけて教員を増やし、きめ細かい多様な教育をする以外にない」と警告する。
深いところで関連するが、内田教授の“教育が商品化したときに教育の機能は失われる”という人類社会の維持・継続という視点からコラムがいつもながら興味深い。
【教育の奇跡 内田樹の研究室 3/15】より
“「教卓のこちら側」と「あちら側」の間には乗り越えがたい知的位階差があるという信憑が成立する限り、そこでは教育が機能する。”
“教育の奇跡とは、「教わるもの」が「教えるもの」を知識において技芸において凌駕することが日常的に起きるという事実のうちにある。「出力が入力を超える」という事実のうちにある。”
“教師たちが政治家やメディアや市場原理を信じる保護者たちの要請に屈して、「教育とは代価に見合う教育商品・教育サービスを提供するビジネスの一種である」という教育観を受け容れたときに、商取引のタームで教育が語られることを許したときに、教育の奇跡は息絶えるだろう。”
なお、オバマ大統領は、一般教書演説(1月24日)で
「テストのための教育をやめよう」「もう教員を責めるのはやめよう」と宣言したとのこと。
同時に忘れてはならないのは、「落ちこぼれゼロ法」は、不足する陸軍の兵士を補充するため、軍隊が貧困層をリクルートするための手段である。
【堤未果『報道が教えてくれないアメリカ弱者革命』 雨宮処凛 朝日09/2/22】■米軍への勧誘にみる 貧困と戦争の親和性
1月に誕生したオバマ政権は、「テロとの戦い」の主戦場をアフガニスタンと位置付け、米軍を増派する方針だという。テロとの戦い。本書は、03年のイラク戦争に「動員」された貧困層の若者たちを中心としたルポルタージュだ。
02年にアメリカで成立した「落ちこぼれゼロ法」には、「すべての高校は、生徒の親から特別な申請書が提出されないかぎり、軍のリクルーターに生徒の個人情報を渡さなければならない」とある。拒否した場合は、政府からの助成金がカットされる。生徒の携帯番号まで入手した軍は、より貧しく、未来のない若者をピンポイントで勧誘する。「一生時給5ドルのピザ屋の店員でいいのか?」と囁(ささや)きかけ、入隊すれば大学費用を軍が出すので貧困から脱出できる、軍の医療保険が家族にまで適用される、と誘うのだ。
軍のリクルーターにもノルマがあり、ノルマをこなせないと歩兵隊に戻される。そうして戦場に駆り出された若者が死んでも、国がつけた命の値段は「一万二〇〇〇ドル(約一二五万円)」。運良く生きて帰っても、人を殺してしまったという罪悪感からアルコールや薬物に頼り、「壊れて」いく若者たち。帰還兵はPTSDに苦しみ、その一部はホームレス化している。
「大学費用を軍が出す」という話も、結局は前金が必要だったりで実際に軍から大学費用を受け取る兵士は35%、そのうち卒業するのはわずか15%。昨年、私はそんな「イラク帰還兵」の元米軍兵士と会ったが、彼は「アメリカでもっとも貧しく、もっとも教育を受けられない層が入るのが陸軍だ」と語った。
貧困から抜けられない若者たちの姿は、日本ともだぶってくる。最近、ネットカフェ難民などを支援するNPOには自衛隊からの積極的なアプローチがあるそうだ。貧困と戦争の親和性を、この書は鮮やかに炙(あぶ)り出している。(作家)
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今日は!
私のブログ友達に、BNW(琵琶ネットワーク)通信をお届けしています。
この記事も紹介させていただきました。
ご了承ください。
●新BNW通信No177・四国地方特集記事&事務局【2012-3-18】
《四国地方特集記事》
【愛媛県】
●ロートル医師(大病を経験したロートル医師のつぶやき)
*<原発防災強化>「寝た子をおこすな」保安院
http://blogs.yahoo.co.jp/fuzitashin/36169012.html
【徳島県】
●悲願 哀花 さん
石原都知事についてどう思いますか? [
【香川県】
●yukie さん
【高知県】
●土佐文旦さん
*もう、原発は、やめちょいたら・・・・鹿児島
http://blogs.yahoo.co.jp/nk8616e/29571563.html
*川内原発3号機増設、着工時期など「未定」に
*アパート半焼で子供が焼死 合掌 石川県加賀市
http://blogs.yahoo.co.jp/nk8616e/29572142.html
●土佐のいごっそう (日本は、永久に米軍基地で良いのか)―ゲスト
こんなバカげた国は日本だけだ
なんで米軍普天間基地を、日本が補修しなければならないのだ
http://blogs.yahoo.co.jp/sys14211/63590583.html
●土佐のまつりごと「勝ち組」「負け組」社会に異議あり。―ゲスト
http://wajin.air-nifty.com/jcp/
競争と罰--「落ちこぼれゼロ法」の破綻
「競争による学校や教員の淘汰は行き詰まる。それがアメリカの教訓です」
【事務局】
●琵琶
*日本は本当に、“先進資本主義国”なのだろうか?ーマスコミの巻(その1)
新聞とテレビの一体化(クロスオーナーシップ)は日本だけ。
http://blogs.yahoo.co.jp/biwalakesix/30330559.html
*消費税増税なら国家破綻 増税なしでも国は破産しない
すり替え、百一夜物語―プロローグ
http://blogs.yahoo.co.jp/biwalakesix/30329581.html
Posted by: 琵琶 | March 19, 2012 09:24 AM