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格差が社会を不健康にする~社会的包摂を/阿部彩(メモ)

 「弱者の居場所がない社会~ 貧困・格差と社会的包摂」(阿部彩 2011/10)から、4章「本当はこわい格差の話」の備忘録。
 イギリス リチャード・ウィルキンソン教授「格差社会の衝撃」などを紹介する形で、格差の存在自体が社会そのものを不健康にすると指摘。本全体は、貧困問題を、障害の「医療モデル」から「社会モデル」への転換とおなじく「社会のありよう」の問題として提起している。
 

【4章 本当はこわい格差の話】

1.格差と排除

◇社会的排除について

・金銭的な欠如だけでなく、社会の中で「居場所」がなく「役割」がなく、「つながり」がない状況
→従来の貧困概念との違い 「金銭的物質的な欠乏から人間関係の欠乏に視野を広げた」点だけではない
→ 貧困が「低い生活水準である状態」を示すのに対し「社会的排除」は「低い生活水準にされた状態」
と、個人の属性にではなく、問題が排除する社会の側にあると理解する概念
(障害の「医学モデル」から「社会モデル」への転換、と同様のパラダイムの転換 )
*社会の仕組みが(意図せずとも)人をより孤立へ、排除へ、貧困へ、追い込んでないか、と問う視点。

◇格差極悪論

・イギリス リチャード・ウィルキンソン教授・ノッティンガム大学医学部・社会疫学者
05年「格差社会の衝撃—不健康な格差社会を健康にする法」、09「平等社会-経済成長にかわる次ぎの目標」
・同氏の指摘が衝撃的なのは ~「格差」の大きい社会に住むことは、誰にとっても悪影響を及ぼす点
→ 貧困層や社会的排除の多いから問題と言っているのではなく、「格差」の大きいこと自体を問題視。

・格差の大きい社会 /格差の下方に転落することの心理的打撃が大きく/ 格差の上方に存在する人は、社会的地位を守ろうと躍起になり/ 格差の下方に存在する人は強い劣等感、自己肯定感の低下を感じる
→ 人々は攻撃的になり、信頼感が損なわれ、差別が助長され、コミュニティ社会のつながりを弱くなる
→ 強いストレスは、結果として健康を害したり、死亡率も高くなる/ この影響はすべての階層に及ぶ

・同氏は、「格差」の存在、人々を「上」「した」の段階にランク付けするシステムの仕組みを問題視。

◇自転車反応

・社会的排除が提示した「社会のありようの問題」という視点、「格差」が「社会のありよう」として人々に多大な悪影響を与える「格差極悪論」は、別々の文脈から出ているが、延長線上にある。
→ ウィルキンソン氏の主張の根幹/ 「格差」は社会における人間関係の劣化を促すという確信
   格差の大きい社会ほど、自分より社会的地位の低い(と考えられている)人々を差別する傾向が強い

・その傾向の説明に、ナチスがホロコーストを起した社会的心理を分析するのに用いた「自転車反応」を援用
→ 階層性の強い権威主義的社会では、人は上位の者に対し、(自転車競技の選手のように上半身を前に傾け)頭を低く下げ、一方、(下半身はペダルを漕ぐように)下位の者を足蹴にするから。
・「自転車反応」が蔓延する社会では、社会的排除の傾向が強まることは容易に想像できる/ 一部の人を排除する社会は、その他の人々にも住みにくい社会となる。

2.格差と人間関係

◇格差と信頼  /ウィルキンソン氏の著書より

・アメリカ各州の調査  格差指数と「社会における信頼度」~格差が大きい州ほど信頼度が低い
・国別の同様の調査   ジニ係数と信頼度 「格差の大きい社会ほど、人は他者を信頼しない」 

◇暴力と格差
・所得格差と殺人率 アメリカは突出して高いが他は直線状のデータ
   しかし、国の銃規制などの違いで、敵意が殺人に至る可能性はかわるかもしれない・・・

・心理学のおける潜在的な敵意を測る調査方法  敵意指標と格差の大きさは適合する。
・攻撃性と格差/子ども同士のケンカ、いじめ、中違いのデータと所得格差にも正の相関関係

◇差別と格差

・不信感、攻撃性—格差の影響は、自分とことなるものに対する差別・偏見という形でも現れる。
・格差の大きい社会ほど、女性の地位が低く、社会進出が遅い
→ 不平等な社会では、男性間の競争が激しく、より攻撃的「男らしい」ことが評価されるようになるから

・格差の大きい社会ほど、人種や宗教などのグループ間の対立が激しく、人種間の偏見の指数が高い
→ 格差の大きい社会/ 自分の下に誰かいることを常に意識し、それを確かめることで優越感を高める /「自転車反応」は、連鎖反応を起こす / 「自転車反応」は、階層を形成するチンパンジーなどの霊長類に見られる行動という。

◇ホームレス襲撃

・日本での「自転車反応」を彷彿させる事件/ 子ども・若者がホームレスを襲撃する
・ダブルの痛ましさ/ 被害にあったホームレスも、犯罪を犯した子どもも同様に、格差社会の被害者

◇格差はなぜ人間関係悪化させるのか

・ウィルキンソンによる1つの答え~ 人間は自分と似た社会的地位にある人と交流し、仲間意識を持ち、自分から離れた社会的地位にある人とは関係をもつことが少ないということ /関係が少ないと、人は信頼することができない。/格差が大きい社会では、自分と離れた地位のある人が増えるため、すべての人にとって信頼できる人が少なくなる。

・格差と人間関係の劣化を結ぶもう一つのリンク「自尊心」
→ 格差の大きい社会では、社会的地域の低いものが自尊心を持つことが難しい。自尊心を傷つけられたことに対する反応として、暴力にはしりがち。~ ウィルキンソン。犯罪研究の蓄積から、暴力行為の大半が、恥をかき、メンツを失い、自尊心が傷つけられた反応、とする。
→格差社会は「地位争いが激化し、地位の重要性が高まる」。その結果として、自尊心を失うリスクが高まる、

☆格差が、人を攻撃的にし、人間関係を悪化させ、暴力や差別を生むという指摘は、戦争や差別をなくしていける希望を与えるもの
→ 格差は人間社会の産物、克服可能なもの/ 実際、少なくない国で、格差、貧困の削減に成功している。

3.格差とコミュニティ

◇地域の包摂力

・震災であらためて認識された地域コミュニティの力

・社会的包摂という観点から地域力は重要 
地域は、個人にとって最初の社会との接点、「顔と名前がわかる関係」~ 包摂する単位としての職場の役割低下(非正規雇用の拡大)、家庭の機能低下の中で「地域」の見直し

・地域の包摂力 学術的には「社会資本」(ソーシャル・キャピタル)と捉えられる。
~ 社会資本とは「コミュニティにおいて、構成員がもっている(中略)相互の信頼感や互酬・互助意識、ネットワークへの積極的参加にど」を指す(近藤克彦「健康格差社会」)
→この概念を、社会的包摂の文脈でとらえると、地域コミュニティが、人々のセーフティネット、心の支えとなり「居場所」と「役割」を与え、人と人の「つなげる」機能を、どれだけ持つか、ということを意味する。

◇地域力と格差

・ある地域の地域力の測定方法として、地域、コミュニティのボランティア活動への参加率がある。
・先駆的な調査 ~ ロバート・パットナム  イタリア、アメリカの地域力と所得格差を比較
→  所得格差が小さい地域ほど、ボランティア活動への参加の度合いが高い(06「孤独なボウリング」)

・格差は、不信感をあおり、攻撃的にし、差別を助長、人間関係を悪化させるだけなく、コミュニティ自体の機能を低下させる。

4 格差と健康(略)

5 格差の増幅

◇ウィルキンソンの警告

・格差 →貧困を拡大、社会的地位の格差をもたらし、権威主義を蔓延させる → 人々の信頼感を欠如させ、コミュニティを崩壊させる。/ 一方、家族関係、子どもの発育まで脅かす。→ それらが、人々に大きなストレスを与え、うつ状態、不安、攻撃性、自尊心の喪失をもたらす。→ 暴力、薬物、飲酒、反社会的行為を引き起こし、すべての人に不健康(環境悪化)をもたらす。

◇格差極悪論の斬新な点をさらに

・ウィルキンソン氏の斬新な視点を示すたるに、さらに踏み込んだ議論が必要

論点① 社会全体の平均値の低さは、社会の底辺の人の状況が悪いことのみから来ているのではないか。
→ つまり社会的地位の高い人にとっては問題がない、という論。
・格差の大きいウェールズ、格差の小さなスウェーデンの比較 / どの階層でも平均寿命に差がある

◇論点② 格差の自然増殖

・格差が次ぎの格差を生む、自然増殖をするという政治学者、社会学者の指摘
・アメリカの所得格差が政治にもたらす影響への危機感
→ 政治的影響力の一極集中をもたらし、民主主義の前提である平等な一票の原則が崩れている
  政治団体・活動への参加、政治献金による影響力の行使など大きな影響力を持ち、政策が経済界、富裕層向けのものになる/ ギレンによる調査(1992-1998)、高所得者の政治選好の実現する確率が高い

・アメリカ政治学会 02年 、不平等と民主主義についてのタクス・フォースでの警告

◇マタイ効果

・新約聖書「持っている人は与えられて、いよいよ豊かになるが、持っていない人は、持っているものまで取り上げられるであろう」(マタイ福音書13章12節)から名づけられた社会現象

・マタイ効果“格差は自ら増長する傾向があり、最初の小さな格差は、次ぎの格差を生み出し、次第に大きな格差に変容する性質”を指す / ロバート・マートン・米社会学者 1960-1970年代に「発言」

・最初の「発見」~ 科学の場における研究の成果の「格差」
  最初は平等な土俵 → 1人がよい成果を出す → 補助金、研究設備が与えられ、よりよい成果を出せる環境が進む /著名な研究者は、ますます成果を上げ、著名でない研究者はずっと成果があがらない。

・教育の分野/ 最初に勉強のできる子は、ほめられ、勉強が得意という自負が生まれる → 先生、親も期待され、教師によくあてられ、学級委員になれ、「できる子」として扱われ、ますます学力がつく。/最初につまづいた子は、逆のスパイラルが働く
・スポーツ /同時にクラブに入っても、上手い子はレギュラーポジションを与えられ、期待され、自負が生まれ、努力もするので、ますます上手くなる。
・経済/ 裕福な人は、お金を有利な投資先に投資し、お金がお金を生んでいく。貧困層は、貯金はおろか、借金をして利息を払わなければならない場合もある。お金がないと、さらにお金が必要となる。

・貧困の現場で実感する「マタイ効果」/ 不利が重なっていく
 親が貧困で、高等教育がうけられず → 非正規の仕事しかつけず、つらい仕事で病気になる → 病休が取れないので解雇 → 仕事がなくなり、家賃が払えず、ホームレスとなる・・などなど

☆重要なこと/「マタイの効果」は、社会の仕組み、「社会のありよう」の問題
 ダニエル・リドニー「アドバンテージがさらなるアドバンテージを生む」の中での指摘
 “マタイ効果を逆行するシステムを作るのに必要なのは、私たち、特にマタイ効果の恩恵をうれてきた人々” 
 “自分のポジションが自身の能力や努力の結果だけではなかったであろうことを認識すること”
 → 「マタイ効果」が存在しないように振舞うことは、格差はがん細胞のように増殖し社会を蝕む


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災害があったわけでもないありふれた日常の中で、孤独死や孤立死は頻繁に起きていますね。

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